TMT(トレイルメイキングテスト)の臨床実践ガイド – TMTの結果をリハビリテーション計画に反映するための12のアイディア

TMT(Trail Making Test)は高次脳機能障害である視覚的注意や視覚運動協調性に対して使われる検査の一つです。
でもTMTを検査し、数値を出しただけで注意障害の有無や程度は判別できません。
しかも、その検査結果をより実践的に活用できているか?というと…難しいかもしれません。

そこで本ガイドでは、TMTの検査結果を活用し、認知機能に応じたリハビリテーション計画を立案する12の方法を紹介します。
処理速度、注意力、実行機能の評価を基に、効果的な介入と日常生活への応用を解説します。


TMTの結果をリハビリテーション計画に反映するためのアイディア

TMTの結果を効果的にリハビリテーション計画に反映することは、患者の認知機能改善と日常生活能力の向上に重要です。
ここではそのアイディアとして…

  • 認知機能の強みと弱みの特定
  • 個別化されたリハビリ目標の設定
  • 段階的なリハビリプログラムの設計
  • 注意力トレーニングの導入
  • 実行機能強化プログラムの組み込み
  • 処理速度向上のための介入
  • 日常生活活動(ADL)との関連付け
  • 補償戦略の教育
  • 職業関連スキルの強化
  • 進捗モニタリング計画の策定
  • 他の認知機能評価との統合
  • 家族教育と支援計画の立案

…について解説します。

認知機能の強みと弱みの特定

TMT-AとTMT-Bの結果を比較し、患者の認知機能プロファイルを作成します。
処理速度、注意力、実行機能などの各領域における強みと弱みを特定し、リハビリの焦点を決定します。
TMT-Aが低得点の場合は処理速度や注意力の低下が考えられ、TMT-Bが低得点の場合は実行機能の問題が示唆されます。
また、両者の差が大きい場合には、課題切り替えの困難さがある可能性を検討します。

この分析を基に、患者に適した認知リハビリテーション計画を構築していきます。

個別化されたリハビリ目標の設定

TMTスコアを基に、具体的かつ測定可能な短期・長期目標を設定します。
例えば、「TMT-Bの完了時間を3ヶ月以内に20%短縮する」などの数値的な目標を立てます。
目標は患者の能力に応じた段階的なものであり、無理のない範囲で達成可能なものとします。
また、TMTのスコアだけでなく、患者の主観的な負担感や生活上の困難とも照らし合わせて設定します。

個別化された目標を設定することで、患者自身のモチベーション向上にもつなげます。

段階的なリハビリプログラムの設計

TMTスコアに応じて、簡単なタスクから複雑なタスクへと段階的に難易度を上げていきます。
最初は単純な情報処理や注意の維持を促すタスクから始め、徐々に課題の切り替えや計画力を要求する課題を取り入れます。
患者の進捗状況を見ながら、適切なペースでプログラムを調整します。
途中で困難を感じる場合には、補助的な戦略を提供し、成功体験を積み重ねられるようにします。

段階的なアプローチにより、認知機能の向上をスムーズに促します。

注意力トレーニングの導入

TMT-Aの結果が低い場合、選択的注意力や持続的注意力を強化するエクササイズを計画します。
例えば、視覚探索課題や注意を分割するトレーニングを取り入れ、注意の維持や配分能力を向上させます。
また、環境要因にも配慮し、注意を持続させやすい環境を整える工夫を行います。
日常生活の中で注意が必要な場面(料理、買い物など)に応用できるような訓練を組み込みます。

このようなアプローチにより、患者の生活の質(QOL)の向上を目指します。

実行機能強化プログラムの組み込み

TMT-Bの結果が低い場合、認知的柔軟性や課題切り替え能力を向上させるタスクを導入します。
例えば、デュアルタスクやプランニング課題を通じて、複数の情報を同時に処理する能力を鍛えます。
問題解決エクササイズを活用し、計画的な思考や実行機能の向上を促します。
また、日常生活での応用を意識し、買い物や料理などの計画が必要な活動を訓練に組み込みます。

認知的柔軟性を高めることで、生活の中での適応能力を向上させることができます。

処理速度向上のための介入

TMT-AとTMT-Bの両方の完了時間が遅い場合、情報処理速度を向上させる活動を計画します。
例えば、反応時間課題やスピードトレーニングゲームを導入し、認知処理のスピードを高めます。
タイムプレッシャーをかけた課題を用いることで、迅速な情報処理の練習を行います。
また、実際の生活場面でのスピードを意識したタスクを取り入れ、応用力を高めます。

