WAIS-R(ウェクスラー成人用知能検査・改訂版)- 特徴・対象・方法・高次脳機能への応用について

WAIS-R(ウェクスラー成人用知能検査・改訂版)- 特徴・対象・方法・高次脳機能への応用について 検査

知能指数(IQ)を検査する方法として有名なものとして、ウェクスラー(Wechsler)成人用知能検査(WAIS-R)があげられます。
現在ではWAIS-Ⅳが出版されていること、今回解説するWAIS-Rは30年近く前に発表されたものであること、また2005年に販売終了しているということもあるため、本記事では概要のみ解説します。


ウェクスラー成人用知能検査・改訂版(WAIS-R)とは?

ウェクスラー成人用知能検査・改訂版(WAIS-R)は、1990年に刊行されました。
“改訂版”とあることからもわかるように、1958年に刊行された“WAIS”を改訂した検査になります。

WAIS-Rの特徴について

では、この改訂版であるWAIS-Rの特徴についてはどのような点があげられるのでしょうか?
主な特徴としては…

  • 高齢化社会に向けて適用年齢の上限を74歳まで上げたこと
  • 知能の測定範囲を全検査IQで40〜160にまで広げていること

…の2点があげられます。

適用年齢について

WAIS-Rは16歳~74歳という広い年齢範囲に適用が可能です。

適用外の対象について

WAIS-Rの適用外の対象や状況としては…

  • 身体的、精神的な持久力が低下している場合
  • 重度知的障害を有しており、指示理解が困難な場合

…などがあげられます。

WAIS-Rの目的について

WAIS-Rによる検査目的は被験者の知能指数の算出…が主なものになります。
また後述しますが、各下位検査(サブテスト)によって高次脳機能障害について検査することができます。

下位検査を使って高次脳機能障害そのものの評価に応用するってことも臨床では役立つコツかもしれないね!
その場合は基準化された点数だけで判断せずに、質的な評価をみるという視点が重要かもしれませんね!

WAIS-Rの下位検査の方法について

WAIS-Rは6種類の言語性下位検査と6種類の動作性下位検査で構成されています。

言語性下位検査(verbal test)

6種類の言語性下位検査によって言語性IQ(VIQ)を検査することができます。

  • 知識(information)
  • 数唱(digit span)
  • 単語(vocabulary)
  • 算数(arthmetic)
  • 理解(comprehension)
  • 類似(similarities)

以下に詳しく解説します。

知識(information:29問)

知識および常識の範囲と知的好奇心の水準の問題が出題されます。
例:「“奥の細道”の作者は誰ですか?」「ミケランジェロは何で有名ですか?」

数唱(digit span:14問)

数を順番に復唱および逆唱する聴覚的再生力の問題が出題されます。
例:「6-1-9」

単語(vocabulary:35問)

単語を使用する能力および観念や思考の範囲や豊かさの問題が出題されます。
例:「“道楽”とはなんですか?」

算数(arthmetic:18問)

数の概念とその操作の能力の問題が出題されます。
例:「1個25円のものを6個買うといくらになりますか?」

理解(comprehension:16問)

生活経験や社会における判断力、理解力の問題が出題されます。
例:「山に木を植えるのはなぜでしょうか?」「税金を払わなければならないのはなぜでしょうか?」

類似(similarities:14問)

事物や情報の概念化および抽象化の能力の問題が出題されます。
例:「犬とライオンはどのように似ていますか?」「空気と水はどのように似ていますか?」

動作性下位検査

種類の動作性下位検査によって動作性IQ(PIQ)を検査することができます。

  • 絵画完成(picture completion)
  • 絵画配列(picture arrangement)
  • 積木模様 (block design)
  • 組合せ(object assembly)
  • 符号(digit symbol)

以下に詳しく解説します。

絵画完成(picture completion:21問)

不完全な絵を見せて,足りない部分を発見する視覚的弁別力,識別力の問題が出題されます。

絵画配列(picture arrangement:21問)

何枚かの絵を見せて白話の筋が通るように絵を順序正しく配列する因果関係を把握する能力の問題が出題されます。

積木模様 (block design:10問)

赤と自に塗ってある積木で,いろいろな模様を制限時間内に作成する空間的把握および視覚運動系の統合の能力の問題が出題されます

組合せ(object assembly:4問)

人形、横顔、手、像などの絵をバラバラにした図形を,それぞれ組み合わせる視覚的構成および概念化の能力の問題が出題されます。

符号(digit symbol)

9個の符号と数字を対応させ,再生することによる視覚運動系の機敏性,および慣れてい広い作業の学習能力の問題が出題されます。

WAIS-Rの結果算出について

WAIS-Rの検査結果は、記録用紙に記載していきますが、各下位検査を行う際の被験者の行動についても記載する必要があります。
また、WAIS-Rの「年齢群別素点-評価点換算表」を用いて言語性IQ(VIQ),動作性IQ(PIQ)、そして全検査IQ(TIQ)を求めます。

WAIS-Rの結果解釈ついて

各IQを算出したら、以下の手順で結果の解釈を行います。

  1. VIQ,PIQ、TIQから被験者の知的水準について判定する
  2. 下位検査の結果から被験者の知的活動の特徴について考察します(この場合、高齢者やうつ状態にある被験者の集中持続時間を考慮する必要があります)
  3. VIQとPIQの差、下位検査間の大幅な評価点の差異、基準年齢群換算表による評価点などを参考にして解釈します。

この場合特に、被験者にとって何を目的とした検査であるのかを明確にしてから解釈する必要があります。
職業適性や職場適応のために行った検査なのか、それとも集団への参加予測のための検査であったのかなど、検査結果の解釈も目的によって視点が変わってきます。

WAIS-Rは高次脳機能検査として有用か?

結論から言えば、WAIS-Rは個々の高次脳機能障害を特定できません。
しかし、各下位検査は何を問う課題なのかをしっかりと検者が把握することで、対象者はその下位検査課題をどのように回答するのかを観察でき、高次脳機能障害に対しての評価に役立たせることができます。
各下位検査と評価が期待できる高次脳機能障害としては…

サブテスト 高次脳機能障害
絵画完成 失認
数唱
絵画配列
単語
積木模様 構成能力
算数
組み合わせ
理解
符号 ワーキングメモリー
類似

WAIS-Rの代わりの検査方法について

WAIS-Rはすでに販売停止していることもあって、知的機能の検査としてはその後のWAIS-ⅢやWAIS-Ⅳが主流になっています。
ただし、古い論文などではWAIS-Rを使用しているものも多くあるので、概要やWAIS-Ⅲ、WAIS-Ⅳとの違いなどについて把握しておく必要があるかもしれません!

まとめ

本記事では、WAIS-Rについて解説しました。
現在の臨床ではWAIS-Rはあまり使われていないかもしれませんが、古い検査だからこそ様々なデータや知見が残っているという判断もできます。
検査バッテリーはあくまでツールですから、臨床で役立てるような工夫が求められるでしょうね!

ルール化された下位検査の方法は、作業療法の検査場面で応用が利くかもしれないね!
ある程度ルールは整っていますから、「過去の検査方法」とせずに利用するといいでしょうね!

もしこの記事に修正点やご意見がございましたら、お手数ですがお問い合わせまでご連絡ください。 皆様の貴重なフィードバックをお待ちしております。
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