下頭頂小葉は、脳の頭頂葉後部に位置し、感覚情報の統合や空間認知、言語処理に関与する重要な領域です。
この部位の損傷は、失行や半側空間無視などの認知機能障害を引き起こす可能性があります。
本記事ではこの下頭頂小葉について解説します。
下頭頂小葉とは
下頭頂小葉(かとうちょうしょうよう、英: Inferior parietal lobule)は、脳の頭頂葉に位置し、感覚情報の統合、空間認識、言語処理などの高次脳機能に重要な役割を果たす領域です。
この部位は頭頂葉の一部であり、頭頂間溝の下方、中心後溝の後方に位置します。
下頭頂小葉は、縁上回と角回という2つの脳回から構成され、これらの脳回は外部からの感覚刺激を処理し、それを他の脳領域と統合する働きを持ちます。
下頭頂小葉の役割・働き・機能
下頭頂小葉は、脳の重要な部位であり、様々な高次脳機能に関わっています。
主な役割としては、以下のものが挙げられます。
- 感覚情報の統合
- 空間認知
- 言語処理
- 論理的思考と空間把握
感覚情報の統合
下頭頂小葉は、視覚、聴覚、体性感覚などの異なる感覚情報を統合し、物体の識別や空間認知において重要な役割を果たします。
例えば、視覚情報と体性感覚情報を結びつけることで、私たちは物体の大きさや形状、位置を正確に把握することが可能となります。
また、身体の各部位からの感覚情報を統合することで、身体の姿勢や動きの認識ができ、外界との関係性を理解するのに役立ちます。
この統合機能は、日常生活での複雑な動作や認知作業を円滑に進めるために不可欠です。
結果として、下頭頂小葉の感覚情報統合能力が損なわれると、視覚や触覚の情報が混乱し、正確な物体識別や空間認知が困難になることがあります。
空間認知
下頭頂小葉は、私たちが空間内で自分の位置を認識し、身体の傾きや方向を把握するのに重要な役割を担っています。
視覚や体性感覚から得られる情報に基づいて、自己の位置を空間内で特定し、適切に動くための基盤を提供します。
また、物体の位置や距離を正確に把握する機能もこの領域に含まれており、私たちは周囲の環境との関係性を理解し、物体との距離感を保つことができます。
この空間認知の機能は、例えば運転やスポーツなど、空間内での移動や物体の操作を行う際に非常に重要です。
障害が生じると、空間内での自己位置の誤認や、物体の正確な距離感の判断が困難になる可能性があります。
言語処理
下頭頂小葉は、言語に関連する視覚情報を処理し、読み書きや計算などの高度な認知機能にも関与しています。
具体的には、言語の文脈や意味を理解する際に、文字や単語の視覚的情報を脳内で処理し、適切な言語表現を選択することが求められます。
また、読み書きや計算の際には、視覚情報と抽象的な言語概念を結びつけ、正確に情報を伝達する役割を果たします。
この領域の障害は、失読症や失書症などの言語障害を引き起こし、言語理解や計算能力に深刻な影響を与えることがあります。
そのため、下頭頂小葉は、私たちの言語能力の発達と維持に欠かせない領域です。
論理的思考と空間把握
下頭頂小葉は、論理的思考や問題解決においても重要な役割を果たし、特に空間認知と結びついた複雑な思考に関与しています。
この領域は、例えば、パズルを解いたり、複雑な地図を読んだりする際に、論理的に情報を組み合わせる能力をサポートします。
また、創造的なアイデアを構築する際にも、空間的な要素を考慮しながら新しい概念を生み出す力を助けます。
このように、下頭頂小葉は、空間的な情報を基に論理的な判断を下し、創造性を発揮するための土台を提供します。
したがって、この領域が損なわれると、複雑な問題を解決する能力や、空間に関する論理的な思考能力に障害が生じる可能性があります。
下頭頂小葉の障害が引き起こす可能性のある症状
