DASH(上肢の主観的評価) – 目的・質問項目・採点方法・カットオフなどについて

上肢障害評価表(DASH:Disabilities of the arm,shoulder and hand) - 目的・質問項目・採点方法・カットオフなどについて 検査

DASHは上肢の機能障害を評価するためのアンケートで、30の質問を含み、日常生活への影響を測定します。
本記事ではDASHについて解説します。


DASHとは?

DASH(Disabilities of the Arm, Shoulder, and Hand)は、上肢の筋骨格障害を持つ人々の身体機能と症状を測定するための標準化されたツールです。
このアンケートには、腕、肩、手の問題による様々な活動の困難さ、これらの問題が社会活動、仕事、痛みのレベルに与える影響についての質問が含まれています。

DASHは、医療提供者が人の生活に与える上肢障害の重症度と影響を評価するのに役立ちます。

DASHは治療前後の機能改善の評価や、異なる治療法間の効果の比較、さらには上肢の運動器障害を持つ患者の生活の質(QOL)の評価に有用なんだ!
日本においては2004年より,DASH the JSSH バージョンが導入され臨床でも用いられているね!

目的

DASH評価は、上肢切断や怪我の患者の障害を測定するために設計されています。
上肢の障害、複合性局所疼痛症候群、上肢切断など、様々な臨床状況でのその多様性を示しています1)

ここでは目的としてさらに…

  • 上肢の運動器疾患による機能障害の評価
  • 治療効果のモニタリングと評価
  • 生活の質(QOL)の評価

…についてそれぞれ解説します。

上肢の運動器疾患による機能障害の評価

上肢における運動器疾患(腕、肩、手の疾患)が日常生活にどの程度影響しているかを評価することがDASHの主な目的です。
これには、日常の動作や活動(例:物を持つ、書く、家事をするなど)の実行能力、痛みの程度、運動範囲や力の制限などが含まれます。
この自己評価により、医療提供者は患者の機能的制約を理解し、個々の患者に最適な治療計画を立てるための重要な情報を得ることができます。

また、患者自身も自らの状態を客観的に把握し、治療過程での改善を実感できるようになります。

治療効果のモニタリングと評価

DASHは治療前後の機能改善を定量的に評価するためのツールとしても有効です。
患者が治療前にDASH質問票に回答し、治療後に再度回答することで、治療による機能改善や症状の軽減が具体的な数値として示されます。
これにより、治療効果を客観的にモニタリングし、必要に応じて治療計画の見直しや調整が行えるようになります。

また、患者自身も自分の回復過程を具体的な数値で見ることができ、治療への動機付けにも繋がります。

生活の質(QOL)の評価

上肢の運動器障害は、日常生活の質(QOL)に大きな影響を与えます。
DASHでは、物理的な機能障害だけでなく、痛みや運動制限が日常生活や社会生活に与える影響も評価します。
これにより、患者が経験する困難や制限を全面的に理解し、治療の目標を単に症状の改善だけでなく、患者の生活の質の向上にも焦点を当てることができます。

また、患者自身も自分の生活がどのように影響を受けているかを認識し、治療やリハビリテーションへの積極的な参加を促すことができます。

これらの目的を通じて、DASHは上肢の運動器疾患に対する治療の効果を評価し、患者の生活の質を高めるための重要なツールとなっているんだ!
患者さん自身もDASHを通じて自分の上肢機能について客観的に分析できるでしょうね!

特徴

DASH(Disabilities of the Arm, Shoulder, and Hand)の特徴は、そのユニークな設計により、上肢の機能障害を広範囲にわたって評価できる点にあります。
主な特徴としてここでは…

  • 自己報告式質問票
  • 日常生活活動への焦点
  • 多次元的評価
  • 治療前後の比較に有効
  • 国際的な適用性

…について解説します。

自己報告式質問票

DASHは患者自身が自分の症状や機能制限を報告する自己報告式質問票です。
このアプローチにより、患者の主観的な経験や感覚が直接反映され、医療提供者が患者の健康状態をより正確に理解するのに役立ちます。
自己報告式であるため、患者が自分の状態を振り返り、治療過程での改善や悪化を自覚することが容易になります。

