作業療法の場面で多く使われる“籐細工”ですが、きちんと目的をもって使用すると非常にリハビリテーションとして有益なアクティビティになります。
そこで今回はこの籐細工を用いた作業療法によるリハビリテーションについて解説します。
籐細工とは?
籐細工(とうざいく)とは、籐(とう)という植物の茎を材料として用いた伝統的な手工芸品のことです。
籐は非常に柔軟性があり、強度も高いため、編み込むことでさまざまな形のバスケット、家具、装飾品などを作ることができます。
この技術は、多くの文化で長い歴史を持ち、特にアジアや東南アジアの国々で発展しました。
籐細工の特徴
では、この籐細工の特徴としてですが…
- 加工しやすい
- 修正しやすい
- 見栄えが良い
- 道具として生活になじみやすい
…といったものがあげられます。
加工しやすい
籐細工の最大の特徴の一つは、その加工しやすさにあります。
籐は非常に柔軟性が高く、加熱や湿らせることでさらに扱いやすくなります。
この性質により、職人は籐を様々な形状に曲げたり、編み込んだりすることが可能で、複雑なデザインの製品も作り出すことができます。
この加工の容易さは、手工芸品の制作において重要な要素であり、職人が創造性を発揮しやすい環境を提供します。
また、加工しやすいという特性は、初心者でも比較的短期間で基本的な技術を学び、自分でアイテムを作り始めることができるという利点もあります。
修正しやすい
籐細工のもう一つの顕著な特徴は、製作過程での修正がしやすいことです。
籐製品は、一度形を作った後でも、水分を与えて柔らかくすることで修正が可能です。
これは、他の材料では見られない特性であり、細かい調整やデザインの変更が必要な場合に非常に便利です。
誤って形を崩してしまった場合や、見た目のバランスを改善したいときにも、比較的簡単に手直しができるため、職人にとって大きなメリットとなります。
この修正しやすさは、完成度の高い製品を作り上げるための柔軟性を提供し、作業の効率を大きく向上させます。
見栄えが良い
籐細工品は、その独特の質感と自然な風合いにより、見栄えが非常に良いという特徴があります。
籐の自然な色合いは温かみがあり、どのような室内装飾にもうまく溶け込むことができます。
また、編み込まれたパターンは繊細で美しく、芸術的価値も高いと評価されています。この美しさは、インテリアとしてのみならず、使用する喜びも与えてくれます。
籐細工品は、その機能性だけでなく、このような美的側面も人々を魅了し続けています。
手作業による細かな仕上がりは、工業製品にはない温かみと、製作者の技術や心を感じさせる要素を持っており、多くの人々に価値を見出されています。
道具として生活になじみやすい
籐細工品は、その軽量性と強度のバランスが取れているため、日常生活で使用する道具として非常になじみやすいです。
籐は丈夫で耐久性がありながらも軽いため、日々の使用において扱いやすく、長時間の使用でも疲れにくいという特性があります。
さらに、籐の自然な風合いと柔らかさは、触れた時の感触が良く、生活の中での小さな慰めともなります。
また、籐製のアイテムはその見た目の美しさから、実用品としてだけでなく、室内の装飾品としても機能します。
これらの特性により、籐細工品は多くの家庭で愛用され、生活に溶け込む存在となっています。
籐細工の作業療法的特性について
作業療法における籐細工の特性については以下のとおりになります。
- 繰り返しの工程が多いこと
- 変化に富んだ動作も提供できること
繰り返しの工程が多いこと
籐細工における繰り返しの工程は、作業療法において重要な役割を果たします。
この繰り返しによる行動は、特に手指の細かな動きを要するため、手の筋肉を鍛え、手指の協調性や柔軟性を向上させる効果があります。
さらに、繰り返し行うことで、脳が特定の動作を学習し、神経回路の再構築を促進することが可能になります。
これは、脳卒中患者のリハビリテーションや、高齢者の認知機能低下の予防・改善にも役立つと考えられています。
