改訂水飲みテストとは、嚥下障害の疑いがあるクライアントに対して行う嚥下機能のスクリーニング検査になります。
今回は「改訂水飲みテストの目的と方法、判定基準やカットオフ値」について解説します。
改訂水飲みテストとは?
改訂水飲みテスト(Modified Water Swallowing Test、MWST)は、嚥下機能のスクリーニング検査として特に嚥下障害の疑いがある人に対して行われます。
このテストでは3mlの冷水を使用し、被験者が安全に水を飲み込むことができるかどうかを評価します。
改訂水飲みテストを英語ではなんと言う?
改訂水飲みテストは英語では、“Modified Water Swallowing Test”と表記され、“MWST”と略されて臨床では使用されます。
改訂水飲みテストの目的について
改訂水飲みテストの目的としてはいくつかありますが、ここでは…
- 嚥下障害のスクリーニング
- 誤嚥リスクの評価
- 治療計画の策定
- 食物形態の選択
- 早期介入の促進
…について解説します。
嚥下障害のスクリーニング
改訂水飲みテスト(MWST)の主な目的の一つは、嚥下障害が疑われる患者に対して迅速かつ簡便にスクリーニングを行うことです。
このテストは、少量の水を使用して、患者が安全に嚥下できるかどうかを短時間で評価できます。
嚥下障害は、脳卒中、神経疾患、加齢などさまざまな原因で発生することがあり、迅速な診断と適切な対応が重要です。
MWSTは、病院や診療所、介護施設など多様な医療環境で実施可能であり、専門的な器具や装置を必要としないため、手軽に行うことができます。
このスクリーニングを通じて、嚥下障害の早期発見が可能となり、適切な治療や管理が速やかに開始されることが期待されます。
誤嚥リスクの評価
MWSTのもう一つの重要な目的は、誤嚥のリスクを評価することです。
少量の水(通常は3ml)を使用して、患者が誤嚥することなく安全に飲み込むことができるかどうかを観察します。
誤嚥は肺炎などの重大な合併症を引き起こす可能性があるため、そのリスクを早期に評価し、適切な対策を講じることが重要です。
このテストでは、嚥下反射の有無、むせの発生、呼吸の変化などを観察し、これらの要素を総合的に評価して誤嚥リスクを判断します。
MWSTは、高い感度と特異度を持つ評価法であり、患者の安全な飲水能力を迅速に評価するための有効な手段です。
治療計画の策定
MWSTを通じて得られるデータは、嚥下障害の程度に応じた治療計画や食事介助の計画を立てるための基礎データとして非常に有用です。
嚥下機能の評価結果に基づいて、個々の患者に最適なリハビリテーションプランや治療法を設計することが可能です。
たとえば、嚥下訓練や筋力強化トレーニングなど、具体的な介入方法を決定する際の指針となります。
また、治療計画には、患者の食事形態の調整や栄養管理も含まれます。
MWSTの結果をもとに、適切な治療計画を立案することで、患者の生活の質を向上させることができます。
食物形態の選択
MWSTの結果は、患者に適した食物の形態を選択するための指標としても活用されます。
嚥下機能に問題がある場合、固形食よりも流動食やペースト食の方が安全である場合があります。
嚥下能力の程度に応じて、食物の硬さや形状を調整することで、誤嚥のリスクを減らし、安全に食事を摂ることが可能になります。
このように、MWSTの結果に基づいて適切な食物形態を選択することで、患者の栄養摂取を確保し、食事中の事故を防ぐことができます。
食物形態の選択は、患者の個別ニーズに応じたきめ細やかな配慮が求められます。
早期介入の促進
MWSTは、摂食・嚥下障害の早期発見と介入を促進するための重要なツールです。
早期に嚥下障害を発見することで、適切な介入を迅速に開始でき、合併症の予防に大きく寄与します。
特に高齢者や神経疾患患者など、嚥下障害のリスクが高い人々に対しては、定期的なスクリーニングが推奨されます。
MWSTの実施により、リスクのある患者を早期に特定し、個別のリハビリテーションや治療計画を適用することが可能です。
早期介入は、患者の全体的な健康状態を維持し、生活の質を向上させるために非常に重要です。
水飲みテスト(窪田式)との違いは?
