PARS-TRは、自閉スペクトラム症(ASD)の特性を評価するための半構造化面接ツールです。
本記事ではこの検査目的や特徴などについて解説します。
PARS-TRとは?
PARS-TR(Parent-interview ASD Rating Scale-Text Revision)は、対象となる子ども(成人含む)の困りごとの背景に自閉スペクトラム症(ASD)の特性が存在するか、及び存在する場合のその特性を評価するための検査です。
この検査は、一般社団法人発達障害支援のための評価研究会によって開発されました。
検査は、母親(または主な養育者)との半構造化面接を通じて実施され、特に思春期以降の子どもを対象とした場合に有用です。
この面接では、子どもの幼児期の様子を含む保護者の客観的評価と、本人の主観的評価の両方を取り入れて、本人の実態を把握します。
面接では57項目の質問に答え、子どもの年齢に応じて質問項目が異なります。
目的
PARS-TRの目的についてですが、主なものとして…
- 自閉スペクトラム症(ASD)の特性の有無とその程度を評価する。
- 子ども(成人含む)の適応困難の背景にあるASDの特性を把握する。
- 保護者や養育者の子どもに対する理解を深める。
- 支援ニーズと支援の手がかりを把握する。
- 本人の自己理解を促進し、支援計画の策定に役立てる。
…があげられます。
以下にそれぞれ解説します。
自閉スペクトラム症(ASD)の特性の有無とその程度を評価する
PARS-TRは、子どもや成人のASDの特性を評価するための半構造化面接ツールです。
57項目からなる質問に基づいて、検査者が対象者のASDの特性の有無やその程度を詳細に評価します。
このプロセスを通じて、対象者がASDの特性を持つかどうか、また持つ場合その程度はどのくらいかを客観的に判断するための重要な情報が得られます。
評価結果は、ASDの確定診断に直接つながるものではありませんが、専門家が確定診断を下すための重要な手がかりとなります。
子ども(成人含む)の適応困難の背景にあるASDの特性を把握する
PARS-TRは、対象者が日常生活で遭遇する適応困難の背景にASDの特性がどのように関与しているかを明らかにすることを目的としています。
面接を通じて、対象者の生活の中で表れる特定の行動や反応がASDの特性に由来するものかどうかを理解することができます。
この情報は、対象者やその家族が適切な支援を求める上での貴重な手がかりとなります。
保護者や養育者の子どもに対する理解を深める
PARS-TRは、保護者や養育者が子どもの行動や発達の特性をより深く理解する手助けをすることを目的としています。
面接を通じて、子どもの特定の行動がASDの特性に基づくものである可能性に気付くことができ、その理解が深まることで、子どもに対する適切な支援や対応方法を見つけ出すことが可能になります。
支援ニーズと支援の手がかりを把握する
PARS-TRを実施することで、対象者の具体的な支援ニーズや支援に役立つ手がかりを把握することができます。
評価を通じて得られた情報は、対象者やその家族に最適な支援プランの策定に役立ちます。
これにより、対象者の生活の質の向上や日常生活での困難の軽減につながります。
本人の自己理解を促進し、支援計画の策定に役立てる
PARS-TRは、対象者自身が自己の特性を理解し、自己受容を深める機会を提供します。
成人が対象の場合、過去の行動や反応を振り返ることで、自身の行動のパターンや特性に気付くことができます。
この自己理解は、個人が自分自身をより良く理解し、社会生活や職場での適応に役立てるための第一歩となります。
特徴
PARS-TRの特徴としては…
- 半構造化面接に基づく評価方式
- 57項目に及ぶ詳細な質問項目
- 母親(または主な養育者)を対象とした面接
- 子どもの年齢に応じた質問項目の調整
- ASDの特性の有無と程度の評価
- 保護者の理解促進と支援ニーズの把握
…があげられます。
以下にそれぞれ解説します。
半構造化面接に基づく評価方式
PARS-TRは半構造化面接を基盤とする評価ツールです。
このアプローチにより、柔軟性が保たれつつも、必要な情報を網羅的に収集できる点が特徴です。
面接官はあらかじめ決められた質問項目に従いますが、回答に応じて追加の質問を行うことができるため、対象者の特定の特性や状況に深く迫ることが可能になります。
