ある作業を詳しく分析するには、その作業の動作だけでなく”時間的な観点”からも分析する必要があります。
その際に利用する手法にPTS法というものがあります。
このPTS法って産業工学(IE:インダストリアルエンジニアリング)の分野で使われる手法なので作業療法、リハビリテーションの分野ではあまり馴染みがないのですが、考え方や着眼点は非常に参考になります。
そこで今回は「PTS法と作業分析」について解説します。
PTS法とは
“PTS法”とは“既定時間標準法(Predetermined Time Standard system)”の頭文字をとった略称で、その作業動作を人間の基本動作に分解するといった動作分析を行い、その動作の種類や条件、大きさと言ったものに応じてあらかじめ定められた時間値(標準時間)を割り当てることでその作業全体に要する時間を設定するという手法…を言います。
例として”箸でおかずを食べる”という作業は…
- 箸に手を伸ばす
- 箸をつかむ
- おかずに箸を移動させる
- おかずを箸でつかむ
- 口までおかずをつかんだ箸を移動させる
- 食べる
- 箸を置く
…という7つの基本動作に分解することができます。
この7つの基本動作それぞれの特徴に時間テーブルから該当する時間を当てはめ、全体の作業時間を見積もる…という手法になります。
PTS法のメリット
このPTS法のメリットですが、以下のようなものがあげられます。
- その作業に必要な動作それぞれが要する時間の基準値がわかる
- 「作業に時間がかかる」という評価判断をもっと細分化することができ、どの動作に時間がかかっているのか分析することができる
- 標準の時間が明確になるため、スピードや効率性向上といった視点での訓練課題として応用できる
PTS法のデメリット
逆にPTS法のデメリットですが…
- 分析自体に手数がかかる
- 分析を正確にするには専門的な訓練が必要
- 動作標準時間と実際の速度が異なる場合がある
…などがあげられます。
PTS法の手法について
ではこの作業を時間の観点で動作分析するPTS法の代表的な手法についてですが、
- WF法
- MTM法
- MODAPTS法
…があげられます。
以下にそれぞれ解説します。
WF法
WF法とは、”Work Factor analysis”の略称で”作業因子法”を意味します。
労働の基礎時間を算定する方法の一つであり、あらかじめ作業の動作を表にし、その表から標準時間を算出する手法になります。
WF法では、作業における動作時間を決定する要因として…
- 身体部位
- 動作距離
- 重量(抵抗)
- 人為的調節
…の4つをあげています。
ちなみに”人為的調節”の項目は…
- 一定の停止(D)
- 方向の調節(S)
- 注意(P)
- 方向の変更(U)
…を指します。
MTM法
“MTM法”は、”Method Time Measurement”の略称で、”作時間測定法”を意味します。
1948年にアメリカのH. B.メイナード氏より発表された基本動作から標準時間を決める手法になります。
MTM法では前述したWF法の4つの要素をさらに細かく10の基本動作まで分解することが特徴です。
- 手を伸ばす(R)
- 運ぶ(M)
- まわす(T)
- 押す(AP)
- つかむ(G)
- 定着する(P)
- 放す(PL)
- 引き離す(D)
- 目の移動(ET)
- 目の焦点合わせ(EF)
この10の基本動作から、動作の種類、移動距離、目的物の条件、難易度に応じた時間値の表がつくられます。
そして各作業を構成している動作を分析し、表の時間値を計算していくことでその作業の標準時間を求めることができます。
MODAPTS法
MODAPTS(モダプツ)とは、”Modular Arrangement of Predetermined Time Standards”の略称になります。
オーストラリアの医師であった”G.C.Heyde”がアメリカの工業会で発達した作業動作時間測定法である”MTM法”に改良を加え開発されました。
MODAPTSでは人間の上肢の動作を中心とした基本動作を、21個の記号で表し評価します。
その21個の基本動作を基に作業評価や所要時間の設定に生かすという手法です。
MODAPTSによる作業分析について【標準時間から考える作業療法】
PTS法はリハビリテーションに応用できるか?
では産業工学の業界で使われているこのPTS法を果たしてリハビリテーションの分野に応用できるのでしょうか?
ちなみに基礎作業学のテキストには、
PTS法は、普通の人が普通の速さで作業を行う時の動作の種類、組み合わせ、順番を分析し、その動作の方法が決まれば、自ずと標準時間までも決まるものである。
…(中略)…これらの方法は特別な技能訓練が必要で、分析に多くの時間がかかるので、大量に同じ物や同じ動作が要求される産業分野での利用が多い。そのため個別性が高いリハビリテーションの臨床場面では使われていない。
…とあります。
たしかに産業工学…とくに同じ工程を繰り返し行う作業(工場のラインetc)でよく使われているようですので、日常生活という多種多様で個別性に富んだ作業には汎用できにくいのかもしれませんね。
でも、リハビリテーションでも作業時間の視点での作業分析は必要だと思うんです
ADLの評価バッテリーでもあるFIMでも、6点(修正自立)の採点をする評価基準で「時間がかかる」というものがあります。
なにをもってその作業に時間がかかると判断するのか?…が非常に属人的だなと思うんです。
更衣動作の項目でも6点の場合は「通常の3倍以上の時間がかかる」とありますが、通常の更衣動作にかかる時間っていったい何秒なのでしょうか?
少なくても数値化する…定量的な評価であったらその基準値もしっかりと時間として算出しておく必要があるんじゃないかな…なんて臨床を経験してると強く感じてしまうんです。
作業分析に時間的な観点を入れる対象は?
あくまで個人的な意見ですが、リハビリの対象のメインって「できない作業をできるようにする」って部分に重きを置かれています。
介助レベルをいかに自立レベルに引き上げるか?って観点です。
でも逆に言えば、「自立はしているけど、時間がかかる」「自立はしているけど、なんとかやっとの自立」といったレベルの対象はなおざりになっているような気もします。
そこで時間や効率性の観点を含めた分析であるPTS法の考え方で、作業分析すると、こういった対象にも貢献できるのかなと。
広くみれば、介護予防の範囲でPTS法は役に立つのかなと…思っています。