下頭頂小葉は、空間認知、運動制御、高次な認知機能など、様々な脳機能に関わる重要な部位です。
この部位が損傷すると、日常生活に大きな影響を与える可能性のある様々な症状が現れることがあります。
主なものとして…
- 半側空間無視
- 身体失認
- 着衣失行
- 失読失書
- 失算
- Gerstmann症候群
- 構成失行
- 観念失行
- 観念運動失行
…があげられます。
それぞれ解説します。
半側空間無視
半側空間無視は、下頭頂小葉の損傷によって引き起こされることが多く、身体の片側の空間や物体を認識できなくなる症状です。
典型的には、右脳の下頭頂小葉が損傷された場合、患者は左側の空間を無視する傾向があります。
これは、日常生活において顕著に表れ、例えば、食事の際に左側の料理に気づかず、右側の料理ばかり食べてしまうことがあります。
さらに、患者は左側の体を意識せず、左手や左足の存在を忘れてしまうこともあります。
この障害は、リハビリテーションを通じて部分的に改善することが可能ですが、完全な回復には至らないことも多いです。
身体失認
身体失認は、自分の身体の一部を認識できなくなる症状であり、下頭頂小葉の障害によって引き起こされることがあります。
この障害は、体部位失認とも呼ばれ、自分の手や足、さらには他人の身体の部位を正しく認識できない状態を指します。
例えば、患者は自分の手を見てもそれが自分のものであるとは認識できず、他人の手だと思い込むことがあります。
この認識の障害は、患者の自己意識や他者との関わりに深刻な影響を及ぼし、日常生活における動作やコミュニケーションが困難になります。
リハビリテーションを通じて、認識力の向上を目指すことが重要です。
着衣失行
着衣失行は、服の脱ぎ着がうまくできなくなる症状で、下頭頂小葉の損傷が原因で発生することがあります。
この障害は、患者が服を正しく着るために必要な動作を計画し、実行する能力を失うことを特徴としています。
例えば、袖に腕を通すことができなかったり、服を裏返しに着てしまったりすることが多くなります。
この障害は、他の失行と同様に、日常生活での自立を大きく妨げる要因となります。
治療には、リハビリテーションを通じて、具体的な手順を練習し、適切な動作を再学習することが含まれます。
失読失書
失読失書は、文字を読む能力(失読)や書く能力(失書)が低下する症状で、下頭頂小葉の損傷によって引き起こされます。
これらの能力は、日常生活において非常に重要であり、失読失書が発生すると、患者は文字や文章を理解したり、情報を記録したりすることが極めて困難になります。
失読は、視覚的な言語処理がうまくいかないために生じ、文字が認識できなくなることがあります。
一方、失書は、書くための運動計画が破綻することによって発生し、文字を正確に書けなくなります。
この障害も、リハビリテーションを通じて、症状を緩和するための訓練が必要です。
失算
失算は、計算能力が低下する症状で、下頭頂小葉の損傷が原因で生じることがあります。
この障害は、特に数学的な問題を解く際に顕著に表れ、簡単な計算さえも正確に行うことが難しくなります。
失算は、数の概念や計算の手順を理解する能力が低下するために発生します。
患者は、例えば、簡単な足し算や引き算ができなくなったり、数を順序立てて並べることが困難になることがあります。
失算は、日常生活において買い物や時間管理などの基本的な活動にも影響を及ぼすため、適切な支援とリハビリテーションが必要です。
Gerstmann症候群
Gerstmann症候群は、下頭頂小葉の障害によって引き起こされる一連の症状を指し、手指失認、左右失認、失書、失算を含みます。
この症候群は、特に左側の下頭頂小葉の損傷によって発生することが多いです。
手指失認は、指を正しく認識できない症状であり、左右失認は左右の方向を正確に認識することができなくなる状態です。
