髄膜炎は、脳や脊髄を覆う髄膜に炎症が生じる疾患で、細菌、ウイルス、真菌などの感染が主な原因です。
早期の診断と治療が重篤な合併症を防ぐために重要です。
本記事では、髄膜炎の定義は発生率、症状や原因、合併症、検査や治療法などについて解説します。
髄膜炎とは?
髄膜炎は、髄膜と呼ばれる中枢神経系の重要な組織を炎症させる疾患です。
髄膜は脳と脊髄を覆っており、炎症が起こると脳や脊髄の正常な機能に影響を及ぼす可能性があります。
髄膜炎の発症率
髄膜炎の発症率は、原因となる菌やウイルスによって異なります。
日本では、細菌性髄膜炎は年間約1,500人1)、結核性髄膜炎は約260人1)、侵襲性髄膜炎菌感染症は約100人2)の発症が推定されています。
年代別では、0~4歳の乳幼児と10代後半の思春期が発症数が多いことがわかっています2)。
また、2012年には髄膜炎等の重篤な感染症が10万人当たり1.5人程度みられ、患者数は徐々に減少していると報告されています3)。
髄膜炎の国別発症率
髄膜炎菌の種類と分布は地域によって異なりますが、世界各国で報告されています。
世界的には、流行性髄膜炎菌感染症の発生率は10万人当たり0.5~5例であり、温帯地域では冬期および春期に症例数が増加します4)。
アフリカ
アフリカでは、髄膜炎ベルト地帯と呼ばれるサヘル地域において、髄膜炎菌性髄膜炎の大流行が繰り返し発生しています。
この地域では、乾季になると空気が乾燥し、鼻咽頭の粘膜が傷つきやすくなり、髄膜炎菌の感染に対する抵抗力が低下すると考えられています。
また、人口密度や移動性の高さ、栄養不良や免疫不全なども感染のリスクを高める要因とされています。
アフリカでの髄膜炎菌性髄膜炎の発症率は、流行の有無や年度によって大きく変動しますが、一般的には100,000人あたり10~100例程度とされています5)。
しかし、流行時には100,000人あたり数百例から数千例に達することもあるようです5)。
髄膜炎菌性髄膜炎は早期に発見して治療を開始しても、約10~15%が死亡し、生存者の10~20%に後遺症が残る重篤な感染症です。
米国
米国では2005〜2011年に年間800〜1200名もの髄膜炎菌性髄膜炎が報告されています6)。
しかし、発症すると10-15%の非常に高い確率で死に至るとされています。
また、同性愛の男性や高齢者などが感染のリスクが高いとされているようです。
髄膜炎の致死率
成人の細菌性髄膜炎の致死率は、起炎菌の種類や患者の年齢、合併症などによって異なりますが、一般的には20%前後とされています7)。
起炎菌別では…
- 肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae):20〜37%
- インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae):6〜14%
- 髄膜炎菌:4〜7%
- リステリア菌:17〜27%
…と報告されているそうです。
また、未治療の場合致死率は50%にも上がるようです。
髄膜炎の症状
髄膜炎の症状とはどのようなものがあげられるのでしょうか?