水飲みテスト(窪田式)と改訂水飲みテスト(MWST)との違いについて、ここでは…
- 使用する水の量
- 対象者のリスクレベル
- 臨床での利用
- 評価の安全性
- 臨床的な意義
…についてそれぞれ解説します。
使用する水の量
水飲みテスト(窪田式)と改訂水飲みテスト(MWST)の主な違いの一つは、使用する水の量です。
窪田式では30mlの水を使用して嚥下機能を評価しますが、これは比較的大量の水を一度に飲み込むことを必要とします。
一方、MWSTでは3mlの水を使用しており、少量の水を飲み込むことで誤嚥のリスクを最小限に抑えています。
この少量の水を使用する方法は、特に誤嚥のリスクが高い患者に対して安全に嚥下機能を評価するために設計されています。
使用する水の量の違いは、テストの安全性と適用対象の幅を大きく左右します。
対象者のリスクレベル
窪田式とMWSTは、対象者のリスクレベルに応じて使い分けられます。
窪田式は主にリスクが低い患者に対して行われることが多く、嚥下機能がある程度保たれていることが前提となっています。
対照的に、MWSTは誤嚥のリスクが高い患者に対しても安全に行えるように設計されています。
特に急性期の患者や重度の摂食・嚥下障害を持つ患者に対しては、MWSTがより適した方法となります。
このリスクレベルに基づく使い分けは、患者の安全を最優先に考慮した評価方法の選択を可能にします。
臨床での利用
臨床現場では、窪田式とMWSTの利用方法も異なります。
窪田式は、リスクが低い患者に対して行われることが多く、例えば嚥下機能に大きな問題がないと判断された患者に適用されます。
一方、MWSTはリスクが高い患者に対して最初に行う評価方法として推奨されています。
MWSTで問題がなければ、その後窪田式を行うことで、より詳細な評価が可能となります。
この段階的なアプローチにより、患者の安全を確保しつつ、効果的な嚥下機能の評価が行えます。
評価の安全性
窪田式とMWSTは評価の安全性にも大きな違いがあります。
窪田式は30mlの水を一度に使用するため、誤嚥のリスクが高くなる可能性があります。
大量の水を飲み込むことが困難な患者に対しては、誤嚥による肺炎などのリスクが懸念されます。
一方、MWSTは3mlの少量の水を使用するため、誤嚥のリスクを大幅に減らし、より安全に嚥下機能を評価することができます。
この少量の水を使用する方法は、特にリスクの高い患者に対して非常に有効です。
臨床的な意義
窪田式とMWSTの違いは、臨床的な意義にも反映されています。
窪田式は、嚥下機能が比較的良好な患者に対して迅速な評価を提供しますが、リスクの高い患者には適していない場合があります。
対照的に、MWSTは誤嚥のリスクを最小限に抑えることで、幅広い患者に対して安全に使用できる評価方法です。
このため、MWSTは急性期の患者や重度の摂食・嚥下障害を持つ患者に対して初期評価として非常に有用であり、窪田式はその後の詳細な評価として補完的に使用されます。
このように、両者の違いを理解し適切に使い分けることが、患者の安全と治療の質を向上させる鍵となります。
改訂水飲みテストの方法について
改訂水飲みテストの実施方法は…
- 3mlの冷水を被験者の口腔内に入れる
- 被験者に嚥下してもらう
- 嚥下反射誘発の有無、むせ、呼吸の変化を評価する
- 判定基準に基づき、問題があれば最大2回まで繰り返す
- 最も悪い場合を評価結果として記載する
…となります。
それぞれ解説します。
3mlの冷水を被験者の口腔内に入れる
改訂水飲みテスト(MWST)の最初のステップは、3mlの冷水を被験者の口腔内に入れることです。
冷水を使用する理由は、冷たい刺激が嚥下反射を引き起こしやすいためです。
3mlという少量の水を使用することで、誤嚥のリスクを最小限に抑えることができます。
この手順は、嚥下機能の初期評価において重要であり、嚥下反射が適切に機能しているかどうかを確認するための基礎的なアプローチです。
また、被験者に過度な負担をかけずに、安全にテストを実施することができます。
被験者に嚥下してもらう
次に、被験者にその3mlの冷水を嚥下してもらいます。
嚥下の過程は一連の自動的な筋肉反応を伴い、喉や食道の筋肉が協調して働くことで行われます。
この段階で、被験者が水を無理なく飲み込めるか、どのような反応を示すかを観察することが重要です。
嚥下の途中で問題が発生する場合、その原因を特定し、適切な対応策を講じることが求められます。
この手順により、嚥下機能の正常性を確認し、次のステップに進むための重要なデータが得られます。
嚥下反射の有無、むせ、呼吸の変化を観察する
嚥下の後、被験者の反応を観察します。特に注目するのは、嚥下反射の有無、むせの発生、呼吸の変化などです。
嚥下反射が正常である場合、被験者は問題なく水を飲み込むことができますが、むせや呼吸の変化が見られる場合、誤嚥のリスクが高いと判断されます。
この観察により、嚥下機能に関する詳細な情報が得られ、患者のリスク評価に役立てることができます。
正確な観察を行うことで、適切な治療計画を立てるための重要なデータが提供されます。
判定基準に基づき、問題があれば最大2回まで繰り返す
観察の結果、問題が確認された場合、テストは最大2回まで繰り返されます。
