くも膜下出血は、脳の表面にある血管が破裂し、くも膜下に出血が起こる脳卒中の一種です。
突然の激しい頭痛や意識障害が特徴で、早急な診断と治療が必要です。
本記事ではこのくも膜下出血の定義や原因、全庁、症状や予防方法などについて解説します。
くも膜下出血とは
くも膜下出血(くもまくかしゅっけつ)は、脳卒中の一種で、脳を覆う膜の一つであるくも膜と脳の間に出血が起こる病気です。
主な原因は脳動脈瘤の破裂で、これにより突然の激しい頭痛や吐き気、嘔吐、意識障害などが引き起こされることが特徴です。
診断にはCTスキャンやMRIなどの画像検査が使われ、脳内出血の位置や広がりを正確に把握するために迅速に行われることが重要です。
治療は緊急を要し、開頭手術やカテーテルを用いた脳血管内治療などが行われ、血管を修復して再出血を防ぐことが目的です。
また、適切な治療を受けた後も、リハビリテーションや後遺症のケアが重要で、長期的な経過観察が必要となる場合があります。
くも膜下出血の原因
くも膜下出血は、脳を包む膜のひとつであるくも膜の下で出血が起こる病気です。
このくも膜下出血の原因としては…
- 脳動脈瘤の破裂
- 脳動静脈奇形
- 脳動脈解離
- 頭部外傷
- 脳腫瘍
- 血管疾患
…などがあげられます。
それぞれ解説します。
脳動脈瘤の破裂
脳動脈瘤とは、脳の血管の壁が弱くなり、こぶ状に膨らむ状態を指します。
くも膜下出血の主な原因の約80%を占めるのが、この脳動脈瘤の破裂です。
破裂すると脳の周囲に大量の血液が流れ込み、激しい頭痛や意識障害を引き起こします。
多くの場合、突然の強烈な頭痛が最初の症状であり、場合によっては意識を失うこともあります。
脳動脈瘤の破裂は、早期診断と治療が非常に重要で、手術やカテーテル治療で破裂した血管を閉じる必要があります。
脳動静脈奇形
脳動静脈奇形は、脳の動脈と静脈が直接つながってしまう先天的な血管異常です。
本来、動脈と静脈の間には毛細血管が存在し、血流を緩やかに調整しますが、奇形があると血液が一気に流れ込み、血管に過度の負担がかかります。
この負担によって血管が破裂し、くも膜下出血が引き起こされることがあります。
脳動静脈奇形の破裂は突然の激しい頭痛や神経症状を引き起こし、緊急の治療が必要です。
破裂を防ぐためには、血管を封じる手術や放射線治療が行われます。
脳動脈解離
脳動脈解離は、脳の動脈の内膜が裂け、血液が血管壁の中に入り込む状態です。
これにより、血管が狭窄したり、血流が遮断されたりすることで、脳卒中を引き起こすリスクがあります。
また、裂けた部分がさらに拡大すると、血管が破裂し、くも膜下出血を引き起こすことがあります。
脳動脈解離は、高血圧や外傷が引き金となることが多く、激しい頭痛や視覚障害、麻痺などの症状が現れます。
早期発見と治療が重要で、場合によっては外科的治療が必要です。
頭部外傷
頭部外傷もくも膜下出血の一因となり得ます。
転倒や衝突、事故などによって頭に強い衝撃を受けた場合、脳表面の血管が破れ、出血がくも膜下の空間に広がることがあります。
軽度の外傷でも、脳内出血を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。
頭部外傷によるくも膜下出血は、事故直後に強い頭痛、吐き気、意識障害などの症状が見られることがあり、緊急治療が求められます。
治療法は、出血の範囲や患者の状態によって異なり、手術が行われることもあります。
脳腫瘍
脳腫瘍もくも膜下出血の原因になることがあります。
腫瘍が成長する過程で周囲の血管を圧迫し、その結果、血管が破れて出血することがあります。
特に血管腫瘍や悪性腫瘍の場合、血管への影響が大きく、突然のくも膜下出血を引き起こすことがあります。
脳腫瘍による出血は、通常の脳卒中と同様に激しい頭痛や神経症状を伴い、迅速な対応が求められます。
治療としては、腫瘍の除去や放射線療法、化学療法が行われ、併せて出血の制御も必要です。
血管疾患
高血圧や動脈硬化など、血管の状態に関わる病気もくも膜下出血の原因となります。
高血圧が続くと、血管壁が弱くなり、特に脳内の細い血管が破れやすくなります。
動脈硬化も血管壁の硬化や狭窄を引き起こし、血流に影響を与えることで血管が破裂するリスクを高めます。
このような血管疾患は、生活習慣の改善や薬物治療で予防することが可能ですが、管理が不十分だと脳卒中やくも膜下出血につながることがあります。
血圧のコントロールや定期的な検査が重要です。
くも膜下出血の前兆
くも膜下出血は、突然激しい頭痛が起こることが特徴的な病気ですが、必ずしも全員が激しい頭痛を経験するわけではありません。
一部の人では、本出血の前に以下の様な前兆が現れることがあります。
- 軽い頭痛(警告頭痛)
- 動眼神経麻痺
- 吐き気・嘔吐
- 意識状態の悪化
- 視力障害
- 血圧の変動
それぞれ解説します。
軽い頭痛(警告頭痛)
