ここ数年で“睡眠の質”なんて言葉が一般的になってきたように、非常に“睡眠”という生活行為の重要性が高まってきているように思えます。
そこで今回は、睡眠リハビリテーションの必要性について解説します。
そもそも“睡眠”とは?
“睡眠”の定義としては、
眠ること、すなわち、周期的に繰り返す、意識を喪失する生理的な状態のことである
…とされています。
ま、当たり前といえば当たり前ですけどね。
睡眠の特徴について
では、この睡眠の特徴についても改めて考えてみます。
睡眠の特徴とは…
- 体の動きが止まる
- 外的刺激に対しての反応が低下している
- 意識を失っているが簡単に目覚める状態
…となります。
つまり、昏睡や病的な意識消失との違いは…
簡単に目覚める状態かどうか?
…といえます。
理想の睡眠時間について
その人が朝型か夜型かによっても、理想の睡眠時間はまちまちで個人差はあるようです。
様々な睡眠時間による調査では、健康や長寿のために必要な睡眠時間は7時間といわれています。
もちろん、同じ7時間でも睡眠時無呼吸症候群の方のように質の低い睡眠だったらそれは問題になります。
良質な睡眠を前提としての7時間睡眠…ということになるでしょうね!
睡眠障害の種類について
では、睡眠障害といわれるものはどのようなものがあるのでしょうか?
睡眠障害国際分類第2版(ICSD-2)によると…
- Ⅰ.不眠症
- Ⅱ.睡眠関連呼吸障害
- Ⅲ.中枢性過眠症
- Ⅳ.概日リズム睡眠障害
- Ⅴ.睡眠時随伴症
- Ⅵ.睡眠関連運動障害
- Ⅶ.孤発性の諸症状,正常範囲と思われる異型症状,未解決の諸問題
- Ⅷ.その他の睡眠障害
…に分類されます。
それぞれ解説します。
Ⅰ. 不眠症
不眠症とは、寝つきが悪かったり、夜中に何度も目が覚めたりするなど、十分な睡眠が得られない状態を指します。
これにより、日中に強い眠気や集中力の低下が見られ、慢性的な疲労感に悩まされます。
不眠症の主な原因には、ストレスや生活習慣の乱れ、環境の変化などが挙げられます。
また、精神的な不安や身体的な疾患が影響することも多く、個別の対応が求められます。
治療には、生活習慣の改善や薬物療法が用いられることがあります。
Ⅱ. 睡眠関連呼吸障害
睡眠関連呼吸障害は、睡眠中に呼吸が停止または浅くなることで、体に酸素が不足する状態を指します。
代表的な例が睡眠時無呼吸症候群(SAS)で、特に閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、気道が物理的に閉塞されることで発生します。
この障害は、高血圧や心疾患、日中の眠気や集中力の低下などのリスクを高めます。
治療には、CPAP(持続的陽圧呼吸)療法や生活習慣の改善が推奨されます。
適切な治療により、生活の質が大きく改善されます。
Ⅲ. 中枢性過眠症
中枢性過眠症は、日中に過度の眠気が続き、日常生活に支障をきたす障害です。
ナルコレプシーはその代表的な症状で、突然の睡眠発作や、感情に伴う筋力の喪失(カタプレキシー)が特徴的です。
この障害は、中枢神経系の異常が原因で、治療には薬物療法が一般的に用いられます。
適切な管理が行われれば、日常生活の質は向上し、社会活動への参加も可能になります。
中枢性過眠症は、生活の質を著しく低下させるため、早期の診断と治療が重要です。
Ⅳ. 概日リズム睡眠障害
概日リズム睡眠障害は、体内時計が外界の24時間周期に適応できないために生じる睡眠障害です。
代表的な例には、時差症候群(時差ぼけ)や交代勤務による睡眠障害があります。
この障害は、昼夜の睡眠サイクルが乱れ、日中の眠気や夜間の不眠を引き起こします。
治療法としては、光療法やメラトニンの摂取、生活習慣の調整などが有効です。
適切な治療によって、体内時計を調整し、日常生活のリズムを取り戻すことが可能です。
Ⅴ. 睡眠時随伴症
睡眠時随伴症は、睡眠中に異常な行動や体験が起こる障害です。
夢遊病や夜驚症、レム睡眠行動障害が代表的で、これらは主に子供や高齢者に多く見られます。
夢遊病では、睡眠中に無意識に歩き回ったり、夜驚症では恐怖感に襲われて叫び声をあげたりします。
レム睡眠行動障害では、夢の内容に基づいて体が実際に動くため、周囲に危害を加えることもあります。
治療には、安全な睡眠環境の整備や、必要に応じて薬物療法が用いられます。
Ⅵ. 睡眠関連運動障害
睡眠関連運動障害は、睡眠中や睡眠に入る前に体が不随意に動く症状を指します。
代表的なものには、むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群:RLS)や周期性四肢運動障害(PLMD)が含まれます。
RLSでは、脚に強い不快感が現れ、動かさずにはいられない状態が特徴です。
PLMDでは、睡眠中に手足が不規則に動き、睡眠の質を低下させます。
治療には、鉄分やビタミンDの補充、または特定の薬物療法が有効であり、症状を和らげることができます。
Ⅶ. 孤発性の諸症状、正常範囲と思われる異型症状、未解決の諸問題
このカテゴリーには、明確な原因や特定の診断基準に当てはまらない睡眠の問題が含まれます。
たとえば、いびきや夢の内容が問題と感じられる場合や、断片的な睡眠中の覚醒、原因不明の疲労感などが該当します。
これらは、他の睡眠障害と併発していることも多く、医師による詳しい評価が必要です。
また、日常生活や環境の影響も考慮されるべき点です。
原因が特定されていない場合でも、症状に合わせた対策を取ることが重要です。
Ⅷ. その他の睡眠障害
上記に該当しない稀な睡眠障害がこのカテゴリーに含まれます。
たとえば、稀に見られる遺伝的な睡眠障害や、特定の薬物や物質による影響で生じる障害が挙げられます。
これらは、他の睡眠障害とは異なる特異な症状を持つことがあり、個別の診断が必要です。
治療法は、原因に応じて異なり、薬物療法や行動療法が考慮されることが多いです。
稀な症例であっても、専門的な治療が行われれば症状の改善が期待できます。
リハビリセラピストはどう睡眠障害に関わるか?
