NSIは、看護師特有のストレスを評価し、メンタルヘルスの向上と医療過誤防止を目的とした標準化されたアセスメントツールです。
本記事ではこの目的や特徴、方法などについて解説します。
NSI看護職ストレッサーインベントリー
NSI(Nursing Stressor Inventory、看護職ストレッサーインベントリー)は、看護師のメンタルヘルス向上を目的として標準化されたストレッサー尺度です。
このツールは、看護職の質を高めるとともに、離職の原因究明につなげ、ストレスによる医療過誤を防止するためのアセスメントとして利用されます。


NSIの目的
NSI(Nursing Stressor Inventory、看護職ストレッサーインベントリー)の目的は多岐にわたりますが、主に…
- 看護職のメンタルヘルスの向上
- 離職率の低下と看護職の質の向上
- 医療過誤の予防
看護職のメンタルヘルスの向上
看護職に従事する人々が直面する精神的ストレスは、彼らのメンタルヘルスに大きな影響を及ぼします。
長時間労働、過酷な業務内容、患者やその家族との複雑な関係、職場内の人間関係の問題など、多様なストレッサーが存在します。
これらのストレスが原因で、バーンアウトや離職、そして極端なケースでは自殺に至ることもあります。
NSIはこれらのストレス要因を明確にし、看護師自身が自分のストレス状態を認識しやすくすることで、適切な対策を講じ、メンタルヘルスの維持・向上を図ることを目的としています。
離職率の低下と看護職の質の向上
看護師の高い離職率は、医療機関にとって深刻な問題です。
高い離職率は、残された職員の業務負担を増加させ、医療提供の質の低下につながりかねません。
NSIを通じて、看護師が直面するストレス要因を評価し、それに基づいて職場環境や業務プロセスの改善を行うことで、離職を防ぎ、看護職全体の質の向上を目指します。
医療過誤の予防
ストレスは判断力や注意力の低下を引き起こし、それが医療過誤のリスクを高める可能性があります。
看護師が業務を遂行する上でのストレスを正確に把握し、その原因を特定することは、医療過誤を予防する上で極めて重要です。
NSIは、看護師が経験するストレスの要因を明らかにし、それを軽減または排除することで、医療過誤のリスクを減少させることを目指しています。


NSIの特徴
NSIは、看護師が直面する職場でのストレスを評価するために設計されたツールで、次のような特徴があります。
- 看護職特有のストレス要因の把握
- 簡易性と実用性
- 多面的評価による包括的なストレス理解
- 組織的対策の基盤となるデータ提供
以下にそれぞれ解説します。
看護職特有のストレス要因の把握
NSIは、看護師が日常業務で遭遇する可能性のある特定のストレス要因を20項目にわたって洗い出しています。
これには「仕事の量」「仕事の質・内容」「患者とのかかわり」「現場での人間関係」「医師との人間関係」が含まれます。
これらの項目は、看護職特有の状況を反映しており、他の職種では見過ごされがちなストレス源を明確にします。
この特徴により、看護師自身が自分のストレス状態をより具体的に理解し、対処法を見つけやすくなります。
簡易性と実用性
NSIは約5分で実施可能であり、自己採点方式を採用しているため、看護師自身が手軽に自分のストレス状態を評価できます。
これは忙しい看護師にとって大きな利点であり、定期的な自己評価を通じて、ストレスの蓄積を早期に察知し、適切な対策を講じることを可能にします。
また、採点に要する時間も約10分と短く、負担なく定期的な自己管理が行えるように設計されています。
多面的評価による包括的なストレス理解
NSIは、単にストレスの量だけでなく、その質や発生源を多面的に評価します。
これにより、看護師個人が直面するストレスの構造を詳細に理解することが可能になり、その原因が仕事の量、業務の質、患者や同僚、医師との関係性にあるのかを特定できます。
このような包括的な理解は、個々の看護師に合わせたストレス管理プランの策定や、職場環境の改善に役立ちます。
組織的対策の基盤となるデータ提供
NSIの結果は、看護師個人だけでなく、組織全体に対する洞察を提供します。
特定の部署やチームで共通のストレス要因が見られる場合、それは組織的な問題の可能性を示唆しています。
この情報は、経営者や人事部門が職場環境の改善策を検討する際の貴重なデータとなり、組織全体のストレス管理とメンタルヘルスの向上に資することができます。
これらの特徴により、NSIは看護師個人のメンタルヘルスの維持・向上はもちろんのこと、組織的な問題解決にも貢献するツールとして位置づけられます。