くも膜下出血の前兆として現れる軽い頭痛は、少量の出血によって引き起こされることがあります。
この頭痛は「警告頭痛」とも呼ばれ、通常の頭痛とは異なり、突然現れることが特徴です。
多くの場合、この頭痛は一時的であり、痛み止めを服用すれば和らぐことがありますが、実際には脳動脈瘤が破裂する前兆であることが少なくありません。
この頭痛を軽視すると、後に本格的な出血を引き起こし、致命的な結果になる可能性があります。
したがって、激しい頭痛が突然起こった場合は、医療機関を受診し、検査を受けることが推奨されます。
動眼神経麻痺
動眼神経麻痺は、まぶたが下がる(眼瞼下垂)や、物が二重に見える(複視)といった症状を伴います。
これは、くも膜下出血が原因となる脳動脈瘤が眼の運動を司る動眼神経に圧力をかけることで発生します。
初期段階では、視界がぼやけたり、片目の動きが不自然になることがあり、これらが脳動脈瘤の存在を示唆することがあります。
動眼神経麻痺が急速に進行すると、他の神経症状も現れる可能性があるため、早期の医療評価が重要です。
この状態を見逃すと、脳動脈瘤が破裂するリスクが高まります。
吐き気・嘔吐
吐き気や嘔吐は、くも膜下出血の前兆として現れることがあり、髄膜が血液によって刺激されることで引き起こされます。
くも膜下の出血によって脳内圧が上昇し、脳圧の急激な変化が嘔吐中枢を刺激することが原因です。
吐き気や嘔吐は風邪や胃腸炎などの一般的な症状でもありますが、これが突然発症し、強い頭痛を伴う場合にはくも膜下出血を疑う必要があります。
特に、薬を服用しても改善しない激しい嘔吐が続く場合には、脳内出血のリスクを考慮し、早急に医療機関で診察を受けるべきです。
意識状態の悪化
くも膜下出血の前兆として、徐々に意識状態が悪化することがあります。
たとえば、質問に正確に答えられなくなったり、自分の名前や現在の場所が言えなくなることが見られます。
このような認知機能の低下は、脳の一部に出血が広がり、正常な神経活動が妨げられているサインです。
初期には軽い混乱やぼんやりとした感覚が現れることもありますが、放置すると完全に意識を失うことがあります。
意識障害が進行する場合、非常に重篤な状態に移行する前兆であるため、速やかに救急対応を受ける必要があります。
視力障害
くも膜下出血の前兆として、視力に異常が生じることがあります。
具体的には、片側の目が見えなくなったり、物が二重に見える(複視)などの視覚的な異常が発生します。
これは、脳動脈瘤が視神経に圧力をかけたり、出血によって視神経が損傷されることで生じます。
視力障害が発生すると、その後、より深刻な神経症状が現れる可能性があるため、これらの症状を放置せずに医療機関で検査を受けることが推奨されます。
早期の診断と治療が行われることで、視力の回復やさらなる合併症の予防が期待できます。
血圧の変動
くも膜下出血の前兆として、血圧が急激に上昇または下降することがあります。
特に血圧が急上昇する場合、脳動脈瘤への圧力が増し、破裂するリスクが高まります。
高血圧の状態が続くと、脳内の血管がさらにダメージを受けやすくなり、最終的にはくも膜下出血を引き起こす可能性があります。
また、急な血圧低下も脳への血流を減少させ、意識障害や神経症状を悪化させる要因となります。
したがって、血圧の急激な変動を感じた場合は、速やかに医師の診断を受けることが大切です。
くも膜下出血の症状
くも膜下出血は、突然の激しい頭痛が特徴的な病気ですが、人によって症状は様々です。
主な症状は以下の通りです。
- 突然の激しい頭痛
- 吐き気・嘔吐
- 意識障害
- めまい
- 視力障害
- けいれん
- 感覚障害
- 発音障害
それぞれ解説します。
突然の激しい頭痛
くも膜下出血の最も典型的な症状は、突然の激しい頭痛です。
この頭痛はしばしば「バットで殴られたような痛み」と形容され、通常の頭痛とは異なる強烈な痛みが突発的に現れます。
脳動脈瘤が破裂し、血液が脳内のくも膜下空間に流れ込むことによって、脳内圧が急激に上昇し、これが痛みの原因となります。
痛みは後頭部に集中することが多く、日常の活動中に突然発生することが一般的です。
この症状が現れた場合、すぐに医療機関を受診することが不可欠であり、時間が経つほどリスクが高まります。
吐き気・嘔吐
くも膜下出血では、吐き気や嘔吐が頻繁に見られる症状の一つです。
髄膜が血液によって刺激されることで、脳の嘔吐中枢が活性化されるため、強い吐き気や嘔吐が引き起こされます。
頭痛に続いて現れることが多く、出血の程度が大きいほど、吐き気や嘔吐の頻度や強さが増す傾向にあります。
これは単なる胃腸の不調ではなく、くも膜下出血による脳内の異常反応によって起こるため、早急な対応が必要です。
吐き気や嘔吐が治まらない場合、脳内圧がさらに上昇している可能性があるため、直ちに医療機関で診断を受けることが重要です。
意識障害
くも膜下出血による意識障害も、非常に深刻な症状の一つです。
