PSIは、子どものストレス原因と心身の健康を測定するための信頼性高いチェックテストです。
本記事ではこの目的や特徴、それぞれの尺度や方法などについて解説します。
PSI(パブリックヘルスリサーチセンター版ストレスインベントリー)とは?
PSI(Public Health Research Foundation Type Stress Inventory、公衆衛生研究財団版ストレスインベントリー)は、子どもの心身の不調やストレスの原因、周囲からの援助を測定し、心の健康状態を探るための検査ツールです。
このツールは、ストレス研究の第一人者である著者グループによって、長年の研究を基に開発された、信頼性の高い子ども用ストレスチェックテストとされています。
PSIは、児童・生徒の現在の心の健康状態を、ストレス反応、ストレッサー、知覚されたソーシャルサポートの3つの尺度で測定します。
これにより、子どもの心の健康状態を客観的かつ簡便な方法で把握することができるようになっています。
相談機関や学校での教育臨床的実践に役立てることができ、個人または集団のどちらの場合でも実施可能です。
目的
PSIの主な目的として…
- 子どもの心身の不調やストレスの原因の特定
- 周囲からの援助の可視化とサポート体系の強化
- 子どもの心の健康状態の客観的かつ簡便な評価
子どもの心身の不調やストレスの原因の特定
PSIは、子どもが体験するストレスの原因を明らかにし、心身の不調を早期に特定することを目的としています。
子どもたちは日常生活の中で様々なストレスに晒されていますが、それらが具体的に何であるかを特定することは、適切な対応や支援を提供する上で極めて重要です。
この目的は、子どもたちが学校生活や家庭内で直面している可能性のある多様なストレッサー(ストレスの原因)を明らかにし、それらが子どもの心身にどのような影響を与えているかを理解することに焦点を当てています。
周囲からの援助の可視化とサポート体系の強化
PSIのもう一つの目的は、子どもが受けているサポートの量や質を測定し、必要に応じてそれを強化することです。
子どもたちがストレスを感じている時、彼らに対して提供されるサポート(親、友人、教師などからの支援)は、彼らがそのストレスをどのように処理し、乗り越えるかに大きく影響します。
この尺度により、子どもたちが感じているサポートのレベルを具体的に評価し、サポートが不足している場合は、その改善を図ることができます。
子どもの心の健康状態の客観的かつ簡便な評価
PSIを通じて、子どもの心の健康状態を簡便かつ客観的に評価することができます。
このテストは、子どもが直面しているストレスの量、そのストレスへの反応、そして受けているサポートのレベルを測定することで、その心の健康を全体的に評価します。
この評価は、子どもが感じているストレスの影響を理解し、必要に応じて個別のサポートや介入を提供するための出発点となります。
また、定期的に行われることで、子どもの心の健康状態の変化を追跡し、時には予防的な介入を行うことも可能になります。
特徴
PSI(Public Health Research Foundation Type Stress Inventory)の主な特徴として、ここでは…
- 信頼性と精度の高い設計
- 簡便で実施しやすい
- 包括的な評価
- 幅広い適用範囲
…について解説します。
信頼性と精度の高い設計
PSIは、長年の研究と実践を通じて開発された、子ども用のストレスチェックテストです。
このテストはストレス研究の第一人者である著者グループによって作成され、信頼性の高いデータを提供します。
それぞれの尺度は科学的根拠に基づいており、子どもたちが経験するストレスの原因、ストレス反応、そして受けている社会的サポートのレベルを正確に測定することができます。
この高い信頼性と精度は、子どもたちの心の健康状態を理解し、適切な支援を提供するための強力な基盤を提供します。
簡便で実施しやすい
PSIは、約10分という短い時間で実施でき、さらに自己採点方式を採用しているため、採点にも約10分程度しかかかりません。
この手軽さは、大規模な集団や忙しい教育現場でも容易に使用できることを意味します。
紙とペンがあれば実施可能であり、特別な設備や高度な技術を必要としません。
この手軽さは、定期的な心の健康チェックや、必要に応じた迅速な評価を可能にします。
包括的な評価
