作業療法士はクライアントに対して治療的介入する際に様々な「作業」を使うのですが、その作業の選び方に疑問を持つことが多くあります。
「意味がある作業」…とはいっても間違った作業の提供をしている場面ってありませんか?
今回は作業療法士が提供する作業は、なぜ”意味がある+面白いと感じるもの”でないといけないか?について、その理由を考えてみます。
意味のある作業とは?
まず、改めて「意味のある作業」について考えてみます。
意味のある作業とは…
クライアントの自分に対する理解と人生に関わり、新たな自分を再構築する,作業療法士が援助する作業である
…と考えられています。
1995年度から2010年度に「意味のある作業」をテーマに発表された論文内の作業の内容や特性は…
- 自ら意思表示した
- 興味がある
- 生活史の中にある
- 心身機能と行動の改善を促す
- 他者との関係に変化をもたらす
- 希望をもたらす
- 新たな自分につながる
…の7つのカテゴリーに分けられることが分かっています。
この7つのカテゴリーの中から、特にクライアントは…
- 自ら意思表示した
- 生活史の中にある
- 新たな自分につながる
…のどれかのカテゴリーを含む作業を、「意味のある作業」とみなす傾向があるようです。
参考論文:意味のある作業とは : 1995年〜2010年における国内事例報告の質的検討
“面白い”と思う作業ついて
次にこの”面白い”ってどういう状態なのでしょうか?
調べてみると、形容詞としては以下のような意味になります。
【面白い】(形容詞)
1.魅力ある物事に心が明るみ、目の前がぱっとひらけて晴ればれした状態だ。
「あの余興は―・かった」
2.心が引かれて興味深い。
「一ひねりした―表現」
3.こっけいだ。おかしい。
「―顔をして笑わせる」
つまり…
- 魅力がある
- 興味深い
- おかしい
といったキーワードがあげられます。
これらは提供する作業を、クライアントにとって面白くするための“要素”として捉えられます。
作業療法の提供する作業は“つまらない”?
ここで自分も含め、臨床や現場でクライアントに治療介入の手段として提供している「作業」はどういったものでしょうか?
身障領域で言えば、よく使われるものとして…
- 輪入れ
- ペグボード
- サンディング
- セラプラスト
- ボルトの開け閉め etc
上肢機能訓練、としてよく使われているものはこんなものでしょうかね?
別にこれらの手段や方法をディスっているわけではありません(苦笑)
これらの作業を「リハビリだから」という“無機質な理由”で延々と繰り返し、ルーチンワーク的に回数だけこなしているような「作業療法」に疑問を持っているということです。
クライアントの頭に「どうしてこんなことさせられているんだ???」って浮かんだ状態で行っているこの作業は、どうしても「意味のある作業」とは思えないのです。
「面白い!」が脳にもたらす変化について
「面白い!」「楽しい!」というのはいわば「感情」の一つと言えます。
それも「快・不快」で言えば、「快」の感情です。
快の感情は何かを得るための行動(接近行動)を動機付けます。
この脳内のプロセスについての詳細は別の機会でまとめることとしますが、簡潔に言えば、快刺激によって内側前脳束といった報酬系の活性化につながることが理由になります。
意味のある作業≒報酬系の活性化?
この報酬系の働きは、学習や環境への適応において重要な役割を果たしています。
報酬系が活性化している状態のほうが、そうでない時よりも学習効率が高く、環境への適応も早いということです。
作業療法の対象となるクライアントの多くは、限られた時間の中で、病前とは異なる動作パターンの学習であったり、新しい習慣の獲得、異なった環境への適応などが必要なる場合があります。
その点からも、作業療法場面では報酬系の活性化を意識した作業提供が必要になってくると考えられます。
作業療法の治療手段である作業も、クライアントに快刺激を与えるような内容であったら、その作業自体が接近行動を動機付けることとなります。
作業は「意味がある」+「面白い」の2つの要素が必要?
このように「意味がある作業」と「報酬系」の二つを考えると、作業療法士がクライアントに提供する作業は…
「意味があって、面白い作業」
…の要素を取り入れたものでないと意味がないのかもしれません。
クライアントが毎回、作業療法を「必要だからやるリハビリの時間」と捉えるだけでなく、「楽しみにしているリハビリの時間」と捉えることで、その効果も大幅に変わってくるんだと思うんです。
まとめ
今回は、改めて”意味のある作業”について考えてみました。
身障領域でも精神でも、地域だとしても作業療法士にとってクライアントに提供する作業にはしっかりと意味があって、面白いものである必要があります。
それはクライアントに包括的な支援を提供する作業療法士だからこその強みにもなるんではないかな?と思っています。
改めて自分が提供している「作業」の内容を見直してみる機会になれば幸いです。