軽度の意識混濁から、完全な意識喪失に至るまで、症状の重さはさまざまです。
脳内出血が広がるにつれて、脳の働きが妨げられ、意識がもうろうとした状態や混乱が見られることがあります。
また、脳全体への血流が不足することで、深刻な場合には昏睡状態に陥ることもあります。
これらの症状が現れた場合は、すぐに救急対応が必要であり、治療が遅れると後遺症や死亡のリスクが高まります。
めまい
くも膜下出血では、脳内圧の変化や出血によってバランス感覚が乱れ、めまいが引き起こされることがあります。
めまいは突然発生し、立っていることが困難になったり、ふらついたりすることが特徴です。
これは、脳のバランスを司る小脳や前庭系が、出血によって圧迫されたり機能を阻害されたりすることで発生します。
くも膜下出血が原因のめまいは、通常のめまいとは異なり、他の神経症状を伴うことが多いため、すぐに医師の診察を受けることが推奨されます。
視力障害
くも膜下出血の症状の一つとして、視力に異常が生じることがあります。
物が二重に見える(複視)や視力が急激に低下するなどの視覚的な症状が現れることがあり、これは出血が視神経や視覚を司る脳の部分に影響を与えるためです。
また、出血によって脳圧が上昇し、視界がぼやけることもあります。
視力障害が突然発生した場合は、脳内での重大な異常が進行している可能性が高いため、迅速に医療機関での対応が必要です。
視力が回復するには、早期の治療が極めて重要となります。
けいれん
くも膜下出血では、筋肉の不随意な収縮、つまりけいれんが発生することがあります。
これは、脳内の電気的な異常活動が原因であり、出血によって脳細胞が損傷を受けることで発生します。
けいれんは全身に及ぶ場合もあれば、特定の部位に限定されることもあります。
けいれんが続くと、呼吸や循環機能に影響を与え、生命に関わる危険性があるため、すぐに救急対応が必要です。
けいれん発作が起きた場合、意識障害やその他の神経症状と併発することが多いため、早急な診断と治療が求められます。
感覚障害
くも膜下出血の症状として、体の一部がしびれたり、感覚が鈍くなることもあります。
これは、出血が脳の感覚を司る部分に影響を与え、神経信号の伝達が妨げられるためです。
感覚障害は、片側の手や足に限定されることが多く、脳卒中と類似した症状を示します。
感覚障害は、脳内の出血の広がりや位置によって異なり、放置するとさらに重篤な症状を引き起こす可能性があります。
このような異常が見られた場合は、すぐに医療機関を受診し、精密検査を受けることが重要です。
発音障害
くも膜下出血では、言葉がうまく出てこない、言葉を発しても不明瞭になるなどの発音障害が現れることがあります。
これは、出血が言語を司る脳の部位に影響を与えるためで、脳卒中に類似した症状が現れることが特徴です。
言葉を出すことが困難になると、患者はコミュニケーションに支障をきたし、急速に意識障害や神経症状が進行することがあります。
発音障害が突然現れた場合、脳内での出血が進行しているサインであるため、速やかに医療機関での診察と治療が必要です。
くも膜下出血の合併症
くも膜下出血は、脳の血管が破れて出血する病気であり、適切な治療を受けないと様々な合併症を引き起こす可能性があります。
ここでは主な合併症として…
- 再出血
- 脳血管攣縮
- 水頭症
- 肺炎
- 心不全
- 腎不全
- 髄膜炎
- 深部静脈血栓症
…などがあげられます。
それぞれ解説します。
再出血
再出血は、くも膜下出血の初回出血後に再び出血が起こる非常に危険な合併症です。
脳動脈瘤が破裂した部位から再び血液が漏れ出し、二度目の出血が起こることを指します。
再出血は、初回の出血よりも死亡率が高く、患者の命に直結するリスクが大幅に増加します。
特に、初回出血後24時間以内に再出血が起こることが多く、早期の治療が必要です。
再出血を防ぐためには、早急に外科的治療を行い、動脈瘤をクリッピングやコイル塞栓術で塞ぐことが推奨されます。
脳血管攣縮
脳血管攣縮は、くも膜下出血後の数日から2週間後に発生し、脳の血管が収縮して血流が不足する現象です。
これにより、脳梗塞が引き起こされ、麻痺や言語障害、意識障害などの神経症状が悪化します。
攣縮が起こると、脳への酸素供給が減少し、さらに脳組織がダメージを受けるため、予後が悪化する原因となります。
脳血管攣縮を防ぐためには、血管拡張薬の投与や、適切な水分補給などが行われます。
また、早期に脳動脈瘤の治療が行われることで、攣縮のリスクを低減できます。
水頭症
水頭症は、脳脊髄液の流れが障害され、脳室内に過剰な液体がたまる状態で、くも膜下出血の合併症としてしばしば見られます。
水頭症により、脳内圧が上昇し、頭痛や嘔吐、歩行障害、尿失禁、認知障害などが現れます。
特に、急性期には脳圧が急激に上昇し、意識障害が生じることがあります。
治療としては、脳室にシャント(チューブ)を挿入して脳脊髄液を排出し、圧力を調整する手術が行われます。
