FASTとは?脳卒中の早期発見を支える評価スケール|リハビリ専門職が解説【BE-FAST対応版】

脳卒中は発症後の時間との戦いが予後を左右します。
その初期症状を見逃さないために世界的に活用されているのが「FAST(ファスト)」スケールです。
本記事では、リハビリセラピストの視点から、FASTの基本構成・実施方法・判定基準・BE-FASTとの違い、そして臨床現場での応用まで詳しく解説します。

リハビリ職が脳卒中急変時にどのようにFASTを活用すべきか、現場で役立つ実践知識をまとめました。



基本情報:FASTとは何か?

脳卒中(Stroke)は、発症直後から1分1秒を争う時間依存性疾患です。
「FAST(ファスト)」は、その早期発見を目的として世界的に普及している簡易スクリーニング法です。
この言葉は以下の4つの英単語の頭文字から構成されています。

項目意味主な観察点
F:Face(顔面)顔の片側が下がる・笑顔の非対称性片側口角下垂、表情の歪み
A:Arm(腕)片側上肢の筋力低下両腕挙上でのドリフト
S:Speech(言語)言葉の異常・理解の困難ろれつ不良、言葉が出ない
T:Time(時間)時間の重要性直ちに119通報・救急要請

このFASTは、American Stroke Association(ASA)によって定義され、日本では日本脳卒中学会や自治体による啓発活動「ACT FAST」などを通じて広く普及しています。
日本における緊急通報番号は「119」です。

また、近年では後方循環型脳卒中にも対応できるよう、BE-FAST(Balance/Eyesを追加)という拡張版も使用されています。

脳卒中の初期兆候を迅速に認識し、**「Time is Brain」**という原則に基づいた即時対応を促す点が、このスケールの最大の特徴です。



対象と適応:どのような場面でFASTを用いるか

FASTは、医療従事者に限らず一般市民でも利用可能な早期スクリーニングツールです。
しかし、臨床現場では以下のような場面で特に有効です。

臨床での主な適応場面

  • 急性期リハビリ病棟・救急外来での初期評価
  • 訪問リハビリや地域包括ケアにおける在宅観察
  • 通所リハやデイケアでの突発的な異変時確認
  • 一般病棟での夜勤時など、非専門職スタッフによる観察時の補助

FASTで評価すべき対象者の特徴

  • 片側の顔面・上肢に急な脱力が出現した場合
  • 言語障害や構音障害が突発的にみられる場合
  • めまい・視覚異常・意識混濁を伴う場合(BE-FASTも考慮)
  • 短時間で症状が変動する**TIA(一過性脳虚血発作)**疑い症例

リハビリ専門職は、FAST陽性が確認された場合には即座に医師・救急要請へ連絡するフローを確立しておくことが求められます。
特に、tPA静注療法は発症から4.5時間以内血管内治療は最大24時間以内の症例で適応されることがあるため、**時間記録(Time)**が臨床的にも極めて重要です。



実施方法:評価のステップとポイント

FASTの実施は簡単でありながら、観察精度とタイミングが重要です。
以下に手順を示します。

FAST実施手順

  1. Face(顔面)
     患者に笑顔を作ってもらい、片側の口角や頬の下がりを確認します。
     口角下垂や非対称がある場合は陽性。
  2. Arm(腕)
     両腕を前方に伸ばしてもらい、10秒程度保持。
     片側が下がる、または保持できない場合は陽性。
  3. Speech(言語)
     「今日は何月何日ですか?」など簡単な質問を行い、発音・理解・返答速度を評価します。
     呂律不良、理解不能、単語が出ない場合は陽性。
  4. Time(時間)
     症状発現時刻を記録。すぐに119番通報。

注意点

  • 目立たない軽症例(軽度失語・軽いドリフト)は見逃されやすい。
  • 体動困難な場合は「握手テスト」などで筋力を確認。
  • 複視やふらつきがあればBE-FAST(Balance/Eyes)も併用。

これらをチーム全体で共有することで、院内・在宅ともに早期対応プロセスを標準化できます。



採点と解釈:FASTの判断基準

FASTは定量的スコアを用いず、「陽性(異常あり)/陰性(異常なし)」で判断するスクリーニング型評価です。

項目評価内容判定例
F:顔面片側の口角下垂、非対称陽性
A:腕両腕前方挙上で片側が下がる陽性
S:言語呂律不良、言葉出ない、理解困難陽性
T:時間発症時刻記録・救急要請必須行動

解釈のポイント

  • いずれか1項目でも陽性であれば「脳卒中疑い」と判断し、即時通報(119)
  • 症状が一過性であってもTIAの可能性があるため、観察を継続。
  • 陽性部位と神経症状の対応を記録しておくと、医師・救急隊への引き継ぎが円滑。