これは、患者中心のケアの実践において重要な要素です。

日常生活活動への焦点

DASHは、開ける、書く、運ぶといった日常生活の基本的な活動から、スポーツや仕事などのより専門的な活動まで、広範囲にわたる活動に関する質問を含んでいます。
これにより、患者が日常生活で直面する具体的な困難を詳細に評価できます。

この広範な焦点は、様々な年齢や職業の人々が直面する様々な挑戦をカバーすることを可能にします。

多次元的評価

DASHでは、単に物理的な動作の困難さだけでなく、痛み、こわばり、社会的な活動への参加の制限、さらには精神的な健康状態や自己効力感といった側面も評価します。
この多次元的なアプローチは、上肢障害が患者の生活全般に与える影響を包括的に理解するのに役立ちます。

治療前後の比較に有効

治療の効果を定量的に測定するためのツールとしてのDASHの設計は、治療前後での機能の改善や悪化を明確に追跡するのに適しています。
この比較により、特定の治療アプローチの有効性を評価し、必要に応じて治療計画を調整することが可能になります。

国際的な適用性

DASHは多言語に翻訳され、世界中の多様な文化や医療システムで使用されています。
この国際的な適用性は、異なる背景を持つ患者に対しても有効な評価が可能であることを意味します。
また、国際的な研究や比較においても、一貫した評価基準を提供します。

これらの特徴は、DASHを上肢の運動器疾患の評価と治療効果のモニタリングにおいて、非常に価値あるツールとしているんだ!
患者のQOLの向上に貢献し、医療提供者にとっては治療計画の策定と評価に役立つ情報を提供するんですね!

適用範囲

DASH(Disabilities of the Arm, Shoulder, and Hand questionnaire)の適用範囲は広く、上肢におけるさまざまな運動器疾患や機能障害の評価に使用されます。
具体的な適用範囲としては…

  • 整形外科的疾患
  • リウマチ性疾患
  • 神経学的疾患
  • 慢性疼痛症候群
  • 職業性障害
  • スポーツ関連の障害
  • 手術後の評価とフォローアップ
  • 老化に伴う変化

…などがあげられます。
それぞれ解説します。

整形外科的疾患

整形外科的疾患では、骨折、脱臼、腱損傷、関節炎など、上肢における構造的な障害や機能不全が主に対象となります。
DASHは、これらの状態による日常生活活動(ADL)の制限や、手術やリハビリテーションの効果を評価するために使用されます。
特に、患者の自己評価を通じて、痛みや動きの制限、日常生活への影響を具体的に把握することができます。

リウマチ性疾患

リウマチ性疾患、特に関節リウマチは、関節の炎症と進行性の破壊を特徴とし、手や腕の機能に大きな影響を与えます。
DASHはリウマチ性疾患の患者における機能障害の程度や治療介入後の改善を測定する際に役立ちます。
炎症による痛み、動作の制限、日常生活への影響などを評価することで、治療計画の調整やリハビリテーションの方向性を決定するのに有用です。

神経学的疾患

神経学的疾患、例えば脳卒中や末梢神経損傷などによる上肢の障害は、患者の生活の質に大きな影響を及ぼします。
DASHはこれらの疾患に伴う機能的な制約や、リハビリテーションによる改善を評価するのに適しています。
筋力の低下、協調運動障害、感覚異常など、神経学的障害に特有の問題を反映した患者の自己報告を通じて、治療の効果をモニタリングできます。

慢性疼痛症候群

慢性疼痛症候群、特に複合性局所疼痛症候群(CRPS)などは、上肢に激しい痛みを引き起こし、機能的な障害を伴います。
DASHは慢性疼痛が日常生活に及ぼす影響を評価し、痛み管理や治療の成果を測定するのに有効です。
患者は、痛みの程度、活動時の不快感、日常生活への影響を自己評価することで、治療計画の適切な調整に貢献できます。

職業性障害

職業性障害による上肢の問題は、特定の作業活動による過度の使用や外傷が原因です。
DASHは、これらの障害による機能的制約を評価し、作業環境の改善や作業方法の調整を行うための情報を提供します。
職業生活における具体的な困難や痛みの評価を通じて、より良い職場環境や労働条件の提案に役立ちます。