水頭症は、早期発見と治療によって、症状の進行を食い止めることが可能です。
肺炎
くも膜下出血後、長期の寝たきり状態や免疫力の低下により、肺炎が発生することがあります。
特に、高齢者や重症患者は、呼吸機能が低下しやすく、痰がうまく排出できないことから肺炎のリスクが高まります。
また、人工呼吸器を使用している患者も感染症のリスクが上昇します。
肺炎の予防には、早期のリハビリテーションや定期的な体位変換、痰の排出を助ける吸引処置が必要です。
肺炎は、適切な予防策を講じないと全身状態を悪化させ、さらに合併症を引き起こすことがあります。
心不全
くも膜下出血の患者は、ストレスや全身状態の悪化によって心臓に負担がかかり、心不全を引き起こすことがあります。
急激な血圧の変動や体の免疫反応が、心臓に過剰な負荷をかけるため、心機能が低下するリスクが高まります。
特に、高齢者や既に心疾患を抱えている患者では、このリスクが顕著です。
心不全の予防には、くも膜下出血後の血圧管理や、心機能の継続的なモニタリングが重要です。
心不全が発生すると、呼吸困難や胸痛などの症状が現れ、迅速な治療が必要です。
腎不全
腎不全は、全身状態の悪化や使用される薬剤の影響で腎機能が低下し、尿が十分に生成されなくなる状態です。
くも膜下出血の重症患者は、循環不全やショック状態に陥ることがあり、これが腎機能に悪影響を及ぼします。
特に、血圧が不安定な状態や、腎臓に負担がかかる薬物の投与が続くと、腎不全が進行する可能性があります。
腎不全の予防には、血液循環の安定化や、腎機能を守るための薬剤調整が必要です。
腎不全が発生すると、透析療法が必要になる場合もあります。
髄膜炎
髄膜炎は、くも膜下出血後に感染が引き起こされ、脳や脊髄を覆う髄膜が炎症を起こす状態です。
出血部位や手術の際に細菌が侵入することで感染が発生し、髄膜炎が起こる可能性があります。
髄膜炎の症状には、発熱、頭痛、項部硬直、意識障害などがあり、速やかに抗生物質や抗ウイルス薬の治療が必要です。
髄膜炎は適切に治療されない場合、脳に広がってさらなる合併症を引き起こす可能性があるため、早期発見と対応が重要です。
深部静脈血栓症
深部静脈血栓症は、長期間のベッド上での生活や活動制限により、下肢の静脈に血栓(血の塊)ができる状態です。
血栓が形成されると、血流が阻害され、最悪の場合、その血栓が肺に流れ込んで肺塞栓症を引き起こすリスクがあります。
これにより、呼吸困難や突然の胸痛、さらには生命の危険が伴います。
深部静脈血栓症の予防には、早期のリハビリテーションや、弾性ストッキングの使用、血液をサラサラにする薬剤の投与が行われます。
予防的措置を講じることが、患者の安全を守るために重要です。
くも膜下出血の後遺症
くも膜下出血は、適切な治療を受ければ回復する方もいますが、後遺症が残る可能性もあります。
後遺症の種類や程度は、出血量、出血部位、治療法、個人の体質などによって大きく異なります。
ここでは主な後遺症として…
- 片麻痺・半身麻痺
- 感覚障害
- 嚥下障害
- 言語障害
- 高次脳機能障害
- 視野障害
- 人格・精神面の変化
…があげられます。
それぞれ解説します。
片麻痺・半身麻痺
くも膜下出血の後遺症として最も一般的なのが、片麻痺や半身麻痺です。
これは脳内の出血によって運動を司る脳の部分が損傷され、体の片側に麻痺が生じる状態です。
手足の動きが鈍くなり、物を持つ、歩くといった日常の基本的な動作が困難になることがあります。
リハビリテーションを通じて機能の回復を目指しますが、完全に元の状態に戻ることは難しい場合もあります。
早期のリハビリや継続的な治療が、麻痺の軽減や生活の質の向上に大きく影響します。
感覚障害
感覚障害もくも膜下出血の後遺症として頻繁に見られます。
体の一部にしびれが残ったり、感覚が鈍くなることがあります。
この感覚障害は、損傷を受けた脳の部分によって異なり、手や足、顔など特定の部位に限定されることが多いです。
感覚の低下は生活に支障をきたし、例えば物をつかむ際に力加減が分からなくなることや、熱い物を触ったときに気づきにくくなるといった問題が生じます。
感覚障害の改善にはリハビリテーションが必要であり、時間をかけて徐々に回復を目指すことが一般的です。
嚥下障害
くも膜下出血の後遺症として嚥下障害も見られることがあります。
脳の出血により、食べ物や飲み物を飲み込む機能が低下し、誤嚥(飲食物が気管に入ること)や窒息のリスクが高まります。
この障害は特に高齢者に多く、食事の際に窒息する危険性があるため、食事内容や飲み込み方を工夫する必要があります。
嚥下障害の改善には専門的なリハビリが必要で、言語聴覚士(ST)の指導のもと、飲み込みの訓練を行うことが重要です。
適切な管理がされないと、肺炎などの合併症を引き起こすリスクがあります。
言語障害
言語障害は、出血が言語を司る脳の部位に影響を与えた場合に起こります。
