“失認”が起こる病気、そして脳のどの部分の損傷によって失認は起こるのでしょうか?
本記事では、失認の原因疾患と責任病巣について解説します。
失認の原因疾患
失認の原因疾患としては主に…
- 頭部外傷
- 脳卒中
- 脳腫瘍
- 脳膿瘍
- アルツハイマー病
…などがあげられます。
以下にそれぞれ解説します。
頭部外傷
交通事故や高いところから転落して頭を強く打ち、脳に損傷を起こす”頭部外傷”では、高次脳機能障害として”失認”の症状を起こす場合があります。
もちろん頭部外傷の程度によっては失認以外の高次脳機能障害も呈している場合があるので評価は注意が必要です。
脳卒中
失認は、脳梗塞や脳出血といった脳卒中によっても引き起こされます。
脳腫瘍
脳腫瘍は、脳内にできた良性または悪性の増殖組織です。
この脳腫瘍でも失認が起こる場合があります。
腫瘍によって脳が圧迫され、その結果失認の症状を呈することになります。
脳膿瘍
脳膿瘍(のうのうよう)は、脳内に膿がたまる病気です。
脳以外の頭部や血流に生じた感染症、または傷を介して細菌が脳に侵入することで形成されます。
これも脳への深刻なダメージが起こることから、失認をはじめとした高次脳機能障害を起こす場合があります。
アルツハイマー病
アルツハイマー型認知症の中期にも、失認が現れることがあります。
このアルツハイマー型認知症は、日常生活に支障が出ないほどの物忘れなどの前兆から始まり、初期症状→中期→末期へと時間をかけてゆっくり進行していきます。
そのため頭部外傷や脳卒中による失認のように”突然”症状が現れるというよりは、徐々に時計を見ても何かわからなくなる、名前がわからなくなる場合が多いようです。
失認の責任病巣
では高次脳機能障害でもある”失認”の責任病巣とはどこになるのでしょうか?
失認の責任病巣としておおまかには、頭頂葉、側頭葉、後頭葉があげられます。
しかし、その種類によって責任病巣が変わってくるので注意が必要です。
ここでは失認の種類によって解説します。
視覚失認の責任病巣
視覚失認は主に後頭葉の損傷によって起こります。
また、視覚情報の処理過程に基づいて、統覚型、知覚型、連合型の3つのタイプによる症状分類が提唱されています。
これらのタイプによる責任病巣は以下の通りになります。
- 統覚型: 両側内側後頭皮質
- 知覚型: 責任病巣は記載なし
- 連合型: 左内側側頭後頭皮質
ただし、脳機能画像研究によって、外側後頭皮質が視覚形態処理に関与することが明らかとなっています。
そのため、左内側後頭皮質から外側後頭皮質までの経路が著しく損傷されると統覚型となり、この経路が部分的にでも機能していれば統合型となると考えられます。
また、左外側後頭皮質までの経路は保たれているものの、そこから吻側の経路に損傷があれば連合型になると考えられるようです1)。
聴覚失認の責任病巣
聴覚失認は主に側頭葉の損傷によって起こります。
また、聴覚失認が発症する損傷部位に関して、以下の5つのタイプに分類されます2)。
- タイプ 1:両側聴皮質の損傷
- タイプ 2:片側の聴皮質と他側の聴放線損傷
- タイプ 3:両側聴放線の損傷
- タイプ 4:内側膝状体の損傷
- タイプ 5:脳室拡大による大脳皮質のひ薄化による損傷
嗅覚失認
嗅覚失認は、側頭葉の前部の損傷に起因することがあります。
味覚失認
味覚失認も側頭葉の損傷に起因するようです。
触覚失認
触覚失認は頭頂葉が原因とされています。
参考
1)視覚失認―3つのタイプによる症状区分とそれぞれの責任領域について―
2)https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/28/2/28_2_224/_article/-char/ja/