FIM(Functional Independence Measure)のトイレ動作評価は、下衣を下ろす、お尻を拭く、下衣を上げるの3つの動作自立度を測り、患者の介護ニーズを正確に把握するための重要なツールです。
本記事ではFIM(トイレ動作)の評価のポイントや項目、具体例などについて解説します。
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FIMにおけるトイレ動作の評価について
FIM(Functional Independence Measure:機能的独立性尺度)のトイレ動作の評価は、日常生活動作(ADL)の介護量を把握するための重要なツールであり、具体的には下衣を下ろす、お尻などを拭く、下衣を上げるの3つの動作工程に分けて評価します。
この3つの動作の介助量に応じて、FIMのトイレ動作の点数が決定され、完全自立から全介助までの7段階で評価されます。
この評価は、患者や利用者の日常生活動作(ADL)の介護量を正確に把握し、個々の能力とニーズに基づいて適切な介護計画を立てるために重要です。
FIM(トイレ動作)の評価対象の項目
FIM(トイレ動作)の評価対象ですが…
- 下衣を下ろす
- お尻などを拭く
- 下衣を上げる
…になります。
それぞれ解説します。
下衣を下ろす
FIMのトイレ動作の評価対象項目の一つである「下衣を下ろす」動作は、患者や利用者が自分の衣服を適切に扱う能力を評価する重要な要素です。
これは、独立して排尿や排便を行うための第一歩であり、下衣を自分で下ろすことができるかどうかを確認することが含まれます。
具体的には、ズボンやスカート、下着などを腰の位置から膝下まで下ろす動作を評価します。
この動作がスムーズに行えるかどうか、またその際に補助具や時間がどれだけ必要かがポイントとなります。
例えば、患者が完全に自立して下衣を下ろせる場合は7点と評価され、一方で全く自分で下ろせず介助が必要な場合は1点と評価されます。
この評価は、患者の日常生活での自立度を測る上で非常に重要であり、介護計画の策定にも大きな影響を与えます。
お尻などを拭く
FIMのトイレ動作の評価項目の中でも、「お尻などを拭く」動作は、個人の清潔を保つための基本的な能力を示す重要な指標です。
この動作は、排便後に適切にお尻を拭くことができるかどうかを評価します。
患者が独立してこの動作を行えるかどうか、またどの程度の介助や補助具が必要かを詳細に観察します。
完全に自立して拭くことができる場合は7点と評価され、監視や準備が必要な場合は5点、最低限の介助が必要な場合は4点と評価されます。
一方で、全く自分で拭けない場合は1点となります。
この評価は、個々の患者の衛生管理能力を測るものであり、特に長期的な介護計画を立てる際には重要な役割を果たします。
また、この動作がうまくできない場合、皮膚トラブルや感染リスクが増加する可能性があるため、適切な評価と介助が求められます。
下衣を上げる
FIMの評価項目の一つである「下衣を上げる」動作は、トイレ動作の完了に必要な重要なステップです。
この動作は、排泄後に下ろした衣服を再び元の位置に戻すことを指します。
患者が独立して下衣を上げることができるかどうか、またどれだけの時間や補助が必要かを評価します。
完全に自立してこの動作を行える場合は7点と評価され、補助具を使用して行える場合は6点、監視や準備が必要な場合は5点と評価されます。
最小限の介助が必要な場合は4点、中等度の介助が必要な場合は3点、最大の介助が必要な場合は2点、全介助が必要な場合は1点と評価されます。
この評価は、患者の日常生活の自立度を詳細に理解し、必要なサポートを適切に提供するために重要です。
特に、衣服の上げ下げに問題がある場合は、他のADL項目にも影響を及ぼす可能性があるため、総合的な介護計画の策定において重要な要素となります。
FIM(トイレ動作)の採点基準
FIM(トイレ動作)の採点基準について以下にそれぞれ解説します。
7点(完全自立)
全ての動作を自分で行える。
具体例:患者が全く助けを必要とせず、自分で下衣を下ろし、お尻を拭き、下衣を上げることができる。
6点(修正自立)
時間がかかる、または補助具が必要。
具体例:患者が手すりを使用して自分で下衣を上げ下げできるが、通常より時間がかかる。
5点(監視または準備)
監視や準備が必要。
具体例:患者が動作を行う際に、安全確保のために介助者が見守っている必要があるが、直接的な助けは不要。
4点(最小介助)
トイレ動作の75%以上を自分で行う。
具体例:患者がほとんど自分で下衣を上げ下げできるが、お尻を拭くときに軽く手助けが必要。
3点(中等度介助)
トイレ動作の50%~75%未満を自分で行う。
具体例:患者が下衣を下ろすことはできるが、拭く動作と下衣を上げるときにしっかりとした介助が必要。
2点(最大介助)
基トイレ動作の25%~50%未満を自分で行う。
具体例:患者が下衣を下ろすのに助けが必要で、拭く動作は完全に介助者に任せるが、下衣を上げる際に部分的に手を添える。
1点(全介助)
トイレ動作の25%未満しか行えない。
具体例:患者が全てのトイレ動作を介助者に依存し、自分で行うことがほとんどできない。
トイレ動作の採点のポイント
前述したように、トイレ動作の採点範囲である3動作における介助量、もしくは自分でどこまで行えているか?が採点のポイントとなります。
ここでは具体的に自分で上記の3動作のうち…
- 3つともしている場合
- 2つの動作は自立している場合
- 1つの動作のみ自立している場合
…それぞれの採点のポイントについて解説します。
3つとも自立している場合