話すことが難しくなる運動性失語や、相手の言葉を理解することが困難になる感覚性失語など、さまざまな形で現れます。
くも膜下出血後の言語障害は、患者のコミュニケーション能力に大きな影響を与え、社会生活や仕事に支障をきたすことが多いです。
言語障害を改善するためには、言語聴覚士(ST)によるリハビリテーションが必要であり、継続的な訓練を通じてコミュニケーション能力を回復させることが求められます。
高次脳機能障害
くも膜下出血の後遺症として高次脳機能障害が発生することがあります。
これは記憶力、注意力、計画力、判断力といった知的機能が低下する状態であり、日常生活において様々な困難をもたらします。
例えば、日付や予定を覚えられなくなったり、複雑な作業を順序立てて行うことができなくなることがあります。
高次脳機能障害の程度は患者によって異なり、軽度の場合は日常生活を送ることが可能ですが、重度の場合は介助が必要になることがあります。
リハビリを通じて、記憶力や注意力を少しずつ回復させる取り組みが行われます。
視野障害
視野障害は、くも膜下出血後に視覚を司る脳の部位が損傷された場合に発生します。
視野が狭くなったり、片側の視野が欠ける半側空間無視などが代表的な症状です。
また、物が二重に見える複視や、全体的に視力が低下することもあります。
これらの視覚障害は日常生活に大きな影響を与え、歩行中に物にぶつかりやすくなるなど、生活の質を低下させます。
リハビリテーションや適切な補助具の使用が視覚障害の克服に役立つ場合があり、視力の回復を目指す治療が行われます。
人格・精神面の変化
くも膜下出血の後遺症として、人格や精神面に変化が見られることがあります。
感情のコントロールが難しくなり、些細なことで激怒したり、逆に感情が鈍くなることがあります。
また、うつ病や不安障害が発症し、以前のように意欲的に生活を送れなくなるケースも少なくありません。
特に、脳の前頭葉や側頭葉が損傷された場合、このような精神的な後遺症が現れやすくなります。
治療には薬物療法や心理療法が有効であり、家族や周囲のサポートも重要です。
くも膜下出血の死亡率
くも膜下出血の死亡率についてですが、ここでは…
- 日本における状況
- 経時的な変化
- 5年生存率
- 病院の症例数による影響
…という視点から解説します。
日本における状況
日本ではくも膜下出血の発症率が比較的高く、特に中高年層で多く見られます。
年間死亡率は約20人/10万人口とされ、日本人において発症しやすい疾患の一つと位置付けられています1)。
この死亡率は、くも膜下出血の重篤性と初期対応の難しさを反映しており、早急な診断と治療が行われない場合、生命に危険を及ぼす可能性が非常に高いです。
さらに、日本では脳動脈瘤の破裂がくも膜下出血の主要な原因とされており、予防的治療や早期診断の重要性が強調されています。
このため、定期的な健康診断や脳ドックの利用が推奨されています。
経時的な変化
2000年代以降、くも膜下出血の院内死亡率は大幅に減少しており、これは治療技術の進歩と医療体制の向上が寄与していると考えられます。
具体的には、2002年には32.2%だった院内死亡率が2010年には22.2%に低下しており、この傾向は脳血管内手術やカテーテル技術の進展、集中治療の向上により説明されます2)。
また、発症後のリハビリテーションや経過観察の重要性も認識されるようになり、早期治療が生存率に大きな影響を与えることが分かっています。
この減少傾向は、今後もさらなる治療法の改良と医療アクセスの向上により続くことが期待されています。
5年生存率
くも膜下出血の5年生存率は54.9%と報告されており、これは他の脳血管疾患と比較してやや低い数値となっています。
例えば、栃木県で行われた調査では、脳出血の5年生存率は57.9%、脳梗塞は62.8%と、どちらもくも膜下出血より高い数値を示しています3)。
この背景には、くも膜下出血が突然発症し、重篤な症状を伴うことが多いため、後遺症や合併症のリスクが高いことが挙げられます。
発症後の生活の質にも大きく影響を及ぼし、長期的な経過観察や適切なリハビリテーションが重要です。
治療の早期介入や継続的なケアが、長期的な生存率の向上に繋がります。
病院の症例数による影響
くも膜下出血の治療成績は、病院の症例数に大きく依存することが研究で明らかにされています。
年間100例以上の症例を扱う病院では、死亡率が18.7%と比較的低いのに対し、年間80例の病院では19.8%とわずかに高くなり、さらに症例数が少ない病院では死亡率がさらに高くなる傾向が見られます2)。
これは、高症例数の病院では、専門的な治療チームが整っていることや、最新の治療設備が整備されているためと考えられます。
患者が適切な医療施設に早期に搬送されることが、治療成績に直結するため、迅速な対応が求められます。
くも膜下出血の予防方法
