インフォームド・コンセントは、患者の自己決定権を尊重し、医療における意思決定プロセスにおいて重要な役割を果たします。
本記事ではこのインフォームドコンセントついて解説します。
インフォームド・コンセントの意味とは?
インフォームド・コンセント(Informed Consent)とは、医療分野における重要な概念であり、患者が自分の健康に関する重要な意思決定を行う際に、十分な情報に基づいて自由にかつ明確に同意をすることを意味します。
具体的には、医療提供者が患者に対して治療の目的、方法、期待される効果、可能なリスクや副作用、代替の治療法などに関する包括的な情報を提供し、患者がその情報を理解した上で自らの意志で治療を受けるか否かを決定するプロセスです。
インフォームド・コンセントは、患者の自己決定権を尊重し、患者中心の医療を提供するための基本原則の一つとされています。
このプロセスを通じて、患者は自分自身の治療に関して能動的な役割を果たすことができ、医療提供者と患者の間の信頼関係の構築にも寄与します。
また、法的な側面からも、患者が十分に情報を得た上での同意なしに治療を行うことは、患者の権利を侵害する行為と見なされることがあります。
つまり、患者やその家族が病状や障害、そして治療について十分に理解し、また、医療職も患者と家族の意向や様々な状況や説明内容をどのように受け止めたか、そしてどのような医療を選択するか、患者・家族、医療職、MSW(医療ソーシャルワーカー)やケアマネジャーといった関係者が互いに情報を共有し、皆で合意するプロセスとなります。
インフォームド・コンセントを簡単に説明すると?
インフォームド・コンセントを簡単に説明すると、「十分な情報を得た(伝えられた)上での合意」となります。
これは、医療提供者が患者に対して治療の目的、方法、リスク、代替案などを十分に説明し、患者がその情報を理解して同意することを意味します。
インフォームド・コンセントの重要性
ここではこのインフォームド・コンセントの重要性について…
- 患者の自己決定権の尊重
- 信頼関係の構築
- 法的保護
…の観点から解説します。
患者の自己決定権の尊重
患者の自己決定権の尊重は、インフォームド・コンセントの最も重要な側面の一つです。
患者が自身の治療について積極的に関与し、意思決定を行うことにより、治療への理解と納得が深まります。
患者が自分の健康に関する情報を十分に理解し、自らの意志で治療を選択することで、治療に対する前向きな姿勢が生まれ、治療効果が高まる可能性があります。
また、自己決定権を尊重することで、患者は自分の価値観やライフスタイルに合った治療を選ぶことができ、治療の過程や結果に対しても納得感を持つことができます。
このように、自己決定権の尊重は、患者が自身の健康管理に積極的に関わることを促し、治療全体の質を向上させる要素となります。
信頼関係の構築
インフォームド・コンセントは、医療提供者と患者の間に強固な信頼関係を構築するための重要なプロセスです。
医療提供者が患者に対して透明性を持って情報を提供することで、患者は医療提供者の誠実さと専門性に対する信頼を深めることができます。
信頼関係が構築されると、患者は安心感を持って治療に臨むことができ、医療提供者とのコミュニケーションも円滑になります。
これにより、治療方針や治療過程に関する疑問や不安を適切に共有し、解消することができるため、患者の治療への協力意識が高まります。
信頼関係は、患者が医療提供者の指導を信じて従う基盤となり、治療の成功率を高める要因となります。
法的保護
適切なインフォームド・コンセントを行うことは、医療提供者にとって法的なリスクを減少させるための重要な手段です。
患者が十分な情報を得た上で治療に同意したことを証明することで、医療提供者は後々の法的トラブルを回避することができます。
例えば、治療後に患者が予期しなかった副作用やリスクに直面した場合でも、事前にその可能性について説明し、患者がそれを理解して同意したことが記録されていれば、医療提供者は法的責任を問われるリスクを低減できます。
また、インフォームド・コンセントは、医療訴訟において重要な証拠となり得るため、医療提供者は患者に対する説明責任を果たすと同時に、自身の法的保護を強化することができます。
このように、インフォームド・コンセントは法的な観点からも医療提供者にとって不可欠なプロセスです。
インフォームド・コンセントとヘルシンキ宣言
インフォームド・コンセントとヘルシンキ宣言は、患者や研究参加者の権利を保護するという共通の目的を持っていますが、それぞれ異なる文脈でこの概念が用いられます。
インフォームド・コンセントは、主に個々の患者が医療処置を受ける前に、治療の目的、利点、リスクなどについて十分な情報を提供され、その上で自らの意志で同意をするプロセスを指します。
これは日常の医療実践において重要な役割を果たします。
一方で、ヘルシンキ宣言は、医学研究における倫理的原則を定めたものであり、特に人間を対象とした研究における倫理規範を提供します。
