半側空間無視の発生機序について調べていると、いくつかの“説”があることがわかります。
そこで今回は『半側空間無視の発生機序に関わる6つの説』について解説します。
半側空間無視の発生機序について
半側空間無視の発生機序に関わる説として言われているものは、
- 注意障害説
- 表象障害説
- 方向性運動低下説
- 眼球運動障害説
- amorphosynthesis説
- 一側性記憶障害説
…があげられます。
以下にそれぞれ詳しく説明します。
注意障害説
1987年に“Kinsbourne”が、1989年に“Weintraub”が唱えた説がこの“注意障害説”になります。
この説は、半側空間無視のクライアントは右側に強く注意が引きつかれやすいこと、そしてそこから左側にも注意を向けることが困難であること。
その結果左側を無視するような症状が現れる…という説です。
そもそも右半球は左半側空間にも右半側空間にも注意を向けることができる一方、左半球は右半側空間にしか注意を向けることができないようです。
つまり、健常な状態の脳では、両側の半球の注意配分が合わさることで左右の空間へ平等に注意配分が可能ですが、右半球が損傷されるとその配分が崩れてしまう。
結果として、右方向への注意が優位になり、左側への注意配分が減弱し、無視という症状になる…という考え方になります。
現在は最もこの説が有力とされているようですね。
表象障害説
1978年にイタリアの“Bisiach”らが唱えた説です。
意識下における“外空間”、“自己の身体に関する表象の認識不可”によるものとされています。
Bistachらはミラノの大聖堂広場の周辺を熟知していたある半側空間無視のクライアントに対して、
- 大聖堂を背にした方向
- 大聖堂に向かって立った方向
…この2つの状態を想定させ頭の中で広場の細部まで思い出させるように指示したそうです。
そうするとどちらの場合でもそのクライアントは本人からみた“右側”だけを思い出し、左側は無視したようです。
つまり、決して視覚で認識していなくても、頭の中で想定したイメージにおいても左側の無視が起こることがわかりました。
この結果からBistachら記憶や感覚情報を顕在意識として想起させる際の“表象マップ”の存在を想定しました。
半側空間無視はこのマップの左側が障害された結果、無視の症状として現れる…と考えたようです。
つまり半側空間無視のクライアントの脳内では、左半分のイメージそのものが欠如されている…ということです。
方向性運動低下説
1993年に“Heilman”らが唱えた説です。
これは、半側空間無視のクライアントは麻痺側である左方向に向かう運動の開始や遂行に障害があるために無視が起こる…と考えるものになります。
つまり、この“方向性運動低下説”では、半側空間無視は視知覚や注意の問題というよりも運動の問題によって生じる症状…ということになります。
眼球運動障害説
De renziらが唱えた説です。
左側への眼球の“サッケード(興味の対象物に視線を向ける高速で一過性の眼球運動)”…の立ち上がりが不良で,左右同時に刺激されると右へ優位に引かれるため、無視の症状になる…という説になります。
ただ、この説はあまり支持されていないようです。
amorphosynthesis説
1954年に“Denny Brown”らが提唱した説です。
半側空間無視の責任病巣は左右の頭頂葉に同程度の割合で存在し、その頭頂葉が損傷されることで複数の感覚情報を空間的に統合することが困難になるため、無視という症状になる…ということです。
一側性記憶障害説
左半側空間に提示された刺激を忘れてしまう…という説になります。
まとめ
半側空間無視がどういう経緯で起こるのか?様々な説があることがわかりました。
今日では”注意障害説”や”表象障害説”やが有力…という意見も多くありますが、“空間性注意の神経ネットワーク”を軸とした考え方もあるため、まだはっきりとされていない…というのが本当のところのようです。