インピンジメント症候群は、肩の関節部分で起こる痛みと機能障害を特徴とする病態です。
主に腱や滑液包の圧迫が原因で、日常生活に影響を及ぼすことがあります。
本記事ではインピンジメント症候群について解説します。
インピンジメント症候群とは?
インピンジメント症候群は、肩の関節部分で発生する痛みと機能障害を特徴とする状態です。
具体的には、肩の関節を形成する骨と周囲の軟部組織(例えば腱や滑液包)との間で、圧迫や摩擦が起こることによって症状が現れます。
この症状は、肩を上げる動作などで特に顕著になることが多いです。
原因
インピンジメント症候群の原因には、次のようなものがあります。
- 解剖学的要因
- 肩の使い過ぎ
- 肩の筋肉の不均衡
- 加齢
以下にそれぞれ解説します。
解剖学的要因
骨の突起や関節の形状による狭窄が原因であることが示唆されています。
これは、運動中に肩の上部構造が狭い空間に圧迫されることで発生します1)。
肩の使い過ぎ
スポーツや特定の職業活動による反復的な動作やオーバーユース症候群が原因で、過度の使用によるローテーターカフと肩帯筋肉の不安定性が主要な原因とされています 2)。
肩の筋肉の不均衡
筋肉の弱さや疲労がインピンジメント症候群に寄与する可能性があることが示されています。
特に、ローテーターカフや肩甲骨の安定化筋肉の弱さや機能不全が関与していると考えられます3)。
加齢
年齢とともに軟部組織の品質が低下することがインピンジメント症候群の一因であるとされています。
このことは、年齢関連の肩障害、特に過度の使用と老化に関連する肩峰下インピンジメント症候群の一例として示されています 4)。
症状
インピンジメント症候群に伴う症状は様々ですが、主なものには次のようなものがあります。
- 痛み
- 可動域の制限
- 力の低下
- 夜間の痛み
- 運動時の痛み
以下にそれぞれ解説します。
痛み
インピンジメント症候群における最も一般的な症状は痛みです。
この痛みは通常、肩の外側や上腕部に感じられ、特に腕を上方向に持ち上げる動作時に悪化する傾向があります。
この症状は、肩の関節内での軟部組織(腱や滑液包など)の圧迫や摩擦によって引き起こされます。
肩を動かす際にこれらの組織が骨の突起部分に挟まれることで痛みが生じ、特に肩を頭よりも高く持ち上げるような動作で症状が顕著になります。
痛みの強さは活動量や肩の使用方法によって異なり、日常生活の質に影響を及ぼすことがあります。
可動域の制限
インピンジメント症候群による肩の痛みは、肩関節の可動域に影響を及ぼすことがあります。
痛みにより患者は肩の動きを自然と制限するようになるため、特に肩を持ち上げる動作や背後への伸ばす動作が困難になることがあります。
これは「凍結肩」とは異なり、主に痛みによる運動制限であり、関節そのものの硬直ではありません。
日常生活での動作、例えば髪をとかす、着替える、物を取るなどの動作が困難になり得ます。
適切な治療とリハビリテーションを通じて、徐々に正常な可動域を取り戻すことが可能ですが、無理をせず段階を踏んで行うことが重要です。
力の低下
インピンジメント症候群において、肩の痛みや不快感が原因で、特に肩を上げる際の力の低下が見られることがあります。
これは、肩の筋肉が痛みを避けるために正常な機能を果たせないために起こります。
日常生活において、物を持ち上げる、棚に物を置く、あるいは投球などの動作が困難になることがあります。
この力の低下は、肩の機能障害だけでなく、肩周りの筋肉の萎縮や使われないことによる筋力の低下にも関連しています。
リハビリテーションや適切な運動療法を通じて、徐々に筋力を回復させることが重要です。
ただし、筋力トレーニングは医師や理学療法士の指導の下で行うことが推奨されます。
夜間の痛み
インピンジメント症候群においては、夜間特に横になった際に肩の痛みが増すことが一般的です。
この痛みは、体の位置変化によって肩の圧迫が増すために起こり、睡眠の質に影響を及ぼすことがあります。
横になると、肩周辺の軟部組織に対する圧力が増し、既に炎症を起こしている部分にさらなる刺激を与えます。
特に、患部側に寝ることは避けるべきです。睡眠中の姿勢を調整することや、適切な枕の使用が痛みの軽減に役立つことがあります。
また、この夜間の痛みは、日中の活動による肩への負担が影響している場合もあります。
適切な休息と治療を行うことが重要で、症状が続く場合は医師の診断を受けることが推奨されます。
運動時の痛み
インピンジメント症候群では、肩を頻繁に使用する特定の動作を行う際に痛みが増すことがあります。
これには、物を棚に上げる動作やボールを投げるなどの動作が含まれます。
これらの動作は肩関節の上方への動きを伴うため、関節内での軟部組織(特に回旋腱板腱や滑液包)の圧迫が起こりやすくなります。
スポーツ選手や重い物を頻繁に持ち上げる職業に就いている人々は、これらの動作によって症状が悪化するリスクが高まります。
