サルカス徴候(Sulcus sign)は、肩関節の下方不安定性を評価する臨床検査です。
患者の腕を下に引くことで肩関節に生じる陥凹を観察し、肩関節の弛緩性や不安定性を診断します。
本記事ではこの方法や注意点について解説します。
サルカス徴候(Sulcus sign)とは?
サルカス徴候(Sulcus sign)は、肩関節の下方への不安定性を評価するための臨床検査です。
この検査は、患者の腕を自然に垂直に下げた状態で、検査者が患者の肘を下方向に引っ張ることで実施されます。
肩関節の前面に位置する「肩峰」と上腕骨頭の間に陥凹が形成されることを「サルカス」と呼び、このサルカスが大きくなることが「サルカス徴候」陽性を示します。


サルカス徴候の目的
サルカス徴候(Sulcus sign)の目的は、主に肩関節の安定性を評価することにあります。
より具体的には、以下の目的で実施されます。
- 肩関節の不安定性の有無の確認
- 下方亜脱臼の診断
- 肩関節周囲の靭帯や関節包の損傷の有無の確認
- 治療効果の評価
それぞれ解説します。
肩関節の不安定性の有無の確認
サルカス徴候の評価では、肩関節がどの程度不安定であるかを確認します。
具体的には、肩関節がゆるみ、脱臼しやすい状態かどうかを判定するために行われます。
肩関節の不安定性は、靭帯や関節包の損傷、筋力低下、または反復性の脱臼によって引き起こされることが多いです。
この検査は、肩関節の不安定性が日常生活や運動に与える影響を理解し、適切な治療方針を立てるための第一歩となります。
患者の状態に応じたリハビリや治療の計画を立てるため、正確な評価が重要です。
下方亜脱臼の診断
サルカス徴候は、上腕骨頭が肩関節窩から下方にずれる下方亜脱臼の診断に役立ちます。
この状態は、肩関節を安定させる構造に異常がある場合に発生しやすいです。
検査では、患者の腕を下方に引くことで、関節に隙間が生じるかを観察します。
隙間が明確に確認された場合、下方亜脱臼が示唆され、治療の必要性が高いと判断されます。
診断結果に基づき、固定具の使用やリハビリテーションなどの適切な介入が選択されます。
肩関節周囲の靭帯や関節包の損傷の有無の確認
サルカス徴候は、肩関節周囲の靭帯や関節包の損傷を確認するためにも使用されます。
特に、関節包や靭帯が弛緩している場合、肩関節の不安定性が引き起こされることがあります。
この検査では、関節にかかる力に対する反応を観察し、損傷の可能性を評価します。
靭帯や関節包の状態を把握することで、原因に基づいた治療法を選択できます。
早期の診断と適切な介入により、さらなる損傷を防ぎ、回復を促進することが可能です。
治療効果の評価
治療前後のサルカス徴候を比較することで、治療の効果を評価することができます。
例えば、手術やリハビリテーション後に、肩関節の安定性が改善しているかを確認します。
徴候が減少または消失していれば、治療が成功している可能性が高いと考えられます。
逆に、改善が見られない場合には、治療方針の見直しや追加の介入が必要になることがあります。
治療効果の評価は、患者の回復状況を把握し、次のステップを決定するための重要な要素です。


サルカス徴候の方法
サルカス徴候は、肩関節の不安定性を評価するための臨床テストです。
このテストは、特に肩関節の下方不安定性を確認するために使用されます。
方法としては…
- 患者は立位または座位で、検査者は患者の後ろに立つ。
- 患者をリラックスさせる
- 検査者は患者の肘を下に引っ張る。
- 肩と上腕骨の間にくぼみ(sulcus)が現れるかどうかを確認する
…というステップになります。
それぞれ解説します。
患者は立位または座位で、検査者は患者の後ろに立つ
検査の第一ステップとして、患者は立位または座位で姿勢を取ります。
検査者は患者の後ろに立ち、視認と触診を行いやすい位置を確保します。
このポジショニングにより、検査者は患者の肩関節の動きや状態を正確に観察でき、必要なサポートを提供する準備が整います。
患者の姿勢が安定していることが重要で、これにより検査結果の信頼性が高まります。
この初期段階は、検査全体の精度を確保するための重要なステップとなります。
患者をリラックスさせる
次に、患者の上腕をリラックスさせることが必要です。
これにより、肩関節周囲の筋肉が緊張せず、正確な検査結果が得られやすくなります。
患者に上腕を完全に力を抜くよう指示し、リラックスした状態を確認します。
検査者は、上腕の緊張が解けているかどうかを慎重にチェックする必要があります。
この段階で適切なリラックス状態が確保されないと、検査結果に誤差が生じる可能性があります。
検査者は患者の肘を下に引っ張る
検査者は、患者の前腕を軽く握り、下方へ引っ張る動作を行います。
このとき、力の入れ方は穏やかで均一であることが重要です。
引っ張る力が強すぎると、患者に不快感を与えるだけでなく、誤った検査結果を導く可能性があります。
軽い力で下方に引っ張ることで、肩関節の自然な動きや反応を観察することができます。
この手技は、肩関節の安定性を評価するための重要な要素です。
肩と上腕骨の間にくぼみ(sulcus)が現れるかどうかを確認する
検査者は、健側の肩関節と比較して、検査側の肩峰と上腕骨頭の間に大きな陥凹ができるかどうかを確認します。
健側と比較することで、個々の患者の正常な肩関節の状態を基準に、異常をより明確に評価することができます。
陥凹が顕著である場合、それは肩関節の不安定性を示す陽性の兆候となります。
この比較手法により、検査者はより客観的かつ正確に肩関節の状態を評価することができます。