PSIは、ストレス反応、ストレッサー、知覚されたソーシャルサポートの3つの主要な領域をカバーしています。
これにより、子どもの心の健康状態を多面的に評価することが可能になります。
各尺度は子どもが直面する可能性のある異なるストレス要因と反応を捉え、それらがどのように相互作用するかを理解するのに役立ちます。
この包括的なアプローチは、子どもの心の健康を全体的に把握し、より的確な支援や介入策を立案するための重要な情報を提供します。
幅広い適用範囲
PSIは小学校高学年(小4~小6)、中学生(中1~中3)、高校生(高1~高3)を対象としています。
これにより、幼少期から青年期にかけての重要な発達段階をカバーし、さまざまな年齢の子どもたちが経験するストレスの種類や反応を理解することができます。
また、個人または集団での実施が可能であり、学校、相談機関、臨床的な設定など、様々な環境での使用に適しています。
PSIの尺度
PSI(Public Health Research Foundation Type Stress Inventory)の検査を通じて評価するさまざまな尺度ですが、上位尺度としては…
- SR:ストレス反応
- ST:ストレッサー
- SS:ソーシャルサポート
…の3つにわけられます。
それぞれ解説します。
SR:ストレス反応
SR(ストレス反応)は、子どもがストレス状態にあるときに見せる身体的および心理的反応を評価する尺度です。
ストレス反応は、ストレスを受けた際に個人が示す直接的な感覚、感情、身体の変化を捉えることを目的としています。
この尺度には、抑うつや不安、イライラや怒り、無力感など、さまざまな心理的状態が含まれており、ストレスが子どもの心身にどのように影響しているかを具体的に把握することができます。
SR尺度を通じて、ストレスが身体化しているか(身体的反応)、心理的な不調として表れているか(抑うつ・不安、不機嫌・怒り、無力感)を評価することが可能になります。
これにより、ストレスによって引き起こされる具体的な問題点を特定し、それに対する適切な介入やサポートを計画する基盤を提供します。
ST:ストレッサー
ST(ストレッサー)は、子どもが日常生活や学校生活の中で経験するストレスの原因となる出来事や状況を測定する尺度です。
この尺度は、子どもがどのような状況をストレスと感じ、その頻度がどれほどであるかを評価します。
具体的には、教師との関係、友人関係、学業、進路(高校生用)といった領域に焦点を当てています。
これらの領域は、子どもの心の健康に大きな影響を及ぼす可能性があり、ストレスの原因として特に重要視されています。
ST尺度を用いることで、子どもたちが直面している具体的なストレス要因を明らかにし、それに対するサポートや介入の方向性を決定することが可能になります。
SS:ソーシャルサポート
SS(ソーシャルサポート)尺度は、子どもがストレス状態にあるときに、周囲からどれだけの支援や助けを得られるかという知覚されたサポートの程度を測定するものです。
この尺度は、家族、友人、教師などからの情緒的支援や実践的な援助が子どものストレス管理にどのように寄与しているかを評価します。
ソーシャルサポートは、ストレスの影響を軽減し、回復を促す重要な要素とされています。SS尺度を通じて、子どもが感じているサポートの質と量を把握することで、サポート体系の強化や改善が必要な領域を特定し、より効果的なサポート戦略を立てることができます。
この尺度は、子どもが社会的な環境の中でどの程度サポートを受けているかを理解し、必要に応じてそのサポートを強化するための手がかりを提供します。
SR:ストレス反応の下位尺度
SR:ストレス反応はさらに…
- PHY:身体的反応 (小学生用・中学生用のみ)
- DEP:抑うつ・不安
- IRR:不機嫌・怒り
- HEL:無力感
…にわけられます。
以下にそれぞれ解説します。
PHY:身体的反応(小学生用・中学生用のみ)
PHY(身体的反応)は、ストレス反応の一部として、特に小学生と中学生の間で観察される身体的な症状を測定します。
この尺度は、ストレスが子どもの身体にどのように影響しているかを示します。
身体的な症状としては、頭痛、お腹の痛み、疲労感などがあります。
これらは、明確な医学的原因がないにも関わらず現れることが多く、ストレスや不安が身体化された結果と考えられます。