これに加えて、前述の失書や失算も含まれ、Gerstmann症候群は日常生活の多くの場面で困難をもたらします。
総じて、この症候群は複合的な障害を呈するため、包括的なリハビリテーションが求められます。
構成失行
構成失行は、立体的な図形の模写や構成ができなくなる症状で、下頭頂小葉の障害によって引き起こされることがあります。
これは、視覚情報を正確に処理し、それを基に複雑な図形や物体を再現する能力が損なわれることを意味します。
例えば、患者は簡単な図形を模写することができなかったり、ブロックを使って立体的な構造物を作ることが難しくなります。
この障害は、視覚空間認知と運動計画の両方に影響を及ぼし、日常生活や職業上の活動に大きな支障をきたすことがあります。
リハビリテーションでは、視覚空間の認知訓練や手先の動作訓練が行われます。
観念性失行
観念性失行は、日常の一連の動作ができなくなる症状であり、下頭頂小葉の障害が原因で発生します。
この症状は、動作の計画や順序を理解し、それを実行する能力が損なわれることを特徴とします。
例えば、患者は歯磨きや食事の準備といった一連の動作を正確に行うことができず、動作の手順が混乱してしまいます。
この障害は、日常生活の自立性に大きな影響を与え、患者は支援がなければ基本的な生活動作を遂行することが難しくなります。
観念性失行の治療には、動作の再学習や計画能力の改善を目指したリハビリテーションが不可欠です。
観念運動性失行
観念運動性失行は、指示された動きを正確に実行することができなくなる症状で、下頭頂小葉の障害によって引き起こされます。
この障害は、単純な動作を指示されても、その動作を正確に再現することが困難になる状態を指します。
例えば、患者に「手を振る」という簡単な指示を出しても、その動作を正しく行えないことがあります。
この症状は、運動計画の障害や、動作の順序を理解する能力の欠如に関連しています。
リハビリテーションでは、具体的な動作の訓練や、指示に従う能力の強化を目指したアプローチが取られます。
下頭頂小葉のリハビリ・鍛える方法
下頭頂小葉の機能回復を目的としたリハビリテーションは、脳卒中などの後遺症として現れる半側空間無視、失行などの症状に対して非常に重要です。
ここでは具体的な方法の例として…
- 料理
- パズル(組み立てる系の遊び)
- 道具を使ったスポーツ(特に球技系)
- 日常の何かをひとつ変える
- 計算
- 読書
- 五感を意識的に使う
- 体を動かす
…について解説します。
料理
料理は、手先の感覚、味覚、段取り決め、道具の使用、材料の切り方、温度確認、レシピの再現など、頭頂葉の機能を総合的に活用する活動です。これにより、下頭頂小葉を含む頭頂葉全体が刺激され、感覚情報の統合や運動計画能力が鍛えられます。例えば、材料を任意の大きさや形に切る作業は、手先の器用さと視覚情報の統合を必要とし、段取りを決めることは空間認知と計画力を向上させます。また、体感で温度を確認したり、レシピ通りに工程を進めることで、感覚と運動の統合能力が高まります。料理は、日常的に行える活動でありながら、脳全体を活性化させる効果的なリハビリ手段です。
パズル(組み立てる系の遊び)
パズルや組み立て作業は、空間把握能力と指先の感覚を駆使するため、下頭頂小葉を効果的に鍛える方法です。積み木やプラモデル、立体パズル、ジグソーパズルなどの活動は、視覚情報と空間認知能力を統合し、複雑な構造を理解して再現する力を養います。これらの作業では、手先の微細な運動制御が求められるため、頭頂葉の運動計画機能が強化されます。また、完成形をイメージし、それに向かって適切に部品を組み立てる過程が、脳の論理的思考と問題解決能力を鍛えます。パズルを通じて、認知機能の向上とともに、下頭頂小葉の活性化が期待できます。
