GLIM基準は、国際的に認められた成人の低栄養診断基準で、食事不足や疾患関連性低栄養を包括的に評価します。
本記事では今後の診療報酬改定で再注目されたGLIM基準について解説します。
GLIM基準とは?
GLIM基準は、成人の低栄養を診断するための新しい国際基準です。
この基準は、世界の主要な臨床栄養学会が協力して開発され、「Global Leadership Initiative on Malnutrition (GLIM)」と名付けられました。
GLIM基準は、食物摂取不足だけでなく、疾患関連性低栄養も考慮しており、低栄養の診断と栄養治療における世界標準の基準となることが期待されています。
この基準には以下の2つの主要な部分があります。
- 表現型基準
- 病因基準
それぞれ解説します。
表現型基準
表現型基準は、低栄養の物理的な現れを評価するための指標です。
この基準には「意図しない体重減少」、「低BMI」、「筋肉量減少」の3つの項目が含まれています。
“意図しない体重減少”は、特定の期間内に体重が予期せずに減少した場合を指し、低栄養の初期警告信号とされています。
たとえば、6ヶ月間で5%以上の体重減少がある場合は、意図しない体重減少と見なされます。
また”低BMI”は、体格指数が一定の閾値以下になることを示し、栄養不良の可能性を示唆します。
具体的には、BMIが18.5未満の場合は低栄養のリスクが高いとされます。
“筋肉量減少”は、筋肉の量が減ることによる身体機能の低下を反映し、サルコペニアなど他の健康問題にも関連しているため、この指標は特に高齢者の健康状態を評価するのに重要です。
筋肉量の評価には、握力測定やDEXA(デュアルエネルギーX線吸収法)などの手法が用いられます。
病因基準
病因基準は、低栄養の根本的な原因を特定するために用いられます。
この基準には「食事摂取量減少/消化吸収能低下」と「疾患による負荷/炎症反応」の2つの項目が含まれています。
“食事摂取量の減少”は、食欲不振、食事制限、または食事の質の低下などにより生じることがあります。
たとえば、口腔内の問題や精神的なストレスが原因で食事摂取量が減少することがあります。
また、”消化吸収能低下”は、栄養素の摂取後の利用不良を意味し、消化器系の疾患や慢性疾患によって引き起こされることがあります。
例えば、クローン病やセリアック病などが消化吸収能の低下に寄与することがあります。
“疾患による負荷/炎症反応”は、感染症や慢性炎症状態が栄養状態に与える影響を表し、これらの状態はしばしばエネルギーや栄養素の需要を増加させ、低栄養を引き起こすことがあります。
これには、がんや慢性閉塞性肺疾患(COPD)などが含まれます。
GLIM基準の意義
GLIM基準は、低栄養の診断と治療における統一されたアプローチを提供することを目的としています。
この基準は、世界の主要な臨床栄養学会が協力して開発され、「Global Leadership Initiative on Malnutrition (GLIM)」と名付けられました。
GLIM基準の導入により、医療専門家は一貫した方法で低栄養を評価し、診断することができます。
これにより、患者の栄養状態の改善が期待され、医療の質の向上につながります。
さらに、GLIM基準は研究の標準化にも寄与し、異なる研究間での結果の比較が容易になります。
これにより、低栄養に関する新たな知見の発見や治療法の開発が進むことが期待されています。
GLIM基準の使い方
GLIM基準の使い方は、主に低栄養のスクリーニングと診断に関連しています。
具体的には…
- 栄養リスクスクリーニング
- 低栄養診断の確定
- 重症度の判定
…というステップで解説します。
栄養リスクスクリーニング
全ての患者に対して行われる栄養リスクのスクリーニングは、低栄養の可能性を迅速に識別するための最初のステップです。
使用されるスクリーニングツールには、MUST(Malnutrition Universal Screening Tool)、NRS-2002(Nutritional Risk Screening 2002)、MNA®-SF(Mini Nutritional Assessment-Short Form)などがあります。
これらのツールは、患者の体重変化、食欲の状態、最近の病歴、総合的な健康状態を評価することで、栄養リスクを評価します。
スクリーニングによりリスクがあると判断された患者は、さらに詳細な診断プロセスに進みます。
低栄養診断の確定
栄養リスクのある患者に対してGLIM基準を用いた低栄養診断を行います。
診断は、表現型基準と病因基準の両方を使用して行われ、患者が少なくとも1つの表現型基準(意図しない体重減少、低BMI、筋肉量減少)と1つの病因基準(食事摂取量減少/消化吸収能低下、疾患による負荷/炎症反応)に該当する場合に低栄養と診断されます。
このステップは、栄養状態の具体的な問題点を明らかにし、必要な栄養治療の計画を立てる基礎を提供します。
重症度の判定
低栄養と診断された患者に対しては、GLIM基準に基づき重症度を判定します。
重症度の評価は、表現型基準における異常の程度によって行われ、特定の基準値を超える場合に重度低栄養と判定されます。
それ以外の場合は中等度低栄養とされます。重症度の評価により、治療の優先順位や治療計画の強度が決定され、患者に対してよりターゲットを絞った介入が可能となります。
このプロセスにより、患者の回復を促進し、長期的な健康結果を改善することが期待されます。
GLIM基準と下腿周囲長について
GLIM基準では、低栄養の評価に下腿周囲長が重要な指標となっています。
男性は34cm未満、女性は33cm未満、入院中の高齢者はそれぞれ30cm未満、29cm未満がカットオフ値です。
下腿周囲長の測定は、膝蓋骨下縁と腓骨外果を結ぶ線の中点で行い、浮腫がある場合は下方から測定します。
GLIM基準の実践への応用
このように臨床現場で活用されることへの期待が大きいGLIM基準ですが、実践への応用としてはどんなものがあげられるでしょうか?
