半側空間無視の発生メカニズム

半側空間無視はどのような機序で発生するのでしょうか?
本記事では半側空間虫の4つの発生メカニズムについて解説します。

半側空間無視の発生メカニズム

半側空間無視の発生メカニズムは複雑で、脳内の情報処理や空間認知機能の障害が影響しています。
主な発生メカニズムには…

  • 注意の不均衡説
  • 表象地図説
  • 半側覚醒障害説
  • 空間知覚の優位性説

…があげられます。
以下にそれぞれ解説します。

注意の不均衡説(Kinsbourne)

半側空間無視の注意不均衡説は、1970年に Kinsbourne によって提唱された説です1)
この説では、両半球はそれぞれ対側へ注意を向ける作用があり、相互にバランスを保っています。
そのため一方の半球が損傷すると、もう一方の半球が対側に注意を向ける作用が強まり、無視が生じるとされます。
現在最も有用とされている説のようです。

表象地図説(Bisiach)

また、表象地図説は1978年にBisiachらによって提唱された説です2)
これは、患者の意識の中で物体や空間の表象が歪むことにより、無視側が意識から欠落するという説です。
例えば、右側に意識の限定が生じることで、左側の物体や情報が無視されるとされます。

半側覚醒障害説(Heilman)

1985年にはHeilmanらが、注意や覚醒を調節する系である皮質-辺縁系-網様体回路が一側性に損傷されることで無視が生じるという半側覚醒障害説を提唱しています。
患者が一方の半側に意識を向けることができないため、対側の刺激が感知されないとされます。

空間知覚の優位性説(Mesulam)

空間知覚の優位性説は1981年にMesulamが唱えた説であり、右脳半球は両側視野にわたる空間知覚に関与し、左脳半球は右側視野に関係しているとされています4)
したがって、右脳半球の損傷が無視側の発生に関連しているとされます。

これらのメカニズムは単独で作用するのではなく、複数の要因が絡み合って半側空間無視の症状が現れる場合があります。
個々の患者の状態に応じて、これらの要因が組み合わさって無視が生じることが考えられます。

参考

1)Kinsbourne M. A model for the mechanism of unilateral neglect of space. Trans Am Neurol Assoc. 1970;95:143-6. PMID: 5514359.
2)Bisiach E, Luzzatti C. Unilateral neglect of representational space. Cortex. 1978 Mar;14(1):129-33. doi: 10.1016/s0010-9452(78)80016-1. PMID: 16295118.
3)Heilman KM, Watson RT, Valenstein E: Neglect and related disorders. In Clinical Neuropsychology, 2nd ed, edited by Heilman KM, Valenstein E, Oxford University Press, New York, 1985, pp. 243-293.
4)Mesulam MM. A cortical network for directed attention and unilateral neglect. Ann Neurol. 1981 Oct;10(4):309-25. doi: 10.1002/ana.410100402. PMID: 7032417.

半側空間無視の発生機序には、これだけ複数の説があるということは、逆に言えば非常に脳の広範囲の領域が包括的に関わっているってことといえるだろうね!
脳画像による損傷部位の把握と、目の前の患者さんの症状、そして細かい検査結果で総合的に判断しないといけませんね!

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