道具を使ったスポーツ(特に球技系)
道具を使ったスポーツ、特に球技系のスポーツは、手先の感覚や空間認知能力を鍛えるのに非常に効果的です。テニス、バドミントン、卓球などの球技では、道具(ラケットやボール)を操作する際に、視覚情報を迅速に処理し、それを基に適切な運動指令を出す必要があります。このプロセスで、下頭頂小葉は空間認知や動作計画を担当し、脳の機能が高められます。また、球技では動体視力やタイミングの調整も求められるため、全体的な運動制御能力が向上します。スポーツを通じたリハビリは、楽しみながら下頭頂小葉を含む脳全体を効果的に鍛える手段です。
日常の何かをひとつ変える
日常のルーティンを少し変えることは、脳に新しい刺激を与え、頭頂葉を鍛えるシンプルで効果的な方法です。例えば、通勤ルートを変えたり、普段とは異なる手で歯を磨いたりすることで、脳が新しい情報を処理し、適応する必要が生じます。このような変化は、下頭頂小葉が関与する空間認知や運動計画の機能を活性化させることにつながります。日常生活で少し工夫するだけで、脳に新たな刺激を与え、頭頂葉を鍛えることができます。ルーティンの小さな変更が脳の柔軟性と適応力を高める効果があり、リハビリの一環として取り入れる価値があります。
計算
簡単な計算や数学的操作を行うことは、頭頂葉、特に下頭頂小葉の計算能力を鍛えるための効果的な方法です。計算を行う際には、数の概念を理解し、それを論理的に操作する能力が必要とされます。下頭頂小葉は、数の処理や計算能力に深く関与しており、この領域を刺激することで認知機能の向上が期待できます。例えば、日常生活の中で行える簡単な計算問題や、パズルのような数学的ゲームを活用することで、脳を活性化し、下頭頂小葉の機能を強化できます。継続的な計算練習が、頭頂葉の全体的な認知機能を向上させるために有効です。
読書
読書は、言語情報を処理することで、頭頂葉の言語理解能力を鍛える優れた方法です。特に、下頭頂小葉は、言語処理や文字の理解に関与しており、読書を通じてこの領域が活性化されます。読書では、単語や文章を理解するために視覚情報を処理し、それを意味に結びつけるプロセスが行われます。さらに、読書は集中力や記憶力の向上にも寄与し、脳全体の認知機能を強化します。読書を習慣化することで、頭頂葉の言語処理能力を維持・向上させ、日常生活でのコミュニケーション能力を高めることができます。
五感を意識的に使う
視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚といった五感を意識的に使うことは、頭頂葉、特に下頭頂小葉の感覚情報処理能力を鍛える方法です。五感を通じて得られる情報は、脳内で統合され、身体と環境の関係を理解するために利用されます。下頭頂小葉は、これらの感覚情報を統合し、適切な運動指令を生成する役割を果たしているため、五感を活用する活動はこの領域の機能を高めます。例えば、新しい食材を味わったり、異なる音を聴き比べたりすることで、感覚情報処理の多様性が脳を刺激します。五感を意識的に使うことは、日常生活の中で手軽に行える脳のトレーニングとなります。
体を動かす
体を動かすこと、特に新しい運動やダンスを取り入れることは、下頭頂小葉を含む頭頂葉の機能を鍛える効果的な方法です。運動は、身体の位置や動きを認識し、それに基づいて適切な運動を計画・実行する能力を向上させます。下頭頂小葉は、空間認知や運動制御に関与しており、運動を通じてこの領域が強化されます。特に、ダンスのような新しい動作を学ぶことで、脳に新しい運動パターンを記憶させ、運動機能を向上させます。運動を習慣化することで、脳全体の健康を維持し、下頭頂小葉の機能を活性化させることができます。
下頭頂小葉の場所・部位
下頭頂小葉は、脳の頭頂葉と呼ばれる部分に位置する重要な領域です。