くも膜下出血は、突然起こる恐ろしい病気ですが、いくつかの予防策を講じることで、リスクを下げることができます。
ここではその予防方法として…
- 高血圧の管理
- 禁煙
- 適度な飲酒
- 適度な運動
- バランスの良い食事
- ストレス管理
- 定期的な健康診断
…について解説します。
高血圧の管理
高血圧はくも膜下出血の最も大きなリスク要因の一つであり、血圧を適切に管理することが予防の基本です。
高血圧は血管に大きな負担をかけ、動脈瘤ができやすくなり、破裂するリスクを高めます。
血圧を正常範囲に保つためには、食事や運動、ストレス管理など、日常生活での予防策が重要です。
定期的に血圧を測定し、医師の指導に基づいた治療や生活改善を行うことで、くも膜下出血のリスクを大幅に減らすことができます。
特に40歳以上の人は、血圧を常にチェックし、必要に応じて降圧薬を使用することが推奨されます。
禁煙
喫煙は血管にダメージを与え、血管壁を弱くし、動脈瘤の破裂リスクを高めるため、禁煙は重要な予防策です。
タバコに含まれる有害物質は、動脈硬化を促進し、血圧を上昇させ、血管の壁を脆くする作用があります。
そのため、長期的に喫煙を続けることで、動脈瘤の形成や破裂の可能性が高まります。
禁煙をすることで、血管の健康を保ち、くも膜下出血だけでなく、他の脳卒中や心血管疾患のリスクも軽減できます。
禁煙はどのタイミングでも遅くなく、早めに始めることで予防効果が大きくなります。
適度な飲酒
適度な飲酒を心がけ、アルコールの過剰摂取を避けることも、くも膜下出血の予防に重要です。
大量のアルコール摂取は一時的に血圧を上昇させるため、動脈瘤の破裂リスクが増大します。
飲酒をする際は、適度な量を守り、週に数回は休肝日を設けることが推奨されます。
特に中高年層はアルコール摂取に伴うリスクが高まるため、適度な飲酒習慣を意識することが重要です。
厚生労働省のガイドラインでは、適度な飲酒量は1日あたりビール中瓶1本程度とされており、それを超えないように心がけるとよいでしょう。
適度な運動
定期的な適度な運動は、血圧を安定させ、動脈硬化を予防する効果があり、くも膜下出血のリスクを減らすために非常に有効です。
ウォーキングやジョギング、サイクリングといった有酸素運動は、血管の弾力性を保ち、血流を改善する作用があります。
ただし、無理のない範囲で行うことが重要であり、過度な運動は逆に血管に負担をかける可能性があるため、注意が必要です。
毎日少しずつでも続けることで、血圧を下げ、健康的な血管を保つことができ、くも膜下出血の予防に役立ちます。
バランスの良い食事
バランスの良い食事も、くも膜下出血の予防に不可欠です。
特に塩分を控えめにし、野菜や果物を多く摂取することで、血圧の管理に役立ちます。
塩分の過剰摂取は高血圧を引き起こし、血管に負担をかけるため、食事の中で塩分を抑えることが重要です。
カリウムを多く含む食品(バナナ、ほうれん草など)は血圧を下げる効果があり、積極的に摂取すると良いでしょう。
また、動脈硬化を防ぐために、青魚やオリーブオイルといった良質な脂肪を含む食品もバランスよく摂ることが推奨されます。
ストレス管理
ストレスは血圧を上昇させ、長期間にわたって体に負担をかけるため、ストレスを適切に管理することがくも膜下出血の予防に役立ちます。
過度のストレスは交感神経を刺激し、血圧の急激な上昇を引き起こすことがあり、これが動脈瘤の破裂リスクを高める要因となります。
リラクゼーション法や趣味の時間を持つこと、適度な休息を取ることがストレス軽減に効果的です。
また、定期的な運動や瞑想、ヨガなどの方法も、ストレスを和らげるのに有効です。
生活習慣を見直し、ストレスの少ない生活を心がけることが重要です。
定期的な健康診断
くも膜下出血を引き起こす脳動脈瘤は、早期に発見されることで予防や治療が可能となります。
定期的な健康診断を受けることは、脳動脈瘤を早期に見つけるための有効な手段です。
特に脳ドックを受けることで、くも膜下出血のリスク因子である動脈瘤の有無を確認することができ、必要に応じて早期の治療が行われます。
40歳を超えたら定期的に脳ドックを受けることが推奨されており、早期発見・早期治療が生命を守る鍵となります。
健康診断による継続的な監視が、くも膜下出血の予防に大きく貢献します。
くも膜下出血の診断方法
くも膜下出血の診断方法としては…
- 問診
- 身体診察
- 画像検査
- 髄液検査
- 脳血管造影検査
…などがあげられます。
それぞれ解説します。
問診
くも膜下出血の診断において、問診は非常に重要な初期ステップです。
医師はまず、患者の自覚症状を確認し、突然の激しい頭痛や吐き気、嘔吐、意識障害などの症状について尋ねます。
さらに、患者の生活習慣や既往歴、家族歴、喫煙や飲酒の習慣、高血圧や糖尿病といったリスクファクターの有無を確認します。
この情報は、出血の原因やリスク要因を特定し、適切な診断に導くための重要な手掛かりとなります。