この宣言において、インフォームド・コンセントは研究参加者が研究について十分に情報を得た上で、自由にかつ明確にその参加に同意することを要求する重要な原則として位置付けられています。
インフォームド・コンセントとヘルシンキ宣言の関連は、どちらも個人の自己決定権と情報に基づく同意の重要性を強調している点にあります。
しかし、インフォームド・コンセントが個々の治療の文脈での患者の権利を保護するために用いられるのに対し、ヘルシンキ宣言は研究の文脈で、特に人間を対象とした医学研究における倫理的な枠組みとガイドラインを提供することで、研究参加者の権利を保護することを目指しています。
インフォームド・コンセントと法律
インフォームド・コンセントの根拠となる法律として医療法第1条の4第2項が挙げられます。
この医療法第1条の4第2項では…
…と示されています。
このインフォームド・コンセントと法律の関係は、患者の権利と医療倫理の枠組みの中で重要な位置を占めています。
インフォームド・コンセントの法的側面は、患者が自己の健康に関する意思決定において十分な情報に基づき、自由に同意する権利を保障することに焦点を当てています。
このプロセスは、患者と医療提供者間の信頼関係を築く上で不可欠であり、患者の自己決定権の尊重という原則に基づいています。
ここでは…
- 法的背景
- 法的責任と影響
…について少し深掘りしていきます。
法的背景
多くの国では、インフォームド・コンセントは法律によって要求されています。
これは、患者が医療処置を受ける前に、その処置の目的、利点、可能性のあるリスクや副作用、さらには代替の治療方法について十分に理解し、その上で同意を与えることを保証するためです。
患者が同意を与えるためには、医療提供者から適切で十分な情報を提供される必要があります。
法的責任と影響
インフォームド・コンセントの違反は、法的責任を生じさせる可能性があります。
患者が十分な情報を提供されずに同意した結果、望まない医療処置を受けたり、予期しない副作用や合併症が生じた場合、医療提供者は過失責任やバッテリー(不法な身体的接触)として訴えられることがあります。
そのため、医療提供者は、患者に対して治療の全ての側面について十分な情報を提供し、患者の同意を文書化することが法的にも重要です。
インフォームド・コンセントは、医療における患者の権利を保護し、医療倫理を守るための法的枠組みの中で極めて重要な役割を果たします。
医療提供者は、患者が情報に基づいた意思決定を行えるよう、十分な情報提供と患者の同意の確保に努めなければなりません。
これにより、患者の自己決定権が尊重され、医療訴訟のリスクを減らすことができます。
インフォームド・コンセントの遵守は、医療の質を高め、患者と医療提供者間の信頼関係を強化する上で不可欠です。
インフォームド・コンセントに重要な3つの概念
このインフォームド・コンセントを構成する要素として、大きく3つの概念があります。
それが…
- 説明
- 理解
- 合意
…になります。
以下にそれぞれ詳しく解説します。
説明
説明はインフォームド・コンセントプロセスの最初の段階であり、医療提供者が患者に対して治療の目的、方法、期待される利益、潜在的なリスクや副作用、代替の治療法などについての詳細な情報を提供する行為です。
この段階の目的は、患者が自己の健康に関する意思決定を行う上で必要なすべての情報を持つことを保証することにあります。
説明は、専門用語を避け、患者が理解しやすい言葉で行われるべきです。
このプロセスは、医療提供者と患者間の信頼関係を築く基礎となり、患者が自己の治療に関して能動的な役割を果たすことを促します。
理解
理解は、患者が提供された情報を正確に把握し、その意味と治療の意思決定における影響を認識するプロセスです。
この段階では、医療提供者が患者に質問を促し、疑問点や懸念事項を解消する機会を提供することが重要です。
理解を確認するために、医療提供者は患者に情報を繰り返して説明させるなど、患者が情報を十分に理解しているかを評価する方法を取り入れることがあります。
十分な理解が確認できない場合は、再度説明を行い、患者が自己決定を下すための基盤を固める必要があります。
合意
インフォームド・コンセントにおける“合意”とは双方の意見の一致(コンサンス)という意味で扱われることが通常です。
合意は、患者が提供された情報を理解し、治療の受け入れや拒否を決定するプロセスです。
この段階では、患者は自由な意志に基づき、文書による同意書に署名することで、治療計画への同意を公式に示します。
合意は強制されるものではなく、患者にはどの治療も拒否する権利があります。
また、患者は治療が開始された後でもいつでも同意を撤回することができます。
合意のプロセスは、患者の自己決定権を尊重し、その治療選択が患者自身の価値観や希望に基づいていることを確認することに重点を置いています。
インフォームド・コンセントの主な内容
では、実際にインフォームド・コンセントではどのような内容が説明されるのでしょうか?