頭頂葉は、体性感覚、視覚、聴覚など、様々な感覚情報を統合し、空間認知や運動制御といった高次な脳機能に関わっています。
下頭頂小葉の具体的な位置としては…
- 頭頂葉の後部
- 頭頂間溝の下方
…があげられます。
それぞれ解説します。
頭頂葉の後部
下頭頂小葉は、大脳の頭頂葉の後部に位置しており、頭頂葉は大脳の中央部に位置しています。
頭頂葉自体は、前方に前頭葉、下方に側頭葉、後方に後頭葉と接しており、これらの領域間の情報伝達や統合に関与します。
その中でも、下頭頂小葉は後部に位置し、特に感覚情報の統合や空間認知、言語処理などの高次機能に重要な役割を果たしています。
この部位の損傷は、これらの機能に重大な影響を与え、日常生活において複雑な認知機能の障害を引き起こす可能性があります。
したがって、下頭頂小葉は、脳の中心的な位置にあり、他の脳領域と密接に連携しながら、様々な高度な認知機能を支える要です。
頭頂間溝の下方
下頭頂小葉は、頭頂葉を縦に走る頭頂間溝の下方に位置しています。
頭頂間溝は、頭頂葉を上頭頂小葉と下頭頂小葉に分ける重要な解剖学的構造です。
この溝の上方には上頭頂小葉があり、主に感覚情報の一次処理に関与しています。
一方、下頭頂小葉はこの溝の下側に位置し、感覚情報の統合や空間認知などのより複雑な処理を行う役割を担っています。
この位置関係により、下頭頂小葉は、脳の他の領域からの情報を受け取り、それを統合して高度な認知機能を実現するための中枢として機能しています。
縁上回と角回
下頭頂小葉は、さらに2つの重要な脳回、すなわち縁上回と角回に分けられます。
縁上回は、外側溝の上向きの端をアーチ状に取り囲むように位置しており、特に言語処理や音韻情報の処理に関与しています。
この領域の損傷は、言語理解や音の識別に障害を引き起こす可能性があります。
一方、角回は、上側頭溝の後端をアーチ状に取り囲むように位置しており、言語処理に加えて、数の概念や読み書きの能力にも関与しています。
角回の障害は、失算や失読、失書といった症状を引き起こし、日常生活における学習やコミュニケーションに深刻な影響を与えることがあります。
脳画像(CT・MRI)における下頭頂小葉の同定方法
脳画像、特にCTやMRIで下頭頂小葉を正確に特定することは、神経学や脳科学の研究において非常に重要です。
しかし脳の構造は複雑であり、なかなか分かりづらい部分もあります。
ここでは下頭頂小葉を同定する方法として…
- 中心溝の同定
- 頭頂間溝の同定
- 中心後溝の同定
- 縁上回と角回の同定
- 下頭頂小葉の同定
…というステップで解説します。
中心溝の同定
中心溝は、脳の前頭葉と頭頂葉を分ける境界として重要なランドマークです。
脳画像(CTやMRI)で中心溝を同定することは、脳の他の部分の位置を特定するための基準となります。
この溝は、前頭葉の後方に位置し、外観としては深くて明瞭な溝として映ります。
中心溝を見つけることで、脳の前後の構造を区別することができ、特に運動野や感覚野の位置を把握するのに役立ちます。
中心溝を起点として、他の脳溝や脳回を特定するステップへと進むことができます。
頭頂間溝の同定
頭頂間溝は、頭頂葉を縦に走る深い溝で、上頭頂小葉と下頭頂小葉を分ける重要な構造です。
この溝は、中心後溝の後方に位置しており、頭頂葉の中央を走るため、頭頂葉の他の部分を特定するための指標となります。
脳画像上では、頭頂間溝は中心後溝から後方に伸びており、比較的明瞭に見えることが多いです。
この溝を同定することで、上頭頂小葉と下頭頂小葉の境界が明確になり、次のステップである下頭頂小葉の特定に向けた準備が整います。
中心後溝の同定
中心後溝は、中心溝のすぐ後方に位置し、脳の感覚野が存在する場所にあたります。
