Therabby Clinical Game Guide
Game & Watch『Octopus』進む・待つ・戻る判断をみるリハビリ活用ガイド
大ダコの足を避けながら財宝を回収する課題から、注意配分・危険予測・衝動抑制・撤退判断を観察する
対象:高齢者/注意障害/遂行機能低下/反応速度低下/集団活動の導入
このページの臨床テーマ
- 視覚探索と注意配分
- タイミング判断と危険予測
- 「進む・待つ・戻る」の遂行機能
- 得点欲求と安全判断のバランス
『Octopus』は、単に左右へ動くゲームではありません。財宝を取りに行くほど得点は伸びますが、戻る判断が遅れると大ダコに捕まります。臨床では「どこまで頑張るか」ではなく「どこで引き返せるか」を観察できる点が重要です。
動画・デモアプリ
ゲーム紹介動画
デモアプリ
※デモアプリは臨床判断を代替するものではありません。実施時は対象者の安全、疲労、理解度、環境条件を確認してください。
🎮
欲張らず、安全に戻る判断を練習するゲーム課題
『Octopus』は、潜水夫を左右に操作し、大ダコの足を避けながら海底の財宝を回収するゲームです。操作自体はシンプルですが、画面上の動きを見て、進む・待つ・戻る判断を繰り返す必要があります。軽度の注意障害、反応速度低下、遂行機能低下、危険予測の弱さがある対象者に適しています。一方で、強い半側空間無視、視覚情報処理の困難、失敗体験への過敏さがある方には注意が必要です。最初から高得点を狙わせず、「安全に戻る」ことを主目標に設定します。
このページでわかること
『Octopus』のゲーム構造を、作業療法でどのように観察・活用するかを整理します。懐かしさやキャラクター性だけでなく、臨床課題としての「判断」「抑制」「撤退」の見方を扱います。
- 『Octopus』の基本的な課題構造
- 注意配分・危険予測の観察方法
- 進む・待つ・戻る判断の見方
- 得点欲求と衝動抑制の評価視点
- 対象者に合わせたGrading方法
- 生活場面への転移の考え方
基本情報
Type
回避判断型/探索行動型/リスク判断型ゲーム課題
Tools
Game & Watch実機・復刻版・ゲーム&ウォッチギャラリー系ソフト・Therabby用簡易デモアプリ
Time
1〜3分/導入含め10〜15分
Risk
低〜中等度
| 対象者 | 軽度〜中等度の注意機能低下、遂行機能低下、反応速度低下、活動意欲低下がある方。 |
| 実施姿勢 | 椅子座位を基本とする。必要に応じて机上で肘を支持し、肩・前腕・手指の余分な緊張を減らす。 |
| 主な観察領域 | 視覚探索、注意の切り替え、危険予測、反応速度、操作正確性、抑制、失敗後の修正、疲労、感情反応。 |
| 導入時の方針 | 最初から財宝を多く取ることを目標にしない。まずは「タコ足に捕まらず、1回財宝を取って船へ戻る」ことを成功基準にする。 |
OT視点での活用ポイント
『Octopus』は、目的達成への意欲と安全に引き返す判断を同時に観察できるゲーム課題です。
身体機能
- 左右ボタン操作の正確性を確認できる
- 連続操作時の手指疲労を観察できる
- 画面注視と手指運動の協調を見やすい
- 焦った時の連打、押し間違い、反応遅延を確認できる
認知機能
- タコ足の動きを見てタイミングを予測できるかを観察できる
- 進むべき場面と待つべき場面を区別できるかを確認できる
- 財宝を取りたい気持ちを抑えて戻れるかを見られる
- 失敗後に同じ行動を繰り返さず修正できるかを確認できる
情緒・意欲
- 懐かしさやキャラクター性により導入しやすい
- 大ダコや潜水夫のコミカルな演出が失敗体験を和らげる
- 「もう一回やりたい」という再挑戦を引き出しやすい
- 得点へのこだわり、焦り、悔しさ、切り替えを観察できる
社会参加
- 他者と交代しながら実施しやすい
- 観戦者から自然に応援や助言が出やすい
- 「今だ」「戻って」など共同注意が生まれやすい
- 昔のゲーム経験や思い出話につながりやすい
セッション手順
Brief → Play → Debrief → Transfer の流れで、ゲームを生活行動へつなげます。
01 Brief
潜水夫を動かして、タコ足を避けながら財宝を取ることを説明する。ただし、高得点よりも「安全に戻る判断」を主目的にする。説明するルールは、左右に動く、タコ足に当たらない、財宝を取ったら船へ戻る、危ない時は待つか戻る、の4点に絞る。
02 Play
最初はGAME A相当の低い難度で実施する。OTは得点ではなく、すぐ進もうとするか、危険な場面で待てるか、財宝を取った後に戻る判断ができるか、失敗後に方略を変えられるかを観察する。必要に応じて「今は待つ」「一度戻る選択もあります」と声かけする。
03 Debrief
