上肢の機能検査の方法としてはSTEFがありますが、脳卒中に特化した上肢機能の検査方法としては“脳卒中上肢機能検査(MFT)”が代表的です。
今回はこの脳卒中上肢機能検査(MFT)の方法と注意点や解釈、カットオフ値について解説します。
脳卒中上肢機能検査(MFT)とは?
画像引用:酒井医療
脳卒中上肢機能検査(Manual Function Test:MFT)とは、脳卒中の早期リハ、神経学的回復の時期における上肢の運動機能の経時的変化を測定・記録することを目的として開発された検査方法です。
ちなみにMFTは作業療法評価の推奨グレード分類でも推奨グレードAの検査方法です。
MFTの特徴について
MFTの特徴についてですが、この検査は、
- 短期間の機能レベルの変化の把握が可能
- 将来の機能レベルの予測が可能
…などがあげられます。
以下にそれぞれ解説します。
短期間の機能レベルの変化の把握
MFTは、短期間での機能レベルの変化を効果的に把握する能力を持っています。
これは、特にリハビリテーションの進行中や治療後の短期的な回復過程を評価するのに有効です。
患者が特定の上肢運動やタスクを実行する際のパフォーマンスを測定し、これらの結果を以前の成績と比較することで、改善や退行の度合いを具体的に捉えることができます。
これにより、治療プログラムの適切な調整や、患者の進歩をモニタリングすることが可能になります。
将来の機能レベルの予測
MFTはまた、将来の機能レベルの予測にも役立ちます。
この検査は、患者の現在の上肢能力や機能レベルを基に、将来的な回復の見通しや潜在的な能力を推測するのに使われます。
患者がMFTで示したパフォーマンスは、治療の効果やリハビリテーションの成果を予測する上での重要な指標となり得ます。
これにより、セラピストはより個別化された治療計画を立てることができ、患者にとって最適な介入方法を選択するための情報を得ることができます。
MFTの構成について
MFTは8種類のテストから上肢や手指動作を判定します。
各テストは難易度順に3~6項目のサブテストに分かれており、計32項目準備されています。
このテストは、大別すると…
- 腕の動作テスト
- 手指の動作テスト
…の2つになります。
腕の動作テスト
腕の動作テストは、
- 上肢の前方拳上(FE)
- 上肢の側方拳上(LE)
- 手掌を後頭部につける(PO)
- 手掌を背部につける(PD)
…の4つで構成されており、肩関節や肩・肘・手関節の組み合わせ動作の範囲や保持能力を検査します。
手指の動作テスト
手指の動作テストは、
- 握る(GR)
- つまむ(PI)
- 立方体運び(CC)
- ペグボード(PP)
…の4つで構成されており、上肢と手指の基本動作や巧緻動作の遂行能力を検査します。


MFTの方法について
MFTの下位検査としては…
- FEテスト:上肢の前方拳上
- LEテスト:上肢の側方拳上
- POテスト:手掌を後頭部につける
- PDテスト:手掌を背部につける
- GRテスト:握る(つかむ)
- PIテスト:つまむ
- CCテスト:立方体を運ぶ
- PPテスト:ペグボード
…の8つで構成されています。
それぞれ解説します。
FEテスト:上肢の前方拳上
方法:肘を伸ばしたままで麻痺側の腕を前方へできるだけ高く上げます。
注意点:肘関節の屈曲は60°以内、肩関節外転は45°以内でテストを行ってください
判定基準
- LE-1:肩関節外転運動が少しでも認められれば可とする
- LE-2:肩関節外転角度が45°以上90°未満
- LE-3肩関節外転角度が90°以上135°未満
- LE-4:肩関節外転角度が135°以上
LEテスト:上肢の側方拳上
方法:肘を伸ばしたままで麻痺側の腕を側方へできるだけ高く上げます
注意点:肘関節屈曲は60°以内、肩関節屈曲は45°いないでテストを行います
判定基準
- LE-1:肩関節外転運動を少しでも認めれば可とする
- LE-2:肩関節外転角度が45°以上90°未満
- LE-3:肩関節外転角度が90°以上135°未満
- LE-4:肩関節外転角度が135°以上
POテスト:手掌を後頭部につける
方法:麻痺側の手掌を後頭部につけます。
注意点:上肢の可動域が低下していて、後頭部につけられないときは耳or口に触れるように指示します。
判定基準
- PO-1:肩関節外転、肘関節屈曲のいずれかを認められれば可とする
- PO-2:手が胸部(剣状突起)より高く上がって入れば可とする
- PO-3:手の一部が後頭、側頭(耳を含む)、頭頂部(額を含む)のいずれかに触れたとき可とする