NSIの評価内容
NSIは、看護職が仕事の中で感じるストレスを多角的に評価するツールです。
評価内容は、大きく分けて以下の5つの領域に分けられます。
- 仕事の量
- 仕事の質・内容
- 患者とのかかわり
- 現場での人間関係
- 医師との人間関係
それぞれ解説します。
仕事の量
看護職は、日々の業務が多岐にわたり多忙な環境に置かれることが多いです。
特に急性期病棟や救急医療現場では、業務量が他の部署に比べて圧倒的に多く、時間的な制約が厳しい状況です。
これに加えて慢性的な人手不足が問題となり、一人当たりの業務量が増加することがストレスの要因となります。
これにより、心身の疲労が蓄積し、バーンアウトのリスクも高まります。
業務量が適切に配分されない場合、看護の質にも悪影響を及ぼし、患者ケアに支障をきたす可能性があります。
これらのストレッサーに対応するためには、組織全体での人員調整や業務効率化の取り組みが求められます。
仕事の質・内容
看護職には高い専門性が要求され、業務内容も日々複雑化しています。
たとえば、医療技術の進歩に伴い新たな手技や知識の習得が必要となる場面が増えています。
また、患者の命を預かるという責任の重さが精神的な負担を生むこともあります。
さらに、医療現場では日々の業務に変化があり、それに迅速に適応することが求められるため、ストレスが蓄積します。
これに対処するためには、教育体制の整備や、職員が安心して学び続けられる環境作りが重要です。
患者との関わり
看護職のストレス源の一つとして、患者やその家族との関係が挙げられます。
患者の病状が悪化した場合や、苦痛を目の当たりにする場面では、看護師自身の感情的負担が増大します。
さらに、患者の死に直面することは精神的に非常に辛い経験であり、特に経験の浅い看護師にとって大きな試練となります。
また、患者の家族とのコミュニケーションが難航する場合、ストレスが一層増すことがあります。
これらの課題に対しては、メンタルヘルスケアの強化が必要です。
現場での人間関係
医療現場での良好な人間関係は、業務をスムーズに進めるための重要な要素です。
しかし、同僚や上司、部下との間で意見の食い違いや摩擦が生じることがあり、それがストレスにつながります。
また、チームでの連携が難航する場合、業務効率が低下するだけでなく、看護師自身のモチベーションも低下します。
これに対応するためには、職場環境の改善や、円滑なコミュニケーションを促進する取り組みが不可欠です。
医師との人間関係
医師と看護師の連携は、医療の質を保つ上で重要ですが、医師からの指示やコミュニケーションが不十分である場合、看護師にストレスを与えることがあります。
また、医師と看護師の間での権力関係がストレスの要因となるケースも見られます。
たとえば、指示に従うだけでなく、自らの判断で患者ケアを行うことを求められる場面では、責任感とプレッシャーが重なります。
これを改善するためには、医師と看護師間の信頼関係を築き、情報共有を円滑に行う仕組みが必要です。


適用範囲
NSIの適用範囲は、主に看護師を対象としています。
このツールは、看護師が日々の業務中に遭遇する可能性のある特定のストレス要因を評価し、彼らのメンタルヘルスの状態を理解しやすくすることを目的として設計されています。
看護師特有の業務内容や職場環境を考慮した質問項目により、看護師が直面するストレスの原因を明確に把握することが可能です。
その結果、個人のストレス管理だけでなく、組織的な問題解決や職場環境の改善に向けた対策を講じるための基礎データを提供します。


所要時間
NSIの実施に要する時間は約5分と非常に短く、看護師が忙しい業務の中でも容易に取り組める設計になっています。
この手軽さは、看護師が自己のストレス状態を定期的に振り返る習慣を形成する助けとなり、ストレスマネジメントの第一歩を支援します。
採点方法としては、自己採点方式を採用しており、その所要時間は約10分です。
自己採点を通じて、自らのストレスの程度や具体的な要因を把握できるため、意識的なストレス対処行動につなげやすい利点があります。
また、このシンプルなプロセスにより、看護師自身だけでなく、管理者や組織全体での活用も進めやすく、ストレス評価を基にした職場改善や支援体制の強化に役立つ可能性があります。


