OTPF（作業療法実践の枠組み）は、作業療法士がクライアントの生活の質向上を支援するための理論的・実践的ガイドラインです。
作業療法の「領域」と「過程」を体系化し、効果的な評価・介入・成果の提供を目指します。
本記事ではOTPFについて解説します。
OTPF（Occupational Therapy Practice Framework）とは
OTPF（Occupational Therapy Practice Framework）は、作業療法の実践における理論的かつ実践的な枠組みを提供する重要なガイドラインです。
この枠組みは、作業療法士がクライアントの生活における活動や役割への参加を支援するための介入計画や目標設定に役立つように設計されています。
OTPFは、作業療法の核となる「作業」の概念を中心に据え、クライアントが望む生活を送るための支援を可能にします。
また、OTPFは作業療法の実践を「評価」「介入」「結果」に分けて整理し、クライアントにとっての意義を重視したサービス提供を目指します。
具体的には、身体的・心理的な機能改善に加えて、クライアントの価値観や環境要因、社会的役割といった多様な要素も取り入れた包括的なアプローチを推奨しています。
このように、OTPFは作業療法士が患者とともに設定した目標に向けて、最適な介入を行うための理論と実践を統合した枠組みです。
OTPFの構成要素
まずOTPFは大きく…
Domain（領域）
Process（過程）
…の2つにわけられます。
それぞれ解説します。
Domain（領域）
「Domain」は、作業療法が関与する範囲を定義し、クライアントの生活の質向上を支援するために重要な要素をカバーしています。
これには…
Occupations（作業）
Client Factors（クライアント因子）
Performance Skills（遂行技能）
Performance Patterns（遂行パターン）
Contexts and Environments（文脈と環境）
…の5つの主要な構成要素が含まれます。
この領域は、クライアントの目標達成や意義ある活動への参加を支えるために作業療法士が評価し、支援を行う基盤となります。
これらについてもそれぞれ解説します。
Occupations（作業）
作業とは、個人が日常生活の中で行う活動全般を指し、その人がやりたいこと、必要なこと、義務的なことが含まれます。
身体的、精神的、社会的、性的、政治的、あるいは霊的な活動が含まれ、休息や睡眠も作業に含まれます。
作業は、単なる行動だけでなく、人が「存在すること」「成長すること」「所属すること」を支える重要な役割を果たします。
作業療法において、作業はクライアントが自己実現や社会的参加を果たすための媒介として重要視されます。
作業療法士は、クライアントの価値観や目標に基づき、適切な作業を選択・支援し、日常生活の質を向上させることを目指します。
Client Factors（クライアント因子）
クライアント因子は、クライアントの中に存在し、作業遂行に影響を与える特性や能力を指します。
これには、価値観や信念、スピリチュアリティなどの精神的側面、身体機能、身体構造が含まれます。
クライアント因子は、個人の特定の能力や特性に依存しており、作業療法士が介入する際の重要な評価ポイントとなります。
作業療法士は、クライアント因子を理解し、それに基づいて支援を提供することで、クライアントの目標達成や生活の質向上を図ります。
この因子を的確に把握することが、作業療法の成功にとって不可欠です。
Performance Skills（遂行技能）
遂行技能は、クライアントが日常生活の作業において行う観察可能な行動の単位で、目標に向けた行動が含まれます。
これには、運動技能（例：手を伸ばす、持つ）、プロセス技能（例：選ぶ、調整する）、社会的相互作用技能（例：挨拶をする、感情を表現する）などがあります。遂行技能は時間をかけて学習・発展し、特定の文脈や環境の中で機能するものです。
作業療法士は、クライアントが遂行技能を効果的に使用できるように支援し、作業遂行の質を高めることを目指します。
遂行技能は、クライアントの独立性や社会参加の向上に大きく寄与します。
Performance Patterns（遂行パターン）
遂行パターンは、作業に取り組む過程での習慣、ルーチン、役割、儀式を指し、作業遂行にプラスまたはマイナスの影響を与える可能性があります。
個人の習慣や役割、グループとしての儀式やルーチンなどが含まれ、生活にリズムと予測可能性をもたらします。
作業療法士は、クライアントの遂行パターンを評価し、改善が必要な場合には支援を提供します。
遂行パターンの調整は、日常生活の効率化や精神的安定の向上に役立つことがあります。
こうしたパターンは、クライアントが求める生活の質を達成するために重要な役割を果たします。
Contexts and Environments（文脈と環境）
文脈と環境は、クライアントが作業を行う場所や状況、そしてそれらが作業遂行に及ぼす影響を指します。
具体的には、物理的環境（例：家庭や職場）、社会的環境（例：家族や友人）、文化的文脈（例：信仰や慣習）、個人的文脈（例：年齢や性別）、時間的文脈（例：季節や一日の流れ）、バーチャル文脈（例：オンライン空間）などが含まれます。
作業療法士は、クライアントが望む作業を安全かつ効果的に行えるように、文脈や環境の調整を支援します。
これにより、クライアントは自身の作業への参加を最大限に高めることが可能になります。
Process（過程）
「Process」は、作業療法士がクライアントとともに目標達成に向けて実践する方法や手順を示します。
作業療法の過程は…
評価（Evaluation）
介入（Intervention）
成果（Outcomes）
…の3つの段階で構成されています。
これらについてもさらに深掘りして解説します。
評価（Evaluation）
評価は、作業療法プロセスの最初の段階であり、クライアントの背景やニーズ、目標を理解するために行われます。
評価には、「作業に関する履歴の収集（Occupational Profile）」と「評価の分析（Analysis of Occupational Performance）」の2つの要素が含まれます。
作業に関する履歴の収集では、クライアントが重要視する活動や価値観、生活の目標、またどのような支援が必要かを理解します。
次に、評価の分析では、クライアントが日常生活の中でどの程度の能力を発揮できているかを具体的に観察・評価し、遂行技能やクライアント因子、環境要因などを総合的に分析します。
これにより、クライアントにとってどの作業が重要であり、どのような介入が必要かを明確にすることができます。
介入（Intervention）
介入は、評価結果に基づいて、クライアントの目標達成に向けた具体的な支援を提供する段階です。
介入には、「介入計画（Intervention Plan）」、「介入実施（Intervention Implementation）」、「介入結果のレビュー（Intervention Review）」の3つの要素があります。
介入計画では、クライアントの目標を達成するために必要な活動や環境調整、支援の方法を計画します。
次に、介入実施では、計画に基づいて具体的な介入を行い、クライアントが日常生活で作業を遂行できるよう支援を行います。
介入結果のレビューでは、介入の効果を評価し、必要に応じて介入計画の修正や追加の支援を検討します。
このプロセスにより、クライアントの作業遂行能力の向上と目標達成が促進されます。
成果（Outcomes）
成果は、作業療法の最終段階であり、介入によって得られた結果やクライアントが達成した目標を確認します。
成果には、「望ましい成果（Targeted Outcomes）」が含まれ、これにはクライアントの独立性や生活の質、社会参加の向上などが含まれます。
作業療法士は、クライアントが当初の目標にどの程度近づいたかを評価し、その達成度を確認します。
望ましい成果が達成されている場合は、作業療法プロセスが成功したと判断され、クライアントが自立的に生活を続けられるよう支援を終了することもあります。
また、目標が完全には達成されていない場合や新たなニーズが生じた場合は、再評価を行い、プロセスを再開することもあります。