問診によって得られた情報は、その後の検査や治療方針を決定する上で欠かせません。
身体診察
身体診察では、意識レベルの確認やバイタルサイン(血圧、心拍数、呼吸など)の測定が行われます。
くも膜下出血では、急激に意識が低下したり、意識が混濁することが多いため、意識レベルを評価することは極めて重要です。
また、神経診察を通じて、麻痺や視覚障害、言語障害などの神経症状が現れていないかを確認します。
こうした身体的な兆候は、出血の部位や広がりを推測する手助けとなり、医師が迅速に次の検査ステップに進むための判断材料になります。
画像検査
くも膜下出血の診断には、画像検査が欠かせません。
最も一般的に使用されるのが頭部CT検査で、出血の有無を迅速に確認できるため、発症後24時間以内の診断に特に有効です。
CTスキャンでは、脳内の出血部位や大きさを詳細に把握でき、治療方針を決定するための重要な情報が得られます。
さらに、頭部MRI検査は、CTスキャンでは捉えきれない小さな出血や、出血の進行具合を詳細に観察するために使用されます。
MRIはより詳細な脳構造を提供するため、特に精密な評価が必要な場合に有効です。
髄液検査
髄液検査は、腰椎穿刺を行い、脳脊髄液を採取して血液が混ざっているかどうかを確認する方法です。
CTやMRIで出血が確認できなかった場合や、診断が不明確な場合に実施されます。
髄液中に血液が含まれていると、くも膜下出血の可能性が高いと考えられます。
特に、出血が微小で画像検査で見つけにくい場合や、発症からある程度時間が経過している場合に有効です。
髄液検査は、出血の有無を確認するための補完的な検査手段として重要な役割を果たします。
脳血管造影検査
脳血管造影検査は、くも膜下出血の原因である脳動脈瘤やその他の血管異常を詳細に調べる検査です。
この検査では、血管の内部に造影剤を注入し、X線を使って血管の形状や異常を確認します。
脳動脈瘤の有無やその位置、大きさを正確に把握することができるため、治療法の選択や手術計画を立てる際に欠かせません。
また、脳動脈瘤の破裂リスクや今後の治療の必要性を評価するためにも重要な情報が得られます。
この検査は、くも膜下出血の根本原因にアプローチするために非常に重要な診断方法です。
くも膜下出血の治療
くも膜下出血の治療は、出血の原因である脳動脈瘤を治療し、再出血を防ぐことが主な目的です。
治療法は大きく分けて以下の2つがあります。
- 脳動脈瘤クリッピング術
- 脳動脈瘤コイル塞栓術
それぞれ解説します。
脳動脈瘤クリッピング術
脳動脈瘤クリッピング術は、くも膜下出血の治療法として最も根治性が高い方法の一つです。
この手術は、頭蓋骨を開いて直接動脈瘤にアプローチし、金属のクリップを動脈瘤の根元にかけて血流を遮断するものです。
この方法の最大のメリットは、動脈瘤を完全に閉じることができるため、再出血のリスクが非常に低くなる点です。
また、治療後に動脈瘤が再発する可能性が少なく、長期的な効果が期待されます。
しかし、開頭手術であるため、身体への負担が大きく、術後の回復期間が長くなることがデメリットとなります。
また、動脈瘤の位置によっては、手術そのものが技術的に難しい場合があり、慎重な判断が必要です。
脳動脈瘤コイル塞栓術
脳動脈瘤コイル塞栓術は、カテーテルを用いた低侵襲の治療法で、近年多くの症例で採用されています。
この方法では、カテーテルを大腿部の血管から挿入し、プラチナ製のコイルを動脈瘤内に詰め込むことで血流を遮断します。
メリットとしては、開頭手術と比べて体への負担が少なく、術後の回復が早い点が挙げられます。
さらに、血管内で行うため、術中の出血リスクも低くなります。
しかし、動脈瘤の大きさや形状によっては、コイルだけでは完全に血流を遮断できないことがあり、その場合は再治療が必要になることがあります。
また、コイルが移動したり、動脈瘤が再度成長する可能性もあるため、術後の経過観察が重要です。
くも膜下出血と脳梗塞との違い
くも膜下出血と脳梗塞は、どちらも脳の血管に異常が起こることで発症する病気で、まとめて脳卒中と呼ばれることがあります。
しかし、その原因や症状、治療法は大きく異なります。
ここではその違いについて…
- 原因
- 主な症状
- 治療
- 特徴
…という観点から解説します。
原因
くも膜下出血と脳梗塞の主な違いは、その発症の原因にあります。
くも膜下出血は、脳の表面にある血管、特に脳動脈瘤が破裂して出血することで発生します。
これに対し、脳梗塞は血管が詰まり、脳の一部が酸素や栄養を供給されなくなることで起こります。
脳梗塞は、血栓が血管を塞ぐことが主な原因であり、動脈硬化や心臓から血栓が流れてくる心原性脳梗塞など、さまざまなタイプが存在します。
つまり、くも膜下出血は「出血」が原因であり、脳梗塞は「詰まり」が原因で発症します。
主な症状
くも膜下出血の主な症状は、突然の激しい頭痛が特徴的です。