ここでは…
- 高齢者のケアにおけるGLIM基準の応用
- がん患者におけるGLIM基準の応用
- 慢性疾患患者におけるGLIM基準の応用
- 医療施設でのGLIM基準の導入
- 地域社会におけるGLIM基準の応用
…という観点から解説します。
高齢者のケアにおけるGLIM基準の応用
高齢者のケアにおいて、GLIM基準は早期の低栄養発見と適切な栄養介入に不可欠です。
高齢者は食欲低下や消化機能の低下など、さまざまな要因により低栄養のリスクが高まります。
GLIM基準を用いることで、医療スタッフは定期的な評価を行い、低栄養の早期兆候を見逃さずに発見することができます。
例えば、体重の意図しない減少や筋肉量の減少を観察し、必要に応じて栄養補助食品や食事療法を導入します。
これにより、高齢者の身体機能の維持や生活の質(QOL)の向上が期待されます。
具体的には、定期的な体重測定とBMI計算、握力測定を組み合わせて高齢者の栄養状態を包括的に評価します。
これらの評価結果を基に、個別の栄養介入計画を立て、食事の改善や栄養補助食品の提供を行います。
これにより、高齢者の健康状態の悪化を防ぎ、長期的な介護負担の軽減にも寄与します。
がん患者におけるGLIM基準の応用
がん患者は、治療の影響や疾患そのものによって栄養状態が悪化しやすい傾向があります。
GLIM基準を活用することで、がん患者の栄養状態を正確に評価し、適切な栄養介入を行うことが可能となります。
例えば、化学療法や放射線療法の副作用により食欲が低下し、体重減少や筋肉量の減少が見られる場合があります。
GLIM基準を用いて、これらの変化を早期に捉え、個別の栄養補助計画を策定します。
具体的には、高タンパク質食や高カロリー食の提供、栄養補助食品の使用を検討します。
また、栄養サポートチーム(NST)と連携し、継続的な栄養評価と介入を行います。
これにより、がん治療中の患者の体力を維持し、治療効果を最大化することができます。
栄養状態の改善により、患者のQOLが向上し、治療への積極的な参加が促進されます。
慢性疾患患者におけるGLIM基準の応用
慢性疾患患者に対しても、GLIM基準は重要な役割を果たします。
例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や心不全などの患者は、慢性的な栄養不良に陥るリスクが高いです。
GLIM基準を用いることで、これらの患者の栄養状態を包括的に評価し、早期に低栄養を発見することができます。
具体的には、患者の体重や筋肉量、食事摂取量を定期的にモニタリングし、低栄養の兆候を見逃さないようにします。
必要に応じて、食事療法や栄養補助食品の導入を検討し、個別の栄養治療計画を策定します。
これにより、患者の身体機能の維持や疾病管理が改善され、再入院率の低下や生活の質の向上が期待されます。
また、患者教育を通じて、家庭での栄養管理の重要性を啓発し、患者自身が積極的に栄養状態を管理できるように支援します。
医療施設でのGLIM基準の導入
病院や介護施設などの医療施設では、GLIM基準の導入により、低栄養評価の標準化と効率化が図れます。
医療スタッフは、GLIM基準に基づく評価ツールを用いて、患者の栄養状態を定期的にチェックします。
例えば、新規入院患者に対して、入院時にGLIM基準を用いた栄養評価を実施し、低栄養リスクを早期に特定します。
その後、栄養リスクが高い患者には、専門的な栄養評価と介入を行います。
これにより、患者の栄養状態を改善し、治療効果を最大化することが可能となります。
具体的には、栄養サポートチーム(NST)が中心となり、医師、看護師、管理栄養士が連携して個別の栄養介入計画を立て、実行します。
これにより、院内の低栄養管理が一元化され、患者ケアの質が向上します。
地域社会におけるGLIM基準の応用
地域社会においても、GLIM基準は重要な役割を果たします。
特に在宅ケアや地域包括ケアシステムにおいて、GLIM基準を用いた低栄養評価と介入が効果的です。
例えば、地域の高齢者を対象に定期的な栄養評価を行い、低栄養リスクが高い人々を早期に特定します。
これにより、適切な栄養介入を行い、低栄養の進行を防ぐことができます。
また、地域の介護サービス提供者やボランティアがGLIM基準に基づく簡易評価ツールを使用し、日常的に高齢者の栄養状態をモニタリングすることが推奨されます。
これにより、地域全体での低栄養対策が強化され、高齢者の健康維持と生活の質の向上が期待されます。
さらに、地域の保健師や栄養士による栄養教育プログラムを通じて、住民自身が栄養管理の重要性を理解し、自らの健康を守る意識を高めることが重要です。
GLIM基準と診療報酬改定
