BIT(Behavioural Inattention Test)- 評価方法や検査目的・基準値、カットオフ値について

検査

半側空間無視の評価の方法に、“BIT(Behavioural Inattention Test)”という検査方法があります。
この検査は実際の日常生活を模した行動検査も含むことから、非常に作業療法にとって有益な検査方法です。

そこで今回は、このBITの特徴や検査方法や特徴、カットオフ値などについて解説します。


BIT(Behavioural Inattention Test)とは?

BIT(Behavioural Inattention Test)とは?
BIT(Behavioural Inattention Test)は半側空間無視症状を評価するための検査です。
このBITは半側空間無視の国際的な検査法として広く使用されています。
ちなみに『BIT行動性無視検査日本版』は日本の高齢者に適応しやすいように作成されているのも特徴です。

BITは通常検査と行動検査で構成されている

BITは通常検査と行動検査で構成されている
BITは大きく分けると…

  • 通常検査
  • 行動検査

…の2つで構成されています。

通常検査は線分末梢検査や文字末梢検査といった古典的な検査方法。
そして行動検査は日常生活をデモンストレーションした場面設定をしたうえでの課題によって検査します。

所要時間

BITの所要時間
BITを行うための所要時間としては…

  • 通常検査:約20分
  • BIT全体(行動検査含む):45分程度

この程度のまとまった時間が必要になります。
被験者の負担も考慮したうえで実施する必要があります。

実施条件

BITの実施条件
BITによって半側空間無視の症状を検査するには様々な能力が必要となってきます。

  • 指示理解が可能
  • 視力障害がない(視野障害は問わない)
  • 注意障害がない
  • 記憶障害がない(HDS-RやMMSEの点数が15点以上)

このような条件が必要になります。

従来の半側空間無視の検査では、患者さんの行動面に対する系統的検査をおろそかにしがちなものだった…と問題視されていたようだね!
たしかに線分末梢検査や線分二等分線検査で問題がない患者さんでも、ADL動作上で無視の症状が著明な場合って臨床でみられることですからね。

通常検査について

BITの通常検査について
BITにおける通常検査は次の6種類になります。

  • 線分抹消試験
  • 文字抹消試験
  • 星印抹消試験
  • 模写試験
  • 線分二等分試験
  • 描画試験

以下にそれぞれ解説します。

線分抹消試験

長さが25mmで様々な方向を向いた短い線分(40本)が印刷された検査用紙を使用します。
この線分すべてに印をつける課題になります。
最初に検者が線分が印刷された範囲を示した後、方法の見本として中央にある4本の線分のうち、2本に印をつけて示します。
その後クライアントにすべての線分に印をつけるよう指示します。

文字抹消試験

5行の文字列が印刷された検査用紙を使用します。
文字には「え」と「つ」を含む無意味な平仮名がランダムに並んでおり、そのなかから「え」と「つ」のみを選んで印をつける課題になります。
先ほどの線分末梢試験同様、最初に文字列の範囲を示したあと、検者が実際に見本として用紙の下部の「え」と「つ」に印をつけて示します。
その後全ての「え」と「つ」に印をつけるように指示します。

星印抹消試験

大きい星が52個、無作為に配置された13文字と10単語の間に小さい星が56個印刷されている検査用紙を使用します。
この中から小さい星のみに印をつける課題になります。
最初に大きい星、小さい星を示し、見本として検者が実際に用紙中央の矢印の真上にある小さい星に印をつけて示します。
その後すべての小さい星に印をつけるよう指示します。

模写試験

『星』、『立方体』、『花』、3つの幾何学図形が描かれた検査用紙を使用します。
この図形をみながらそれぞれ模写してもらう課題になります。
左右のバランスなど正しく描かれているかどうかを評価し、採点します。

線分二等分試験

204mmの水平な線分3本が階段状に印刷された検査用紙を使用します。
この3本の線分の範囲を示した後、それぞれの真ん中に印をつけてもらうよう指示します。

描画試験

被験者に白紙を提示し、以下のものを描かせるよう指示します。

  • 数字が書いてある時計の文字場盤
  • 正面から見た、立っている人の絵
  • 蝶の絵

この通常検査によって患者さんがどの程度空間的な無視を示しているかを評価するんだ!
標準化されているからこそ、定量的に評価できますね!

行動検査について

BITの行動検査について
BITにおけ行動検査は以下の9種類になります。
この下位検査では、基本は各課題における見落とし数や誤反応数から換算表によって評価点を算定します。
ただ点数だけでなく見落としの偏りといった「どのような工程を辿って課題遂行したか?」という点も注意して観察する必要があります。

写真課題

3枚の大きなカラー写真を一枚ずつ提示します。内容は…

  • 皿に乗った食べ物
  • 洗面台と洗面用具
  • 様々なものが置いてある窓辺

この3枚の写真それぞれにみられる主要な物品を指さしてその名前を呼称するよう指示します。
ちなみに名前が分からない場合でも、その物を指でさせればOKとします。

電話課題

実際の電話機(プッシュ式orダイヤル式)を使用します。
数字(電話番号)がかかれた3枚のカードを1枚ずつ提示し、実際に電話をかけてもらうように指示します

メニュー課題

被験者には閉じたままのメニューを渡し、その後にメニューを開き、書いてある品物を全てもらさないように読み上げるよう指示します。
採点対象にはなりませんが、文字の偏の見落としなどによる“読み誤り”も同時に観察することも重要です。

