嚥下訓練や口腔リハビリの方法の一つとしてアイスマッサージがあります。
言語聴覚士によるリハビリの現場でも結構頻繁に使われています。
そして、準備も方法も簡単なので、家庭での嚥下訓練としても活用できる方法です。
本記事では、このアイスマッサージの…
- 目的
- 期待できる効果
- 対象疾患
- 方法ややり方
- 注意点
…などについて解説します。
この記事が、病気や加齢などによって、思うように飲みこむことができない…という方の一助になれば幸いです。
アイスマッサージとは?
アイスマッサージとは、氷や凍らした綿棒、冷やしたスプーンなどを使用し、口腔内を刺激することで行う嚥下訓練の一つを意味します。
…そのままの意味ですね(笑)
通常は口の中を刺激しますが、場合によっては顔面や喉に行うこともあります。
目的
アイスマッサージを行う目的としてですが、端的に言えば嚥下反射を誘発させるため…になります。
食べ物や飲み物を飲み込む時は、間違って気管に入らないようにする必要があります。
そのために喉の「喉頭蓋」という部分が下がることで気管の入り口に反射的に蓋をします。
その結果、ムセることがなく食道を通っていく…というメカニズムになります。
でも、病気や加齢によってはこの反射が起こりにくくなります。
その解決策のひとつとしてアイスマッサージがあげられます。
効果
このアイスマッサージによって期待できる効果についてですが…
- 嚥下反射の誘発
- 覚醒レベルの改善
- 唾液の分泌の促進
…などがあげられます。
以下にそれぞれ解説します。
嚥下反射の誘発
アイスマッサージは嚥下反射誘発までの潜時を有意に短縮し、マッサージなしでは嚥下できなかった被験者でもしばしば嚥下を開始する効果があります。
この効果は特に核上性病変のある患者で顕著であり、アイスマッサージによって損傷した核上路および/または正常な核と核下路を嚥下のために活性化できることが示唆されています1)。
また、アイスマッサージに用いるアイススティック®は、嚥下障害患者の反復唾液嚥下テスト(RSST)回数を増加させることが示されており、これもまた嚥下障害に対する有効性を示唆しています2)。
覚醒レベルの改善
アイスマッサージによる嚥下および反射活性の改善は、これらの機能が神経学的活性化と相互に関連していることから、覚醒レベルへの影響を間接的に示唆する可能性があります。
唾液の分泌の促進
顔面マッサージや振動触覚刺激は、アイスマッサージと同様の概念となりうるものであり、これらが健常人の唾液分泌を増加させることが示されています。
このことは、マッサージが副交感神経を活性化し、それにより唾液分泌を生じさせることで、唾液分泌を促進する可能性を示唆しています3)。
また、マッサージを含む様々な方法による唾液腺への直接刺激に着目した研究では、唾液分泌の増加が認められており、これはアイスマッサージにも同様の効果があるのではないかという考えを支持しています4)。
エビデンスについて
嚥下訓練としてのアイスマッサージのエビデンスについてですが、マッサージ直後の短期的な効果は認められるものの、長期的な効果としては乏しいとされています。
アイスマッサージの適応対象や疾患
この嚥下訓練を目的としたアイスマッサージはどのような疾患や病状のクライアントが対象に適しているのでしょうか?
主に…
- 覚醒が低い状態
- 嚥下頻度が低下している状態
…があげられます。
以下に詳しく解説します。
覚醒が低い状態
クライアントの意識レベルが低下している場合で、食事を行おうとすると適切な嚥下反射が起こりづらく、結果として誤嚥を引き起こす可能性が高くなります。
そのため、顔や口腔内へのアイスマッサージによって刺激を与えることで覚醒レベルを引き上げる効果が期待できます。
しかし、この場合の意識レベルの低下はあくまでも二次的な覚醒レベルの低さ(睡眠不足や疲労など)の場合であって、中枢性の覚醒レベルの低下に対してはあまり効果がないとも言われています。
嚥下頻度が低下している状態
嚥下の頻度が減少している場合、咀嚼や嚥下に関する筋の廃用を招く場合があります。
結果として誤嚥を引き起こすことになるので、この咀嚼、嚥下関連筋は意識して随意的に使用する必要があります。
その誘発要因としてもアイスマッサージが有効になります。
アイスマッサージによる刺激を与える事で、嚥下を行う回数が増え、その結果咀嚼、嚥下関連筋の活動を促し、廃用を予防することにつながります。
アイスマッサージに必要な準備物
嚥下訓練を目的としたアイスマッサージに必要な物としては…
- 綿棒
- 氷水
- ガーゼ(湿らせ凍らせた状態)
- 保冷剤
- 冷やしたスプーン
…などがあげられます。
アイスマッサージの方法・やり方
では実際にアイスマッサージを行うにはどのような方法で行えばよいのでしょうか?
