医療VRは、バーチャルリアリティ技術を活用して診断、治療、リハビリテーション、教育を行う革新的な技術です。
これにより、医療従事者のトレーニングや患者の治療効果が大幅に向上します。
本記事では、医療VRの市場規模、メリット、デメリットと課題、具体例などについて解説します。
医療VRとは
医療VR（バーチャルリアリティ）は、診断、治療、リハビリテーション、教育など、医療分野の様々な側面で使用される革新的な技術です。
例えば、手術のシミュレーションと訓練では、医師はVRを利用して手術手順を事前にシミュレーションし、新しい技術を学ぶことができます。
患者教育の分野では、患者が自身の病状や治療法を理解するためにVRを活用し、より深い理解を得ることが可能です。
リハビリテーションにおいては、身体的または認知的な障害を持つ患者が、安全で制御された環境で身体的な動きを練習するためのツールとしてVRが使用されます。
さらに、疼痛管理の分野では、VRが患者の痛みを軽減し、痛みを感じることなく治療を受けることを可能にします。
医療VRの市場規模
医療VR市場の規模は急速に拡大しており、様々な調査会社の報告がその成長を裏付けています。
例えば、「シード・プランニング」の調査によると、日本国内の医療分野でのVR・AR・MRの市場規模は、2021年の153億円から2026年には342億円にまで拡大すると予測されています1。
また、リサーチ会社のCredible Marketsのレポートでは、医療VR市場は年平均成長率42.3%で成長し、2027年には約3.9兆円（358.7億ドル）に達すると見込まれています2。
2024年時点の市場規模は約40億5000万米ドルとされ、年平均成長率（CAGR）27.26%で成長し、2029年には135億米ドルに達するとの予測もあります3。
医療VRのメリット
医療VRのメリットとしては…
- リアルな体験の提供
- 安全な環境でのシミュレーション・トレーニング
- 患者の不安や痛みを軽減
- 楽しみながらリハビリテーション
- 医療教育をより効果的に可能
…があげられます。
それぞれ解説します。
リアルな体験の提供
医療VRのメリットとして、まずリアルな体験の提供があります。
VR技術により、患者や医療従事者はまるで現実世界にいるかのような体験を得ることができ、従来の医療では得られなかった深い理解と共感を促進します。
この技術は、特に患者教育や治療計画の説明において有効で、患者が自身の病状や治療法を視覚的に理解する手助けとなります。
また、医療従事者にとっても、実際の臨床現場に近い状況でのトレーニングが可能となります。
安全な環境でのシミュレーション・トレーニング
次に、安全な環境でのシミュレーション・トレーニングが挙げられます。
VR空間を利用することで、実際の患者を傷つけることなく、手術や医療処置のシミュレーションを行うことができます。
これにより、医療従事者はリスクを伴わずにスキルを向上させることができ、また緊急事態への対応力を高めることが可能です。
特に外科医や救急医療の分野では、このシミュレーション技術が重要なトレーニングツールとなっています。
患者の不安や痛みを軽減
患者の不安や痛みを軽減することも、医療VRの大きなメリットです。
VR技術を用いてリラックスできる環境を提供することで、患者のストレスや不安を軽減し、治療や手術の際の痛みを和らげることができます。
例えば、痛みの緩和を目的としたバーチャルリアリティプログラムは、慢性的な痛みや術後の痛みの管理に有効です。
これにより、薬物療法の必要性が減少し、副作用のリスクも低減します。
楽しみながらリハビリテーション
楽しみながらリハビリテーションを行うことができる点も見逃せません。
VRゲームやインタラクティブなプログラムを利用することで、患者は運動療法を楽しく継続することができます。
これにより、モチベーションを維持しながら効果的なリハビリテーションが可能となり、治療の効果を最大限に引き出すことができます。
特に、子供や高齢者など、従来のリハビリテーションが退屈と感じられる患者にとっては、大きなメリットです。
医療教育をより効果的に可能
最後に、医療教育の効果向上が挙げられます。
VRは、学生や研修医が解剖学や生理学をより深く理解するための強力なツールです。
具体的には、3Dモデルを使用して人体の内部構造を視覚的に学習することができ、従来の教科書や2D図面よりも直感的な理解が得られます。
また、医療倫理や患者とのコミュニケーションに関するトレーニングもVRで行うことで、現実に近いシナリオを通じて実践的なスキルを身につけることができます。
医療VRのデメリットと課題
もちろん医療VRにはメリットだけではなく、様々なデメリットと課題があります。
ここでは…
- コスト
- 技術的な制限
- 使用者の健康への影響
- トレーニングと教育
- 個々の患者への適応
…について解説します。
コスト
医療VRのデメリットと課題の一つ目はコストです。
VR装置やソフトウェアの導入と維持には高額な費用がかかり、特に小規模な医療機関や開発途上国にとっては大きな負担となります。
これにより、資金が限られている場所では、VR技術の導入が難しく、医療の均等な提供に課題が残ります。
また、最新技術を維持するための定期的なアップデートやメンテナンス費用も発生するため、長期的なコスト管理が求められます。
技術的な制限
次に技術的な制限があります。現在のVR技術はまだ発展途上であり、完全にリアルな体験を再現することは難しいです。
技術的な問題やバグが発生する可能性もあり、これが医療現場での信頼性を損なう要因となりえます。
また、高度なVRシステムを操作するためには専門的な知識が必要であり、医療従事者が技術的な問題に直面した場合、迅速な対応が難しいこともあります。
使用者の健康への影響
使用者の健康への影響も重要な課題です。
長時間のVR使用は、眼精疲労、頭痛、めまいなどの健康問題を引き起こす可能性があります。
特に、感覚過負荷による「VR酔い」は一般的な問題であり、これが患者や医療従事者の長期的な使用を妨げることがあります。
このため、VRセッションの時間や頻度を適切に管理する必要があり、使用者の健康リスクを最小限に抑える対策が求められます。