この溝は、頭頂葉の前方部分を構成するため、頭頂間溝に合流する重要なポイントです。
脳画像で中心後溝を見つけると、頭頂葉の前方領域を確認し、その後方に広がる頭頂間溝との関係性が明確になります。
中心後溝は、感覚情報の処理に関与する領域を示しており、その後方に位置する下頭頂小葉の特定に役立ちます。
この溝の同定は、頭頂葉全体の構造を理解するための重要な手がかりとなります。
縁上回と角回の同定
縁上回と角回は、下頭頂小葉を構成する2つの重要な脳回であり、それぞれ独特の位置関係を持っています。
縁上回は、外側溝の上向きの端をアーチ状に取り囲むように位置しており、音韻や言語処理に関連する領域です。
一方、角回は上側頭溝の後端をアーチ状に取り囲んでおり、読み書きや数の処理に関与します。
これらの脳回を脳画像上で同定することで、下頭頂小葉全体の構造がより明確になります。
これにより、下頭頂小葉の特定が容易になり、感覚情報の統合や言語処理に関する領域を精密に評価することができます。
下頭頂小葉の同定
下頭頂小葉は、頭頂間溝の水平部分の下方、中心後溝の下部の後方に位置し、縁上回と角回から構成されます。
この領域を脳画像で同定する際には、まず中心溝や頭頂間溝を基準として、その後に縁上回と角回を確認することが重要です。
下頭頂小葉は、感覚情報の統合や空間認知、言語処理など多くの高次脳機能に関与しており、脳の他の領域と密接に連携しています。
この部位を正確に特定することで、脳機能の評価や障害の診断が可能となり、適切な治療計画の立案にもつながります。
下頭頂小葉の同定は、脳画像診断において重要なステップであり、その正確さが臨床判断に直結します。
なぜ下頭頂小葉の損傷が失行を引き起こすのか?
下頭頂小葉の損傷が失行を引き起こす理由ですが、次のような理由が考えられます。
- 感覚-運動統合の障害
- 運動表象の障害
- 多種感覚の統合過程の障害
- 身体位置感覚の障害
それぞれ解説します。
感覚-運動統合の障害
下頭頂小葉は、感覚情報を統合し、それに基づいて運動指令を生成する重要な役割を果たしています。
具体的には、視覚や触覚などの感覚情報を脳内で統合し、それを適切な運動行動へと変換するプロセスが行われます。
しかし、この領域が損傷すると、感覚情報と運動指令の統合がうまく機能しなくなり、結果として失行が発生することがあります。
失行とは、運動機能自体は正常であるにもかかわらず、目的に応じた動作が正しく遂行できない状態を指し、これは感覚と運動の統合過程が乱れることで生じるものです。
この障害は、日常生活での基本的な動作や複雑な作業において、患者に大きな不便をもたらします。
運動表象の障害
下頭頂小葉は、行為の空間的・時間的な運動表象を形成する役割を担っており、この領域が損傷すると運動表象の障害が生じます。
運動表象とは、ある動作を計画し、頭の中でその動作をシミュレートする過程であり、正確な動作を実行するために不可欠な要素です。
この機能が損なわれると、患者は動作の計画や順序を正しく認識できず、結果として不適切な運動や動作が現れることになります。
例えば、複数の動作を連続して行うことが困難になったり、道具の使い方を誤ることがあります。
このような運動表象の障害は、失行の主要な原因の一つであり、日常生活において非常に不便を引き起こします。
多種感覚の統合過程の障害
下頭頂小葉は、視覚、聴覚、体性感覚などの多種感覚を統合する役割を果たしており、これにより複雑な運動行動が実現されます。
この領域が損傷すると、これらの異なる感覚情報の統合がうまくいかず、結果として失行が発生する可能性があります。
多種感覚の統合は、物体の位置を正確に把握したり、自分の体の動きを適切にコントロールするために必要なプロセスです。
感覚情報の統合がうまくいかないと、運動指令が混乱し、目的に沿った正確な動作が行えなくなります。