主なものとして…
- 頭痛
- 発熱
- 意識障害
- 首の硬直
- 痙攣
- 人格変化や異常行動
- 言語障害や空間認知障害
…などがあげられます。
以下にそれぞれ解説します。
頭痛
髄膜炎では、頭痛が強く現れることがあります。
頭痛は、脳や脊髄を包む髄膜に炎症が起こることで、髄膜が刺激されるために生じます。
頭痛は、強いものではなく、軽いものから始まり、徐々に強くなっていくことが多いようです。
ただし、髄膜炎の初期段階では、発熱や頭痛などありふれた病気で経験するような症状しか現れないことが多いです。
重症化すると意識障害やけいれんといった特徴的な症状が現れます。
発熱
また、髄膜炎の症状の一つとして発熱があります。
発熱は髄膜炎の典型的な症状の一つであり、多くの患者がこの症状を経験します。
髄膜炎による発熱は通常、中程度から高度な体温の上昇を伴います。
一般的には38℃以上の体温がみられますが、重篤な症例では40℃以上に上昇することもあります。
この発熱は通常、急速に発生し、持続的な状態が続きます。
髄膜炎に伴う発熱は、他の感染症と同様のメカニズムによって引き起こされます。
感染した細菌、ウイルス、真菌が体内に侵入し、免疫系の反応によって炎症が起こります。
この炎症反応が体温の上昇を引き起こし、発熱という症状として現れます。
意識障害
加えて、髄膜炎では意識障害も症状として現れる場合があります。
この意識障害は、脳の正常な機能が妨げられることによって引き起こされ、重篤な状態を示す可能性があります。
髄膜炎による意識障害は、病原体(細菌、ウイルス、真菌など)が髄膜に感染し、脳組織に炎症を引き起こすことによって発生します。
この炎症によって脳組織が腫れ上がり、正常な神経活動が妨げられるため、意識レベルが低下してしまいます。
また意識障害の程度は、症例によって異なります。
軽度の意識障害では、患者は眠っているような状態や混乱状態になることがあります。
中等度の意識障害になると、患者は適切な刺激に反応しない、話し掛けに対して理解できない、または適切な命令に従えない場合があります。
しかし、さらに深刻な重度の意識障害では、患者は昏睡状態に陥り、ほとんどの刺激に反応しなくなります。
首の硬直
髄膜炎の特徴的な症状の一つである”首の硬直”は、頭部や首の筋肉が硬直して動かしにくくなる状態を指します。
正常な状態では、頭部や首は自由に動かすことができますが、髄膜炎によって炎症が起こると、髄膜が痛みや腫れを引き起こし、周囲の筋肉が収縮し硬直します。
首の硬直は、通常は頭を前後左右に傾けることができなくなるため、頭部を動かす際に痛みや抵抗を感じます。
この症状は、髄膜炎が脳の周囲に広がることを示唆しています。
一般的に、髄膜炎の細菌性タイプではより頻繁に首の硬直が起こりますが、ウイルスや真菌による髄膜炎でもこの症状が現れる場合があるようです。
痙攣
場合によっては、髄膜炎によって痙攣が起こる場合もあります。
この痙攣の原因ですが、無菌性髄膜炎では発熱あるいはSIADHなどに伴う一過性の脳機能障害によるもの…と考えられています。
しかし、細菌性髄膜炎では非感染性の脳症あるいは血管炎による神経組織障害による可能性が推測されたという報告もあります。
また、細菌性髄膜炎では強直間代痙攣や片側間代痙攣がみられることもあるそうです。
人格変化や異常行動
髄膜炎の症状で、まれに人格変化や異常行動が見られることもあります(特にヘルペス脳炎で多いようです)。
この症状は、髄膜炎による脳組織の炎症や神経の影響によって引き起こされる可能性があります。
炎症が脳組織に及ぶと、脳の正常な機能が妨げられます。
これにより人格や行動に変化が現れ、以前と比べて異常な振る舞いをすることがあります。
言語障害や空間認知障害
髄膜炎の影響が脳組織にまで及ぶと、言語障害や空間認知障害が現れることがあります。
言語障害の例としては、他人の話す内容を理解することが難しくなる、自分の意思や感情を適切に伝えることができなくなるなどがあげられます。
また、言葉の混乱や支離滅裂な話し方、語彙の減少、文法の誤りなどが見られる場合もあります。
空間認知障害の例としては、自分の身体の位置や周囲の空間を正しく把握することが困難になるなどです。
この場合、日常生活での運動や移動の制約、方向感覚の喪失、物体の識別や配置に困難を感じることがあります。
髄膜炎の原因と種類
重篤な症状を引き起こす場合がある”髄膜炎”。
では、この髄膜炎の原因とはどのようなものがあげられるのでしょうか?
