SCIは、ストレス対処戦略を測定するための検査で、個人のストレス管理能力を評価し改善に役立てます。
本記事ではSCIの目的や特徴、実施方法などについて解説します。
SCIラザルス式ストレスコーピングインベントリーとは?
SCIラザルス式ストレスコーピングインベントリー(Lazarus Type Stress Coping Inventory)は、ストレスへの反応や対処方法を評価するための心理学的アセスメントツールです。
リチャード・ラザルスのストレス対処理論を基に開発され、日本語版で標準化されています。
このテストは、個人が最近経験したストレスフルな状況とそれにどのように対処したかを自己報告する形式で、ストレス対処行動の2つの大きな戦略(認知的ストラテジーと情動的ストラテジー)と、それらを構成する8つの対処型を評価します。


目的
SCIラザルス式ストレスコーピングインベントリーの主な目的としては…
- 個人のストレス対処行動のプロファイルの評価
- ストレス反応の理解と自己認識の向上
- 臨床、研究、教育、職場環境での適用
- メンタルヘルス改善と対処能力の向上
- 問題解決能力と情動調節能力の評価
…があげられます。
それぞれ解説します。
個人のストレス対処行動のプロファイルの評価
SCIは、個人が直面するストレスフルな状況にどのように対処しているかを測定するツールです。
このインベントリーは、個人が利用する2つの主なストラテジー(認知的ストラテジーと情動的ストラテジー)と、それらを実行する際に適用する8つの具体的な対処型を識別します。
この評価により、個人の対処行動の傾向が明らかになり、強みと弱みを認識することができます。
この自己認識は、自己改善への第一歩となり、より効果的なストレス管理へと導きます。
ストレス反応の理解と自己認識の向上
SCIを使用することで、個人は自身がストレスにどのように反応しているか、またそれがどのように自分の日常生活や健康に影響を与えているかを深く理解することができます。
自己認識を高めることは、ストレス管理のスキルを向上させ、将来的にストレスを受けた際により適切に対処するための基盤を築きます。
また、自己認識の向上は、ストレスの源泉を特定し、それに対処するための戦略を開発するのに役立ちます。
臨床、研究、教育、職場環境での適用
SCIは多岐にわたる分野で利用可能です。
臨床環境では、患者のストレス対処メカニズムを評価し、適切な治療法や介入を計画するための基礎データを提供します。
研究では、ストレス対処行動に関するデータを収集し、そのパターンを解析するために用いられます。
教育分野では、学生のストレス管理能力を高めるためのプログラム開発に役立ちます。
職場では、従業員のメンタルヘルスをサポートし、ストレスの少ない職場環境を促進するために活用されます。
メンタルヘルス改善と対処能力の向上
SCIは、個人が自身のメンタルヘルスを改善し、ストレスに対処する能力を高めるための具体的な戦略を特定するのに役立ちます。
インベントリーの結果をもとに、ストレス対処のための個別化されたプランを作成し、実施することが可能です。
これにより、個人はストレスの影響を軽減し、より健康で充実した生活を送ることができます。
問題解決能力と情動調節能力の評価
SCIは、個人の問題解決能力と情動調節能力を評価することも可能です。
これらの能力は、ストレスに対処する上で極めて重要であり、SCIを通じてこれらのスキルがどの程度発達しているかを把握することができます。
得られた情報は、個人がこれらの領域で必要とするサポートやトレーニングを特定するのに役立ちます。


特徴
SCIラザルス式ストレスコーピングインベントリーは、次のような特徴を持ちます。
- ラザルスのストレス対処理論に基づいた構造
- 自己採点方式による迅速な結果の取得
- 包括的な対処行動の評価
- 広範な適用性
- 自我態度スケール(EAS)との組み合わせ
以下にそれぞれ解説します。
ラザルスのストレス対処理論に基づいた構造
SCIは、リチャード・ラザルスのストレス対処理論に基づいて開発されました。
この理論は、ストレスが個人にどのように影響するか、そして個人がストレスにどのように対処するかを説明しています。
SCIはこの理論を具現化したものであり、ストレスに対する個人の認知的および情動的な対処戦略を明確に評価することができます。