「バットで殴られたような痛み」と表現されることがあり、吐き気や嘔吐、意識障害、視力障害などが同時に現れることが多いです。
一方、脳梗塞の主な症状は、片側の麻痺や言語障害、視力障害がよく見られます。
脳梗塞では、血流が途絶えた部分の脳が機能しなくなるため、その部位に関連する身体機能に異常が現れます。
たとえば、左脳が影響を受けた場合、右側の麻痺や言語障害が発生することが典型的です。
治療
くも膜下出血の治療には、主に脳動脈瘤を直接治療する方法が採用されます。
具体的には、脳動脈瘤クリッピング術やコイル塞栓術が行われ、これらの手術で動脈瘤を塞いで再出血を防ぐことが重要です。
一方、脳梗塞の治療は、詰まった血管を再開通させることが中心です。
血栓溶解療法(tPA)を用いて血栓を溶かす方法や、抗血小板薬の投与で血流を改善することが一般的です。
さらに、カテーテルを用いて詰まった血管を開く血管内治療も、特に発症後の早い段階で効果を発揮します。
特徴
くも膜下出血の特徴は、急性で劇的な症状が突然発生することです。
特に激しい頭痛を伴うため、患者自身も発症を認識しやすいですが、すぐに意識障害が進行するため、迅速な対応が必要です。
また、くも膜下出血は脳の表面に出血が広がり、脳全体に影響を及ぼすことがあります。
一方、脳梗塞は、特定の血管が詰まることで脳の特定の部分に影響が出ます。
そのため、影響を受ける機能は血流が途絶えた脳の部位によって異なります。
脳梗塞は、発症後すぐに治療が行われないと脳組織が不可逆的に損傷されるため、早期治療が予後に大きく影響します。
くも膜下出血と記憶障害
くも膜下出血によって脳組織が損傷を受けると、様々な後遺症が起こることがあります。
その一つが記憶障害です。
ここでは…
- なぜ記憶障害が起こるのか
- 記憶障害の種類
- 記憶障害のリハビリと対処法
- 記憶障害の予防と治療
…について解説します。
なぜ記憶障害が起こるのか
記憶障害は、くも膜下出血の後遺症としてよく見られる問題です。
記憶を形成する脳の重要な部分が、出血によって損傷を受けるため、短期記憶や長期記憶が影響を受けることがあります。
特に、新しい情報を記憶する役割を持つ海馬や、過去の記憶を保存する大脳皮質が出血で損傷を受けることが多いです。
海馬が損傷を受けると、新しい出来事を覚えにくくなり、短期間で情報を忘れてしまう短期記憶障害が発生します。
また、大脳皮質の損傷によっては、過去の出来事や言葉の意味を思い出せなくなる長期記憶障害が発生します。
記憶障害の種類
くも膜下出血によって引き起こされる記憶障害には、いくつかの種類があります。
まず、短期記憶障害は、最近の出来事や新しい情報を短時間で忘れてしまう状態です。
例えば、約束の時間や場所をすぐに忘れることが挙げられます。
次に、長期記憶障害では、過去の出来事や経験を思い出せなくなることがあります。
さらに、エピソード記憶障害では、特定の出来事や体験が思い出せなくなり、意味記憶障害では、言葉や物事の名前・意味を忘れることがあります。
これらの障害の程度は、出血の規模や脳の損傷部位によって異なります。
記憶障害のリハビリと対処法
記憶障害のリハビリテーションは、さまざまな方法を組み合わせて行われます。
視覚イメージ法では、目に見えるものと言葉を結びつけることで記憶を助けます。
ペグ法は、覚える必要がある情報を身体の部位に関連付ける技術です。
また、外部記憶媒体の活用も効果的で、手帳やモバイル端末を使って重要な情報を記録し、繰り返し確認することが推奨されます。
日常生活の中では、家族や周囲のサポートが不可欠です。
メモをすぐに使えるようにしておく、大切な物の置き場所を決める、日課を視覚的に確認できるようにするなど、環境調整が記憶障害の管理に役立ちます。
記憶障害の予防と治療
記憶障害の予防は、くも膜下出血そのものを予防することが基本です。
高血圧や糖尿病といった生活習慣病の管理が重要で、定期的な健康診断を受けることが推奨されます。
特に、脳ドックを受けて脳動脈瘤の有無を確認することで、くも膜下出血の予防が可能です。
治療においては、薬物療法やリハビリテーションが行われます。
神経細胞の働きを改善する薬物や、記憶訓練、認知行動療法が一般的です。
リハビリテーションによって、損傷を受けた脳の機能を回復させることができ、日常生活の質を向上させることが期待されます。
参考
1)https://www.semanticscholar.org/paper/828eb68fcd730c631995937c459a65e986470259
2)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26110818/
3)https://www.semanticscholar.org/paper/1240cc9bc0005deb77602db054814f468f4401e2