この障害は、複数の感覚情報を同時に処理することが難しくなるため、複雑な動作や動作の連続性に影響を与えることがあります。
身体位置感覚の障害
下頭頂小葉は、身体の位置や動きを認識し、適切な動作を計画・実行するための位置感覚を提供する役割を持っています。
この領域が損傷すると、身体の位置や動きを正確に認識する能力が低下し、その結果、失行が発生することがあります。
身体位置感覚の障害は、例えば、自分の手や足がどの位置にあるかを正確に把握できない状況を引き起こし、意図した通りの動作ができなくなります。
これにより、日常の動作や活動が不安定になり、患者は簡単な動作でさえも正確に行うことが難しくなります。
特に、複雑な動作や道具を使った動作において、この感覚の障害は顕著に表れます。
下頭頂小葉と半側空間無視
下頭頂小葉の損傷が半側空間無視を引き起こすメカニズムは、まだ完全に解明されていませんが、いくつかの有力な仮説が提唱されています。
ここでは…
- 注意の偏り
- 視覚探索の障害
- 体性感覚情報の処理の障害
- 内側の注意ネットワークの障害
…について解説します。
注意の偏り
下頭頂小葉は、空間表現と注意の配分において重要な役割を果たしています。
この領域が損傷すると、空間表現に障害が生じ、反対側の空間を認識する能力が低下します。
具体的には、自分がいる空間における物体の位置や距離を把握する機能が損なわれ、片側の空間の表現が不完全になるため、注意がそちらに向きにくくなります。
また、下頭頂小葉は、注意をどこに配分するかを決定する役割も持っており、損傷によって注意が健側(損傷のない側)に偏ってしまうことがあります。
これにより、片側の空間を無視する「半側空間無視」が発生し、患者は無視された側の物体や人に気づかないことが多くなります。
視覚探索の障害
下頭頂小葉は、視覚探索においても重要な役割を担っています。
視覚探索とは、特定の対象を探すために視線を移動させる行動であり、これには「サッケード」と呼ばれる眼球運動が関与します。
下頭頂小葉の損傷は、サッケードの目標設定に影響を及ぼし、反対側の空間に視線を向けることが難しくなります。
さらに、効率的な視覚探索戦略を立てる能力も損なわれ、患者は無視された側の空間を十分に探索できなくなります。
この視覚探索の障害により、患者は半側空間無視を引き起こし、日常生活での行動や認知に大きな影響を与えることがあります。
体性感覚情報の処理の障害
下頭頂小葉は、視覚情報と体性感覚情報を統合し、身体と空間の関係を把握する上で重要な役割を果たしています。
この領域が損傷すると、これらの感覚情報の統合がうまくいかず、反対側の空間に対する感覚が薄れることがあります。
特に、体性感覚と視覚情報の統合が障害されると、片側の空間に対する感覚が減少し、その結果、注意がそちらに向きにくくなります。
これにより、患者は無視された側の空間に対する意識が薄れ、半側空間無視が発生することがあります。
この障害は、日常生活での動作や環境認識に深刻な影響を及ぼし、リハビリテーションが必要となることが多いです。
内側の注意ネットワークの障害
内側の注意ネットワークは、目標指向的な注意や内部の思考、記憶への注意に関与する重要なシステムです。
下頭頂小葉は、このネットワークの重要な構成要素の一つであり、損傷すると内側の注意が障害され、外部の刺激への注意が低下する可能性があります。
内側の注意ネットワークの障害により、患者は自身の内部に集中しすぎて、周囲の環境に注意を向けることが難しくなることがあります。
この状態が半側空間無視を引き起こし、片側の空間を意識することが困難になる要因となります。
結果として、患者は無視された側に対する認識が著しく低下し、日常生活においても片側の情報を見逃すことが多くなります。