繰り返しの工程は、集中力を高め、ストレスを減少させる効果もあり、精神的な安定やリラクゼーションにも寄与します。
このように、籐細工の繰り返し工程は、身体的なリハビリテーションだけでなく、精神的な健康を促進する面でも大きなメリットを持っています。
変化に富んだ動作も提供できること
籐細工は、単に繰り返しの工程だけでなく、変化に富んだ動作を通じて多様なスキルの向上を促すことができます。
籐を扱う作業は、伸ばす、曲げる、編む、結ぶといった様々な手技を必要とし、これらの動作は手指だけでなく、腕や肩の筋肉を使用することから、全身の運動能力の向上にも寄与します。
変化に富んだ動作は、身体の異なる部位の筋肉を均等に使用することを促し、身体のバランスを整える効果が期待できます。
また、異なる技術を習得する過程は、認知機能の活性化にもつながり、新しいことを学ぶ楽しさや、問題解決能力の向上にも役立ちます。
このような変化に富んだ動作を提供することで、作業療法は、単に身体機能の回復に留まらず、患者さんの生活の質(QOL)の向上に貢献することができるのです。
作業療法で籐細工を行う目的と、期待できる治療効果について
それでは、作業療法での籐細工を選ぶ目的や、患者さんに提供することで期待できる効果をもう少し深掘りしてみます。
ここでは…
- 手指の機能の改善
- ストレス発散
- 積極性の向上
- 自己評価の向上
- コミュニケーションスキルの向上
- 認知能力の向上
…などがあげられます。
以下にそれぞれ解説します。
手指の機能の改善
籐細工は手指能力が必要なアクティビティです。
籐細工で一つの作品をつくるにも、つまむ・ひっぱる・押し込むといった動作が求められます。
あと、やってみるとわかりますが結構指の力いるんです。
でも力を入れすぎると籐そのものを折ってしまいます。
折らないように…力の加減を調整して…上手に編んでいく。
結果、必然的に手指の機能改善が期待される…ということになります。
ストレス発散
籐細工で作品を作りあげるためには、結構な集中力で繰り返し作業に没頭する必要があります。
この、「集中」「繰り返し作業」「没頭する」は組み合わさると瞑想に近い感覚を得ることができます。
つまり、集中して籐細工を行うことは、瞑想に近い状態になり結果としてストレス発散になります。
積極性の向上
患者さんは入院中は常に病気や障害のことばかりを考えがちです。
そしてどうしても受動的になってしまう方も多いようです。
籐細工を行うことは、患者さんに積極的な気分を味わうきっかけになります。
これは、手を使って作業することによって、自分の能力を実感することができるから…ともいわれています。
自己評価の向上
籐細工を行うことで、患者さんは自分自身の能力を高めることができます。
「障がい者になってしまったけど、まだできることがあるとわかってうれしかった。」
…これは私が実際に患者さんからいただいた言葉です。
一つの作品を作り上げる達成感。
そしてそれを誰かに評価してもらうこと。
こういった経験によって自己評価が向上することが期待されます。
コミュニケーションスキルの向上
籐細工を行うことで、患者さんは作業療法士や他の人とのコミュニケーションを図るきっかけになることがあります。
1対1で言葉だけのコミュニケーションが苦手。
でも、籐細工を通してだとスムーズに交流ができるってこと、あるんです。
籐細工をきっかけに、苦手だったコミュニケーションに対して見方を変えることができるかもしれません。
認知能力の向上
作業療法において籐細工は、認知症や失語症の患者さんに対しての記憶力や認知能力の向上も期待することができます。
これは患者さんが手を使って作業を行うことによって、脳の認知機能が刺激されるためです。
籐細工のような手作りの作業には、積極的な視覚的および触覚的な刺激を生み出すことができます。
これは記憶力の向上や認知能力の向上に繋がります。