判定基準に基づき、嚥下の安全性を再評価するために追加のテストを行うことが推奨されます。
これにより、初回のテストで見逃された問題を検出する機会が増え、評価の精度が向上します。
繰り返しテストを行うことで、嚥下機能の安定性や変動性をより正確に把握することができます。
この手順は、誤嚥リスクを総合的に評価し、適切な対策を講じるために不可欠です。
最も悪い結果を評価結果として記録する
複数回のテストを実施した場合、最も悪い結果を評価結果として記録します。
このアプローチは、安全性を最優先に考慮したものであり、最悪のシナリオを基にリスク評価を行うことが目的です。
最も悪い結果を記録することで、患者が直面する可能性のある最大のリスクを把握し、適切な介入策を講じることができます。
記録された評価結果は、今後の治療計画や介入方法を決定する際の重要なデータとなります。
この手順により、嚥下機能の評価が一貫して行われ、患者の安全を確保するための基盤が築かれます。
改訂水飲みテストの判定基準
改訂水飲みテストの判定と評価基準については以下のとおりになります。
判定 | 評価基準 |
---|---|
判定不能 | 口から出す、無反応 |
1a | 嚥下なし、むせなし、湿性嗄声あるいは呼吸変化あり |
1b | 嚥下なし、むせあり |
2 | 嚥下あり、むせなし、呼吸変化あり |
3a | 嚥下あり、むせなし、湿性嗄声あり |
3b | 嚥下あり、むせあり |
4 | 嚥下あり、むせなし、湿性嗄声・呼吸変化なし、追加嚥下不可 |
5 | 4に加えて追加嚥下運動が30秒以内に2回以上可能 |
改訂水飲みテストのカットオフ値
カットオフ値を3点とすると、誤嚥有無判別の感度は 0.70、特異度は 0.88 とされているようです1)。
改訂水飲みテストの注意点
改訂水飲みテストを行う際の注意点については以下の通りになります。
- 口腔内への水の入れ方
- 嚥下運動の評価
- 評価の正確性
- 評価の繰り返し
- 意識障害や嚥下状態の考慮
- 温度と体位の記録
それぞれ解説します。
口腔内への水の入れ方
改訂水飲みテスト(MWST)を実施する際、特に注意が必要なのは水の口腔内への入れ方です。
咽頭に直接水が流れ込むのを防ぐために、舌背には注がず、必ず口腔底に水を入れてから嚥下させることが重要です。
これにより、誤嚥のリスクを最小限に抑えることができます。
水を適切に注ぐことで、嚥下反射を自然に引き起こし、正確な評価が可能となります。
被験者の安全を確保し、テスト結果の信頼性を高めるために、この手順を厳守することが必要です。
嚥下運動の評価
MWSTを行う際、被験者に嚥下してもらう過程で、可能であれば追加して2回嚥下運動をさせ、その可否を評価します。
これにより、嚥下機能の安定性と反復性を確認し、より詳細な評価が可能となります。
追加の嚥下運動を行うことで、最初の嚥下時に見逃された問題を発見することができ、評価の精度が向上します。
この方法は、被験者の嚥下機能の全体像を把握するために重要です。
正確な評価を行うために、嚥下運動の繰り返しをしっかりと観察することが求められます。
評価の正確性
MWSTの評価を正確に行うためには、頚部聴診を同時に行うことが推奨されます。
頚部聴診を使用することで、嚥下音やむせ音を直接確認でき、評価の客観性が向上します。
聴診器を用いて嚥下時の音を聞き取ることで、嚥下の成功や失敗を明確に判断でき、誤嚥のリスクを正確に評価することができます。
この技術を併用することで、MWSTの信頼性が高まり、患者の嚥下機能に関する正確なデータが得られます。
評価の精度を高めるために、頚部聴診の活用を積極的に行うべきです。
評価の繰り返し
MWSTの評価は、4点以上の結果が得られた場合、最大でさらに2回繰り返すことが推奨されています。
これにより、テストの一貫性と信頼性が確保されます。
繰り返し評価を行うことで、評価結果のばらつきを減らし、最も悪い結果を評価の基準とすることができます。
最悪のシナリオを考慮することで、誤嚥リスクを適切に管理し、患者の安全を確保することができます。
評価の繰り返しは、嚥下機能の包括的な評価において不可欠な要素です。
意識障害や嚥下状態の考慮
MWSTを実施する際には、被験者の意識障害や嚥下状態を十分に考慮する必要があります。
意識障害がある患者や嚥下機能が著しく低下している患者に対しては、トロミ水を使用して評価を行うことが推奨されます。
この場合、トロミ水の濃度を明確にし、その情報を評価結果に記載することが重要です。
トロミ水を使用することで、嚥下時の安全性が高まり、誤嚥のリスクを低減することができます。
意識障害や嚥下状態に応じた適切な評価方法を選択することが、患者の安全を確保するために必要です。
温度と体位の記録
MWSTを実施する際には、トロミの程度だけでなく、温度(常温か冷たいとろみ水かなど)や体位などの情報を記録することが評価において重要です。
温度や体位は、嚥下機能に影響を与える要因となるため、これらの情報を詳細に記録することで、評価結果の正確性と再現性が高まります。
例えば、冷たい水は嚥下反射を促進することがあるため、その影響を考慮する必要があります。
被験者の体位も嚥下機能に影響を与えるため、評価時の姿勢を記録することが重要です。
これらの詳細な記録は、評価結果の解釈と治療計画の策定に役立ちます。