主なものとして…
- 細菌感染
- ウイルス感染
- 真菌感染
- その他
…があげられます。
それぞれ解説します。
細菌感染
髄膜炎の原因でも一般的なものがこの細菌感染になります。
こういった細菌は、通常は鼻や喉などの上気道に存在していますが、免疫力の低下や感染経路への露出などが原因で髄膜炎を引き起こす可能性があります。
主に以下のような細菌が原因になります。
肺炎球菌
肺炎球菌は、特に小児や高齢者に髄膜炎を引き起こす重要な病原体です。
髄膜炎の他にも、肺炎や中耳炎などの感染症を引き起こすことがあります。
髄膜炎菌
髄膜炎菌は、髄膜炎の主要な病原体です。
主に髄膜炎菌B型、C型、W型、Y型の4つの血清型が髄膜炎を引き起こすことが知られています。
感染は飛沫感染や接触感染によって広がります。髄膜炎菌の感染は重篤で、早期の診断と治療が重要です。
ヘモフィルスインフルエンザ菌
ヘモフィルスインフルエンザ菌は、主に小児に髄膜炎を引き起こす細菌です。
しかし、ヘモフィルスインフルエンザワクチンの普及により、髄膜炎の発生率は減少しています。
リステリア・モノサイトゲネス
リステリアモノサイトゲネスは、通常は食品中から感染します。
妊婦や免疫力の低下した人々にとって特に危険であり、胎児や新生児に重篤な髄膜炎を引き起こすことがあります。
ウイルス感染
また、ウイルス感染も髄膜炎の一般的な原因のひとつになります。
ウイルス性髄膜炎は、風邪や感染症の流行と関連して発生することが多いとされています。
主に次のようなウイルスが原因になります。
エンテロウイルス
エンテロウイルスは、髄膜炎の主要なウイルス病原体の一つです。
腸管や呼吸器から感染し、主に夏から秋にかけて流行します。
一般的な感染症症状に加えて、髄膜炎を引き起こすことがあります。
ヘルペスウイルス
ヘルペスウイルスには、ヘルペス単純ウイルス(HSV)や水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)などがあります。
これらのウイルスは髄膜炎を引き起こす可能性があり、病気の初期段階には発疹や口内病変などの特徴的な症状が見られることがあります。
インフルエンザウイルス
インフルエンザウイルスは、一般的には上気道疾患を引き起こすウイルスですが、重症な場合には髄膜炎を引き起こすことがあります。
真菌感染
真菌感染が原因の髄膜炎は比較的まれですが、ステロイド使用中やエイズ発症者など免疫機能が低下している、あるいは血管内カテーテルを挿入された方に多く見られます。
また、この真菌感染は、通常は外部環境からの感染によって起こりますが、まれに血行性感染や近接した組織の感染が原因となることもあります。
主に次のような真菌が原因になります。
カンジダ種
カンジダは、真菌の一種であり、通常は皮膚や粘膜に存在しています。
免疫力が低下した人や長期間の抗生物質使用後など、抵抗力の低下が原因で髄膜炎を引き起こすことがあります。
クリプトコッカス種
クリプトコッカスは、土壌や鳥の糞などに広く存在しています。
通常は肺や中枢神経系に感染し、免疫力の低下した人々に対して髄膜炎を引き起こすことがあります。
その他
その他の原因としては、化学物質、薬物の反応、アレルギー反応、発熱性けいれん性疾患などが原因となることもあります。
髄膜炎の合併症
髄膜炎に伴う合併症としては、他になにがあげられるのでしょうか?