これにより、個人が自己のストレス対処メカニズムを理解し、必要に応じて改善策を講じることが可能になります。
自己採点方式による迅速な結果の取得
SCIは自己採点式であり、個人が自分自身で検査用紙を採点することができます。
この方式により、即座に結果を得ることが可能となり、対処行動の評価と分析を迅速に行うことができます。
これは、特に時間に制約のある環境や迅速なフィードバックが求められる状況で有用です。
包括的な対処行動の評価
SCIは、ストレス対処に関連する2つの主要な戦略と8つの具体的な対処型を評価します。
この詳細な分析により、個人のストレス対処の傾向を全面的に理解することができます。
各対処型は、個人がストレスフルな状況にどのように対応しているか、どのような方法を取っているかを示し、それぞれの対処方法の有効性や改善点を明らかにします。
広範な適用性
SCIは、臨床診療、研究、教育、職場など様々な環境で使用することができます。
個人のメンタルヘルスを支援するだけでなく、組織やグループ内でのストレスマネジメントプログラムの開発にも役立ちます。
この広範囲な適用性は、SCIが多様なニーズに対応できる柔軟なツールであることを示しています。
自我態度スケール(EAS)との組み合わせ
SCIは、自我態度スケール(EAS)と組み合わせて使用することが推奨されています。
EASは、個人の自我構造や態度を評価するツールであり、SCIと組み合わせることで、個人のストレス対処能力とその背景にある心理的側面をより深く理解することができます。
この組み合わせにより、個人が直面するストレスやその対処方法に影響を与える可能性のある根底にある要因を明らかにし、より包括的な支援を提供することが可能になります。


ストラテジーとプロフィールの分類
SCIの調査Ⅰによる64項目の回答状況から、
ストラテジー(問題と情動志向)
プロフィール(対処型)
…という情報を得ることができます。
それぞれ解説します。
ストラテジー(問題と情動志向)
SCIによって対象者は…
認知的ストラテジー
情動的ストラテジー
…の2つに分類されます。
認知的ストラテジー(問題志向)
認知的ストラテジーは、個人がストレス源や問題に直面した際に、積極的に対処しようとする心理的メカニズムを指します。
このアプローチでは、問題を解決するために状況を分析し、具体的な解決策を模索します。
つまり、個人は問題そのものに焦点を当て、その問題を克服または変更するために行動を起こす傾向があります。
この種のストラテジーを採用する人は、チャレンジを機会と捉え、能動的に問題に取り組むことで、ストレスを管理しようとします。
彼らは通常、自己効力感が高く、状況をコントロールする能力に自信を持っています。
認知的ストラテジーは、問題を論理的に分析し、計画的に解決策を実行することで、ストレスの原因を根本から解消しようとする試みです。
このプロセスは、自己成長と発展にも寄与し、長期的にはストレス耐性の向上に繋がります。
情動的ストラテジー(情動志向)
情動的ストラテジーは、ストレスや問題に対処する際に、その状況から生じるネガティブな感情を軽減しようとする心理的なアプローチです。
この戦略では、問題そのものよりも、問題が引き起こす感情やストレスの感覚に焦点を当てます。
個人は、問題を直接解決するのではなく、リラクゼーションテクニック、ポジティブな自己暗示、趣味や娯楽活動への参加などを通じて感情的な安定を図ろうとします。
情動的ストラテジーを利用する人々は、問題から一時的に距離を置くことで心の平穏を得ることを目指し、ストレスの感覚を直接軽減しようとします。
このアプローチは、特に短期的には効果的なストレス軽減手段となり得ますが、長期的な問題解決には必ずしも寄与しない場合があります。
情動的ストラテジーの適切な使用は、個人がストレスフルな状況において精神的なバランスを保ち、過度なストレスから一時的に逃れるための手段となります。
プロフィール(対処型)
さらにSCIによって対象者は…
- 計画性(Pla)
- 対決型(Con)
- 社会的支援模索型(See)
- 責任受容型(Acc)
- 自己コントロール型(Sel)
- 逃避型(Esc)
- 離隔型(Dis)
- 肯定価値型(Pos)
…の8つの対処型に分類されます。
それぞれ解説します。
計画性(Pla)
計画性を持つ人は、ストレスや挑戦に対処する際に熟考と前向きな計画を優先します。
