かなひろいテストのケーススタディ – 作業療法での実践例と評価・介入方法

かなひろいテストのケーススタディ - 作業療法での実践例と評価・介入方法 ケーススタディ

かなひろいテストは加齢による判断力、注意力、記憶力の低下を評価するための検査のひとつで、スクリーニング検査としても活用されます。
本記事では、かなひろいテストを活用し、患者の認知機能評価と効果的な介入方法を具体的に分析・解説をケーススタディとして紹介します。


ケース概要

項目 内容
名前 山田 太郎(仮名)
年齢 75歳
性別 男性
職業 退職教師
既往歴 高血圧、糖尿病、軽度の認知症(既診断)
現病歴 最近、日常生活での注意力低下や物忘れが目立ち、家族からも認知機能の低下が懸念されています。日常生活動作(ADL)には大きな支障はないものの、趣味の読書や料理などで集中力の持続が難しくなってきています。

アセスメントプロセス

1. 初期評価と目的設定

作業療法士(OT)は、山田さんの現在の認知機能の状態を詳細に評価し、日常生活での支援策を立案するためにかなひろいテストを実施することを決定しました。
評価の目的は以下の通りです。

  • 認知機能全体の現状把握
  • 特に前頭葉機能や注意機能の評価
  • 日常生活での具体的な困難点の特定
  • 介入計画の基礎資料の収集

2. テスト実施の準備

必要物品

  • かなひろいテスト用紙(無意味綴り文と有意味文)
  • 鉛筆
  • ストップウォッチ
  • 静かな評価室

環境調整

山田さんがリラックスできる静かな環境を整え、照明や座位姿勢を調整しました。
テストの説明はゆっくりと、分かりやすい言葉で行い、質問があればその都度回答しました。

3. かなひろいテストの実施

無意味綴り文

山田さんは2分間で、平仮名で書かれた無意味な文字列から「あ・い・う・え・お」を見つけてマークしました。
テスト中、山田さんは集中力を保ちつつ、積極的に文字を探していましたが、テスト後半になると徐々に速度が低下しました。

有意味文(物語文)

同様に2分間で、意味のある物語文から「あ・い・う・え・お」を見つけてマークしました。
山田さんは物語の内容を理解しながら文字を探すことに挑戦しましたが、途中でいくつかの文字を見落としました。
テスト終了後には物語のあらすじを説明するよう求められましたが、部分的にしか説明できませんでした。

