ホーン・ヤールの重症度分類は、パーキンソン病の進行度を5段階で評価する指標で、症状の広がりや身体機能への影響を把握するために使用されます。
本記事ではこの分類の意味や改訂版との違いなどについて解説します。
ホーン・ヤールの重症度分類とは?
ホーン・ヤールの重症度分類(Hoehn and Yahr scale)は、パーキンソン病の進行度を評価するために広く使用されているスケールです。
パーキンソン病は、震えや筋肉の固さ、運動の遅れなどの症状を特徴とする進行性の神経疾患であり、この分類によって症状の重症度を把握し、適切な治療計画が立てやすくなります。
ホーン・ヤールの分類は5段階(改訂版では7段階)に分けられ、1期は軽度で一方の身体にのみ症状が現れ、5期では介護が必要な状態を指します。
これにより、医師や療法士は患者の状態をより客観的に評価し、リハビリや治療法の調整を行うことが可能です。
ホーン・ヤールの重症度分類のステージ
ホーン・ヤールの分類については1967年に「Neurology」という神経学の雑誌に“Melvin Yahr”と“Margaret Hoehn”が発表したものが最初のようです。
最初はステージ1~5の5段階でしたが、その後改定が加わり、ステージ1.5と2.5が追加された7段階の改訂版が用いられることもあります。
つまり…
- ステージ1
- ステージ1.5
- ステージ2
- ステージ2.5
- ステージ3
- ステージ4
- ステージ5
…の7段階になります。
それぞれ解説します。
ステージ1
ホーン・ヤール分類のステージ1では、パーキンソン病の初期段階であり、症状は一側性、つまり片側のみに現れます。
この段階では、震えや筋肉の固さが片方の手や足に限られているため、日常生活への影響はほとんどありません。
患者はまだ自立して動くことができ、症状は軽微なため、他人からは気づかれないことも多いです。
しかし、この段階での早期診断と治療が進行を遅らせるために重要です。
運動療法や適切な薬物療法を開始することで、症状の進行を効果的にコントロールできます。
ステージ1.5
改訂版ホーン・ヤール分類に追加されたステージ1.5は、片側性の症状に加えて、体幹部分にも軽度の障害が現れる段階です。
体幹の障害により、姿勢の安定性がやや低下することがあり、転倒のリスクがわずかに増加しますが、まだ日常生活への大きな影響はありません。
この段階でも、早期にリハビリテーションを取り入れることで、体幹の筋力を強化し、バランスを維持することが期待されます。
また、薬物療法による症状のコントロールが引き続き重要です。
ステージ1.5は、進行の早期サインとして慎重な経過観察が求められる段階です。
ステージ2
ステージ2では、パーキンソン病の症状が両側性に現れ、手や足の震え、固さが左右両方に及びます。
ただし、姿勢保持能力にはまだ問題がないため、患者は自立して歩行でき、日常生活もほぼ独立して行えます。
この段階での治療の目的は、進行を遅らせることと、運動機能を維持することに焦点が当てられます。
リハビリテーションでは、筋力トレーニングやバランス訓練が推奨され、症状管理のための薬物療法も引き続き行われます。
ステージ2は、症状が広がる一方で、まだ生活の質を高く保つことが可能な段階です。
ステージ2.5
ステージ2.5は、両側性の症状に加えて、後方突進現象(後ろに転倒しやすくなる症状)が見られる段階です。
しかし、患者はまだ自力でバランスを取ることができ、転倒を防ぐことが可能です。
この段階では、バランスの問題が顕在化しつつあり、リハビリテーションの重要性がさらに増します。
特に、転倒予防のためのバランス訓練や、筋力を維持するための運動療法が推奨されます。
適切な薬物療法と運動プログラムにより、症状の進行を緩やかにし、生活の質を保つことが可能です。
ステージ3
ステージ3では、軽度から中等度の両側性障害に加え、平衡障害が現れる段階です。
患者は歩行可能ですが、姿勢の維持が困難になり、転倒のリスクが高まります。
日常生活での自立度は低下し始め、リハビリテーションや介助が必要になることが増えます。
この段階では、バランス訓練や歩行補助具の導入が考慮され、転倒防止対策が重要です。
治療の目的は、症状管理とともに、できる限り自立を維持し、生活の質を確保することにあります。
ステージ4
ステージ4は、パーキンソン病の重度段階で、両側性の障害に加え、歩行や日常動作に著しい困難を伴います。
患者はまだ自力で歩行可能ですが、平衡機能の低下や筋力の衰えにより、介助や補助具が必須となります。
この段階では、日常生活における多くの場面でサポートが必要となり、リハビリテーションは転倒防止と筋力維持を目的に行われます。
介護や家族の支援が不可欠であり、患者の生活の質を保つための包括的なケアが求められます。
薬物療法は症状の管理に焦点を当て、リハビリによって残存機能を維持することが目標です。
ステージ5
ホーン・ヤール分類の最終段階であるステージ5は、患者が車いすを使用するか、寝たきりの状態となる段階です。
自力での歩行が困難になり、全般的な介護が必要となります。
この段階では、筋力の著しい低下や、運動機能の喪失が進行し、日常生活のほぼすべての動作に介助が必要です。
リハビリテーションは、残存機能をできる限り維持し、褥瘡(床ずれ)の予防や呼吸機能の維持に焦点を当てます。
家族や介護者のサポートが不可欠であり、患者の生活の質をできる限り高めるための包括的なケアが重要となります。
ホーン・ヤールの分類と改訂版の違いについて
ホーン・ヤールの重症度分類とその改訂版の主な違いは、評価ステージの数と内容にあります。
以下に表にして比較してみます。
ステージ | ホーン・ヤールの分類 | 改訂版 |
---|---|---|