FASTは単独で診断を確定するものではありませんが、「臨床判断を開始するトリガー」として極めて有用です。



カットオフ値:臨床的判断の境界

FASTに明確な「スコア型カットオフ値」は存在しません。
しかし臨床的には、一つでも異常を認めた場合を陽性=要受診ラインとします。

参考となる判断基準

  • FAST陽性:脳卒中疑い(脳梗塞・脳出血・TIAなど)
  • FAST陰性+神経症状あり:後方循環障害の可能性(BE-FASTへ)
  • FAST陰性+非神経症状(失神・低血糖等):他疾患鑑別を考慮

カットオフというよりは、「最初の警告灯」としての運用が正確です。
FAST陽性者のうち、実際に脳卒中である割合は臨床研究によって約60〜80%と報告されています(AHA報告より)。



標準化・バージョン情報:BE-FASTなどの派生

FASTは2000年代初頭から国際的に使用されており、複数の派生形が存在します。

名称特徴使用機関
FAST顔・腕・言語・時間世界標準・ASA推奨
BE-FASTバランス・視覚を追加後方循環障害対応(米国・欧州)
ACT FAST日本脳卒中学会の啓発活動日本版標準

2020年代以降、BE-FASTの有効性が複数研究で支持されており、椎骨脳底動脈系(後方循環)脳卒中の検出率向上が報告されています。
ただし、一般向け啓発では依然として「FAST」が主流です。

日本脳卒中学会や厚労省も、FASTをベースに地域連携マニュアルを整備しており、今後は急性期医療と地域包括の接続ツールとしてさらなる標準化が進む見込みです。



臨床応用と活用事例:FASTの実践的運用

臨床応用のポイント

  • 救急隊・看護師・セラピスト間で共通言語化できる。
  • 発症時間の把握(Time)によりtPA静注・血管内治療適応の判断に貢献。
  • リハスタッフが異変を察知→医師への早期報告が可能。

活用事例

  1. 急性期病棟
     入院患者の突然の片麻痺・言語障害にFASTを適用→医師へ報告→CT撮影→tPA投与へ。
  2. 在宅リハビリ
     訪問時に麻痺・構音障害を認めFAST陽性→家族へ119通報指導→搬送・治療により軽度後遺症で復帰。
  3. 地域啓発活動
     作業療法士が講師として地域サロンで「FAST講座」を実施→高齢者自身による早期通報が増加。

このようにFASTは単なるスクリーニングを超え、医療連携・地域教育・リスクマネジメントに応用できる実践ツールです。



他検査との関連:神経評価との組み合わせ

FASTは「入口のスクリーニング」ですが、確定診断・重症度判定には他の神経学的スケールとの併用が必要です。

評価法目的特徴
NIHSS(米国国立衛生研究所脳卒中スケール)重症度・治療適応評価数値化評価(0〜42点)
mRS(modified Rankin Scale)機能自立度評価退院時・経過観察に有用
Barthel IndexADL自立度生活動作レベル確認
MMSE/HDS-R認知機能評価二次的評価として併用

FAST陽性→NIHSS→画像診断→治療→mRSという流れが、臨床プロセスとして定着しています。
作業療法士・理学療法士は、FASTからmRSまでの一貫した評価連携を意識することで、早期介入と予後改善の支援が可能になります。



デジタル・ICT対応:アプリ・AIとの連携

近年、FAST評価はデジタル技術との融合が進んでいます。
代表的な活用例としては以下の通りです。

  • スマートフォンアプリ「FAST HERO」(日本脳卒中学会監修)
     一般市民向けにFAST判定と通報を支援。
  • AI画像解析システム
     顔の非対称・構音異常を自動検出(研究段階)。
  • ウェアラブル端末
     片側の運動異常を加速度センサーで早期検出。
  • 電子カルテ連携
     発症時刻・FAST結果を自動記録し、医療連携へ送信。

リハビリ専門職としては、これらICTツールを理解し、地域救急ネットワークと臨床判断を橋渡しする役割が求められます。
FASTのデジタル化は、単なる啓発を超えて、救命と回復のスピードを最適化する医療DXの一端を担っているといえます。



まとめ

FASTは、脳卒中の早期発見と迅速な初動判断を支える国際的スケールです。
医療者・家族・地域が共通理解をもつことで、治療のタイムウィンドウ(4.5〜24時間)内に患者を救命ルートへ乗せることが可能になります。

リハビリセラピストにとってもFASTは、急変察知と医療連携のキースキルです。
臨床の現場だけでなく、地域教育・啓発活動においても、このシンプルな評価法を積極的に活用していくことが求められます。


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