タフティのケーススタディ- タフティ哲学を活用した作業療法の可能性

タフティのケーススタディ- タフティ哲学を活用した作業療法の可能性

タフティの哲学は量子力学やスピリチュアルな視点も含むため、実際に生活に落とし込むにはやや難しいかもしれません。
そこでここでは架空のケースを用いた小説としてタフティの哲学について考えてみます。


第1章:リハビリ室の片隅で

作業療法士のカナタは、今日もリハビリ室の窓際で座り込む渡辺さんの姿を見つめていた。
彼は60代の元会社員で、半年前に脳卒中を発症し、右片麻痺の後遺症を抱えている。
発症直後からリハビリを受けていたものの、渡辺さんの表情はどこか曇りがちだった。

「もう以前のようには動けない……俺には無理だよ。」

ため息混じりのその言葉が、カナタの耳に届いた。
彼はリハビリに対して極端に消極的だった。
まるで、何かを諦めてしまったように、どの訓練にも気が進まない様子だった。

リハビリにおける身体的な回復だけでなく、心理的な側面も重要だ。
カナタは、患者がリハビリの意義を感じられないまま続けることのリスクを知っていた。
「このままでは、身体機能の改善が進んでも、生活の質(QOL)を高めることは難しい……。」
そう感じたカナタは、従来の訓練方法ではなく、新たなアプローチを試みることを決意した。

「渡辺さん、今日はちょっと違う話をしましょう。」
カナタはそう声をかけると、タフティ哲学の視点から、渡辺さんの現状を探ることにした。


第2章:内的・外的スクリーンの分析

タフティ哲学では、”内的スクリーン(思考や感情の世界)”と”外的スクリーン(現実の状況)”を意識的に活用することが重要とされる。
カナタはこの概念を基に、渡辺さんの認知と環境の両方を分析し、彼の「現実認識の歪み」に着目した。

〈内的スクリーン:渡辺さんの思考と感情〉

  • 「もう回復しないのではないか」という悲観的な思考
  • 「他人の助けなしでは生活できない」という無力感
  • 「努力しても無駄だ」という固定化された信念

カナタは、この内的スクリーンが渡辺さんの回復を妨げていると感じた。
認知の歪みによって、実際の能力以上に「できない」と思い込んでいる可能性が高い。

〈外的スクリーン:現実の状況〉

  • 右片麻痺の影響で食事・着替え・トイレ動作に部分介助が必要
  • 家族のサポートが充実しているが、過保護な傾向があり、本人の自立心を阻害している
  • リハビリスタッフの指導にも消極的で、「どうせ無理だ」と決めつけがち

内的スクリーンの悲観的な思考と、外的スクリーンにおける「過保護な環境」が、
渡辺さんの「何もできない自分」という自己認識を強めていた。

「今、渡辺さんの頭の中では、『もう無理だ』という映像が流れ続けているんですね。」
カナタはゆっくりとそう伝えた。


第3章:タフティの哲学を用いた介入

「でも、もし違う映像を映せるとしたら?」

カナタは穏やかな声で続けた。

「今、渡辺さんが『できない』と思っていることを、少しずつ『できる』に変えていきましょう。」

こうして、カナタはタフティの哲学を基にしたリハビリ介入を開始した。

1.再プログラミング

渡辺さんが「努力しても無駄だ」と思うのは、過去の失敗体験が影響している。
そこで、彼の思考を少しずつ書き換えていった。

「渡辺さん、昨日できなかったことのうち、少しでも良くなったことはありませんか?」
「…スプーンを持つとき、前より力を入れられたかもしれない。」
「それなら、『少しずつ動かせるようになってきた』と考えてみませんか?」

小さな成功体験を言語化し、「自分には変化する力がある」という認識を強めていった。

2.意図の三つ編み

カナタは渡辺さんと一緒に、具体的な目標を設定した。

  • 目標:食事動作の自立
  • 信念:「私は努力すれば、今よりできることが増える」
  • 行動:スプーンの持ち方の練習を1日3回行う

3.フリをするテクニック

「渡辺さん、もしスムーズに食事ができるようになったら、どんな気持ちになりますか?」
「そりゃあ…嬉しいだろうな。でも、そんな日が来るのか…。」
「まずは、そうなったつもりで振る舞ってみましょう。リハビリ中、できる自分を演じてみるんです。」

渡辺さんは戸惑いながらも、少しずつ姿勢を正し、「できる自分」として行動するようになった。

4.エネルギーの流れを意識

家族には、「渡辺さんが自立に向かっていることを伝え、適度な距離を持って見守る」ようアドバイスした。
また、リハビリ中に他の患者と交流し、ポジティブなエネルギーを受け取れるように環境を整えた。


第4章:変化の兆し

1ヶ月が過ぎたころ、渡辺さんのリハビリ態度が変わり始めた。

「カナタ先生、昨日のスプーン練習、うまくいったよ。」

彼の表情が、以前とは違っていた。
小さな成功体験が積み重なり、「できることが増えていく」という確信へと変わっていた。

そして、2ヶ月後――。

渡辺さんは、スプーンを使った食事がほぼ自立できるようになった。
リハビリに対する意欲も高まり、家族との関係も改善されていた。

「先生、ありがとう。俺、もう少し頑張ってみようと思う。」


第5章:チームへの共有と次のステップ

カナタは、この成功事例をチームカンファレンスで共有した。

「渡辺さんは、内的スクリーンの変化によって、リハビリ意欲が向上しました。」

チーム全体でタフティ哲学の活用方法を検討する流れが生まれた。
タフティ哲学を活用した作業療法は、患者の生き方そのものを変える可能性を秘めているのかもしれない――。