この対処型を示す人は、問題を慎重に分析し、可能な解決策を検討することに時間を費やします。
彼らはリスクを評価し、最適な行動計画を策定して実行に移します。
このアプローチは、将来の問題を予測し、それに備える能力を示します。
計画性のある人は、不確実性を管理し、ストレスの影響を最小限に抑えるために、準備と予防を重視します。
対決型(Con)
対決型の人は、自信を持って直面する問題に積極的に取り組みます。
彼らは自己信頼感が強く、困難な状況にも屈せず、積極的に解決策を求めます。
この対処型の人は、挑戦を乗り越えることで成長する機会とみなし、障害を克服する過程で自己効力感を高めます。
彼らは困難に直面するときも、自らの能力と資源を信じ、解決に向けて行動します。
社会的支援模索型(See)
社会的支援模索型の人は、ストレスや問題に対処するために他者の助けや支援を積極的に求めます。
彼らは人間関係のネットワークを大切にし、困難な時には友人、家族、同僚からのアドバイスや助けを受け入れます。
このタイプの人は、社会的なつながりを通じて感情的なサポートを得ることで、ストレスを軽減し、問題解決に向けての新たな視点を得ることができます。
責任受容型(Acc)
責任受容型の人は、自分の役割や責任を真摯に受け入れ、現実的かつ具体的な方法で問題に取り組みます。
彼らは自分自身や周囲の人々に対する義務感を重んじ、困難に直面しても、責任を果たすために努力を惜しみません。
この対処型は、信頼性と堅実性を示し、集団や組織内で重要な役割を果たすことが多いです。
自己コントロール型(Sel)
自己コントロール型の人は、自分の感情や行動をうまく管理し、他人を不快にさせないように注意します。
彼らは内面の平穏を保ちながら、感情を適切に表現する方法を知っています。
この対処型を持つ人は、冷静さを保ちながら問題に対処し、感情的な衝動に流されることなく、慎重な判断を下すことができます。
逃避型(Esc)
逃避型の対処は、問題から注意をそらし、一時的な解放を求める行動です。
この対処型を示す人は、問題を直視することを避け、やけになったり、責任を他人に転嫁する傾向があります。
逃避型の対処は短期的なストレス軽減にはなり得ますが、長期的な解決にはつながらず、問題をさらに複雑化させる可能性があります。
離隔型(Dis)
離隔型の対処方法は、自分自身を困難な状況や感情から遠ざけることにより、心の平和を保とうとするものです。
このタイプの人々は、問題から精神的な距離を置くことで、一時的な安堵を見つけます。
しかし、このアプローチは、根本的な問題の解決には寄与せず、時には現実逃避となることもあります。
肯定価値型(Pos)
肯定価値型の人々は、困難や挑戦を成長と自己発見の機会として捉えます。
彼らはストレスを経験し、それをポジティブな学習の機会として活用し、自己改革や自己啓発につなげます。
この対処型は、楽観的な視点を持ち、人生の困難を乗り越える過程で自己の価値や意味を見出すことを重視します。


適応範囲
SCIラザルス式ストレスコーピングインベントリーの年齢的な適応範囲は18歳以上の成人になります。
また、その主な適応範囲は非常に広く…
- 臨床心理学
- 教育心理学
- 産業・組織心理学
- 研究
- 個人の自己啓発
…といった様々な分野や状況での使用が想定されています。
以下にそれぞれ解説します。
臨床心理学
臨床心理学においては、まず精神健康の評価として個々の患者のストレス反応と対処メカニズムを理解し、治療計画や介入策の策定に役立てることができます。
またセラピーやカウンセリングにおいて、クライアントのストレス対処能力を評価し、自己認識を高め、より適応的な対処戦略を開発するためのサポートを提供する心理療法のプロセスとしても有用です。
教育心理学
SCIは教育心理学の文脈でも効果を発揮します。
学生のウェルビーイングとして、学生のストレス対処戦略を理解し、ストレス管理のプログラムやカウンセリングサービスを通じて彼らのメンタルヘルスをサポートすることができます。
また、教員や教育関係者が自身のストレス対処方法を理解し、職場でのストレスマネジメント技術を向上させることも期待できます。
産業・組織心理学
産業・組織心理学では職場のメンタルヘルスの評価として活用できます。