1 | 一側性の障害がないor軽微 | 一側性の障害のみ |
1.5 | 一側性の障害+体幹障害 | |
2 | 両側性の障害・姿勢保持障害なし | 両側性の障害・姿勢保持障害なし |
2.5 | 軽度両側性障害・後方突進症状あるも立ち直り可能 | |
3 | 軽~中等度両側性障害+平衡障害 | 軽~中等度両側性障害+平衡障害 |
4 | 重度両側性障害+平衡障害・歩行は可能 | 重度両側性障害+平衡障害・歩行は可能 |
5 | 車いす、寝たきりの状態 | 車いす、寝たきりの状態 |
ホーン・ヤールの分類と生活機能障害度
パーキンソン病の症状の進行度を把握するためには、ホーン・ヤールの分類だけでなく「生活機能障害度」も一緒に用いることでよりわかりやすく把握することができます。
この生活機能障害度はパーキンソン病のクライアントの生活機能がどの程度障害されているのか?に応じて1~3度の3段階に分類されています。
- 1度:日常生活、通院にほとんど介助を要さない
- 2度:日常生活に介助を要する
- 3度:日常生活に全面的な介助を要し、歩行・起立が不能
それぞれ解説します。
1度:日常生活、通院にほとんど介助を要さない
1度は、パーキンソン病の症状が比較的軽度で、患者が日常生活をほぼ自立して行える段階です。
食事、着替え、トイレなどの基本的な動作は自力ででき、外出や通院も介助なしで行えます。
この段階では、リハビリテーションや薬物療法を適切に行うことで、症状の進行を遅らせることが可能です。
介助を必要としないため、患者の生活の質はまだ高い状態を維持できますが、運動やバランス機能の維持が今後の症状管理に重要な役割を果たします。
早期の治療介入が、この段階の患者の自立性を保つために有効です。
2度:日常生活に介助を要する
2度の段階では、パーキンソン病の症状が進行し、日常生活で介助が必要になり始めます。
食事や入浴、トイレなどの基本的な動作で部分的な支援が求められることが多く、患者は自力でできることと、介助が必要な部分が混在しています。
特に、平衡障害や筋力の低下により、転倒のリスクが増加し、外出時や長時間の活動には介助が不可欠です。
この段階では、リハビリテーションの目標は残存機能の維持と転倒予防に重点を置き、適切な補助具の使用も検討されます。
日常生活での介助が増えるため、患者とその家族にとって心理的なサポートも重要です。
3度:日常生活に全面的な介助を要し、歩行・起立が不能
3度は、パーキンソン病の最重度の段階であり、患者が日常生活において全面的な介助を必要とする状態です。
歩行や起立が不可能となり、車いすやベッド上での生活が中心となります。自力での動作が難しいため、介護者による食事、着替え、入浴、排泄など、すべての基本的な生活動作での支援が求められます。
この段階では、リハビリテーションの目的は残された機能をできる限り維持し、褥瘡(床ずれ)や呼吸機能の低下を予防することが主な焦点です。
患者と介護者双方に対する包括的なケアが、生活の質を維持するために不可欠となります。
ホーン・ヤールの分類を用いる“意味”について
では、この“ホーン・ヤールの分類”を臨床で使用する“意味”とはどのようなものになるのでしょうか?
考えるに、パーキンソン病を羅漢し、何かしらの障害を有して生活するには家族をはじめ様々な医療職、介護職といった方が関わることになります。
ここで「Aさんはパーキンソン病の方」という医療情報があったとしても、パーキンソン病でもその進行度によって症状も障害も異なりますし、それに合わせた対応も異なってきます。
ホーン・ヤールの分類は看護師も知っていないといけない?
上述したように、ホーン・ヤールの分類はリハビリセラピストのみ知っていても意味がありません。
その分類による障害の基準を看護師や介護福祉士などもスタッフもしっかり把握しておくことで、クライアントの情報共有が可能になってくるのだと思います。
ホーン・ヤールの分類の覚え方
学生用ってわけではないですが、臨床でも「このクライアントはホーン・ヤールの分類でどのくらい?」って聞かれたときパッと答えられないとまずいので覚え方について。
そこで5段階のものですが、
- 1:片側
- 2:両側
- 3:姿勢反射・歩行障害
- 4:一部介助
- 5:全介助
というように大まかにでも覚えておくとよいかもしれませんね。
「ホーン・ヤールの分類」についてのよくある質問
ここでは、ホーン・ヤールの分類についてよく新人作業療法士や学生から出た質問についてまとめておきます。
Q1.ホーン・ヤールの分類の使い方がわかりません
ホーン・ヤールの分類を実際の臨床や現場でどのように使うか?ということについてですが、やはり“情報共有”のために使うってことが重要なのかと思います。
前述したように、そのクライアントの症状把握のためには基準が必要ですからね。
あと、そのクライアントの“病状の進行の把握”に使用することが多いですかね?
Q2.ホーン・ヤールの分類はパーキンソン症候群にも適応でしょうか?
結論から言えば「クライアントの症状のイメージとしては使える」と思ってます。
というのも、パーキンソン病とパーキンソン症候群の違いって、疾患や発生機序から大きく異なるってのもありますが、なにより「症状が進行するか、進行しないか」にあると思うんです。
パーキンソン病は症状が日によって進行していきますが、パーキンソン症候群がその症状は進行せず固定的です。
つまり、ホーン・ヤールの分類はあくまで「パーキンソン病の進行度」を示す指標ですから、パーキンソン症候群のクライアントの状態をホーン・ヤールの分類で示すってことは正確にはしません。
ただし、イメージとしてパーキンソン症候群の方の病状を伝える際に「ホーン・ヤールの分類でいえばⅢ度に近い病状」というように便宜的に使用することはありますけどね。