57項目に及ぶ詳細な質問項目
PARS-TRでは、57項目に及ぶ詳細な質問を通じて、対象者の自閉スペクトラム症(ASD)の特性を網羅的に評価します。
この広範囲にわたる質問は、対象者の行動、コミュニケーションの特性、社会的相互作用の特性など、ASDの核となる領域をカバーしています。
母親(または主な養育者)を対象とした面接
PARS-TRは、母親や主な養育者との面接を通じて情報を収集します。
これにより、対象者の幼少期からの行動や特性についての貴重な情報を得ることができる点が特徴です。
幼少期の振る舞いや特性は、ASDの診断において重要な手がかりとなるため、このアプローチは特に価値があります。
子どもの年齢に応じた質問項目の調整
PARS-TRは、対象者の年齢に応じて質問項目を調整します。
これにより、対象者の発達段階や生活環境に合わせた適切な評価が可能になります。
例えば、思春期や成人を対象とした場合、現在の生活環境や自己認識に関する質問が追加されることもあります。
ASDの特性の有無と程度の評価
PARS-TRは、ASDの特性の有無だけでなく、その程度も評価します。
この詳細な評価により、対象者に必要な支援のレベルをより正確に判断することができます。
ASDの特性が軽度であれば、日常生活への影響は限られる可能性がありますが、より顕著な特性を持つ場合は、より具体的な支援や介入が必要になるかもしれません。
保護者の理解促進と支援ニーズの把握
PARS-TRを通じて、保護者は子どものASDの特性に関する深い理解を得ることができます。
この理解は、保護者が子どもの行動や反応をより適切に支援し、対応するための基盤となります。
また、評価過程で明らかになった支援ニーズは、個別の支援計画の策定に役立ちます。
適用範囲
PARS-TRの年齢的な適用範囲は3歳以上とされています。
質問項目は対象者の年齢に応じて調整されるため、幼少期の特性評価から成人期の自己評価まで、幅広く対応可能です。
所要時間
PARS-TRを実施する所要時間は…
- 全項目版
- 短縮版
…によって異なります。
以下にそれぞれ解説します。
全項目版
回答および評定(採点)には約90分程度が目安とされています。
短縮版
回答および評定(採点)には約30~45分程度で実施可能です。
これらの時間は、面接官と対象者のやり取りの流れや対象者の回答の内容によって多少前後する可能性があります。
特に、対象者が質問に対して詳細に答えたり、追加の説明が必要になったりする場合は、所要時間が長くなることがあります。
また、質問項目の数や、評定対象者の年齢によって評定項目数が異なるため、実施時間には幅があります。
方法
PARS-TRの実施方法ですが、ここでは…
- 準備
- 対象者の選定
- 面接の実施
- 評定と記録
- 結果の分析
- フィードバックと支援計画
…のステップに分けて解説します。
準備
PARS-TRを実施するため、必要な検査用冊子と評定シートを用意します。
これらには、面接の流れや評価基準が記載されています。
対象者の選定
PARS-TRは3歳以上の子どもや成人を対象とします。
ASDの特性が疑われる場合や、すでに診断されているが現在の特性を評価したい場合に実施します。
面接の実施
母親や主要な養育者との面接を開始します。
面接は、予め設定された57項目の質問を基に行われ、回答に応じて面接官が深掘りする質問を行います。
その際、対象者の年齢や特性に応じて、質問項目を調整します。
幼児期の行動や現在の状況に関する質問を適切に選択し、詳細な情報収集を行います。
評定と記録
面接を通じて得られた情報に基づき、各項目を評定します。
評定は検査用冊子に記載されている基準に従って行われます。
評定結果は、評定シートや検査記録に詳細に記録します。
これらの記録は、後の分析や支援計画策定の基礎となります。
結果の分析
記録された評定結果を分析し、対象者のASDの特性の有無や程度を評価します。
この分析は、支援ニーズの特定や今後の対応策を検討する際の重要な情報を提供します。
フィードバックと支援計画
評価結果を対象者やその家族にフィードバックします。
このフィードバックには、得られた情報の解説や今後の支援に向けた提案が含まれます。
そのうえで評価結果を基に、個別の支援計画を策定します。
この計画には、教育的介入、療育、社会的サポートなどが含まれる場合があります。