高齢者や障害を持つ人の自動車運転支援を調べていくと、アメリカの“自動車運転リハビリテーション(Driver Rehabilitation)”という一つの分野がしっかりと確立していることがわかります。
日本でもここ最近の動向をみると、早急にこの自動車運転リハビリテーションの整備が必要なのかもしれません。
そこで今回はアメリカにおける自動車運転支援についてADEDとAOTAの2つの機関を軸にそれぞれ解説します。
自動車運転リハビリテーションとは?
そもそも自動車運転リハビリテーションとは…
有疾患者の運転技能を評価し、運転再開に向けたアプローチを行うことに特化したリハビリテーション分野の一つ
…と定義されています。
世界中各国でこの自動車運転リハビリテーションは展開しているものの、やはり先駆的に発展しているのはアメリカのようで、1950年代から開始されているようです。
アメリカの自動車運転リハを担う機関は2つ
アメリカで自動車運転リハビリテーションを担う機関は大きくわけると次の2つになります。
- ADED(自動車運転リハビリテーション専門士協会)
- AOTA(米国作業療法協会)
…以下にそれぞれ解説します。
ADED(自動車運転リハビリテーション専門士協会)について
アメリカでは障害を持つ人に対しての教習指導や運連支援装置の作成に特化した専門家支援の機関である“The Association for Driver Rehabilitation Specialists(ADED:自動車運転リハビリテーション専門士協会)が設立されています。
ADED公式サイト
ADEDは1977年に設立され、専門家の教育と自動車運転に関しての情報の普及を通じて、ドライバー教育や自動車運転訓練、そして輸送機器の修理分野の専門家を支援している非営利団体になります。
またこのADEDは医療職や教習指導員、自動車関連企業などによって構成されていますが、作業療法士の加入の割合が多く、運営の中心的な役割も作業療法士が担っていることも特徴です!
DRS(自動車運転リハビリテーション専門士)とは?
ADEDの教育プログラムによって、自動車運転リハビリテーション専門士(DRS:Driver Rehabilitation Specialist)として活動できます。
自動車運転の評価とリハビリに特有の追加のトレーニングを受けてこのDRSを取得しているようです。
CDRS(認定自動車運転リハビリテーション専門士)とは?
DRSの資格取得後、さらに追加トレーニングと認定試験に合格し、資格維持のために現場で定期的な教育を修了したDRSは、“CDRS:Certified Driver Rehabilitation Specialist(認定自動車運転リハビリテーション専門士)”として活動できます。
現在アメリカとカナダでこのCDRSの資格保有者は360人程度いるようです。
CDRSによる支援内容について
CDRSが所属している病院で実施されている自動車運転リハビリテーションプログラムとしては、
- 臨床評価
- ドライビングシミュレータによる評価および路上評価と訓練
…が実施されているようです。
CDRSによる評価の対象項目
実際CDRSが支援対象であるクライアントのどのような部分を評価対象にしているのかということについてですが…
- 対象者の疾患
- 投薬
- ADLの状況
- 社会的な役割など一般的な情報収集
- 運転免許の状態
- 運転歴
- 車両の情報
- 移乗や移動方法の聴取
- 言語、認知、視知覚および身体機能の状態
…といったものが評価対象、情報収集の対象としてあげられます。
CDRSによる臨床検査の例
またCDRSによって行われる一般的な臨床検査、神経心理学的検査は…
- Trail Making Test
- Rey-Osterrieth 複雑図形検査
- 図形描画
- レーブン色彩マトリクス検査
- 反応時間
- 視知覚に関する検査
…などがあげられます。
AOTAにおける自動車運転支援の取り組み
前述したADEDとは別に、AOTA:The American Occupational Therapy Association(米国作業療法協会)でも自動車運転支援の取り組みには力を入れているようです。
2013年にAOTAによって発表された、「Occupational Therapy Practice Frame Work: Domain and Process(作業療法実践枠組み)」の第3版では、自動車運転はIADL項目の一つである““Driving and Community Mobility(自動車運転と地域における移動手段)” に相当すると明記されています。
それに関連したAOTAによる、Specialty certification in driving and community mobility(SCDCM:自動車運転と地域における移動手段の専門認定)という認定資格があります。
作業療法士の専門分化による支援になっている?
加えて、アメリカの作業療法では、
- Occupational Therapy Specialist in Driving(自動車運転に関わる専門作業療法士)
- Occupational Therapy Generalist in Driving(自動車運転に関わる一般作業療法士)
…という自動車運転に特化した作業療法士というカテゴリー別に扱われています。
つまり、実際の現場では専門作業療法士と一般作業療法士が協力して自動車運転リハビリテーションに関わっているということになります。
CarFitプログラムとは?
AOTAが行っている取り組みの一つで“CarFit”と呼ばれるプログラムがあります。
これは高齢の自動車運転に対しての支援プログラムになります。
ちなみにこのCarFitプログラムは、
- 全米自動車協会(American Automobile Association:AAA)
- 全米退職者協会(American Association of Retired Person:AARP)
- 米国作業療法協会(The American Occupational Therapy Association:AOTA)
の3つの教会が協力することで行われています。
高齢のドライバーがこのCarFitプログラムを受けれるイベントである“CarFitイベント”に参加することで、自分と自分の車が“Fit”しているかを確認し、安全な自動車運転についての情報を共有することができます。
まとめ
今回はアメリカにおける自動車運転支援についてADEDとAOTAの2つの機関を軸に解説しました。
自動車大国でもあるアメリカはやはり高齢者や障害を持つ人への自動車運転支援の教育システムもしっかりと確立しているようです。
大きく分ければADEDとAOTAの2つの機関による自動車運転支援の取り組みが行われているようですが、共同で研修なども行っているみたいです。
両者の取り組みや支援内容、教育システムなどを“上手に”日本に取り入れ、国内の自動車運転支援システムの確立につなげていくことが必要なのかもしれませんね!