作業療法士として障害を持つ人の就労や雇用支援に関わると、「特例子会社」というキーワードをよく目にします。
これは“障害者を雇用するための子会社”として扱われていますが…
- 求人はあるのか?
- 給料はどの程度なのか?
- メリットはあるのか?
- 指導員はちゃんとつくのか?
…といった不安や疑問がでてくるようです。
今回は、この“特例子会社”のメリットやデメリット、今後の課題などについて解説します。
特例子会社とは?
特例子会社について、端的に説明すると次のようになります。
-
障害者の雇用に特別な配慮をした親会社の一事業所と見なされる子会社
特例子会社の歴史としては。1960年に制定された“身体障害者雇用促進法(現 障害者の雇用の促進等に関する法律)”が16年後の1976年に改訂され企業の障害者雇用が義務化されたこと、さらに2002年10月に単一の親会社だけでなく、関連会社を含めたグループ全体で障害者実雇用率を算定可能に法改正がされたことを機に広まっていったようです。
ちなみに特例子会社は完全子会社の形で設立される場合が多いですが、地元自治体の出資を入れる事での第三セクターの形をとるものもあるようです。
目的
この特例子会社の設立の目的としては、
-
“障害者の雇用の促進と安定”を図るため
…と言われています。
ただこれは主に障害者雇用率の向上と企業の社会的責任(corporate social responsibility:CSR)としての意味合いが強いようです。
条件
この特例子会社が認定されるためには、以下のような条件が必要になります。
親会社への条件
- 親会社が意思決定機関(株式総会etc)を支配していること
*具体的には、子会社の議決権の過半数を有すること
子会社への条件
- 親会社との人的関係が緊密であること
- 雇用される障害者が5人以上で、全従業員に占める割合が20%以上であること。また、雇用される障害者に占める重度身体障害者、知的障害者及び精神障碍者の割合が30%以上であること
- 障害者の雇用管理を適正に行うに足りる能力を有していること
- その他、障害者の雇用の促進及び安定が確実に達成されると認められること
特例子会社のメリット・デメリット
では、企業がこの特例子会社を設立するメリットについて解説します。
メリットについて
雇用する企業側、雇用される障害者側にとってのメリットは次のとおりになります。
企業(事業主)にとってのメリット
- 障害者雇用率が高まる(その結果障害者雇用給付金の減額と、調整金等の支給を受けることができる)
- 障害の特性に配慮した仕事の確保・職場環境の整備が容易となり、これにより障害者の能力を十分に引き出すことができる
- 職場定着率が高まり、生産性の向上が期待できる
- 障害者の受け入れに当たっての設備投資を集中化できる
- 親会社と異なる労働条件の設定が可能となり、弾力的な雇用管理が可能になる
障害者にとってのメリット
- 雇用機会の拡大
- 職場環境が配慮されているので、個々人の能力を発揮する機会が確保される
- 障害者の同僚が多いことから、気兼ねなく働くことができる
- サポートする指導員(ジョブコーチ・産業カウンセラーetc)がいる
デメリットについて
一方、デメリットについては次のとおりです。
企業(事業主)にとってのデメリット
- 障害者の雇用、育成、定着と経営とのバランスが難しい
障害者にとってのデメリット
- 親会社やグループ会社のサポート事業に重きが置かれるため、人によっては物足りなさを感じる可能性がある
- 給料が安い
- 専門スキルが身に着かない
デメリットとしては業務内容と経営とのバランスがあげられます。
特例子会社における雇用状況
平成28年6月の段階で、特例子会社の認定を受けている企業は448社であり、雇用されている障害者の数は26,9805人のようです。
また雇用者の障害の種類の内訳としては次の通りになります。
- 身体障害者:10,277.0人
- 知的障害者:13,815.0人
- 精神障害者:2,888.5人
特例子会社と障害者雇用枠との違いについて
では障害を持つ人が働くにあたり、“特例子会社”と企業の“障害者雇用枠”とのどちらで働くのが良いと言えるのでしょうか?
これは障害の程度と、その段階での「働き方」によって変わるのだと思います。
特例子会社と障害者雇用枠との大きな違いは、障害者が働くにあたっての「環境整備、配慮の程度」になるのかと思います。
「どちらが働き方として優れているか?」という視点ではなく、「どちらが自分に合った働き方か?」という視点で選ぶとよいのかもしれません。
特例子会社の求人
特例子会社は資本や総務・人事管理機能が充実しているという点で大企業が設立していることがほとんどのようです。
また、障害者雇用率の増加も伴い都心部を中心に一定数の特例子会社における求人は出てくると考えられています。
特例子会社の給料について
実際に気になるのは特例子会社で働く際の給料の額面についてだと思います。
結論から言えば、「悪くない」という印象を持っています。
実際、特例子会社で働く際の平均年収は、150万円以上300万円未満が60.3%ともっとも多くなっているようです。
ちなみに、
- 150万円未満:25.3%
- 300万円以上400万円未満:11.9%
- 400万円以上500万円未満:1.5%
…というデータもあります。
もちろん雇用される企業の業績や規模などによって変動はありますが、「特例子会社=給料が安い」ではないということは分かるかと思います。
また、給料の支給方法については障害の状況によって異なるようですが、日給月給制(欠勤や遅刻などにより月給から給料が控除される制度)が多いようです。
そのほか、時間給制や月給制などが採用されています。
特例子会社における課題
調べてみるとほとんどの特例子会社の経営状況は赤字のようです。
その理由としては特例子会社の設立目的が「障害者雇用率達成の為」だけになってしまい、その結果黒字にしようとする意識改革や業務内容改革といった“カイゼン”がされないことがあげられます。
また、働く障害者の作業効率やそれをフォローする人的コストといったものも赤字の原因とされています。
しかし、中には特例子会社でも黒字経営の会社もあります。
その違いは、やはりその作業をしっかりと作業分析によって細分化し、問題点をピックアップし、改善を繰り返し効率化を図っているかどうか?にあるようです。
そして雇用されている障害を持つ人の特性に合わせ、業務分担を行ったり作業環境を整備したり…という工程を踏んでいるかどうかにあります。
「赤字でもいい」と業務を丸投げするか、「黒字にする」と言って業務を効率化するかの違いが、特例子会社の経営に関わってくると言えます。
作業療法士がコンサルタント的に介入するということ
環境や規則といったものが整備されている分、障害を持っていても働きやすい環境にあるのかもしれませんが、その反面、特例子会社では“やりがい”や“赤字経営”といった課題が顕在化していきます。
しかし、その“やりがい”という仕事への取り組み方も、“赤字経営”を解決するための作業分析と効率化も、どちらも作業療法士は解決策につなげることができる課題ともいえます。
そう考えれば、作業療法士は、
- 企業に対しては経営コンサルタント的な関わり方
- 働く障害者本人には、産業カウンセラー的な関わり方
…といった汎用性の高い介入ができるのではないでしょうか?
まとめ
今回は特例子会社について解説しました。
- 障害者の雇用に特別な配慮をした親会社の一事業所と見なされる子会社
- “障害者の雇用の促進と安定”を図ることを目的
- 企業や当事者にとってのメリット、デメリットがある
- ほとんどが赤字であり、黒字化するためには様々な課題がある
ここ最近の世の中は、多様性を認めようとする流れができています。
それは見た目や性別だけでなく、障害の有無についても言えること。
…となれば、働くことを受け入れる企業も特例子会社のような形態で多様性を受け入れる必要があるということと言えます。
企業にとっても負担なく、いかに障害を持つ方を雇用することメリットの比率を高くするか?…を考えることが必須になるのでしょうね。