トランスセオレティカルモデル(TTM)は、行動変容のプロセスを5つの段階(無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期)に分け、各段階に応じた支援が重要であることを示す理論モデルです。
本記事ではこのTTMの概要、提唱者から4つの概念、具体例について解説します。
トランスセオレティカルモデルとは
トランスセオレティカルモデル(TTM:Transtheoretical Model)は、ProchaskaとDiClementeによって提唱された、行動変容のプロセスを説明する理論モデルです。
このモデルは、個人が新しい健康行動を始めたり、古い習慣をやめたりする際に通過する5つのステージを示しています。
具体的には、無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期です。
各ステージにおいて、個人が経験する心の状態や行動の特徴が異なり、効果的なサポート方法も変わってきます。
トランスセオレティカルモデルの提唱者
トランスセオレティカルモデル(TTM)の提唱者は、James O. ProchaskaとCarlo C. DiClementeです。
彼らは1980年代にこのモデルを開発し、行動変容のプロセスを段階的に説明する理論を確立しました。
James O. Prochaskaは心理学者であり、行動変容の研究において著名で、行動変容のプロセスを理解し、効果的な介入方法を開発するための研究を行ってきました。
Carlo C. DiClementeも心理学者であり、Prochaskaと共に行動変容のステージモデルを提唱し、特に依存症や健康行動の変容に焦点を当てた研究を行っています。
トランスセオレティカルモデルの5つのステージ
トランスセオレティカルモデル(TTM)は、個人が新しい行動を始めたり、古い習慣をやめたりする際に、どのように変化していくのかを段階的に説明する理論です。
このモデルでは、行動変容のプロセスを…
- 無関心期
- 関心期
- 準備期
- 実行期
- 維持期
…の5つの段階に分けて考えています。
それぞれ解説します。
無関心期
無関心期は、トランスセオレティカルモデルの最初のステージであり、個人が行動を変える必要性をまだ感じていない段階です。
この段階では、問題の存在自体に気づいておらず、変化する意欲も全くありません。
例えば、喫煙者が喫煙の健康リスクについて認識していない状態が典型的です。
このステージにいる個人は、問題に対する情報収集に興味を示さず、行動変容の必要性を感じていません。
無関心期では、意識の高揚や問題意識の喚起を促すような介入が重要となります。
関心期
関心期は、個人が問題の存在に気づき、行動変容に興味を持ち始める段階です。
喫煙者が健康リスクを認識し、禁煙について考え始める時期がこれに該当します。
この段階では、問題があることや行動を変える必要があることを認識し始め、問題についての情報収集を行います。
例えば、禁煙のメリットや方法について調べ始めるといった行動が見られます。
関心期の個人には、具体的なリスクとベネフィットを提示し、行動変容の動機づけを強化する支援が効果的です。
準備期
準備期は、行動変容の準備を始め、具体的な計画を立てる段階です。
このステージにいる個人は、行動変容の決意を固め、実行に向けた具体的なステップを計画します。
例えば、喫煙者が禁煙プログラムに参加する計画を立てたり、サポートグループに参加する準備をする時期です。
この段階では、目標設定や行動計画の作成が行われ、必要なリソースやサポートを求めることが一般的です。
準備期の個人には、具体的な行動計画の策定を支援し、実行への準備を整えることが重要です。
実行期
実行期は、実際に行動を変え始める段階であり、計画された行動を実践に移す時期です。
喫煙者が禁煙を開始し、ニコチンパッチを使用するなどの具体的な行動を取る期間がこれに該当します。
このステージでは、行動の実践が中心となり、個人は新しい行動を開始し、以前の行動をやめる努力をします。
例えば、禁煙のために日常生活で新しいルーチンを確立するなどが挙げられます。
実行期の個人には、具体的な行動サポートや進捗のモニタリングが重要で、成功体験を強化するフィードバックも有効です。
維持期
維持期は、新しい行動や習慣が定着し、持続的な変化を遂げる段階です。
禁煙を維持し続けるためのサポートや、成功体験を共有することでモチベーションを維持することが求められます。
この段階では、行動が習慣化され、再発を防ぐための戦略が重要となります。
例えば、禁煙を続けるためにサポートグループの継続参加や、ストレス管理の技術を身につけることなどが含まれます。
維持期の個人には、行動の安定化と再発防止のための持続的な支援が必要で、成功を祝いながらモチベーションを維持することが効果的です。
トランスセオレティカルモデルの4つの概念
トランスセオレティカルモデル(TTM)は、行動変容のプロセスを段階的に説明する理論であり、これを理解する上では次の4つの概念が重要とされています。
- 変容ステージ (Stages)
- 変容プロセス (Processes)
- 意思決定バランス (Decisional balance)
- セルフエフィカシー (Self-efficacy)
それぞれ解説します。
変容ステージ (Stages)
トランスセオレティカルモデル(TTM)の変容ステージは、行動変容のプロセスを5つのステージに分けて説明します。