トレーニングと教育
トレーニングと教育も大きな課題です。医療従事者がVR技術を効果的に使用するためには、適切なトレーニングと教育が必要となります。
これには時間とリソースがかかり、医療機関全体での統一した教育プログラムの整備が求められます。
また、技術の進化に伴い、継続的な学習とトレーニングが必要であり、これに対応するための体制構築が不可欠です。
個々の患者への適応
最後に、個々の患者への適応の問題があります。全ての患者がVRを使用できるわけではなく、特定の医療状態や身体的な制限を持つ患者にとっては、VRの使用が困難な場合があります。
例えば、重度の視覚障害や平衡感覚に問題を抱える患者にとって、VR体験は不適切である可能性があります。
また、心理的な要因も考慮する必要があり、VR体験が患者のストレスや不安を増加させる場合もあります。
このため、医療VRの導入に際しては、個々の患者のニーズや状況に応じた適切な使用方法を検討する必要があります。
医療VRの具体例
医療VRの具体例についてですが…
- モリタのMR活用
- 富士通 zSpace
- デューク大学のVR歩行訓練
- スタンフォード大学のThe Stanford Virtual Hearts
- Airway Ex
- Farmooo
- MindMaze
…について解説します。
モリタのMR活用
医療VRの具体例として、まずモリタのMR活用が挙げられます。
歯科医療機器メーカーであるモリタは、歯科医師が手術を行う際にVRを使用して治療を支援するシステムを開発しています。
このシステムは、手術中の視覚情報を拡張現実として提供し、歯科医師がより精密な操作を行えるようにします。
患者の口腔内の詳細な3Dモデルを表示することで、手術の計画や実施をサポートし、成功率の向上に貢献しています。
また、歯科医師の教育やトレーニングにも活用され、技術の向上を図ることができます。
富士通 zSpace
次に富士通のzSpaceがあります。zSpaceは、医療教育や手術アシストに使用されるVRシステムであり、特に医学生や研修医にとって非常に有用です。
このシステムは、仮想空間内での大きな感覚や感情の変化を通じて、学習効果を高めることができます。
例えば、解剖学の授業では、学生が人体の各部位を詳細に観察し、操作することで理解を深めることができます。
また、手術アシストとしても使用され、リアルタイムでのフィードバックにより、手術の成功率を高めることが期待されています。
ューク大学のVR歩行訓練
デューク大学では、VRを用いた歩行訓練が行われています。
脊髄損傷により自力歩行が困難な患者に対して、VR上で歩行訓練を行うことで、神経再生を促進し、歩行能力の回復を目指す試みです。
患者はVR環境で歩行する感覚を体験し、脳の神経回路を再構築することができます。
この方法は、従来のリハビリテーションと組み合わせることで、より効果的な治療が期待されています。
また、患者のモチベーションを維持しやすく、リハビリテーションの継続に寄与します。
スタンフォード大学のThe Stanford Virtual Hearts
スタンフォード大学が開発したThe Stanford Virtual Heartsは、心臓の構造と機能を詳細に学ぶためのVRアプリケーションです。
このアプリケーションは、医学生や医療従事者が心臓の内部構造を3Dで視覚的に学習できるツールとして使用されます。
実際の手術や診断に必要な知識を深めるだけでなく、心臓病患者への説明にも役立ちます。
患者は、自身の心臓の状態を視覚的に理解することで、治療計画に積極的に参加することができ、医師とのコミュニケーションも向上します。
Airway Ex
最後に、Airway Exは、気道管理の手技を練習するための医療教育用VRアプリケーションです。
医学生や研修医は、VR環境で様々な気道管理シナリオを体験し、技術を磨くことができます。
このアプリケーションは、リアルなシミュレーションを提供し、緊急時の対応能力を向上させることを目的としています。
また、使用者はフィードバックを受けながら練習を行うことで、自己改善の機会を得ることができます。
こうしたVRツールは、実際の臨床現場での自信と準備を高めるために非常に有用です。
Farmooo
Farmoooは、長期入院している小児患者向けのVRゲームで、病院内での生活から一時的に解放され、開放的な経験を味わうことができます。
入院中の子どもたちは、現実世界では制限されている活動を仮想空間内で自由に楽しむことができるため、精神的なストレスや不安を軽減する効果があります。
このゲームは、子どもたちの病気や治療への意識を前向きにし、治療過程をサポートする役割を果たします。
また、医療スタッフも子どもたちの心理状態を観察しやすく、より適切なケアを提供することができます。
Farmoooは、医療現場での小児ケアに革新をもたらすツールとして注目されています。
MindMaze
MindMazeは、脳卒中や外傷性脳損傷などの神経リハビリテーションに使用されるVRシステムです。
このシステムは、患者が安全かつ制御された環境でリハビリテーションを行うことを可能にし、神経機能の回復を促進します。
患者は、VRを通じて様々なリハビリテーションプログラムに参加し、楽しくモチベーションを保ちながら訓練を続けることができます。
これにより、従来のリハビリテーション方法よりも高い効果が期待されます。
また、リアルタイムのフィードバックを提供することで、治療効果のモニタリングと調整が容易になり、個々の患者に最適なリハビリテーションプランを提供することができます。
MindMazeは、神経リハビリテーションの分野で重要な役割を果たしています。
参考
1)https://www.geomatec.co.jp/column/medical-care-arvr.html
2)https://www.moguravr.com/credible-markets-medical-field-vr-market-report/
3)https://www.mordorintelligence.com/industry-reports/virtual-reality-in-healthcare-market