従業員のストレス対処能力を評価し、職場のウェルビーイングプログラムやストレス軽減策の開発に活用されることが期待できます。
また、組織内でのリーダーやチームメンバーのストレスマネジメント能力を強化し、効果的なコミュニケーションと協働を促進するリーダーシップやチームビルディングにも活用できます。
研究
SCIはリチャード・ラザルスのストレス対処理論を基礎に、対象者のストレスについて定量的に評価することができます。
そのため研究にも役立たせることができます。
ストレス対処メカニズムの理論的な理解を深め、異なる人口統計学的背景を持つ個人群間での対処戦略の違いを研究する基礎研究や応用研究。
加えて、ストレス対処に関する介入プログラムの有効性を評価するための前後比較や、異なる介入方法の比較研究などにも活用が期待できます。
個人の自己啓発
もちろん自己認識の向上として個人が自身のストレス対処戦略を理解し、より健康的で適応的な方法へと改善するための自己評価ツールとして使用することも可能です。


所要時間
SCIの所要時間は、実施時間と採点時間に分かれており、以下のように設定されています。
- 実施時間:約10分
- 採点時間:約10分
それぞれ解説します。
実施時間について
この時間は、被験者がインベントリーの質問に回答するのに必要な時間です。
SCIは64項目からなり、これらの質問に対して「あてはまる」「少しあてはまる」「あてはまらない」の3択で回答します。
質問は、最近体験した「強い緊張を感じた状況」とその対処方法に関するもので、個人が自身の経験と反応を振り返りながら回答します。
10分という時間は、多くの被験者が全項目に丁寧に回答するには十分な長さですが、個人差により若干前後することがあります。
採点時間について
採点時間も約10分とされており、これはインベントリーを自己採点するのに必要な時間です。
被験者自身が直接採点を行う自己採点方式が採用されているため、特別な訓練を受けた実施監督者による採点は必要ありません。
この自己採点プロセスを通じて、被験者は自身のストレス対処戦略についての即時フィードバックを得ることができます。


方法
SCIの実施方法は、主に2つの調査(調査Ⅰと調査Ⅱ)から構成されており、それぞれのステップには特定の手順があります。
以下、各ステップを詳細に解説します。
調査Ⅰ:ストレス コーピング インベントリー
調査Ⅰは、A4判見開き(中面)、複写式で質問数は64問あります。
質問紙の配布
調査を開始するにあたり、実施監督者は参加者にA4判見開きの検査用紙を配布します。
この段階で、検査の目的、注意点、そして回答の仕方について明確な説明を行います。
参加者には、検査の意義とプライバシーの保護に関する保証が提供されることが重要です。
回答の指示
参加者には、最近体験したストレスが高い状況とその対処方法に関して、64項目の質問に「あてはまる」「少しあてはまる」「あてはまらない」の3択で回答してもらいます。
各質問は個人のストレス対処戦略を反映しており、参加者は自身の経験に基づいて丁寧に回答するよう促されます。
自己採点
回答後、参加者は自己採点方式に従って検査用紙を採点します。
このプロセスでは、参加者が自身の回答を振り返り、自分のストレス対処の傾向を自己評価する機会を持ちます。
採点方法は直感的であり、特別な訓練を必要としませんが、正確な採点のためには事前に指示を理解しておく必要があります。
調査Ⅱ:ストレスに対する体験調査
調査ⅡはA4判(うら表紙部分)で30項目の質問数で構成されています。
検査用紙の説明と配布
調査Ⅱでは、A4判の検査用紙が参加者に配布されます。
この部分では、現在のストレスや不安に関連する体験を30項目の中から選択し、具体的な困難や苦痛を記入してもらいます。
実施監督者は、調査の目的と回答の方法について明確に説明します。
回答の指示
参加者は、自分が「とても困ったり、つらいと感じていること」を30項目の中から3つ程度選び、具体的に記述します。
この調査は、参加者が直面しているストレスの質や程度、それに対する個人の感受性や反応のパターンを深く掘り下げることを目的としています。
カウンセリング資料としての利用
回答をもとに、実施監督者やカウンセラーは参加者のストレス体験を詳細に分析し、適切なサポートや介入策を提案します。
この調査結果は、カウンセリングのセッションやメンタルヘルスの改善計画を立てる際の重要な資料となります。