スポーツ関連の障害

スポーツ活動による上肢の障害は、過度の使用や急性の外傷が主な原因です。
DASHはスポーツ選手のリハビリテーションプロセスをサポートし、競技への復帰を評価するために利用されます。
スポーツ特有の動作に関連した痛みや機能制限を詳細に把握することで、選手個々のニーズに合わせた治療計画の策定に寄与します。

手術後の評価とフォローアップ

手術後の評価とフォローアップでは、DASHは手術による機能改善や回復過程を評価するために使用されます。
手術による影響やリハビリテーションの進捗を定期的に評価することで、患者の回復状況を効果的にモニタリングし、必要に応じて治療計画を調整できます。

老化に伴う変化

老化に伴う変化では、DASHは高齢者における上肢の機能低下や日常活動の制限を評価します。
加齢による筋力の低下、関節の柔軟性の減少、疼痛の増加などを通じて、高齢者の自立した生活を支援するための介入やリハビリテーションの計画に役立ちます。

これらのことから、DASHの適用範囲は非常に広いことがわかるね!
作業療法士は特にこの検査方法を知っておく必要があるでしょうね!

質問項目

DASHの質問項目としては以下の通りです。

  • きつめのまたは新しいビンのフタを開ける
  • 書く
  • カギを回す
  • 食事の支度をする
  • 重いドアを開ける
  • 頭上の棚に物を置く
  • 重労働の家事をする(壁ふきや床掃除など)
  • 庭仕事をする
  • ベッドメーキングまたは布団を敷く
  • 買い物バックや書類かばんを持ち運ぶ
  • 重い物を運ぶ(5kg以上)
  • 頭上の電球を交換する
  • 洗髪やヘアードライヤーを使用する
  • 背中を洗う
  • 頭からかぶるセーターを着る
  • 食事でナイフを使う
  • 軽いレクリェーションをする(例:トランプ、編み物、碁、将棋など)
  • 肩、腕や手に筋力を必要とするか、それらに衝撃のかかるレクリェーション活動をする(ゴルフ・テニス・キャッチボールをする、ハンマーを使うなど)
  • 腕を自由に動かすレクリエーション活動をする(フリスビー、バドミントンなど)
  • 交通機関の利用が自由にできる(移動の際に)
  • 性生活をする
  • 腕・肩・手の障害が、家族、友人、隣人、あるいは仲間との正常な社会生活をどの程度妨げましたか
  • 腕・肩・手の障害によって先週の仕事・日常生活に制限がありましたか
  • 腕・肩・手に痛みがある
  • 特定の運動をしたときに腕・肩・手に痛みがある
  • 腕・肩・手がチクチク痛む(ピンや針を刺したような痛み)
  • 腕・肩・手に力がはいらない
  • 腕・肩・手にこわばり感がある
  • 腕・肩・手の痛みによって眠れないときがありましたか
  • 腕・肩・手の障害のために、自分の能力に自信がないとか、使いづらいと思っていますか

ここ1週間でこれらの質問に対する動作ができていたかどうかを答えるんだね!
その他にスポーツや芸術活動、仕事に対しての選択項目もあるんですね!

採点方法

DASHスコアの計算方法を説明します。
まず、30項目中少なくとも27項目に回答が必要です。
回答された項目の点数を合計し、その合計を回答された項目数で割って平均を出します。
この平均を5点満点から換算して、100点満点のスコアに変換します。
この変換式は、他の尺度との比較を容易にするためです。
スコアが高いほど、より大きな障害を示しています。

ここで、

  • 合計点数:回答された項目の点数の合計
  • 回答された項目数:回答があった項目の数

0から100点で評価され、点数が高いほど機能障害や症状が重いことを意味します。

詳しい変換式はDASH JSSH公式マニュアルを参考にしてください!