ここでは…
- 脳炎
- 脳血管障害
- 聴力障害
- 視力障害
- 知的障害
- てんかん
- 敗血症性ショック
- 水頭症
…について解説します。
脳炎
髄膜炎が脳組織に広がると、脳炎と呼ばれる状態が生じることがあります。
脳炎は脳の炎症を引き起こし、頭痛、意識障害、けいれん、神経学的な異常などの症状を引き起こします。
脳血管障害
髄膜炎による炎症が脳血管に影響を及ぼし、血管内の血栓形成や出血を引き起こすことがあります。
これにより、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が発生するリスクが高まります。
髄膜炎による脳血管障害は、以下のようなメカニズムによって起こります。
血管の炎症
髄膜炎による炎症が血管を直接的に影響し、血管壁に炎症性の変化を引き起こすことがあります。
これにより、血管が狭窄したり、閉塞したりする可能性があります。
血管内血栓の形成
髄膜炎による炎症や血管の損傷が、血液中の凝固因子の異常な活性化を引き起こすことがあります。
その結果、血管内で血栓(血液の凝固塊)が形成され、脳血管の閉塞を引き起こす可能性があります。
聴力障害
髄膜炎による聴力障害は、感音性難聴が最も多く、両側高度難聴になることがあります。
原因としては、感染菌が蝸牛に侵入し、内耳に炎症を引き起こすことや、髄液中の糖濃度の低下や頭蓋内圧の上昇による内耳の虚血などが考えられます。
髄膜炎による聴力障害の予後は不良で、聴力の改善は期待できないことが多いです。
しかし、一部の例では、聴力の回復や変動を認めることもあります。
治療としては、抗菌薬やステロイド剤の投与や、人工内耳埋込術などが行われることがあります。
視力障害
髄膜炎による視力障害は、視神経や脳幹部が障害されることで起こります。
視力の低下や視野の欠損、ものが二重に見えるなどの症状が現れます。
目を動かすと目の奥に痛みを感じることもあります。
髄膜炎による視力障害の予後は様々で、自然に回復することもあれば、永久的な障害が残ることもあります。
治療としては、抗菌薬やステロイド剤の投与や、視神経や脳幹部の機能を評価する検査などが行われることがあります。
知的障害
髄膜炎による知的障害は、脳の発達に影響を与えることで起こります。
知的障害とは、知能指数(IQ)が70未満であり、日常生活や社会生活に支障をきたすことを指します。
髄膜炎による知的障害の予後は様々で、早期に治療を受ければ回復することもあれば、重度の障害が残ることもあります。
治療としては、抗菌薬やステロイド剤の投与や、脳の機能を評価する検査などが行われることがあります。
てんかん
髄膜炎によるてんかんは、髄膜炎が重症化した場合に後遺症として残ることがあります。
髄膜炎が脳の神経細胞にダメージを与えることで、てんかんの原因となります。
髄膜炎によるてんかんの治療は、発作を抑えるための抗てんかん薬の投与や、髄膜炎の原因となった感染の治療などが行われることがあります。
敗血症性ショック
敗血症性ショックとは、感染症によって血液中に細菌が増殖し、全身の臓器が機能不全に陥る重篤な状態です。
髄膜炎菌は、髄膜(脳を覆う組織)だけでなく、血液にも感染しやすい細菌です。
髄膜炎菌による髄膜炎は、敗血症性ショックを合併することが多く、致死率や後遺症のリスクが高まります。
敗血症性ショックを伴う髄膜炎菌感染症は、早期に抗生物質などの集学的治療が必要です。
水頭症
水頭症とは、脳の中にある空洞(脳室)に髄液が溜まりすぎて、脳室が拡大する病気です。
髄膜炎は、後天性水頭症の原因の一つで、髄膜(脳を覆う膜)に炎症が起こることで、髄液の流れや吸収が妨げられます。
水頭症の症状は、頭痛や吐き気、視力障害などがあります。
水頭症の治療は、髄液を体外に排出するシャント手術や、内視鏡を使って脳室間の通路を作る手術などが行われます。
髄膜炎の検査・評価
髄膜炎の診断は、患者さんの症状、病歴、そしていくつかの検査に基づいて行われます。
髄膜炎は早期の診断と治療が非常に重要なので、医師は迅速かつ正確な診断を下すために、以下の検査を組み合わせる場合があります。
