感覚過敏は、日常の刺激に対する過剰な反応を示す状態です。
音、光、触覚など、様々な感覚に対する過敏性があり、これにより日常生活に不便やストレスを感じることがあります。
本記事では感覚過敏の定義や原因、具体例や治療方法について解説します。
感覚過敏とは?
感覚過敏は、五感によって受け取る刺激が普通よりも強く感じられる状態です。
音、匂い、味覚、触覚などの外部からの刺激が過剰に感じられるため、日常生活において激しい苦痛や不快感を伴うことがあります。
例えば、他人が気に留めないような音量の音でも、感覚過敏を持つ人にとっては耐え難い騒音となることがあります。
感覚過敏は個人差がある
感覚過敏の症状は個人差が大きく、感じ方や反応する感覚の種類も異なります。
ある人は聴覚が非常に敏感で、小さな音でも大きく感じられることがある一方で、別の人は視覚や嗅覚に対して特に敏感かもしれません。
このような違いは、感覚過敏の対処法や日常生活へのアプローチにも影響を及ぼします。
感覚過敏の原因について
感覚過敏の原因に関しては、複数の要因が関与していると考えられていますが、その具体的なメカニズムは現時点で完全には解明されていません。
ここでは考えられる原因として…
- 神経系の問題
- 発達障害
- ストレス
…について解説します。
神経系の問題
神経系の過敏性や異常は、感覚入力の処理において重要な役割を果たしているとされ、これが感覚過敏の主要な原因の一つとして指摘されています。
神経系が通常よりも強く反応することにより、日常的な感覚刺激が過剰に感じられる可能性があります。
発達障害
また、発達障害、特に自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの障害を持つ人々の中に感覚過敏を経験する割合が高いことが報告されています。
実際、2020年のChenらの報告によると、自閉症スペクトラム障害(ASD)のような状態で観察される感覚過敏と、感覚超反応に寄与する大脳皮質GABA作動性ニューロンの機能不全の関連性に言及しています1)。
つまり、これらの発達障害における感覚処理の特異性が、感覚過敏の発生に影響を及ぼしている可能性が指摘されています。
しかしながら、感覚過敏を持つすべての個人が発達障害を持つわけではなく、その関連性は個々に異なります。
ストレス
ストレスもまた、感覚過敏の原因として考慮されています。
2010年のRivatらによると、慢性ストレスは一時的な感覚過敏や長期にわたる不安誘発性の過敏症を引き起こし、神経炎症や中枢痛みの処理の変化に関与していることを報告しています2)。
つまりストレスにより感覚処理のしきい値が変化し、通常は気にならないような刺激が過敏に感じられるようになると考えられています。
このように、感覚過敏の原因は複合的であり、個々の状態や環境によって異なる可能性があります。
感覚過敏とHSPについて
よく言われるのが感覚過敏=HSP(Highly Sensitive Person、高感受性人間)についてです。
「Highly Sensitive Person (HSP)」は、感覚処理感度(Sensory-Processing Sensitivity、SPS)が高い人を指す用語です。
これは、微妙な刺激に対する高い感受性と外部刺激に容易に過度に反応することを含む概念として理解されています3)。
HSPは感覚過敏と似ていますが、HSPは感情や心理的な反応の深さを含み、より広範な特性を指します。
つまりHSPは決して病気や疾患ではありません。
一方、感覚過敏は特定の感覚に限定されることが多いのに対し、HSPは感情や社会的な刺激に対しても敏感です。
そして感覚過敏は、身体疾患や発達障害に合併することがあります。
感覚過敏と不安障害
感覚過敏と不安障害は、症状が似ているため時に混同されることがありますが、これらは異なる状態です。
感覚過敏は外部からの刺激に過剰に反応する状態であり、一方で不安障害は感情が過剰に強くなり、日常生活に支障をきたす状態を指します。
しかし、感覚過敏が不安障害の原因の一つとなることもあり、不安障害の治療において感覚過敏の症状を軽減することが重要であることもあります。
さらに、高機能広汎性発達障害を持つ子供たちの研究(Tsuji et al., 2009)によると、感覚過敏が不安やうつ病と関連していることが示されています4)。
このことは、感覚過敏がこれらの子供たちの日常生活に大きな影響を与えているという点を指摘しています。
感覚過敏の具体例
感覚過敏は、感覚の種類によって異なる具体的な症状が現れます。
ここでは感覚過敏である…
- 聴覚過敏
- 視覚過敏
- 嗅覚過敏
- 味覚過敏
- 触覚過敏
…の日常生活上での具体例の一部を解説します。
聴覚過敏
聴覚過敏では、日常の音が通常よりも大きく感じられたり、特定の音(例えばキーボードの打鍵音や子供の泣き声)に対して過剰に反応することがあります。
このような聴覚上の過敏性は、周囲の騒音に対する耐性が低くなり、通常の音量でも不快感を感じることが特徴です。
視覚過敏
視覚過敏の場合、明るい光がまぶしく感じられる、特定の色やパターンが視界を乱す、視界が狭くなるなどの症状があります。
これは、日常の環境や照明、コンピュータースクリーンなどが原因で、頭痛や目の疲れ、集中力の低下などを引き起こすことがあります。
視覚過敏の人々は、環境光の調整や特定の色の回避などの方法で日常生活を改善することができます。
嗅覚過敏
嗅覚過敏では、特定の匂いや一般的な香料に対して強い不快感を覚えることがあります。
これは、香水や食品の匂い、環境の臭気などが原因で、吐き気や頭痛を引き起こすことがあります。
嗅覚過敏
味覚過敏の場合、特定の味や食べ物の食感に対して異常な反応を示し、食事選択や摂取に影響を与えることがあります。
触覚過敏
触覚過敏では、衣服の素材や他人の接触に対して強い不快感を感じることがあり、日常生活や社会的な相互作用に影響を与えることがあります。
これらの症状は、発達障害や身体疾患と併発することもあり、個々の状況に応じた対処が必要です。