カットオフ

DASH (Disabilities of the Arm, Shoulder, and Hand) スコアのカットオフ値については、特定の一般的なカットオフポイントが公式に定義されているわけではありません。
DASHスコアは0から100までのスケールで測定され、スコアが高いほど上肢の機能障害が大きいことを示します。
このスコアは、上肢の障害の程度を示す連続変数として使用され、特定の症状や障害の重症度を評価するために設計されています。

しかし、臨床研究や実践においては、DASHスコアを用いて機能障害の程度を区別するための閾値やカットオフ値を設定することがあります。
例えば、軽度、中度、重度の障害を区別するために特定のスコア範囲を使用することがありますが、これらの閾値は研究者や臨床医によって異なり、特定の患者集団や研究の目的に応じて調整されることが一般的です。

DASHスコアの解釈に関しては、患者の個々のスコアをその人の基準値や治療前後のスコアと比較することで、治療の効果や機能改善を評価するのに役立ちます。
また、異なる患者群間での比較や、特定の治療介入の有効性を評価するためにも使用されます。

DASHスコアのカットオフ値は、特定のコンテキストや臨床的目的に応じて定義されるため、一般化することは難しいようだね!
スコアの解釈や使用に際しては、個々の患者の状態や治療の目的を考慮する必要があるでしょうね!

信頼性と妥当性

手の怪我や疾患を持つ患者を対象にしたDASHアンケートの適用性と妥当性についての研究が行われています。
DASHはこれらの文脈で有効かつ信頼性のあるツールであることが示されていますが、サブアクロミアル痛症候群の患者など、特定のグループにおいて測定しようとする基礎特性に合わない項目もあることが示唆されています2)

治療成果の測定における有効性

DASHは、手術後の自己評価された健康変化を測定するために効果的に使用されており、上肢筋骨格障害を持つ患者において時間を通じて障害の小さな変化と大きな変化を検出し区別する能力を示しています3)

翻訳(クロスカルチャー対応)

DASHアンケートは、スウェーデン語、イタリア語、韓国語、アラビア語など、さまざまな言語に適応され、検証されています。
これは、世界中で上肢状態を評価する際のDASHの汎用性を示しています4)

限界や問題点

一部の研究では、DASH評価の限界を指摘しています。
たとえば、上肢の問題による障害と下肢の問題が存在する場合の障害を明確に区別できない可能性があり、特定の臨床シナリオにおいてDASHスコアの解釈に注意が必要であるとされています5)。。

加えて、DASHは上肢全体の機能障害を評価するため、障害側での不可能な動作が健側で可能であれば問題として扱われません。
また、上肢機能と手関節・手指関節の区別がなく、純粋な手の機能を反映しているかについて問題点が存在します。

DASHには課題はあるけど腕、肩、手に関連する障害や機能障害を評価するための堅牢で多用途なツールってことなんだ!
その効果と信頼性はさまざまな臨床および文化的文脈にわたってよく文書化されているんですね!

関連文献

参考

  • 1)Davidson, J. (2004). A comparison of upper limb amputees and patients with upper limb injuries using the Disability of the Arm, Shoulder and Hand (DASH). Disability and Rehabilitation, 26, 917 – 923. https://doi.org/10.1080/09638280410001708940
  • 2)Braitmayer, K., Dereskewitz, C., Oberhauser, C., Rudolf, K., & Coenen, M. (2016). Examination of the Applicability of the Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand (DASH) Questionnaire to Patients with Hand Injuries and Diseases Using Rasch Analysis. The Patient – Patient-Centered Outcomes Research, 10, 367-376. https://doi.org/10.1007/s40271-016-0212-x
  • 3)Gummesson, C., Atroshi, I., & Ekdahl, C. (2003). The disabilities of the arm, shoulder and hand (DASH) outcome questionnaire: longitudinal construct validity and measuring self-rated health change after surgery. BMC Musculoskeletal Disorders, 4, 11 – 11. https://doi.org/10.1186/1471-2474-4-11
  • 4)Bilberg, A., Bremell, T., & Mannerkorpi, K. (2012). Disability of the Arm, Shoulder and Hand questionnaire in Swedish patients with rheumatoid arthritis: A validity study.. Journal of rehabilitation medicine, 44 1, 7-11 . https://doi.org/10.2340/16501977-0887
  • 5)Dowrick, A., Gabbe, B., Williamson, O., & Cameron, P. (2006). Does the disabilities of the arm, shoulder and hand (DASH) scoring system only measure disability due to injuries to the upper limb?. The Journal of bone and joint surgery. British volume, 88 4, 524-7 . https://doi.org/10.1302/0301-620X.88B4.17223
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