NSIの実施方法
NSIの実施方法は、簡潔で直接的な手順に基づいています。
ステップとしては…
- 準備
- 実施
- 採点
- 結果の反映
フィードバックとアクションプラン
…になります。
それぞれ解説します。
準備
実施前に、検査用紙や筆記用具を準備します。環境は静かで、集中して取り組める場所を選びます。
検査を行う看護師に、検査の目的と大まかな流れについて説明します。
実施
看護師は、検査用紙上の質問事項を一つずつ読み、各自が感じているストレスレベルに応じて自己採点します。
質問項目は、「仕事の量」「仕事の質・内容」「患者とのかかわり」「現場での人間関係」「医師との人間関係」を含む20項目です。
各項目は看護職特有のストレス要因を反映しています。
採点
全ての質問に回答した後、看護師は自己採点を行います。
採点方法は検査用紙に記載された指示に従って進めます。
このプロセスは約10分を要します。
結果の反映
自己採点が完了したら、得られたスコアをもとに、自身のストレス状態を評価します。
看護師は、高ストレス領域を特定し、それに対する改善策や対処法を考えることができます。
フィードバックとアクションプラン
可能であれば、看護師は自身の結果を上司やメンタルヘルスの専門家と共有し、具体的なアクションプランを立てます。
このプランは、ストレスを軽減し、職場環境を改善するための戦略を含むべきです。


NSIの解釈
NSIの解釈は、その目的や対象とする集団、そして得られた結果によって多岐にわたります。
一般的に、NSIの解釈は、以下の視点から行われます。
- 個々の看護師のストレス状態の把握
- 職場のストレス要因の特定
- 組織全体のストレス状況の把握
- 介入策の検討
それぞれ解説します。
個々の看護師のストレス状態の把握
NSIを用いることで、個々の看護師がどの業務内容や人間関係で特にストレスを感じているかを明確に特定できます。
また、ストレスの程度を数値化することで、問題の深刻さを客観的に評価することが可能です。
この情報は、各看護師に適したストレス管理の支援やリソース配分を考える際に役立ちます。
さらに、同一の環境で働く看護師であっても、ストレスの感じ方には個人差があることを理解し、その違いに応じた対応を行う必要があります。
このように、個別のストレス状態を把握することは、適切な介入策を立案するための基盤となります。
職場のストレス要因の特定
NSIのデータを分析することで、職場全体で共通しているストレス要因を浮き彫りにすることができます。
さらに、部署ごとに異なるストレス要因を比較することで、特定の部署での問題を明確にすることも可能です。
このように、部署間での違いを把握することで、より的確な対策を立てることができます。
また、これらの情報を基に職場全体の課題を抽出し、改善策を講じることで、看護師の満足度向上や職場環境の改善につながる可能性があります。
これにより、働きやすい職場環境の構築を目指せます。
組織全体のストレス状況の把握
NSIを活用することで、職場全体のストレスレベルを俯瞰的に把握し、組織全体での問題の規模を評価することができます。
この情報を基に、ストレスがどの程度離職率に影響を及ぼしているのかを分析し、ストレス対策の緊急性を判断することが重要です。
また、組織全体の健康状態を評価することで、従業員のメンタルヘルスを向上させるための方針を策定できます。
この全体像の把握は、効果的な介入策を実施するための土台となります。結果として、組織の持続可能な発展につながります。
介入策の検討
高ストレスの看護師に対しては、カウンセリングやストレスマネジメント研修などの個別対応が必要です。
一方で、職場全体の問題には、業務量の見直しや人間関係の改善といった環境的なアプローチが求められます。
また、組織全体のストレスに対応するためには、職場文化や価値観そのものを見直す必要がある場合もあります。
これには、管理職の意識改革や、職場内でのコミュニケーション促進が含まれます。
これらの介入策を組み合わせることで、職場全体のストレス軽減を目指せます。