プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)は、企業が展開する複数の製品や事業の組み合わせと位置づけを分析し、全社レベルで最適な経営資源配分を判断する経営手法です。
本記事ではこのPPMについての特徴や医療分野における具体例などについて解説します。
PPMとは?
PPM(Product Portfolio Management)とは、企業が持つ複数の製品や事業を総合的に管理し、効率的に経営資源を配分するための経営手法です。
企業全体の最適な資源配分を決定することにより、事業の効率と収益性を最大化することが目的です。
PPMの4つのカテゴリー
PPMでは、主に「市場成長率」と「市場シェア率」という2つの軸で各事業を評価し、それに基づいて事業を以下の4つのカテゴリーに分類します。
- 花形(Star)
- 金のなる木(Cash Cow)
- 問題児(Question Mark)
- 負け犬(Dog)
それぞれ解説します。
花形(Star)
花形事業は、急速に成長している市場において高い市場シェアを持つため、企業にとって非常に価値の高い事業です。
このカテゴリの事業は競争が激しく、市場のリーダーとしての地位を維持するためには、新しい技術の開発、マーケティング戦略の強化、生産能力の拡大など、継続的な投資が必要です。
そのため、利益を再投資することが多く、収益の最大化と市場支配の強化を目指します。
花形事業からは将来的に大きな収益が期待できるため、企業はこの事業に資源を集中させることが一般的です。
金のなる木(Cash Cow)
金のなる木事業は、成熟した市場において高い市場シェアを確保しており、安定した現金流を生み出します。
これらの事業は市場成長が鈍化しているため、大規模な投資や拡張は必要ありませんが、高い収益性を維持するために効率的な運営が求められます。
金のなる木から得られる収益は、他の事業への投資資金として活用されることが多く、企業全体の財務健全性や成長戦略の支えとなります。
この事業の管理には、コストコントロールとマーケットシェアの維持に焦点を当てることが重要です。
問題児(Question Mark)
問題児事業は、成長が見込まれる市場に位置していますが、まだ市場シェアを確立できていないため、大きなポテンシャルと同時に高いリスクを持っています。
これらの事業には、市場シェアを高め、競争力を構築するための戦略的な投資が必要です。
問題児事業は、成功すれば花形に昇格する可能性を持ちますが、失敗すると資源の浪費につながるため、慎重な分析と戦略的決断が求められます。
企業は、これらの事業が将来的にどのように進化するかを定期的に評価し、必要に応じて資源配分の調整を行う必要があります。
負け犬(Dog)
負け犬事業は、低成長または縮小している市場で低い市場シェアを持っているため、収益性が低く、企業資源の効率的な使用とは言えません。
これらの事業は通常、利益を生み出すことが難しく、長期的な戦略においては撤退または売却が検討されることが一般的です。
負け犬事業からの撤退は、企業がより有望な事業に焦点を当て、リソースを再配分する機会を提供します。
この決断は、企業の全体的な効率と収益性を改善するために重要ですが、社会的責任や雇用への影響も考慮する必要があります。
PPMの具体例-ファーストリテイリングの場合
では、ユニクロを運営するファーストリテイリングの事業ポートフォリオをPPMの観点から分析してみます。
花形(Star)
ユニクロのアジア市場、特に中国や東南アジアは、高い市場成長率と市場シェアを持つ事業です。
これらの地域では、ユニクロは積極的な店舗展開と地域に合わせたマーケティング戦略を推進しており、高い競争力を維持しつつ、急速な市場拡大を果たしています。
金のなる木(Cash Cow)
日本国内のユニクロ事業は、「金のなる木」と見なされます。
市場の成長は安定しており、市場シェアも非常に高いです。
ユニクロは日本市場で確固たる地位を築いており、安定した収益を生み出しています。
この収益は他の市場や新規事業への再投資に活用されています。
問題児(Question Mark)
新興市場や未開拓地域におけるユニクロの事業は、「問題児」と考えることができます。
これらの市場では成長のポテンシャルは高いものの、市場シェアはまだ低いです。
ファーストリテイリングはこれらの市場でのブランド認知度向上や市場シェアの獲得に向けて戦略を練っています。
負け犬(Dog)
かつてファーストリテイリングはアメリカ市場で苦戦を強いられました。