- 問診と身体診察
- 血液検査
- 髄液検査
- 画像検査
それぞれ解説します。
問診と身体診察
髄膜炎の初期診断において、まずは問診と身体診察が行われます。問診では、患者の現在の症状や病歴について詳しく聞きます。
特に、発熱、激しい頭痛、首の硬直、嘔吐、意識の混濁などの典型的な髄膜炎の症状があるかどうかが確認されます。
身体診察では、バイタルサイン(脈拍、呼吸数、体温、血圧、意識状態、酸素飽和度)を評価し、髄膜刺激症状(項部硬直、ケルニッヒ徴候、ジョルトサイン)の有無が調べられます。
ケルニッヒ徴候は、患者が仰向けに寝た状態で膝を曲げ、脚を伸ばす際に痛みが生じるかどうかを確認するものです。
ジョルトサインは、頭を左右に動かした際に頭痛が増強するかどうかを確認するテストです。
これらの情報をもとに、髄膜炎の疑いが強まる場合はさらに詳細な検査に進みます。
血液検査
髄膜炎の診断を補完するために、血液検査が行われます。血液検査では、体内の炎症反応の程度を示す白血球数やC反応性蛋白(CRP)が測定されます。
髄膜炎の場合、これらの値が高くなることが一般的です。
また、全身状態を把握するために、電解質のバランスや肝臓や腎臓の機能も評価されます。
患者が脱水状態に陥っている場合や電解質異常が見られる場合、これらは髄膜炎の進行や全身状態の悪化を示す兆候となり、早急な点滴治療や適切な管理が必要となることがあります。
血液検査は髄膜炎の直接診断にはならないものの、全身状態を把握する重要な手段です。
髄液検査
髄膜炎の確定診断には髄液検査が不可欠です。腰椎穿刺(ルンバール穿刺)を行い、腰部から脊髄液を採取します。
髄液の外観や成分(糖、タンパク質、白血球数、細胞など)を分析し、感染の有無や炎症の程度を評価します。
髄液中の白血球数が増加している場合、髄膜炎の可能性が高く、さらに細菌性、ウイルス性、真菌性などの原因に応じた特徴が見られます。
また、細菌培養やPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)などを用いて、特定の病原体を同定することも行われます。
髄液検査は、髄膜炎の原因を特定し、適切な治療法を決定するための中心的な検査です。
画像検査
髄膜炎が疑われる場合、特に脳圧が高いと考えられる場合や、脳内出血や腫瘍などの他の疾患を除外するために、画像検査が行われます。
頭部のCTやMRIは、脳や脊髄周辺の異常を確認するために使用されます。
CTは急性期の診断に適しており、脳の出血や水腫などの重大な異常を迅速に発見できます。
MRIは詳細な脳組織の描写が可能で、脳や髄膜の炎症をより明確に捉えることができます。
これにより、髄膜炎に伴う合併症や、髄膜炎以外の病状が原因であるかどうかの確認が可能です。
髄膜炎の治療法
では、髄膜炎に対してはどのような治療を行うのでしょうか?
原因や状態によっても様々ですが、一般的なものとしてここでは…
- 抗生物質の使用
- 対症療法
- 監視とケア
…について解説します。
抗生物質の使用
髄膜炎でも、特に細菌性髄膜炎の場合、早期かつ適切な抗生物質治療が非常に重要になります。
細菌性髄膜炎の治療では、初期段階で可能な限り広い抗菌スペクトルをカバーする抗生物質が使用されます。
具体的な抗生物質の選択は、病原体の特定や感受性検査の結果に基づいて行われますが、治療開始時には病原体の特定がまだ行われていない場合でも、経験的な抗生物質治療がすぐに開始されることが一般的のようです。
一般的に、バクテリア性髄膜炎の治療に使用される抗生物質の一部には、ペニシリン系(ベンジルペニシリン、アンピシリン)、セフトリアキソン、セフタジジム、マロキサシン、バンコマイシン、メリノン、メロペネムなどがあります。
これらの抗生物質は、細菌の成長を阻害することで感染を制御し、炎症を軽減します。
ただし、抗生物質の具体的な使用法や治療期間は、患者の状態や感受性検査の結果によって異なる場合があります。
髄膜炎の治療においては、医師の指示に従い正確な投与量とスケジュールを守ることが重要です。