PHY尺度を通じて特定された身体的反応は、子どもが感じているストレスの重さを物語っており、心理的なサポートやストレス管理技術の導入が必要であることを示唆しています。
DEP:抑うつ・不安
DEP(抑うつ・不安)尺度は、子どもが経験する抑うつ感や不安感を評価します。
この尺度は、子どもがどれだけ心配事や悲しみ、絶望感に圧倒されているかを示し、ストレスに対する内面的な反応を測定するものです。
抑うつや不安は、学業成績の低下、対人関係の問題、自尊心の低下など、多方面にわたる影響を及ぼす可能性があります。
DEP尺度によって抑うつや不安が高く評価された場合、心理的な介入やカウンセリングが推奨されることがあります。
この尺度は、子どもが直面している心理的な困難を早期に特定し、適切なサポートを提供するために重要です。
IRR:不機嫌・怒り
IRR(不機嫌・怒り)尺度は、子どもが示す怒りや不機嫌さを測定するもので、ストレスが感情的なレベルでどのように表現されているかを評価します。
この尺度は、イライラ感や怒りが頻繁に発生するか、またその強度を示します。
怒りや不機嫌は、ストレスやフラストレーションの直接的な指標となり得るため、この反応の高い評価は、子どもがストレスを適切に処理できていない可能性を示唆しています。
IRR尺度を用いることで、感情的なサポートや対人関係のスキル向上、ストレス管理の技術が必要であるかどうかを判断できます。
HEL:無力感
HEL(無力感)尺度は、子どもが経験する脱力感、根気のなさ、または意欲の低下を評価します。
この尺度は、子どもが自己効力感を欠き、自分の環境や状況をコントロールする能力に対して悲観的になっている度合いを示します。
無力感は、学業や社会活動への参加意欲の低下、将来に対する希望の喪失といった形で表れることがあります。
HEL尺度による高い評価は、子どもが抱える内面的な闘いや挑戦を理解し、ポジティブな自己像の再構築や自尊心の向上を支援するための介入が必要であることを示しています。
ST:ストレッサーの下位尺度
ST:ストレッサーはさらに…
- TEA:教師との関係
- FRI:友人関係
- ACA:学業
- CAR:進路(高校生用のみ)
…にわけられます。
それぞれ解説します。
TEA:教師との関係
TEA(教師との関係)尺度は、子どもが教師との間に築いている関係性とその質を測定します。
良好な教師との関係は、学生の学業成績、学校への適応、および全般的な心理社会的福祉にとって非常に重要です。
この尺度では、教師からの叱責の頻度、教師への信頼感、コミュニケーションの質、教師に対する不満の有無など、教師と生徒間の相互作用がどのように感じられているかを評価します。
TEA尺度が高い得点を示す場合、それは教師との関係に問題があることを示しており、その生徒が学校生活の中でストレスを感じている可能性が高いことを意味します。
その結果、学業成績の低下や学校への不適応など、さまざまな問題が生じる可能性があります。
FRI:友人関係
FRI(友人関係)尺度は、子どもが同年代の仲間内で築いている関係性とその質を測定します。
友人との関係は、子どもの社会的スキルの発達、自己認識、および心理的な幸福感に大きく影響を及ぼします。
この尺度は、友人との関係の満足度、友人からの支援の感じ方、孤立感の有無、友人との争いや誤解の頻度などを評価します。
友人関係に関する問題は、子どもがストレスや不安を感じる主要な原因の一つであり、FRI尺度が高い得点を示す場合、社会的な支援が不足しているか、または対人関係に問題があることを示しています。
これは、自尊心の問題や学校での適応困難を引き起こす可能性があります。
ACA:学業
ACA(学業)尺度は、学業に関連するストレスの源泉を評価します。
この尺度は、学習内容の理解度、宿題やテストに対する準備感、成績に対する満足度、学業に関連する不安感など、学業に対する態度と感情を捉えます。
学業成績は、子ども自身の自尊心や将来の目標に大きな影響を及ぼし、学業に関するストレスは不安、抑うつ、学校への不適応といった問題を引き起こす可能性があります。
ACA尺度が高い得点を示す場合、学業に関する支援や介入、学習方法の見直しが必要であることを意味します。
CAR:進路(高校生用のみ)
CAR(進路)尺度は、高校生に特有の、進路選択に関連するストレスを測定します。
この尺度は、将来のキャリアや進学に関する計画の明確さ、進路決定に対する不安、家族や教師からのサポートの感じ方などを評価します。