プレイ後は得点ではなく判断を振り返る。「どこが一番危ないと感じましたか」「進むか戻るか迷った場面はありましたか」「失敗した時は何を急いでいましたか」「次にやるならどこで待ちますか」と確認する。
04 Transfer
ゲーム内の「進む・待つ・戻る」を、歩行、調理、買い物、作業中断、援助要請へ翻訳する。行けそうでも一度止まる、焦って次の工程へ進まない、疲れている時に無理をしない行動へつなげる。
Grading調整レバー
対象者の状態に合わせて、姿勢・時間・支援量・刺激量・対人負荷・ルールを調整します。ここを設計しないと、ゲームは臨床活動ではなく単なるレクリエーションで終わります。
| 項目 | 負荷を下げる | 標準 | 負荷を上げる |
|---|---|---|---|
| 姿勢 | 背もたれあり座位、肘支持あり | 通常座位、机上で操作 | 立位、または体幹保持を意識した座位で実施 |
| 時間 | 30秒〜1分 | 1〜3分 | 3〜5分、または複数回実施 |
| 支援量 | OTが進む・待つ・戻るタイミングを声かけ | 失敗後に助言 | 声かけなしで自己判断 |
| 刺激量 | 静かな環境、観戦者なし | 通常の訓練室環境 | 他者の応援、周囲音、軽い会話を加える |
| 対人負荷 | 個別実施 | OTと1対1で実施 | 小集団で交代制、他者に方略を説明する |
| ルール | 財宝を1回取ったら必ず戻る | 財宝を取って戻るまでを1セットにする | 何個まで取るか自己判断する/GAME B相当の速度にする/目標得点を設定する |
観察ポイント・記録テンプレート
操作面で見ること
- 左右ボタンの押し間違いがあるか
- 反応が遅れる場面があるか
- 焦ると連打になるか
- 疲労により操作精度が落ちるか
認知面で見ること
- タコ足の動きを予測できるか
- 危険場面で待つ選択ができるか
- 財宝を取りすぎず戻る判断ができるか
- 失敗後に方略を修正できるか
情緒・意欲面で見ること
- 失敗時に過度に落ち込まないか
- 悔しさを次の挑戦に変えられるか
- 成功時に自発的な発言や笑顔があるか
- 他者の助言を受け入れられるか
記録例:Game & Watch『Octopus』風課題を3分間実施。開始直後は財宝獲得を優先し、タコ足の動きを十分確認せず進む場面が多かった。2回失敗後、「財宝を1回取ったら戻る」「危ない時は待つ」と方略を共有したところ、待機してタイミングを取る行動が増えた。後半は得点よりも安全に戻る判断が可能となり、失敗後も「今のは欲張った」と自己分析できた。生活場面では、歩行時や家事動作時に「一度止まって確認する」行動へつなげる。
リスク管理
身体リスク
- 前傾姿勢の持続による疲労
- 手指・肩周囲の過緊張
- 画面注視による眼精疲労
- 立位実施時のふらつき、片麻痺者での非麻痺側過使用
認知リスク
- ルール理解が不十分なまま開始して混乱する
- 得点に注意が偏り、危険回避が遅れる
- GAME B相当の速度で処理が追いつかない
- 失敗後に同じ行動を繰り返す
心理リスク
- 失敗が続いて自信を失う
- 他者の前で失敗することに抵抗を感じる
- 高得点へのこだわりで焦りが強くなる
- 「昔はできたのに」という喪失感が出る
中止基準
- めまい、気分不快、頭痛、眼精疲労が出た場合
- 姿勢が崩れ、安全な操作が難しくなった場合
- 失敗により強い怒り、不安、落ち込みが出た場合
- 過集中で声かけが入りにくくなった場合
- 手指や肩に痛み、過緊張、疲労が出た場合
生活への転移
ゲーム内で見られた反応を、生活行動へ翻訳します。ここがないと、臨床活用ではなく単なるレクリエーション紹介で終わります。
| ゲーム内でみられた困難 | 生活場面での翻訳 | 介入の方向性 |
|---|---|---|
| 危険が近づいても進み続ける | 歩行中の無理な移動、混雑場面での突入、調理中の焦った操作などにつながる可能性がある。 | 「行けるか」ではなく「止まって確認したか」を評価する。歩行、家事、買い物場面で、見る・止まる・動くの順番を練習する。 |
| 財宝を取りすぎて戻れない | 疲れているのに作業を続ける、家事を一気に終わらせようとする、援助を頼まず無理をする行動に近い。 | 作業量の上限、休憩のタイミング、援助要請の基準を具体化する。「もう少しできる」ではなく「安全に終われるか」を判断基準にする。 |
| 失敗後に同じ行動を繰り返す | 転倒リスクのある動作を繰り返す、同じ手順ミスを繰り返す、注意された直後だけ修正する行動に近い。 | 失敗を責めずに「どこで止まればよかったか」「次は何を見るか」を短く確認する。ゲーム後の振り返りを、生活動作のセルフモニタリング練習につなげる。 |
| 待つタイミングが取れず焦って操作する | 更衣、整容、調理、移乗などで、確認前に動き出して手順が崩れる可能性がある。 | 「見る→待つ→動く」を合言葉にし、生活動作の前に一呼吸置くルーティンを作る。 |