MTS(Modified Tardieu Scale) – 特徴・方法・解釈・MASとの違いなどについて

MTS(Modified Tardieu Scale) - 特徴・方法・解釈・MASとの違いなどについて 検査

Modified Tardieu Scale(MTS)は、筋肉の伸張速度と筋反応の質を評価し、痙縮の程度を定量的に把握する臨床ツールです。
本記事ではこの特徴や方法、MASとの違いなどについて解説します。


MTS(Modified Tardieu Scale)とは

Modified Tardieu Scale (MTS) は、関節の可動域(Range of Motion; ROM)と筋肉の反応の質(Quality of Muscle Reaction; QMR)を評価するために用いられる臨床的指標です。
このスケールは、特定の速度で筋肉を伸ばすことによって、痙縮の程度を定量化するために使用されます。

日本語の読み方としては「モディファイド・タルデュー・スケール」になるね!
“Modified”は「改良された」、”Tardieu”はこのスケールを開発した人物名、”Scale”は「尺度」または「スケール」と訳されますね!

Modified Tardieu Scaleの特徴

MTSの特徴として…

  • 測定肢位と筋の伸張速度が規定されている
  • 速度依存性の評価
  • 信頼性の高い評価

…があげられます。
それぞれ解説します。

測定肢位と筋の伸張速度が規定されている

Modified Tardieu Scale (MTS) は、特定の肢位で筋肉を伸ばす速度を明確に定めています。
この規定により、筋肉の痙縮を一定の条件下で評価することが可能になります。
痙縮の評価において、関節の角度や筋肉が伸ばされる速度は非常に重要です。
これらの因子が統制されることで、評価の再現性と精度が向上し、患者ごとの痙縮の状態を正確に把握できます。

MTSを使用する際には、特定の肢位を維持しながら、既定の速度で筋肉を伸ばすことが求められ、これが痙縮の評価の精度を高める要因となります。

速度依存性の評価

痙縮はその性質上、速度依存性を持っています。
MTSでは、異なる速度で筋肉を伸ばすことによって、この速度依存性を評価します。
速度を変えることで筋肉の反応がどのように変化するかを観察し、痙縮の程度をより詳細に把握することができます。
速度を変えて筋肉を伸ばすことにより、軽度から重度の痙縮まで幅広い状態を識別し、それに応じた治療計画を立てることが可能になります。

この速度依存性の評価は、痙縮の治療と管理において重要な役割を果たします。

信頼性の高い評価

MTSは、検者間および検者内での信頼性が高い評価方法です。
これは、MTSが提供する標準化されたプロトコルに従うことで、異なる検者が行った評価でも一貫性を保つことができるためです。
信頼性の高い評価は、臨床研究や日々の治療プラクティスにおいて非常に価値があり、痙縮の状態を正確に追跡し、治療の効果を評価するための基準となります。

また、この高い信頼性は、異なるクリニックや研究施設間でのデータの比較を可能にし、より広範な臨床的意義を持ちます。

これらの特徴は、MTSが痙縮の評価において重要なツールとなる理由を示しているんだ!
検者間での一貫性を保ちながら、速度依存性を考慮した痙縮の評価を行うことで、治療やリハビリテーションの計画立案において、より適切な介入が可能になるんですね!

Modified Tardieu Scale(MTS)の2つの要素について

MTSは、上述したように…

  • 筋肉の伸張速度(Velocity to Stretch; V)
  • 筋反応の質(Quality of Muscle Reaction; QMR)

…の2つの要素で評価を行います。
以下にそれぞれ解説します。

筋の伸張速度(V)

Modified Tardieu Scale (MTS) では、筋肉の伸張速度(V)は痙縮の性質を評価するための重要な要素です。
このスケールでは三つの異なる速度(V1、V2、V3)で筋肉を伸張し、それぞれの条件で筋肉の反応を観察します。

速度 手順
V1 できるだけゆっくりとした速度で関節を動かし、可動域の最大角度(R2)を測定します。
V2 重力に任せて関節運動を行います。
V3 できるだけ早く関節を動かし、抵抗感を感じた角度(R1)を測定します。

筋反応の質(QMR)

Modified Tardieu Scale (MTS) での筋反応の質(QMR)の評価は、痙縮の性質を定性的に理解するための重要な指標です。
QMRは筋肉が伸張された際の反応の質を示し、0から4のスケールで測定されます。