ここでは…
- 顔へのアイスマッサージの方法
- 口腔内へのアイスマッサージの方法
…について解説します。
顔へのアイスマッサージの方法
顔へのアイスマッサージの方法としては…
- 凍らせたガーゼまたは凍らせた保冷剤を準備する
- 頬部・頸部に押し当てるようにマッサージする
…となります。
これらについてはさらに詳しく解説します。
凍らせたガーゼまたは凍らせた保冷剤を準備する
冷凍庫で凍らせたガーゼや、保冷剤を準備します。
この際、セラピスト側がマッサージを行いやすいようにゴム手袋などを装着しておくとよいかもしれません。
頬部・頸部に押し当てるようにマッサージする
準備したガーゼや保冷剤で、患者の頬部、喉や頚部などに押し当てるようにマッサージを行います。
また、押し当てる時間などにもよりますが、あまりにも冷たすぎて患者側が拒否的な反応を示す場合は、ハンカチやタオルなどで包んで温度調整を行います。
口腔内へのアイスマッサージの方法
口腔内へのアイスマッサージの方法としては…
- 氷水に凍らせた綿棒を浸す
- 綿棒を口に入れ刺激する
- 唾液や水分を飲み込んでもらう
これらについては、以下にさらっと解説しますね。
氷水に凍らせた綿棒を浸す
少量の氷水に凍らせた綿棒を浸した後、滴り落ちない程度に水を切ります。
綿棒を口に入れ刺激する
綿棒を口に入れ、軟口蓋や舌根部を軽く2~3回刺激します
唾液や水分を飲み込んでもらう
綿棒を口から出したらすぐに、唾液や水分を飲み込んでもらいます(空嚥下)
アイスマッサージを行う際の注意点
アイスマッサージを行う際の注意点としては…
- 口腔内へのアイスマッサージは、口腔内の洗浄を行った後に行うこと
- 咽頭後壁への刺激は無理には行わないこと
…などがあげられます。
以下にそれぞれ解説します。
口腔内へのアイスマッサージは、口腔内の洗浄を行った後に行うこと
口腔内は食べ物の残りかすや細菌がたまりやすい場所であり、アイスマッサージを行う前には、これらを取り除くために口腔内の洗浄を念入りに行うことが重要です。
これにより、細菌感染のリスクを減少させ、マッサージの効果を最大限に引き出すことができます。
洗浄は、温かい水や口腔内洗浄液を使用して、優しくかつ丁寧に行うことが望ましいです。
咽頭後壁への刺激は無理には行わないこと
また咽頭後壁への刺激は、特に慎重に行う必要があります。
咽頭後壁は、喉の奥に位置し、非常に敏感なため、不適切な刺激は嘔吐反射を引き起こしたり、炎症を悪化させたりする可能性があります。
無理にアイスマッサージを行うことは避け、軽く触れる程度に留めるべきです。
また、冷たさの感覚が強すぎる場合は、マッサージの時間を短くするか、氷と直接触れないように薄い布などを介して行う方法も考慮すると良いでしょう。
これにより、患部への刺激を適切にコントロールし、不快感やリスクを最小限に抑えることができます。
Kポイントについて
“Kポイント”とは、臼後三角のやや後方の翼突下顎縫線の内側にある部位を指します。
この部位を軽く触れることで開口反射が誘発され開口することがあります。
認知症や意識障害などで開口を促してもなかなか口を開けることができないクライアントに対して、このKポイントを刺激すし、開口を促す場合があります。
ちなみにこのKポイントは、言語聴覚士の小島千枝子氏が発見したことからこの名がついているようです。
参考
- 1)Nakamura, T., & Fujishima, I. (2013). Usefulness of ice massage in triggering the swallow reflex.. Journal of stroke and cerebrovascular diseases : the official journal of National Stroke Association, 22 4, 378-82 . https://doi.org/10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2011.09.016.
- 2)Tazawa, M., Kurosaki, M., & Wada, N. (2018). Usefulness of Ice Stick® in swallowing training. Annals of Physical and Rehabilitation Medicine. https://doi.org/10.1016/J.REHAB.2018.05.918.
- 3)Yumi, T., Sumiko, A., Sayaka, F., Enri, N., Kimiko, A., Mituyasu, S., Masanori, K., Syunnichiryou, K., Maho, S., Masaru, Y., Mao, W., Koichirou, U., & Hisao, H. (2019). Effect of Salivation by Facial Somatosensory Stimuli of Facial Massage and Vibrotactile Apparatus. Voice and Swallowing Disorders. https://doi.org/10.5772/INTECHOPEN.88495.
- 4)Feather, B., & Wells, D. (1966). EFFECTS OF CONCURRENT MOTOR ACTIVITY ON THE UNCONDITIONED SALIVARY REFLEX. Psychophysiology, 2, 338-343. https://doi.org/10.1111/J.1469-8986.1966.TB02663.X.