サルカス徴候で陽性の場合
サルカス徴候で陽性の場合はその背景に…
- 肩関節の前面にある「下半月板」や「関節唇」の損傷の可能性
- 肩関節脱臼を繰り返している可能性
- 肩関節周囲の筋や靭帯が緩んでいる可能性
…などが考えられます。
それぞれ解説します。
肩関節の前面にある「下半月板」や「関節唇」の損傷の可能性
サルカス徴候が陽性である場合、肩関節の前面に位置する「下半月板」や「関節唇」が損傷している可能性があります。
これらの構造は肩関節の安定性を保つために重要な役割を果たしています。
損傷が生じると、肩関節の不安定性が増し、さらなる損傷や痛みを引き起こすリスクが高まります。
特にスポーツや高負荷の運動を行う人々においては、このような損傷は一般的であり、適切な診断と治療が必要です。
早期の治療介入により、長期的な肩関節の機能回復が期待できます。
肩関節脱臼を繰り返している可能性
サルカス徴候が陽性である場合、肩関節脱臼を繰り返している可能性があります。
肩関節脱臼は、肩関節が正常な位置から外れてしまう状態で、痛みや機能障害を伴います。
反復性の脱臼は、関節の靭帯や関節包の損傷を引き起こし、さらに関節の安定性を低下させます。
このような状態では、日常生活やスポーツ活動に支障をきたす可能性が高くなります。
治療としては、理学療法による筋力強化や、重度の場合には外科的修復が必要となる場合があります。
肩関節周囲の筋や靭帯が緩んでいる可能性
サルカス徴候が陽性である場合、肩関節周囲の筋や靭帯が緩んでいる可能性があります。
肩関節は多方向に動く自由度の高い関節であり、その安定性は筋肉や靭帯によって保たれています。
これらの組織が緩んでいると、肩関節の支持力が低下し、不安定性が生じます。
この状態は、肩関節の動きや耐久性に影響を与え、痛みや機能障害を引き起こすことがあります。
筋力強化訓練やストレッチングなどのリハビリテーションが、緩んだ組織の再生と強化に効果的です。


サルカス徴候の注意点
サルカス徴候を実施する際の注意点としては…
- 患者のリラックスの重要性
- 両側の比較の重要性
- 適切な力の加減
- テストの繰り返しの重要性
- 患者のフィードバックの重要性
…があげられます。
それぞれ解説します。
患者のリラックスの重要性
サルカス徴候の検査を正確に行うためには、患者がリラックスした状態でテストを行うことが重要です。
肩関節周囲の筋肉が緊張していると、肩関節の動きが制限され、正確な検査結果が得られない可能性があります。
患者にリラックスを促すことで、肩関節の自然な状態を観察することができます。
検査者は、患者が十分にリラックスしていることを確認しながら、慎重に検査を進める必要があります。
この配慮が、正確な診断と適切な治療方針の確立に寄与します。
両側の比較の重要性
サルカス徴候の検査では、両側の肩関節を比較することが重要です。
片側のみでなく、両側を比較することで、片側のみに現れる不安定性や異常を確認できます。
両側に陽性反応が出る場合は、生理的な可動域の範囲内である可能性があり、臨床的な関連性が低いことがあります。
したがって、検査者は健側の肩関節と比較することで、異常の程度をより正確に評価することができます。
この比較が、診断の精度を高めるために重要です。
適切な力の加減
サルカス徴候の検査では、肘を下に引く際に適切な力を加えることが重要です。
過度な力を加えると、患者に不快感や痛みを与える可能性があり、正確な検査結果が得られない原因となります。
適切な力加減を保つことで、肩関節の自然な反応を観察することができます。
検査者は、力の加減を慎重に調整しながら、患者の反応を観察することが求められます。
この配慮により、検査の信頼性と患者の快適さを両立させることができます。
テストの繰り返しの重要性
サルカス徴候の検査の精度を高めるためには、腕を中立回旋位と外旋位の両方でテストを行うことが推奨されます。
異なる腕の位置でテストを繰り返すことで、肩関節の安定性や不安定性をより詳細に評価することが可能です。
各回のテスト結果を総合的に判断することで、より正確な診断が可能となります。
検査者は、異なる位置でのテストを慎重に実施し、結果を比較検討する必要があります。
このアプローチが、診断の精度向上に貢献します。
患者のフィードバックの重要性
サルカス徴候の検査中に、患者のフィードバックを注意深く観察することが重要です。
患者が不快感や痛みを感じた場合は、速やかにテストを中止し、原因を確認する必要があります。
患者のフィードバックは、検査者にとって重要な情報源であり、正確な診断を行うための指標となります。
検査中の患者の反応を見逃さずに観察し、適切な対応を取ることで、患者の安全と快適さを確保することができます。
この配慮が、信頼性の高い検査結果を導く鍵となります。