この評価は、筋肉の抵抗感やクローヌス(筋肉のリズミカルな収縮)の有無と持続時間を含め、痙縮の特徴を詳細に捉えるために設計されています。

スコア 説明
0 抵抗なし
1 全体を通して抵抗あり、明らかな引っかかりはなし
2 明らかな引っかかりがあり
3 明らかな引っかかりがあり、疲労時にクローヌス(10秒未満)
4 明らかな引っかかりがあり、疲労時でなくともクローヌス(10秒以上)

Modified Tardieu Scale(MTS)の評価の手順

MTSの評価手順としては…

  1. 評価の準備
  2. 筋肉の伸張速度の評価
  3. 筋反応の質(QMR)の評価

…のステップで解説します。

ステップ1 – 評価の準備

Modified Tardieu Scale (MTS) の評価を開始する前に、適切な評価環境と患者の準備が必要です。
まず、患者を快適で安全な位置に安置します。
通常、患者は背臥位で評価を受けることが多いですが、評価する筋肉群に応じて座位や仰臥位を使用する場合もあります。
患者のリラクゼーションを促進し、筋肉の自然な状態を保つために、適切な体位を確保することが重要です。

次に、評価に使用する器具、通常はゴニオメーターを準備し、正確な角度測定ができるようにセットアップします。
評価を行う際は、患者とのコミュニケーションを確保し、何を行うのかを説明することで、患者の不安を軽減し、協力を得やすくします。

この段階で、評価者は患者の医療歴や現在の症状についても確認し、評価の精度を高めるための情報を集めることが大切です。

ステップ2 – 筋肉の伸張速度の評価

MTSの評価の次のステップは、異なる速度での筋肉の伸張速度(Velocity to Stretch; V)の評価です。
このプロセスには、三つの速度(V1、V2、V3)が使用され、それぞれが異なる筋肉反応を引き出します。

V1は「できるだけゆっくり」と定義され、筋肉が最大に伸びる点までゆっくりと関節を動かします。
この速度での測定は、筋肉の自然な伸長性を評価します。

次にV2は通常重力に任せた速度で行われますが、MTSでは特にV1とV3の評価が重要視されます。
V3は「できるだけ速く」と定義され、速い動きに対する筋肉の反応、特に痙縮の反応を評価するために用います。

これらの速度で筋肉を伸張する際には、ゴニオメーターを使用して関節の動きの角度を正確に測定し、筋肉の反応を記録します。
このステップは、痙縮の速度依存性を理解し、適切な治療法を選択する上で重要な情報を提供します。

ステップ3 – 筋反応の質(QMR)の評価

最後のステップは、筋反応の質(Quality of Muscle Reaction; QMR)の評価です。
この段階では、先に測定した筋肉の伸張速度試験の際に観察された筋肉の反応を、0から4のスケールで評価します。

0は抵抗なし、1は軽度の抵抗感、2は明らかな引っかかり、3は非持続的なクローヌス(10秒未満)、4は持続的なクローヌス(10秒以上)になります。

この評価では、筋肉の抵抗の程度とクローヌスの有無及びその持続時間を詳細に記録します。

QMRのスコアリングにより、痙縮の程度をより詳細に把握し、それに基づいてリハビリテーションや治療の方針を立てることが可能になります。
この評価は、痙縮の治療効果のモニタリングにも役立ち、治療計画の調整に必要な情報を提供します。

Modified Tardieu Scale (MTS) は、痙縮の詳細な評価を可能にする臨床ツールであり、速度依存性を含む筋反応の質を通じて治療の方向性を定めるのに役立つんだ!
このツールを使用することで、患者個々の痙縮の特性を理解し、より効果的な個別化された治療計画を立てることが可能になるんですね!