解説

本小説は、タフティ哲学の概念を用いた作業療法の実践例を、小説風のストーリーとして描いたものです。
主人公である作業療法士カナタは、リハビリへの意欲を失った患者渡辺さんと向き合い、彼の内面的な変容を促すことを目指します。
この物語を通じて、従来の機能回復を目的としたリハビリテーションだけではなく、患者の認知・行動・環境を総合的に変容させるアプローチの重要性が示されています。

まず、本作の核となる概念はタフティ哲学における「内的スクリーン」と「外的スクリーン」である。
渡辺さんは、現実(外的スクリーン)としては、リハビリに適した環境が整えられていたにも関わらず、彼の内的スクリーンでは「努力しても無駄」「自分にはできない」というネガティブな信念が支配していました。
この内的スクリーンの歪みが、リハビリ意欲の低下を招き、結果として機能回復の妨げになっていました。
カナタはこの点に注目し、渡辺さんが自分の可能性に気づくことができるよう、タフティの哲学を基にした介入を実施したということです。

介入の中心となったのは、「再プログラミング」のプロセスです。
再プログラミングとは、ネガティブな自己認識や思考パターンをポジティブなものへと書き換える技法であり、認知行動療法(CBT)と共通する要素が多くあります。
渡辺さんが「できない」と思い込んでいる理由を丁寧に紐解き、過去の失敗体験に基づく思考のクセを見直すことで、ポジティブな変化を生み出すことが可能になりました。
特に、「昨日できなかったことのうち、少しでも良くなったことはありませんか?」というカナタの問いかけは、自己効力感の向上を促す重要なポイントとなりました。
小さな成功体験の積み重ねが、渡辺さんの内的スクリーンを「成長の可能性がある自分」へと変化させていったということです。

また、「意図の三つ編み」を活用した目標設定も、渡辺さんの変容に大きく寄与しています。
彼のリハビリ目標を「食事動作の自立」に設定し、そのための信念を「私は努力すれば、今よりできることが増える」と定め、具体的な行動として「スプーンの持ち方を1日3回練習する」ことを掲げました。
このように、目標・信念・行動を明確に結びつけることで、リハビリに対する主体的な取り組みを引き出すことができたということです。
単に「頑張ろう」という抽象的な意識変容ではなく、具体的な行動をセットで提示することにより、モチベーションの維持が容易になった点が重要といえます。

さらに、「フリをするテクニック」の導入も印象的です。
カナタは渡辺さんに「できる自分」を想像し、その状態を先取りするように促しました。
これは、脳が現実と想像を区別しにくい性質を利用し、「なりたい自分」として振る舞うことで、その姿に近づいていくという考え方に基づいています。
リハビリの場面で、「自信を持った自分」として振る舞うことにより、実際のパフォーマンスも向上し、結果として成功体験の増加につながったということです。

また、本作では環境の調整にも焦点が当てられています。
「エネルギーの流れ」を意識し、リハビリにおける人間関係や家族の関わり方を見直すことが、渡辺さんの成長に貢献しました。
家族の過保護な態度が、彼の「自分はできない」という認識を強化していたため、家族には適度な距離を持ち、渡辺さんの自立を促す支援を依頼しました。
また、リハビリ室でのポジティブなエネルギーを活用し、他の患者との交流を通じて成功体験を共有することで、リハビリに対する前向きな意識を育んだということです。

最終的に、渡辺さんは2ヶ月の介入を経て、スプーンを使った食事動作がほぼ自立可能となり、リハビリに対する積極性も向上しました。
この変化は、身体機能の回復だけでなく、内的スクリーンの変容によるものが大きいといえます。
「自分にはできることが増えている」という認識が芽生えたことで、自己肯定感が向上し、さらなる成長への意欲が高まったのです。

このケーススタディは、作業療法において、身体機能の回復だけでなく、認知や心理面への介入がいかに重要であるかを示すものとなっています。
タフティ哲学を活用することで、患者の認識と行動の変容を促し、結果としてリハビリの成功につなげることが可能といえます。
また、従来のリハビリテーションの枠を超え、心理学や認知科学の視点を取り入れることで、より包括的な支援が実現できることが示されました。

今後、このアプローチを他の症例にも適用し、さらに効果的な方法を探ることが求められるかもしれません。
特に、作業療法士が単なる機能回復の指導者ではなく、「認知変容のファシリテーター」としての役割を果たすことが、より良いリハビリテーションの実現につながることを本作は示唆しています。

タフティ哲学の活用は、作業療法の新たな可能性を広げるものであり、患者の「生きる力」を引き出す重要なツールとなるはずです。
本作は、その実践的な一例として、今後の臨床研究や現場での応用に大きな示唆を与えるものであれば幸いです。

関連文献

1.タフティについて
2.タフティの臨床実践ガイド
3.タフティのケーススタディ
4.タフティを活用したキャリア戦略
5.タフティのコンテンツ
もしこの記事に修正点やご意見がございましたら、お手数ですがお問い合わせまでご連絡ください。 皆様の貴重なフィードバックをお待ちしております。
アバター画像

THERABBYを運営している臨床20年越えの作業療法士。
行動変容、ナッジ理論、認知行動療法、家族療法、在宅介護支援
ゲーミフィケーション、フレームワーク、非臨床作業療法
…などにアンテナを張っています。

1TOCをフォローする
タイトルとURLをコピーしました