運動時の痛みを管理するためには、適切なウォームアップと筋力トレーニング、動作の改善が有効です。
また、重い負担を避け、肩の使用を適切に管理することが重要です。
この症状が持続する場合は、医師の診断と治療を受けることが推奨されます。
評価・検査
インピンジメント症候群の評価と検査には、いくつかの異なる方法があります。
これらの方法は、症状の原因を特定し、最適な治療計画を立てるために重要になります。
臨床評価
- 病歴聴取:医師は患者の病歴、症状の始まり、活動時の痛みのパターン、以前の肩の怪我や手術の歴史などを詳しく聞きます。
- 物理的検査:肩の範囲運動(ROM)、筋力、安定性を評価します。特定の動作やポジションでの痛みの有無も調べます。
画像診断
- X線検査:骨の異常や関節の変形を評価します。インピンジメント症候群自体はX線では直接見ることはできませんが、関連する骨の問題を検出することができます。
- MRI(磁気共鳴画像法):軟部組織、特に腱や滑液包の状態を評価するのに役立ちます。肩の腱板の損傷や炎症を検出するのに有用です。
- 超音波検査:肩の腱や筋肉の損傷を評価し、関節内の液体の蓄積を見ることができます。
機能的検査
インピンジメントを特定するためのいくつかの物理的テストがあります。
例えば、ニアーテストやホーキンス・ケネディテストなどがこれに当たります。
治療法
インピンジメント症候群の治療は、症状の重さや原因に応じて異なりますが、一般的には…
- 安静
- 物理療法
- 冷却療法
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
- ステロイド注射
- 関節鏡手術
- 姿勢の改善
- 運動習慣の調整
- 活動量の見直し
…といったアプローチがとられます。
以下にそれぞれ解説します。
安静
インピンジメント症候群の初期治療としては、まず肩を安静にすることが重要です。
安静にすることで、炎症が引き起こされている肩関節周辺の軟部組織(腱や滑液包など)を休めることができます。
この時期、痛みや不快感を引き起こすような活動や重い物の持ち上げは避けるべきです。
肩の過度な使用は症状の悪化につながるため、日常生活で肩への負担を最小限に抑えることが求められます。
しかし、長期間の完全な安静は筋肉の萎縮を招くため、適切な時期にはリハビリテーションや運動療法を開始することが重要です。
物理療法
物理療法は、インピンジメント症候群の治療において中心的な役割を果たします。
この治療法には、肩の筋肉の強化、関節の可動域を改善するストレッチや運動が含まれます。
理学療法士は、個々の患者に合わせた運動プログラムを作成し、肩の安定性と機能を回復させることを目指します。
また、物理療法では、痛みを和らげるための手技療法や、筋肉のバランスを改善するための姿勢指導も行われます。
適切な物理療法は、肩の機能を回復させるだけでなく、将来的な再発の予防にも繋がります。
冷却療法
冷却療法は、インピンジメント症候群における初期治療法の一つで、特に炎症や痛みがある場合に有効です。
この治療法では、冷却パックや氷袋を痛みのある肩部分に適用することで、局所的な血流を減少させ、腫れや炎症を抑制します。
冷却によって組織の代謝活動が低下し、痛みの感覚が鈍くなることで一時的な痛みの軽減が可能になります。
冷却は一般的に15〜20分間行い、1時間ごとに繰り返すことが推奨されますが、皮膚への直接接触は凍傷のリスクを避けるため避けるべきです。
布などで包んで使用するのが良いでしょう。
ただし、冷却療法はあくまで症状の一時的な緩和に役立つ手段であり、インピンジメント症候群の根本的な治療には物理療法や運動療法が必要です。
また、長期間の冷却は筋肉の硬直を引き起こす可能性があるため、状態に応じて適切に使用することが重要です。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、インピンジメント症候群による炎症と痛みの管理に広く用いられる薬剤です。
これらの薬は、炎症を引き起こす物質の生成を抑制し、結果として痛みを和らげる効果があります6)。。
イブプロフェンやナプロキセンなどが一般的な例です。
NSAIDsの使用は、症状の軽減を助け、日常生活やリハビリテーションをより容易に行えるようにします。
ステロイド注射
保存的治療法(安静、物理療法、NSAIDsなど)で改善が見られない場合、ステロイド注射が検討されることがあります7)。。
ステロイド注射は、強力な抗炎症作用を持ち、局所的に炎症を抑制し痛みを軽減します。
注射は通常、患部周辺に直接行われ、症状の軽減に即効性があります。
しかし、ステロイド注射は一時的な解決策であり、長期的な使用は組織の弱化や他の副作用を引き起こす可能性があるため、使用は慎重に行われます。
関節鏡手術
インピンジメント症候群の治療において、保存的治療法が効果を示さない場合や症状が重度の場合には、関節鏡手術が選択されることがあります。