進路決定は、高校生にとって大きなプレッシャーの源であり、不確実性や不安を引き起こす主要な要因です。
CAR尺度が高い得点を示す場合、進路に関する明確なガイダンスや情報提供、心理的サポートが必要であることを意味します。
適切な進路指導とサポートは、高校生が自信を持って将来の計画を立て、その選択に対する不安を軽減するのに役立ちます。
適応範囲
PSI(Public Health Research Foundation Type Stress Inventory)の適応範囲は、子どもの年齢層に合わせて広く設計されています。
具体的には…
- 小学生用(小4~小6)
- 中学生用(中1~中3)
- 高校生用(高1~高3)
…のような分類になります。
以下それぞれ解説します。
小学生用(小4~小6)
この年齢層は、子どもが社会的な関係や学業において新たな課題に直面し始める時期です。
PSIは、この重要な発達段階で生じるストレスやその他の心理社会的問題を特定し、適切な介入を行うために設計されています。
学業の圧力、友人関係の変化、自己意識の高まりなど、この時期特有のストレッサーに焦点を当てています。
中学生用(中1~中3)
中学生は、身体的・心理的変化が激しく、自我の形成や社会的アイデンティティの確立が進む時期です。
PSIは、この過渡期におけるストレス要因を評価することで、不安、抑うつ、社会的引きこもりなどの問題を早期に特定し、支援することを目的としています。
中学生特有のストレス要因としては、学業圧力の増大、友人やクラスメートとの関係、自己の身体像に対する懸念などが挙げられます。
高校生用(高1~高3)
高校生は、将来のキャリアや進路決定に向けた準備が必要な時期です。
この段階では、進路選択に伴うストレス、対人関係の複雑化、自立への期待とそのプレッシャーなど、特有のストレッサーが存在します。
PSIは、これらの課題を通じて生じるストレスや心理社会的問題を特定し、学生が健全な心の健康を維持し、有意義な高校生活を送るための支援を目指しています。
所要時間
PSI(Public Health Research Foundation Type Stress Inventory)の所要時間は、実施時間と採点時間を合わせても約20分です。
具体的には、テストの実施に約10分、自己採点による採点にも約10分を要します。
実施方法
PSI(Public Health Research Foundation Type Stress Inventory)の実施は、効果的な評価と適切な介入のために重要です。
ここでは、そのステップとして…
- 準備
- 実施
- 採点と解釈
- フィードバックとサポート
…にわけて解説します。
準備
実施前に、対象となる児童・生徒や保護者にPSIの目的と概要を説明します。
この時点でプライバシーの保護と回答の機密性について明確にし、参加者の理解と同意を得ることが大切です。
また、テストを実施する環境は静かで、中断されることなく、参加者がリラックスしてテストに取り組めるように準備します。
必要な資材(PSIテスト用紙、筆記用具など)を用意し、実施にあたっての指示を明確にします。
実施
参加者には、PSIテスト用紙が配布されます。テスト開始前に、全体の指示を読み上げ、質問があればそれに答えます。
この段階で、質問の解釈について不明確な点がないようにします。実施時間は約10分を目安に、参加者には自分のペースで回答してもらいます。
このプロセスは、参加者が自己評価を通じて自身の心の健康状態やストレスレベルを反映する機会を提供します。
採点と解釈
テスト終了後、採点は参加者自身によって行われます。自己採点の方法は簡便で、約10分で完了します。
このステップでは、各項目に対する回答をポイントに換算し、それぞれの尺度(ストレス反応、ストレッサー、ソーシャルサポート)ごとに合計点を出します。
採点後、専門家(教育者、カウンセラーなど)が得点を解釈し、子どもの心の健康状態や必要なサポートについて詳細なフィードバックを提供します。
フィードバックとサポート
最終的な得点とその解釈をもとに、専門家が参加者やその保護者に対して個別のフィードバックを行います。
このステップでは、得点から読み取れる心の健康状態やストレスの原因について説明し、適切なサポートや介入の提案を行います。
必要に応じて、さらなる評価や専門的な支援を紹介することも含まれます。