令和6年度の診療報酬改定では、GLIM基準に基づいた栄養状態の評価が重視されています。
これにより、医療機関は患者の栄養リスクの評価と管理をより積極的に行うことが求められ、栄養サポートが必要な患者に対して適切な介入が行われるよう促されます。
ここでは…
- 診療報酬改定の背景と意義
- 入院基本料における標準的な栄養評価の追加
- 回復期リハビリテーション病棟入院料1へのGLIM基準の必須化
- 栄養サポートチーム(NST)の役割の強化
- 診療報酬改定の全体的な影響
…について解説します。
診療報酬改定の背景と意義
令和6年度の診療報酬改定において、GLIM基準に基づく栄養状態の評価が重視されるようになった背景には、栄養管理の重要性が広く認識されるようになったことが挙げられます。
低栄養は患者の治療効果や回復速度に大きな影響を与えるため、医療機関が栄養リスクを正確に評価し、適切な栄養介入を行うことが求められています。
これにより、患者の治療効果の向上や入院期間の短縮、再入院率の低下が期待されています。
さらに、栄養管理が適切に行われることで、患者の生活の質(QOL)が向上し、医療費の削減にも寄与することが期待されています。
診療報酬改定により、医療機関はこれらの効果を実現するために、栄養状態の評価と管理を積極的に行うことが奨励されています。
入院基本料における標準的な栄養評価の追加
令和6年度の診療報酬改定において、入院基本料に標準的な栄養評価が追加されました。
これにより、すべての入院患者に対して、入院時にGLIM基準に基づく栄養評価が行われることが義務付けられます。
具体的には、入院時に患者の体重、BMI、筋肉量、食事摂取量、病因を評価し、低栄養リスクを特定します。
この評価結果に基づき、栄養サポートが必要な患者には、個別の栄養介入計画が策定されます。
これにより、低栄養の早期発見と適切な介入が可能となり、患者の回復を促進し、治療効果を最大化することができます。
さらに、この取り組みにより、医療機関全体の栄養管理の質が向上し、患者ケアの標準化が進むことが期待されています。
回復期リハビリテーション病棟入院料1へのGLIM基準の必須化
回復期リハビリテーション病棟入院料1において、GLIM基準の必須化が新たに設けられました。
これにより、リハビリテーション病棟に入院する患者に対して、GLIM基準に基づく栄養評価が必須となります。
具体的には、リハビリテーション病棟の患者は、入院時および定期的に栄養状態を評価され、低栄養リスクがある場合は、適切な栄養介入が行われます。
これにより、リハビリテーションの効果を最大化し、患者の機能回復を促進することが期待されます。
また、栄養状態の改善により、リハビリテーション中の合併症のリスクが低減し、患者のQOLが向上します。
このように、GLIM基準の導入は、リハビリテーション病棟における患者ケアの質の向上に寄与する重要な要素となります。
栄養サポートチーム(NST)の役割の強化
診療報酬改定に伴い、栄養サポートチーム(NST)の役割も強化されます。
NSTは、医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、言語療法士などで構成され、患者の栄養管理を総合的にサポートするチームです。
GLIM基準に基づく栄養評価が導入されたことで、NSTはより積極的に患者の栄養状態を評価し、適切な介入を行う役割を担います。
具体的には、NSTは患者ごとの栄養リスクを評価し、個別の栄養介入計画を策定します。
また、定期的なモニタリングを行い、栄養状態の改善を目指します。
この取り組みにより、NSTの活動が医療機関全体の栄養管理の質を向上させ、患者の治療効果を最大化することが期待されます。
さらに、NSTの活動を通じて、医療スタッフの栄養管理に関する知識と技術が向上し、組織全体の能力向上にも寄与します。
診療報酬改定の全体的な影響
令和6年度の診療報酬改定は、GLIM基準の導入を通じて、医療機関における栄養管理の重要性を再認識させる契機となります。
これにより、医療機関は低栄養の早期発見と適切な介入を通じて、患者の治療効果とQOLを向上させることが期待されます。
具体的な変更点として、入院基本料における標準的な栄養評価の追加や、回復期リハビリテーション病棟入院料1へのGLIM基準の必須化が挙げられます。
これにより、医療機関は一貫した方法で栄養リスクを評価し、適切な介入を行うことが求められます。
また、NSTの役割強化により、栄養管理の質が向上し、患者ケアの標準化が進むことが期待されます。
診療報酬改定は、医療機関全体の栄養管理体制を強化し、患者の健康と福祉の向上に寄与する重要な政策変更となります。
GLIM基準に関するクイズ