また、抗生物質の使用に伴う副作用やアレルギー反応にも注意が必要です。
対症療法
髄膜炎に対しては、症状を軽減し、患者の快適さを向上させるために行われる”対症療法”も重要な治療法の一つです。
髄膜炎においては、次のような対症療法が一般的に使用されます。
疼痛管理
髄膜炎は頭痛や筋肉の痛みを伴うことがあります。
疼痛管理のために、鎮痛剤が処方されることがあります。
解熱剤の使用
髄膜炎による発熱を管理するために解熱剤が使用されます。
解熱剤は体温を下げ、患者の不快感を緩和します。
体液補給
髄膜炎は高熱や発汗によって体内の水分が失われることがあります。
患者の脱水症状を予防するために、適切な量の水分や電解質の補給が行われます。
休息と快適な環境
髄膜炎は症状が重い場合、患者が休息をとり、快適な環境で過ごすことが重要です。
静かな場所や適切な温度の部屋での安静が推奨されます。
感染予防対策
髄膜炎には、周囲の環境や医療施設内での感染リスクが存在します。
患者の感染予防対策として、適切な手術室の利用、感染対策ガイドラインの遵守、手洗い・消毒の徹底などが重要です。
監視とケア
髄膜炎の患者は通常、入院治療が必要です。
患者の状態は継続的に監視され、病状の進展や合併症の早期発見に備えられます。
必要に応じて髄膜炎の合併症(例: 脳浮腫、てんかん、神経障害)の管理も行われます。
髄膜炎の予防
髄膜炎を予防するためにはどのような方法があるのでしょうか?
主なものとしては…
- ワクチン接種
- 感染症対策の徹底
- 免疫力の向上
…があげられます。
以下にそれぞれ解説します。
ワクチン接種
ワクチン接種は、髄膜炎の予防法の中で非常に効果的な手段です。
ワクチンは、免疫系を活性化させ、感染症に対する防御力を高めるために使用されます。
加えてワクチン接種は、個人の健康を保護するだけでなく、集団免疫を形成し、感染症の拡大を防ぐ効果もあります。
以下に”Hibワクチン”と”肺炎球菌ワクチン”について解説します。
Hibワクチン(インフルエンザ桿菌b型ワクチン)
Hibワクチンは、インフルエンザ桿菌b型(Hib)による髄膜炎の予防に使用されます。
Hib菌は主に幼児や小児に感染し、重篤な疾患を引き起こすことがあります。
Hibワクチンの接種により、Hibによる髄膜炎の発症頻度が大幅に減少したようです。
肺炎球菌ワクチン
肺炎球菌ワクチンは、肺炎球菌による髄膜炎の予防に使用されます。
肺炎球菌は、幼児や高齢者、免疫不全患者などの感染リスクが高い人々に重篤な疾患を引き起こすことがあります。
肺炎球菌ワクチンには23価ワクチンや7価ワクチンなどがあり、それぞれのワクチンが適切な年齢層や感染リスクに応じて使用されます。
感染症対策の徹底
感染症対策の徹底は、髄膜炎の予防に重要な役割を果たす予防法の一つです。
主な対策として次のようなものがあげられます。
手洗いの実施
手洗いは、感染症の予防において最も基本的かつ効果的な方法です。
適切な手洗い手順を守り、石鹸と水またはアルコールベースの手指消毒剤を使用して手を洗うことが重要です。
特に、公共の場や感染リスクの高い状況後に手洗いを行うことが髄膜炎の予防にもつながります。
感染源からの距離の確保
感染リスクの高い場所や感染者との接触を避けることが重要です。
髄膜炎の原因となる病原体は、感染者のくしゃみや咳から空気中に放出されることがあります。
混雑した場所や密集した人々との接触を避け、社会的距離を保つことが推奨されます。
免疫力の向上
免疫力を向上し、健康に保つことは髄膜炎の予防にもつながります。
バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動、ストレス管理といった当たり前のことが重要になってきます。
また、喫煙や過度の飲酒などのリスク要因を避けることも予防策の一環です。
参考
1)髄膜炎の治療ガイドライン
2)よくわかる髄膜炎菌
3)Hib感染症
4)髄膜炎菌感染症
5)侵襲性髄膜炎菌感染症の疫学
6)近年の侵襲性髄膜炎菌感染症の国際的な発生動向
7)細菌性髄膜炎の転帰・後遺症