4. テスト結果の採点と解釈

量的評価

  1. 正答数
    • 無意味綴り文: 50/60
    • 有意味文: 45/61

    年齢別平均値と比較して、両方の課題で平均を下回っていました。

  2. 誤答数
    • 無意味綴り文: 5/60
    • 有意味文: 8/61

    注意力や集中力に一部の問題が示唆されました。

  3. 正答率
    • 無意味綴り文: 83.3%
    • 有意味文: 73.8%

    特に有意味文での正答率が低く、注意の分散や言語処理能力に課題があることが示唆されました。

  4. 見落とし数
    • 無意味綴り文: 10
    • 有意味文: 16
  5. 内容把握
    • 有意味文の物語のあらすじ説明: 「不十分」

質的評価

  1. パフォーマンスの一貫性

    テスト全体を通じて山田さんのパフォーマンスは比較的一貫していましたが、後半になるにつれて速度が低下しました。

  2. 作業速度の変化

    前半は積極的に文字を探していましたが、後半にかけて作業速度が明らかに低下しました。

  3. エラーパターン

    特定の文字(特に「お」)に対する誤答が多く、視覚的認識や注意の選択性に課題があることが示唆されました。

  4. 文脈理解

    物語のあらすじ説明が不十分であり、言語理解力と情報の統合能力に一部の問題が見られました。

  5. 作業方略

    山田さんは効率的な視覚的スキャンを行っていましたが、後半にかけて無駄な作業が増え、計画性に欠ける部分が見受けられました。

  6. 自己修正能力

    誤答に気づいた際、自己修正を試みる姿勢が見られましたが、修正の頻度は低めでした。

  7. 視覚的走査パターン

    文字を探す際の目の動きが不規則で、一部のエリアに偏った走査が見られました。

  8. マルチタスク能力

    有意味文課題での成績低下から、文章理解と文字探索を同時に行う能力に課題があることが示されました。

  9. 口頭指示への従順性

    指示を理解し従う能力は良好でしたが、複雑な指示に対しては一部混乱が見られました。

  10. 疲労や焦りの兆候

    テスト後半での成績低下に伴い、山田さんは軽い焦りを感じている様子が観察されました。

量的評価と質的評価の統合

量的評価と質的評価を組み合わせることで、山田さんの認知機能の具体的な課題が明確になりました。
特に、前頭葉機能や注意機能、言語処理能力において、軽度から中等度の低下が見られます。これに基づき、以下の介入計画を立案しました。

介入計画

1. 注意力訓練

目的

持続的注意力と選択的注意力の向上

方法

  • 短時間の集中課題を繰り返し実施し、徐々に時間を延ばす。
  • 雑音の中で特定の情報を探すトレーニングを行う。
  • 注意の切り替えを促すエクササイズを取り入れる。

2. 言語処理能力の強化

目的

言語理解力と情報の統合能力の向上

方法

  • 短い文章の読解と要約練習を行う。
  • 読んだ内容について質問し、理解度を確認する。
  • 情報の整理やマインドマップの作成を支援する。

3. 作業方略の改善

目的

効率的な作業方略の習得

方法

  • 作業の段取り立てをサポートし、計画的にタスクを進める練習を行う。
  • 無駄な作業を減らすためのフィードバックを提供する。
  • 作業中の優先順位の付け方を指導する。

4. ストレス管理とリラクゼーション

目的

テスト後半の焦りや疲労の軽減

方法

  • 深呼吸やリラクゼーション法を指導し、ストレスを軽減する方法を学ぶ。
  • 定期的な休憩を取り入れた作業スケジュールを提案する。
  • テスト中や日常生活でのリラックス法を実践する。

5. 家族への教育とサポート

目的

家族の理解と支援体制の強化

方法

  • 山田さんの認知機能の現状と介入計画を家族に説明する。
  • 家族が日常生活での支援方法を理解し、適切なサポートを提供できるよう教育する。
  • 定期的なコミュニケーションを通じて、進捗状況を共有し、必要に応じて介入計画を調整する。

結果と評価

再評価

介入開始後3ヶ月後に再度かなひろいテストを実施しました。
再評価の結果、山田さんの正答数は以下のように改善しました。

正答数

  • 無意味綴り文: 55/60
  • 有意味文: 50/61

正答率

  • 無意味綴り文: 91.7%
  • 有意味文: 81.9%

質的評価

  • 作業速度の向上やエラーパターンの減少が観察されました。
  • 物語のあらすじ説明も「十分」に改善され、柔軟性や自己修正能力も向上していることが確認されました。
  • 疲労の兆候も減少し、山田さんはより自信を持って日常生活に取り組む姿勢が見られるようになりました。

まとめ

このケーススタディでは、かなひろいテストを用いて山田さんの認知機能を詳細に評価し、結果に基づいた具体的な介入計画を立案・実施しました。
量的評価と質的評価を組み合わせることで、認知機能の多面的な側面を把握し、効果的な支援を提供することが可能となりました。
再評価においても、介入の効果が確認され、山田さんの生活の質の向上に寄与しました。

このように、かなひろいテストは作業療法における包括的な評価ツールとして有用であり、個別の介入計画を立案する際の重要な基盤となります。

1.かなひろいテストについて
2.かなひろいテストの臨床実践ガイド
>3.かなひろいテストのケーススタディ
4.かなひろいテストを活用したキャリア戦略
5.かなひろいテストのコンテンツ
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THERABBYを運営している臨床20年越えの作業療法士。
行動変容、ナッジ理論、認知行動療法、家族療法、在宅介護支援
ゲーミフィケーション、フレームワーク、非臨床作業療法
…などにアンテナを張っています。

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