これらのステージは、前熟考(無関心期)、熟考(関心期)、準備(決意期)、実行(行動期)、維持(維持期)です。
この段階的なアプローチは、行動変容が一足飛びに起こるのではなく、段階的に進んでいくことを強調しています。
各ステージは、個人が行動変容を達成するために必要な異なる認知的および行動的な変化を表しています。
例えば、無関心期では問題を認識していない状態から始まり、維持期では新しい行動を持続するための努力が求められます。
変容プロセス (Processes)
変容プロセスは、各ステージで行われる認知的および行動的な活動を指します。
これには、意識の高揚(問題の認識を高めること)、自己再評価(自分自身の価値観や信念の見直し)、環境の再評価(周囲の環境や人々の影響の見直し)などが含まれます。
各段階で異なるプロセスが働いており、例えば、無関心期の人には問題意識を持たせるような情報提供が重要である一方、行動期の人には具体的な行動のサポートが重要になります。
このように、各ステージに応じた適切な介入が、行動変容の成功に寄与します。
意思決定バランス(Decisional balance)
意思決定バランスは、行動を変えることの利点と不利点を評価するプロセスです。
個人が行動変容を決定する際に、このバランスが重要な役割を果たします。
行動変容において、人は「変えたい」という気持ちと「変えたくない」という気持ちの間で葛藤し、このバランスが行動変容の成否に大きく影響します。
例えば、禁煙を考える際に、健康上の利益と喫煙の快楽の間でバランスを取ることが求められます。
意思決定バランスの評価を通じて、個人は行動を変えるかどうかを決定しやすくなります。
セルフエフィカシー(Self-efficacy)
セルフエフィカシー(自己効力感)とは、自分自身が行動を変える能力があると信じることです。
高いセルフエフィカシーは、行動変容の成功に寄与します。
具体的には、ある行動を成功させることができるという自信のことで、自己効力感が高い人ほど、行動変容を成功させる可能性が高まります。
例えば、ダイエットに取り組む際に、セルフエフィカシーが高い人は、自分が計画を遂行できると信じ、行動を継続する力が強くなります。
この自信は、挑戦に対する抵抗力を高め、目標達成のためのモチベーションを維持するのに役立ちます。
トランスセオレティカルモデルの具体例
トランスセオレティカルモデル(TTM)は、禁煙やダイエットなど、様々な行動変容に適用できる理論です。
ここでは、禁煙を例に、各ステージでの具体的な行動や心理状態を解説します。
無関心期
無関心期では、喫煙者は喫煙の健康リスクについて認識しておらず、禁煙の必要性を感じていない状態です。
この段階での喫煙者は、タバコを吸うことを特に問題視しておらず、日常的に喫煙を続けています。
心理状態としては、禁煙の必要性を感じておらず、禁煙することのメリットよりもデメリットの方が大きいと考えています。
例えば、「タバコを吸うのはストレス解消になるからやめられない」「周りもみんな吸ってるし」という考えを持つことが一般的です。
この段階では、喫煙のリスクと禁煙の利点についての情報提供が重要であり、意識を高めるための教育的な介入が効果的です。
関心期
関心期では、喫煙者が健康リスクを認識し始め、禁煙について考え始める段階です。
このステージでは、喫煙者が禁煙のメリットや具体的な方法についての情報を集め、動機付けを高めるためのサポートが有効です。
心理状態としては、喫煙が健康に悪いことや、周囲への影響があることを認識し始めます。
例えば、「最近、咳が出るようになった」「タバコの値段が上がったから、そろそろやめた方がいいのかな」という具体例が挙げられます。
この段階では、禁煙のメリットを強調し、情報提供を通じて行動変容の意欲を高めることが重要です。
準備期
準備期は、喫煙者が禁煙の具体的な計画を立てる段階です。
このステージでは、喫煙者が禁煙プログラムに参加する計画を立てたり、サポートグループに参加する準備をします。
行動としては、禁煙補助剤の使用や禁煙教室への参加などの具体的な計画を立てます。
心理状態としては、禁煙を決意し、具体的な行動に移す準備をしています。
例えば、「来月の誕生日に禁煙しよう」「禁煙パッチを買ってみた」という具体例が見られます。
この段階では、計画を具体化し、実行に向けた準備を整えるための支援が重要です。
実行期
実行期は、喫煙者が実際に禁煙を開始し、具体的な行動を取る段階です。
このステージでは、喫煙者が禁煙補助剤を使用するなどの具体的な行動を取り、禁煙を続けるためのサポートや励ましが重要です。
行動としては、実際に禁煙を開始し、新しい生活習慣を取り入れます。
心理状態としては、禁煙の難しさを感じながらも、目標達成に向けて努力する状態です。
例えば、禁煙補助剤を使用する、禁煙仲間を探すなどの具体例が挙げられます。
この段階では、持続的なサポートと励ましが成功に向けて重要です。
維持期
維持期は、喫煙者が禁煙を維持し続ける段階です。
このステージでは、新しい行動や習慣が定着し、持続的な変化を遂げます。
行動としては、禁煙を継続し、再発を防ぐための努力を続けます。
心理状態としては、禁煙できたという自信を持ち、禁煙生活を楽しんでいる状態です。
例えば、以前喫煙していた場所や時間に、別の行動をする、禁煙仲間と交流を続けるなどの具体例が見られます。
この段階では、行動の安定化と再発防止のための持続的なサポートが必要であり、成功を祝うことがモチベーション維持に役立ちます。