この手術は、小さな切開を通じて関節鏡を挿入し、圧迫を引き起こしている軟部組織や骨の突起を修正します。
手術は通常、局所麻酔または全身麻酔の下で行われ、回復期間は個人によって異なります。
関節鏡手術は、根本的な問題を解決することができるため、適切な場合には非常に効果的です。
姿勢の改善
インピンジメント症候群の長期的な管理において、姿勢の改善は非常に重要です。
不適切な姿勢は肩関節に不必要な圧力をかけ、症状の悪化を招くことがあります。
特に、長時間のデスクワークやスマートフォンの使用などによる前屈みの姿勢は避けるべきです。
適切な姿勢を保つことで、肩関節へのストレスを減らし、症状の改善に寄与します。
運動習慣の調整
インピンジメント症候群の治療においては、日常の運動習慣の調整も重要です。
特に、肩を頻繁に使うスポーツや職業活動に従事している人は、運動の方法や頻度を見直すことが必要です。
運動時の適切なウォームアップ、筋力トレーニング、技術の改善は、肩の負担を減らし症状の管理に役立ちます。
活動量の見直し
日常生活における活動量の見直しも、インピンジメント症候群の治療において重要です。
肩への負担を減らすためには、重い物を持ち上げる動作や反復的な肩の使用を避けることが推奨されます。
また、仕事や趣味の活動においても、肩へのストレスを考慮した調整が必要です。
適切な休息とバランスの取れた活動量は、症状の悪化を防ぎ、回復を促進します。
参考
1)Cone, R., Resnick, D., & Danzig, L. (1984). Shoulder impingement syndrome: radiographic evaluation.. Radiology, 150 1, 29-33 . https://doi.org/10.1148/RADIOLOGY.150.1.6689783.
2)Cowderoy, G., Lisle, D., & O’Connell, P. (2009). Overuse and impingement syndromes of the shoulder in the athlete.. Magnetic resonance imaging clinics of North America, 17 4, 577-93, v . https://doi.org/10.1016/j.mric.2009.06.003.
3)Myers, J. (1999). Conservative management of shoulder impingement syndrome in the athletic population. Journal of Sport Rehabilitation, 8, 230-253. https://doi.org/10.1123/JSR.8.3.230.
4)Conesa, A., Aznar, C., Herrera, M., & Lopez-Prats, F. (2015). Arthroscopic Marginal Resection of a Lipoma of the Supraspinatus Muscle in the Subacromial Space. Arthroscopy Techniques, 4, e371 – e374. https://doi.org/10.1016/j.eats.2015.03.016.
5)Pennock, A., Bomar, J., Johnson, K., Randich, K., & Upasani, V. (2018). Nonoperative Management of Femoroacetabular Impingement: A Prospective Study. The American Journal of Sports Medicine, 46, 3415 – 3422. https://doi.org/10.1177/0363546518804805.
6)Cakmak, A. (2003). [Conservative treatment of subacromial impingement syndrome].. Acta orthopaedica et traumatologica turcica, 37 Suppl 1, 112-8 .
7)Haghighat, S., Taheri, P., Banimehdi, M., & Taghavi, A. (2015). Effectiveness of Blind & Ultrasound Guided Corticosteroid Injection in Impingement Syndrome. Global Journal of Health Science, 8, 179 – 184. https://doi.org/10.5539/gjhs.v8n7p179.