FIMのトイレ動作において、3つの動作すべてが自立している場合、評価は非常に高くなります。
具体的には、下衣を下ろす、お尻を拭く、下衣を上げるの全てを自分で行うことができる状態です。
この場合、介助が全く必要ないため、介助量は0%となり、3動作中3つとも自立していることになります。
この状況は、自立度が非常に高く、患者が日常生活でトイレ動作を完全に独立して行えることを示しています。
したがって、FIMの点数では最低でも6点以上が付けられることになります。
2つの動作は自立している場合
3つのトイレ動作のうち2つは自立して行えるが、1つの動作に介助が必要な場合、評価は中程度になります。
この状況では、例えば下衣を下ろし、お尻を拭くことは自分でできるが、下衣を上げる際に介助が必要というようなケースが考えられます。
この場合、介助量は33%となり、自立度は67%です。
FIMの運動項目に基づく判断基準では、この自立度は3点と評価されます。
この評価は、患者がある程度の自立性を持っているが、特定の動作では介助が必要であることを示しています。
したがって、介護計画においては、この特定の動作に対して適切な介助を提供し、全体的な自立度を高めるためのサポートが必要です。
1つの動作のみ自立している場合
3つのトイレ動作のうち1つの動作だけが自立していて、残り2つの動作に介助が必要な場合、評価は低くなります。
例えば、下衣を下ろすことだけは自分でできるが、お尻を拭くことや下衣を上げることに介助が必要な場合が該当します。
この場合、介助量は67%であり、自立度は33%です。FIMの運動項目に基づく判断基準では、この自立度は2点と評価されます。
この評価は、患者がトイレ動作の大部分において介助を必要としていることを示し、介護計画においては多くのサポートが必要であることを示しています。
このような場合、介助者は患者の自立度を向上させるために、特に必要な動作に対して重点的に支援を行うことが重要です。
FIM(トイレ動作)を採点する際の注意点
FIM(トイレ動作)を採点する際の注意点はなにがあげられるでしょうか?
ここでは…
- 他のトイレ関連動作とは区別する
- 生理用ナプキンに介助が必要な場合
- 日内変動がある場合
- 排尿時と排便時と異なる場合
- ポータブルトイレを使用している場合
…について解説します。
他のトイレ関連動作とは区別する
FIMでトイレ動作を採点する際には、移動やトイレへの移乗といった他のトイレ関連動作とは区別して評価することが重要です。
移動や移乗は別の評価項目として扱われるため、これらの動作が含まれないよう注意します。
また、排尿や排便の管理も別の項目として評価されるため、トイレ動作の評価には含めません。
例えば、トイレまでの歩行や車椅子への移乗に介助が必要であっても、トイレ内での動作(下衣を下ろす、お尻を拭く、下衣を上げる)の評価には影響を与えません。
この区別を明確にすることで、トイレ動作に特化した正確な評価を行い、適切な介護計画を立てることができます。
生理用ナプキンに介助が必要な場合
女性患者が生理用ナプキンの取り扱いに介助を必要とする場合、通常のトイレ動作の評価に特別な配慮が必要です。
この状況では、たとえ普段は自立してトイレ動作を行っていても、ナプキンの交換時には介助が必要となることがあります。
生理期間中のこの一時的な介助は、月に3~5日の頻度で発生することが多いです。
この場合、FIMの評価では、介助のレベルを5点(監視・準備)とします。
これは、トイレ動作全体の自立度を適切に反映するためのものであり、患者の日常生活における自立度の評価に重要な影響を与えます。
このように、特定の状況下での介助の必要性を正確に評価することが求められます。
日内変動がある場合
患者のトイレ動作が昼と夜で異なる場合、評価には慎重な判断が必要です。
例えば、昼間は自立してトイレ動作を行えるが、夜間は介助が必要な場合があります。
このような日内変動がある場合、FIMの評価では、低い方の自立度を基準として評価します。
これは、患者が最もサポートを必要とする状況を反映し、日常生活全体における介助の必要性を正確に評価するためです。
夜間の状態が昼間よりも低い場合、その状態を基に評価することで、夜間の介助計画を含む総合的な介護計画を立てることが可能になります。
このアプローチにより、患者の安全と健康を確保するための適切な支援が提供されます。
排尿時と排便時と異なる場合
患者が排尿時と排便時でトイレ動作に違いがある場合も、評価には注意が必要です。
例えば、排尿時には自立して行動できるが、排便時には介助が必要なケースがあります。
このような場合、FIMの評価では、低い方の自立度を基準として評価します。
これは、患者が最も困難を感じる状況を反映し、必要な介助を正確に計画するためです。
排便時の介助が必要である場合、その状態を基に評価することで、排便時のサポートを含む包括的な介護計画を立てることができます。
このアプローチは、患者のトイレ動作全体を正確に評価し、適切な介護支援を提供するために重要です。
ポータブルトイレを使用している場合
患者がポータブルトイレを使用している場合でも、FIMのトイレ動作の評価対象は、下衣を下ろす、お尻を拭く、下衣を上げるの3つの動作に限定されます。
ポータブルトイレの使用は、患者の環境に応じた適応を示していますが、評価の基準は変わりません。
ポータブルトイレの使用自体が評価の対象になることはなく、その使用中の動作自立度が評価の対象となります。
例えば、ポータブルトイレでの下衣の上げ下げやお尻の拭き方が通常のトイレ使用時と変わらないかどうかを確認します。
この評価基準を守ることで、患者のトイレ動作能力を正確に測定し、適切な介護計画を立てることができます。