市場成長率も低く、市場シェアの確立にも至らなかったため、この地域での事業は「負け犬」と見なされることがありました。
その結果、一部の店舗を閉鎖するなどの戦略的な撤退が行われました。
医療、介護領域におけるPPM活用する具体例
医療や介護領域においてプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)を活用することは、サービスの効率化や質の向上に貢献します。
ここでは、具体的な活用例として…
- 病院や医療機関
- 介護サービス事業者
- 製薬企業
- 特定医療分野の診療所
…といった場合のPPM活用例を考えてみます。
病院や医療機関
病院では、様々な診療科目を持っていますが、それぞれの科目の市場成長率と市場シェアを分析することが重要です。
例えば、高齢化社会の進行に伴い、老年医学(ゲリアトリックス)やリハビリテーション科が成長市場となり、これらを「花形」と位置付けることができます。
一方で、一般的な外科や内科は安定した収益をもたらす「金のなる木」にあたります。
PPMを用いて、これらの科目にどれだけ資源を割り当てるかを決定することで、効率的な運営が可能になります。
介護サービス事業者
介護事業者は、在宅介護、デイサービス、介護付き有料老人ホームなど、様々なサービスを提供しています。
市場のニーズや地域特性に応じて、どのサービスに焦点を当てるかを決める必要があります。
例えば、高齢者人口が多い地域では、在宅介護サービスが「問題児」として市場でのシェアを増やす機会があります。
PPMを活用して、成長が見込まれるサービスに資源を集中させることが効果的です。
製薬企業
製薬企業においてもPPMは重要です。
新薬開発は高いリスクとコストが伴いますが、成功すれば大きなリターンが期待できる「問題児」です。
既に市場で確立された薬は「金のなる木」として安定した収益を提供します。
PPMを通じて、どの研究開発プロジェクトに資源を割り当てるか、または撤退するかを決定します。
特定医療分野の診療所
特化型診療所(例:皮膚科、歯科)は、特定の市場ニーズに応じてサービスを展開します。
市場成長が見込まれる分野(例:美容皮膚科)を「花形」として重点的に資源を配分し、競争が激しい分野では市場シェアの維持に注力します。
これにより、特定の市場での競争力を高め、収益性を最大化する戦略を立てることができます。
リハビリテーションの臨床におけるPPMを活用する具体例
リハビリテーションの臨床におけるプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)の活用は、治療プログラムやサービスの質と効率を向上させるために重要です。
ここでは、PPMをリハビリテーションの臨床に活用する具体例として…
- サービスの分類と優先順位の設定
- リソースの効率的な配分
- 新規プログラムの開発と試験
- 不採算プログラムの整理
…というシチュエーションで考えてみます。
サービスの分類と優先順位の設定
リハビリテーション施設は多岐にわたる治療プログラムを提供しています。
例えば、脳卒中後の患者向けのリハビリテーション、運動障害がある子ども向けの発達リハビリテーション、高齢者のための運動機能向上プログラムなどがあります。
PPMを用いて、これらのプログラムを市場成長率(患者数の増加傾向)と市場シェア(施設が地域内で提供するサービスの割合)に基づき分類します。
例えば、高齢者人口の増加に伴い、高齢者リハビリテーションが「花形」として重点的に資源を配分する対象になるかもしれません。
リソースの効率的な配分
各リハビリテーションプログラムの成果と効果を評価し、それに基づいて人的資源や設備投資を決定します。
たとえば、成功率が高く市場の需要も増加している治療プログラムには、より多くのリハビリテーション専門家や最新の治療機器を配分します。
一方で、効果が限定的であるか、市場の縮小が見込まれるプログラムは、リソースの削減や再配置を検討します。
新規プログラムの開発と試験
「問題児」カテゴリにあたるプログラム、例えば新しい治療方法や技術を取り入れたリハビリテーションプログラムに対しては、市場での受け入れや効果を見極めるために初期投資を行います。
これが成功すれば「花形」に昇格する可能性があり、そうなればさらなる投資と拡張が行われるでしょう。
不採算プログラムの整理
「負け犬」に分類されるプログラム、つまり市場の需要が低く効果も不十分な治療プログラムは、リソースを割く価値が少ないため、削減や廃止が考慮されます。
これにより、より有効なプログラムへの資源を再配分し、全体としての施設の効率と効果を向上させることができます。