睡眠障害に作業療法士が関わるとして、どのような関わり方があるかを考えてみました。
- 睡眠に関しての評価、検査
- 睡眠環境の調整
- 自律神経へのアプローチ
- 運動療法的アプローチ
- 精神療法的アプローチ
- 睡眠衛生指導
- 認知行動療法
以下にそれぞれについて考えてみます。
睡眠に関しての評価、検査
リハビリセラピストは、睡眠日記を通じて、睡眠パターンや生活リズムを客観的に把握し、睡眠障害の原因を評価します。
睡眠時間や夜間の覚醒回数、睡眠の質などを記録することで、患者の問題点を明確にします。
身体機能や精神状態の評価も重要で、痛みや呼吸機能の低下が睡眠に与える影響を確認します。
精神的な要因として、ストレスや不安、うつ病などが睡眠に及ぼす影響も考慮されます。
これにより、治療の方向性を決定し、適切な介入方法を提案します。
睡眠環境の調整
睡眠の質を向上させるために、寝室環境や寝具の見直しを行うことがリハビリセラピストの重要な役割です。
寝室の温度や湿度、照明、騒音などを調整し、快適な睡眠環境を整えることで、睡眠障害を軽減します。
また、個々の身体に合ったマットレスや枕の選択もサポートし、身体の負担を軽減します。
さらに、就寝前のリラクゼーション活動を取り入れる指導を行い、リラックスした状態で入眠できるようにします。
環境の改善は、簡単で効果的な方法のひとつです。
自律神経へのアプローチ
リハビリセラピストは、自律神経のバランスを整えるための呼吸法やリラクセーション法を指導します。
深呼吸や腹式呼吸、プログレッシブマッスルリラクセーションなどを活用し、副交感神経を優位にすることで、リラックスした状態を作り出します。
バイオフィードバックを通じて、心拍数や呼吸数をモニターしながら、自律神経のコントロールを学び、睡眠改善を目指します。
これにより、ストレスや緊張が緩和され、良質な睡眠が得られやすくなります。
自律神経のアプローチは、ストレス管理にも効果的です。
運動療法的アプローチ
適度な運動は、身体のリラクゼーションを促進し、睡眠の質を向上させる重要な方法です。
リハビリセラピストは、日常生活における身体活動レベルを評価し、個々の体力や健康状態に合わせた運動プログラムを提案します。
軽いエクササイズやストレッチを取り入れることで、体を適度に疲れさせ、リラクゼーション効果を高めます。
運動不足や過度の運動は睡眠に悪影響を与えるため、バランスの取れた運動が推奨されます。
運動療法を適切に取り入れることで、睡眠障害の改善が期待できます。
精神療法的アプローチ
リハビリセラピストは、睡眠障害に関連する心理的要因に対処するために、認知行動療法(CBT)やストレスマネジメントを行います。
患者が持つ睡眠に関する誤った信念やネガティブな思考パターンを修正し、より現実的で健康的な睡眠習慣を身につける手助けをします。
ストレスの原因を特定し、それに対する適切な対処方法を指導することで、心理的な負担を軽減します。
認知行動療法は、心理的アプローチを通じて睡眠の質を向上させる効果があり、長期的な改善に繋がります。
睡眠衛生指導
睡眠衛生指導は、規則正しい生活習慣を身につけることを目指します。
リハビリセラピストは、毎日同じ時間に起床し、就寝することで体内リズムを整え、睡眠の質を高める方法を提案します。
カフェインやアルコールの摂取制限、昼寝の調整など、日常生活の中で睡眠に悪影響を与える要因を減らすことも重要です。
睡眠衛生指導は、患者が自分で行動を変えるための具体的なアドバイスを提供し、持続可能な睡眠習慣の確立を支援します。
認知行動療法
認知行動療法(CBT)は、患者が睡眠に対して持つ誤った信念や不安を修正し、より健康的な睡眠習慣を身につけるための方法です。
リハビリセラピストは、刺激制御療法や睡眠制限療法など、具体的な行動変更をサポートします。
刺激制御療法では、寝室を睡眠のためだけに使い、寝室内での活動を制限することで、睡眠に対する正しい習慣を促進します。
また、睡眠制限療法では、睡眠時間を一時的に減らして、睡眠効率を高める方法が用いられます。
CBTは、根本的な問題にアプローチするため、効果的な治療法とされています。