感覚過敏の治療
感覚過敏に対しては”治療”や”治し方”というよりは、症状を管理し日常生活を改善する方法が適切といえます。
具体的な方法としてここでは…
- 環境を調整することで過敏な感覚刺激を減らす
- 心理療法を利用する
- 感覚統合療法を利用する
- 認知行動療法を利用する
- リラクゼーション技法やストレスマネジメントを実践する
…について解説します。
環境を調整することで過敏な感覚刺激を減らす
環境を調整することで過敏な感覚刺激を減らすアプローチは、感覚過敏に対処する上で非常に有効です。
たとえば、聴覚過敏のある人は、静かな環境を確保するか、耳栓を使用することで日常生活での騒音による不快感を軽減できます。
視覚過敏の場合は、強い照明を避けたり、調光可能なランプを使ったりすることが有効です。
このように、個々の感覚過敏の種類に応じた環境調整により、日々の生活が快適になることが期待されます。
心理療法を利用する
心理療法の利用は、感覚過敏に伴うストレスや不安を軽減するのに役立ちます。
特に、感覚過敏が原因で社会的な場面や人間関係に問題を抱えている場合、心理療法を通じてこれらの問題を克服する方法を学ぶことができます。
セラピストとの対話を通じて、感覚過敏に対する理解を深め、症状を管理するための戦略を練ることが可能です。
心理療法は、感覚過敏を持つ人が自己受容を高め、日常生活でのストレスを減少させるのに有効な方法です。
感覚統合療法を利用する
感覚統合療法は、特に発達障害のある子供たちに有効な治療法ですが、感覚過敏を持つ成人にも利用できます。
この療法では、様々な感覚刺激に対して体をどのように適応させるかを学びます。
感覚統合療法により、感覚過敏による日常生活上の困難を克服し、より快適な生活を送るための技術を習得することができます。
また、認知行動療法の利用は、感覚過敏に関連する不安や恐怖を軽減し、よりポジティブな思考パターンを形成するのに役立ちます。
これにより、感覚過敏による影響を受けることなく、日常生活を過ごすことができます。
認知行動療法を利用する
認知行動療法(CBT)は、感覚過敏の管理において非常に効果的なアプローチです。
この治療法は、患者が過敏な感覚刺激に対する自身の認知や反応パターンを理解し、それらをより健康的なものに変えることを目的としています。
CBTでは、感覚過敏によって引き起こされる不快感や恐怖、ストレスに対して、よりポジティブで現実的な思考を持つように促します。
これにより、感覚過敏による日常生活上の障害を軽減し、日常活動への参加を促進します。
リラクゼーション技法やストレスマネジメントを実践する
リラクゼーション技法やストレスマネジメントの実践は、感覚過敏の症状管理において非常に重要です。
深呼吸、瞑想、ヨガなどのリラクゼーション技法を実践することで、心身の緊張を和らげ、感覚過敏によるストレスを軽減することができます。
また、ストレスマネジメントを通じて日常生活の中でのストレス源を特定し、それらに対処する方法を学ぶことも有効です。
これらの方法を実践することにより、感覚過敏に対する個人の耐性を高め、日常生活の質を向上させることができます。
参考
- 1)Chen, Q., Deister, C., Gao, X., Guo, B., Lynn-Jones, T., Chen, N., Wells, M., Liu, R., Goard, M., Dimidschstein, J., Feng, S., Shi, Y., Liao, W., Lu, Z., Fishell, G., Moore, C., & Feng, G. (2020). Dysfunction of Cortical GABAergic Neurons Leads to Sensory Hyper-reactivity in a Shank3 Mouse Model of ASD. Nature neuroscience, 23, 520 – 532. https://doi.org/10.1038/s41593-020-0598-6.
- 2)Rivat, C., Becker, C., Blugeot, A., Zeau, B., Mauborgne, A., Pohl, M., & Benoliel, J. (2010). Chronic stress induces transient spinal neuroinflammation, triggering sensory hypersensitivity and long-lasting anxiety-induced hyperalgesia. PAIN, 150, 358-368. https://doi.org/10.1016/j.pain.2010.05.031.
- 3)Benham, G. (2006). The Highly Sensitive Person : Stress and physical symptom reports. Personality and Individual Differences, 40, 1433-1440. https://doi.org/10.1016/J.PAID.2005.11.021.
- 4)Tsuji, H., Miyawaki, D., Kawaguchi, T., Matsushima, N., Horino, A., Takahashi, K., Suzuki, F., & Kiriike, N. (2009). Relationship of hypersensitivity to anxiety and depression in children with high‐functioning pervasive developmental disorders. Psychiatry and Clinical Neurosciences, 63. https://doi.org/10.1111/j.1440-1819.2008.01916.x.