もちろんその疾患や病状、状況によって様々ですが一例としては…
- 現在の病名や病状
- 予定している検査
- 予定している治療法
- 投与している薬物について
- 手術について
- 輸血の有無について
- 延命措置について
- 予測される経過と合併症について
…などがあげられます。
以下に説明します。
現在の病名や病状
ここでは、患者が現在抱えている病気やその症状について詳細に説明されます。
医療従事者は、患者の状態を明確にし、病気の性質や進行度に関する情報を提供します。
これには、病気がどのように体に影響を与えるか、長期的な見通しや潜在的な合併症についての情報も含まれることがあります。
予定している検査
患者に行われる予定の検査について説明します。
この部分では、検査の種類、目的、行う日時、期待される結果、そして潜在的なリスクや副作用について説明されます。
また、検査の準備方法や、検査後のケアに関する指示も提供されることがあります。
予定している治療法
医療従事者は、患者に対して提案される治療法に関して説明します。
これには、治療の目的、期待される効果、副作用やリスク、治療の期間、そして治療の過程における患者の役割や責任についての情報が含まれます。
治療法の選択肢や代替案も提示され、患者は自己決定に基づいて治療法を選ぶことができます。
投与している薬物について
患者に投与されている薬物、またはこれから投与される可能性のある薬物についての説明が行われます。
この部分では、薬の名前、用途、投与方法、効果、副作用、相互作用などの詳細が提供されます。
また、薬物の正しい使用方法や、使用中に注意すべき点についても説明されます。
手術について
手術が必要な場合、その必要性、手術の種類、手術に伴うリスクや合併症、手術後の回復過程について説明されます。
手術の手順、使用される麻酔、手術の長さ、手術に関わる医療チームのメンバーについての情報も提供されます。
手術によって期待される結果と、もし手術を行わなかった場合のリスクについても説明されます。
輸血の有無について
輸血が必要な場合、その理由、輸血によって期待される効果、輸血に伴うリスクや合併症について説明されます。
輸血の種類、必要な量、輸血の手順、輸血後のモニタリングやケアに関する情報も提供されます。
延命措置について
延命措置の必要性、措置の種類、期間、目的、期待される効果、リスクや合併症について説明されます。
延命措置を受けることの意味や、措置を拒否した場合の影響についても議論されます。
患者や家族が、延命措置に関する意思決定を行う際のサポートも提供されます。
インフォームド・コンセントの要件の適用免除事由
医療措置でも、場合によっては患者や家族が医療側から説明された内容を十分に理解できていない、権利を尊重できていないことなどから、十分な合意形成ができないまま、医療が提供されることがあります。
これを“インフォームド・コンセントの要件の適用免除事由”と呼ばれていますが、具体的には…
- 緊急事態
- 治療上の特権
- 他害の危険防止のため
…の3つの状況において発生する場合が多いようです。
この3つについても以下にそれぞれ解説します。
緊急事態
ここでの“緊急事態”とは、患者の状態に想定外の変化が生じ,その救命・健康維持に迅速な対応が必要な場合…になります。
患者の状態の急変+救命・健康維持に迅速な対応が必要な場合は、その要件の充足なしに医療を行うことが認められます。
注意点として、この場合基本的には,時間的余裕があれば,患者は同意したであろうことが推定できることが必要になります。
また、詳しい説明をする時間的余裕はないが,患者から一応の同意を取り付けることは可能な場合には,説明要件のみが免除されます。
患者に意識がなく,家族といった代諾者にも接触できず,かつ緊急に医療の実施が必要とされるような場合には,説明要件だけでなく同意要件も免除されます。
治療上の特権
これに代表される例としては、がん患者に対しての病名や予後の正確な説明の回避があげられます。
医療行為に関して、真実で正確な説明を行うことで…
- 患者自身の判断能力や合意的意思決定が妨げられる
- 患者の心身の健康そのものが損なわれる危険性が高い
…こういった場合には、インフォームド・コンセントの要件が果たすべき機能が得られない場合ということになります。
そのような場合にはインフォームド・コンセントによる要件の充足が免除される…とされてきました。
しかし、この理由によるインフォームド・コンセントの免除は、自己決定権の保護と相反する可能性が強くなります。
そのためその決定には非常に慎重さが必要とされます。
他害の危険防止のため
精神科医療における“措置入院”などがこれに代表される例になります。
つまり、第三者への危害が及ぶ危険性がある患者については,本人に同意能力があったとしても,他害を防止するために必要な医療行為を,本人の同意なしに行うことができます。
これは一見インフォームド・コンセントの根幹と矛盾するようにも思われますが、インフォームド・コンセントの要件の前提として“他者や社会に危害を与えるものでない限り…”という部分からも説明できるようです。
高齢者のリハビリにはICが重要?