これにより、患者が日常生活の場面で迅速に対応できる力を向上させます。

日常生活活動(ADL)との関連付け

TMTで評価された認知機能と関連する日常生活活動(ADL)を特定し、リハビリに組み込みます。
例えば、TMT-Bのスコアが低い場合は、計画性が求められる家事(料理、買い物、スケジュール管理など)を訓練に活用します。
TMT-Aのスコアが低い場合は、単純な手順を必要とする作業を継続して行うことで、処理速度や注意力を高める介入を行います。
これにより、患者が日常生活で直面する課題を直接改善できるようにします。

実生活と関連づけることで、リハビリの意義を理解しやすくし、患者のモチベーション向上にもつなげます。

補償戦略の教育

TMTの結果から特定された認知機能の弱点に対する補償戦略を指導します。
例えば、記憶や実行機能の問題がある場合、タスク管理ツール(メモ帳、カレンダーアプリなど)の活用を推奨します。
注意力が低い場合は、環境調整(静かな場所での作業、視覚的な手がかりの利用)を取り入れることで負担を軽減します。
また、作業のルーティン化を促し、日常生活の中で認知負荷を減らす工夫を行います。

このような補償戦略の教育により、患者が自立した生活を維持しやすくなります。

職業関連スキルの強化

TMTスコアと患者の職業要件を照らし合わせ、必要なスキルを強化するプログラムを設計します。
例えば、タクシードライバーの場合は、TMT-Bのスコアが低いとナビゲーションや運転中の状況判断に影響を及ぼす可能性があります。
この場合、デュアルタスクトレーニングや注意分割訓練を実施し、業務遂行能力を向上させます。
事務職では、計画力やタスク切り替え能力が求められるため、プランニング課題や時間管理訓練を取り入れます。

職業復帰を目指す患者には、実務に即したリハビリを行うことで、スムーズな職場復帰を支援します。

進捗モニタリング計画の策定

TMTを定期的に再評価する計画を立て、リハビリの効果を測定します。
例えば、3か月ごとにTMTを再実施し、処理速度や課題切り替え能力の変化を確認します。
また、患者の主観的な認知機能の変化を記録し、客観的データと組み合わせて評価を行います。
評価結果に基づいて、プログラムを適宜調整し、継続的に効果的なリハビリを提供します。

定期的なモニタリングを行うことで、患者自身の進歩を実感しやすくし、リハビリの継続意欲を高めます。

他の認知機能評価との統合

TMTの結果を他の認知機能評価(MMSE、MoCA、FABなど)と組み合わせて解釈します。
TMTは主に処理速度、注意力、実行機能を測定するため、記憶や言語機能の評価と統合することで包括的な認知評価が可能になります。
例えば、MMSEの遅延再生スコアが低い場合は記憶障害がある可能性があり、TMTの結果と合わせて補足的なアプローチを考えます。
また、MoCAの実行機能課題とTMT-Bの結果を比較することで、より詳細な認知機能プロファイルを作成できます。

このような統合的な評価により、患者に最適な認知リハビリテーションを設計できます。

家族教育と支援計画の立案

TMTの結果を家族に説明し、患者の認知機能状態への理解を促進します。
例えば、実行機能に課題がある場合、家族に対して「タスクの順序を整理する手助けをする」など具体的な支援方法を提案します。
注意力の低下が見られる場合は、環境調整(静かな場所での作業、短時間の作業区切りなど)の工夫を伝えます。
また、家族が過度に介入しすぎず、患者自身の能力を活かせる支援のバランスを指導します。

家族の理解と協力を得ることで、患者の生活の質の向上とリハビリの成功率を高めます。

TMTの結果を活用することで、患者の特性やニーズに応じた個別化されたリハビリテーション計画を作成し、単なる評価指標としてではなく、実生活での適応力向上を目的とした効果的な介入を実施することが重要なんですね。
1.TMT(Trail Making Test)について
2.TMT(Trail Making Test)の臨床実践ガイド
>3.TMT(Trail Making Test)のケーススタディ
4.TMT(Trail Making Test)を活用したキャリア戦略
5.TMT(Trail Making Test)のコンテンツ
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THERABBYを運営している臨床20年越えの作業療法士。
行動変容、ナッジ理論、認知行動療法、家族療法、在宅介護支援
ゲーミフィケーション、フレームワーク、非臨床作業療法
…などにアンテナを張っています。

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