Modified Tardieu Scale(MTS)の評価の解釈

MTSの評価の解釈として、ここでは…

  • 「R2 – R1」の値が大きい場合
  • QMRが2、3、4に該当する場合
  • 「R2 – R1」の値が小さい場合

…について解説します。

「R2 – R1」の値が大きい場合の解釈

「R2 – R1」の値が大きい場合、これは筋肉が急速な伸張に対して強い抵抗を示すことを意味し、痙縮の程度が強いと考えられます。
この数値は、筋肉が速い動きにどれだけ敏感に反応するかを示しており、特に神経系の異常による影響が強いことを示唆しています。

痙縮が顕著な患者では、この値が高くなる傾向があり、物理療法や薬物治療を含む総合的な治療計画の策定に役立つ重要な指標となります。

QMRが2、3、4に該当する場合の解釈

QMRが2、3、または4に該当する場合、これは筋肉が他動的な動きに対して明確な引っかかりやクローヌスを示すことを意味し、神経学的要素が大きいことを示します。
これらのスコアは、中枢神経系の障害から生じる異常な筋肉の活動を反映しており、特に脳や脊髄の損傷に関連する病態の診断に有用です。

リハビリテーションや神経調整を目的とした治療が必要とされる場合、これらのQMRの値は治療効果の評価と治療計画の調整に役立つ情報を提供します。

「R2 – R1」の値が小さい場合の解釈

「R2 – R1」の値が小さい場合、これは筋肉の伸張に対して少ない抵抗しか示さないことを意味し、非神経学的要素が大きいことを示します。
この状況は、筋肉の固有の機械的性質や組織の弾性によるものであり、神経系の異常が少ないことを示唆しています。

このような場合、筋肉の柔軟性を高める治療や、筋力を増強するための運動療法が有効であると考えられ、適切なリハビリテーション計画の策定に役立ちます。

MTS の「R2 – R1」の値とQMRの評価は、痙縮の診断と治療計画の立案において重要な指標を提供するんだ!
これらのデータを用いて神経学的および非神経学的要因を区別することで、患者に最も適した治療アプローチを特定し、効果的な治療結果を促進することが可能なんですね!

Modified Ashworth Scale(MAS)とModified Tardieu Scale(MTS)の違い

痙縮の状態を評価する方法でも、一般的なものとしてModified Ashworth Scale(MAS)があげられます。
このMASとMTSの違いについてですが、ここでは…

  • 速度依存性の評価
  • 評価の妥当性
  • 評価プロトコル

…という観点から解説します。

速度依存性の評価

Modified Tardieu Scale(MTS)は、異なる速度で筋肉を伸張することによって、筋肉の反応を評価します。
この方法は、速度依存性を直接考慮に入れるため、痙縮の特性をより詳細に理解することが可能です。
速度が異なると筋肉の反応も変わるため、このアプローチにより筋肉がどのように速い動きに反応するか、またそれが臨床的な痙縮の症状にどう影響するかを明確に把握できます。

MTSを使用することで、治療計画の策定において、特定の筋肉に対する治療の適応度や強度を精確に調整するための重要な情報を得ることができます。

評価の妥当性

MTSは筋肉の速度依存性を評価することで、Modified Ashworth Scale(MAS)よりも痙縮の特性を詳細に捉えることができるため、評価としての妥当性が高いとされます。
MASでは一定の速度でのみ筋肉を伸張するため、速度の変化に対する筋肉の反応を捉えることができません。
これに対してMTSでは、速度を変えることにより筋肉反応の変化を観察できるため、痙縮がどの程度速度に依存しているかを正確に評価できます。

このため、MTSは神経学的障害に基づく痙縮の診断や治療の精度を向上させるのに特に有効です。

評価プロトコル

MTSは評価プロトコルが標準化されており、特定の肢位での測定が定められています。
これにより、検者間での評価の一貫性が保たれ、より信頼性の高い結果を得ることが可能です。
例えば、上肢の評価は座位で、下肢の評価は仰臥位で行うといった具体的な指示があります。
これに対してMASでは、肢位や速度の標準化があまり定められていないため、検者による解釈の違いが結果に影響を与える可能性があります。

MTSの厳格なプロトコルは、臨床研究や多施設間でのデータの比較においても有効であり、広範囲にわたる臨床設定での使用に適しています。

Modified Tardieu Scale (MTS) は、速度依存性を考慮した評価プロトコルを提供し、痙縮の詳細な特性を捉えることができるため、治療計画の精度を向上させるのに役立つんだ!
一方、Modified Ashworth Scale (MAS) は、その簡便さから迅速なスクリーニングツールとして広く利用されていますが、MTSのような詳細な速度依存性の評価は行えないんですね!

関連文献

もしこの記事に修正点やご意見がございましたら、お手数ですがお問い合わせまでご連絡ください。 皆様の貴重なフィードバックをお待ちしております。
検査
THERABBY
タイトルとURLをコピーしました