音読課題

3段からなる短い記事を私、それを読むように指示します。
音読の課題になるため失語症があるクライアントにとっては実施困難になるので適応外として扱われます。

時計課題

この時計課題は3つの部分から構成されており、

  • デジタル時計の写真に示された時刻を読ませる
  • アナログ時計の文字盤に示された時計を読ませる
  • 検者が告げた時刻にアナログ時計の針を合させる

…になります。

硬貨課題

まず被験者には台紙の上に決められた通りに配置し並べた硬貨(500円、100円、50円、10円、5円、1円)を示し、告げられた種類の硬貨を指さすように指示します。

書写課題

提示した住所と文章を書き写させる課題になります。
採点対象にはなりませんが、漢字や書字の誤りも観察しておく必要があります。

地図課題

与えられた平仮名の順番にしたがって地図の道をたどる課題になります。

トランプ課題

付属のトランプカードを採点用紙の配置模式図に従って並べる課題です。
この際は数字が合っていればよいのでスペード、クローバー、ハート、ダイヤといった札の種類は特に問題ありません。

実際の日常生活上でのタスクを通じて、無視の症状を評価するんだね!
どのように日常生活に影響を及ぼすのかシミュレートできますね!

BITの点数とカットオフ値について

BITの点数とカットオフ値について
BITの点数とカットオフ値についてですが…

  • 通常検査:最高得点141点 カットオフ 131点
  • 行動検査:最高得点81点 カットオフ 68点
  • …になります。

    BIT(行動性無視検査)のカットオフ値は、BIT通常検査合計得点が131点以下の場合に半側空間無視があり、ADL、訓練場面においても無視による障害が現れると判断されます。
    ただし、BIT通常検査合計得点が132点以上であっても、下位検査の1つ以上でカットオフ点以下がある場合には半側空間無視の可能性を考え、検査結果やADL、訓練場面を注意深く観察する必要があります。

    通常検査と行動検査の解釈の違いと応用の違い

    通常検査と行動検査の解釈の違いと応用の違い
    BITは“通常検査”と“行動検査”の2種類で構成されていますが、その結果の解釈はそれぞれ異なります。
    結論から言えば、

    • 通常検査:半側空間無視の有無の診断
    • 行動検査:日常的問題の予測、作業療法士によるリハビリテーション課題選択の手がかりとして

    このように通常検査、行動検査の結果解釈の違いを理解することで、クライアントの半側空間無視の判断から問題抽出、リハ訓練への応用、日常生活動作への汎化と一定のプロセスを踏むことができます。

    点数以外の観察ポイント

    BITの点数以外の観察ポイント
    BITはその点数のみならず、課題遂行の際の様子やパターンを観察することでどのような半側空間無視の症状でもそのクライアント特有の「個性」を抽出することができます。
    例としては、

    • 検査用紙(検査カード)の右側or中央付近から課題を開始する→典型的な左空間無視の症状
    • 不規則な走査(用紙の片側から急に反対側に跳躍する)
    • 注意を向けた空間内において標的に2回以上印をつけようとする
    • 描画や模写の課題で用紙の一端に寄って描かれている

    …といったことがあげられます。

    BITだけで判断することは危ういこと?

    BITだけで判断することは危ういこと?
    BITは半側空間無視の検査方法ではありますが、もちろん他の高次脳機能障害によって点数が左右される場合もあります。

    BITの点数がカットオフ値以下だからといって100%「半側空間無視」と判断することは危険ということです。
    実際に通常検査の結果は正常範囲なのに、行動検査の結果がカットオフ値以下…というケースもあるようです。

    この場合は半側空間無視だけではなくそれ以外の“注意障害”といった高次脳機能障害が混在している場合があるので、他の検査も行ってその症状と課題をしっかりと抽出する必要があります。

    線分抹消試験ではだめなの?

    線分抹消試験ではだめなの?
    半側空間無視の検査では、線分末梢試験や簡単な描画、模写化課題などが多く使用されていますので、「これだけでいいのでは?」と思われがちです。
    たしかにこれらの検査では半側空間無視の症状があるかどうかを判断することはできます。
    しかし、日常生活において紙面上の検査のみでは、クライアントに起こり得る問題の予測には役立たせることができにくい検査法です。

    そこでBITを使用することで、半側空間無視に関連した日常生活能力を客観的に評価することができ、作業療法の訓練に反映することができます。

    BITの検査キット、評価用紙を手に入れるには?

    BITはサクセスベルより販売されています。
    カットオフ値などは正規のマニュアルを参考にすることをおすすめします。

    サクセスベル

    半側空間無視を紙面上の検査だけでなく、実際の日常生活場面に模した行動検査も含めて標準化している点で臨床的といえるだろうね!
    症状があるかどうか疑わしい患者さんには積極的にこのBITを用いることが重要でしょうね!

    関連文献

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