高齢者のリハビリテーションにおいてインフォームド・コンセントの取得が特に重要視される理由は、高齢者特有の身体的、認知的な脆弱性と、リハビリテーションに伴うリスクの高さにあります。
高齢者は、若年者と比較して心臓病、脳血管疾患、糖尿病などの慢性疾患を有している割合が高く、これらの疾患はリハビリテーションのプロセス中に様々な合併症を引き起こす可能性があります。
例えば、運動による心臓への負荷が不整脈や狭心症の発作を引き起こしたり、筋力やバランス能力の低下が転倒や骨折に繋がる恐れがあるためです。
このため、リハビリテーションを開始する前に、医療提供者は高齢者本人および家族に対して、予定されているリハビリテーションの内容、目標、期待される効果、そして可能なリスクや副作用について詳細に説明する必要があります。
この説明には、リハビリテーションが高齢者の生活の質を向上させる可能性や、独立した日常生活を送るための機能回復を目指すことなど、ポジティブな側面も含まれますが、同時に発作、呼吸困難、不整脈、転倒などのリスクについても正直に伝える必要があります。
患者および家族からの書面による同意は、リハビリテーションプロセスの透明性を確保し、患者の自己決定権を尊重するために不可欠です。
インフォームド・コンセントを通じて患者と家族はリハビリテーションに関わる意思決定に積極的に参加することができ、患者中心のケアを実現することが可能になります。
また、患者と家族がリスクを十分に理解し、リハビリテーションの過程で起こり得る状況への準備と受容を促進することで、リハビリテーションの成果を最大化するとともに、万が一の事態に対する医療提供者と患者家族間の信頼関係を保つことにも繋がります。
インフォームド・コンセントと倫理的課題
インフォームド・コンセントに関する倫理的課題は、医療実践の中でしばしば遭遇する複雑な問題です。
特に、緊急を要する事態や適用免除事由が生じた場合、医療提供者は患者の生命を守るために迅速に行動する必要がありますが、この過程で十分なインフォームド・コンセントを得ることが難しい場合があります。
このような状況では、患者や家族の理解と同意を確保することと、患者の生命や健康を守ることの間で、医療提供者は倫理的なジレンマに直面する可能性があります。
ここでは…
- 緊急事態における即時対応の必要性
- 情報の理解度と同意の質
- 家族や代理人とのコミュニケーション
…について解説します。
緊急事態における即時対応の必要性
緊急事態では、患者の生命を救うためには迅速な医療措置が必要とされますが、この時、患者や家族に対して十分な説明を提供し、同意を得るための時間が不足していることがあります。
このような状況での行動は、患者の権利と安全のバランスをどのように取るか、医療提供者にとって大きな倫理的判断を要求します。
情報の理解度と同意の質
特に高齢者や認知症患者など、理解能力に制限がある場合、インフォームド・コンセントの過程で情報を適切に理解し、有効な同意を行うことが困難になることがあります。
この場合、患者の自己決定権をどのように尊重し、保護するかが重要な課題となります。
家族や代理人とのコミュニケーション
患者が自己の意志を明確に表現できない場合、家族や法定代理人が意思決定に関与します。
しかし、患者の意志と家族の意見が異なる場合、どのように患者の最善の利益を守るか、医療提供者は難しい判断を迫られます。
対応策と考慮すべき点
ではこのインフォームド・コンセントと倫理的課題の対応策はなにがあげられるでしょうか?
ここでは…
- 事前指示の尊重
- 継続的なコミュニケーション
- 倫理委員会の活用
…について解説します。
事前指示の尊重
可能であれば、患者が事前に作成したリビングウィルや事前指示書を尊重することが重要です。
これにより、患者の意志に基づいた医療が提供される可能性が高まります。
継続的なコミュニケーション
患者や家族との継続的なコミュニケーションを通じて、信頼関係を築くことが重要です。
緊急事態が発生した場合でも、事後に詳細な説明を提供し、患者や家族の疑問や懸念に答えることが求められます。
倫理委員会の活用
医療機関における倫理委員会や倫理相談窓口を活用することで、複雑な倫理的ジレンマに対して多角的な視点からのアドバイスを得ることができます。
クイズ