- PO-4:MP関節が後頭結節を超えていること、手掌が後頭部にぴったりついていることの両方を満たしたとき可とする
PDテスト:手掌を背部につける
方法:麻痺側の手掌をしっかりと背中につけます。
注意点:体幹が前傾しても問題ありません
判定基準
- PD-1:肩関節伸展運動を少しでも認められれば可とする
- PD-2:手が体側を超えて指先、手背など手の一部が同側臀部に触れれば可とする
- PD-3:指先、手背が脊柱に到達すれば可とする
- PD-4:MP関節が脊柱を超えていること、手掌が脊柱にぴったりついていることの両方を満たしたとき可とす
GRテスト:握る(つかむ)
使用物品:ボール
方法:ボールをつかんで持ち上げ、放して落とします
注意点:必要であれば、被験者の腕を補強するように介助します
判定基準
- GR-1:握りやすいように検者によって手掌に収められたボールを握り続け、手掌を下に向けて前腕を持ち上げられてもボールが落ちなければ可とする
- GR-2:ボールを握っている状態からはなすことができたとき可とする
- GR-3:机上に置かれたボールを自らつかみあげられたとき可とする
PIテスト:つまむ
使用物品:六角棒(鉛筆)、メタル(コイン)、針、ケース
方法:机上にある六角棒(鉛筆)、メタル(コイン)または針を拾い上げます
注意点:数回の練習を行い、やり方を理解してからテストしてください
判定基準
- PI-1:鉛筆をつまみあげられたとき可とする(横つまみ、指腹つまみのいずれでもよい)
- PI-2:コインをつまみあげられたとき可とする
- PI-3:針をつまみあげられたとき可とする
CCテスト:立方体を運ぶ
使用物品:立方体、CCボード、タイマー
準備:机上の手前に立方体8個を一列に並べ、立方体の向こう側にCCボードを平行に置きます
方法:手前の立方体を患側の手でつかみ、CCボードの向こう側(10㎝以上の距離)まで運び、机上に置きます
注意点:数回の練習を行い、やり方を理解してからテストしてください。
判定基準
- CC-1:1~2個
- CC-2:3~4個
- CC-3:5~6個
- CC-4:7~8個
PPテスト:ペグボード
使用物品:ペグボード,ペグ,タイマー
準備:ボードについている皿にペグを入れておきます。
方法:皿からペグを1本ずつとり、縦方向に並んだ孔にボードの先端(遠方)から順に立てます。
注意点:数回の練習を行い、やり方を理解してからテストしてください。
時間制限:30秒
判定基準
- PP-1:1~3本
- PP-2:4~6本
- PP-3:7~9本
- PP-4:10~12本
- PP-5:13~15本
- PP-6:16本以上


脳卒中上肢機能検査(MFT)の注意点について
MFTを実施する際にはいくつかの注意点があります。
- 能力を十分に発揮できる環境の確保
- 腕の動作テストのための椅子の調整
- 手指の動作テストのための椅子と机の調整
- 教示の言葉と実演の併用
- テストの難易度順に従った進行
以下にそれぞれ解説します。
能力を十分に発揮できる環境の確保
MFTを行う際、最も重要なのは被験者が注意散漫にならず、その能力を十分に発揮できる環境を整えることです。
検査環境は静かで、外部からの干渉が少ないことが望ましいです。
これにより、被験者は集中してタスクに取り組むことができ、より正確なデータを提供することが可能になります。
また、被験者がリラックスし、ストレスを感じないような環境を作ることも、正確な評価には不可欠です。
テスト環境は、被験者の心理的な快適さを考慮して設定する必要があります。
腕の動作テストのための椅子の調整
腕の動作をテストする際には、被験者が背もたれがない椅子に座り、座面の高さが足が自然に地面に触れる高さになるように調整する必要があります。
これは、被験者の体のバランスを保ち、腕の動きを正しく評価するために重要です。
適切な椅子の高さは、被験者が安定して座り、腕の動きを最大限に発揮できるようにするために調整されるべきです。
不適切な座位は、腕の動作に影響を与え、テスト結果の信頼性を低下させる可能性があります。
手指の動作テストのための椅子と机の調整
手指の動作テストでは、被験者が机の上に腕を置いたとき、肘関節が90°になるように椅子または机の高さを調整する必要があります。
これは、手指の運動能力を正確に評価するために、最適な姿勢を保つことが重要だからです。
正しい姿勢は、被験者が快適に感じることを保証し、手指の動作が自然かつ正確に行われることを促します。
また、肘の位置は手指の動きに直接的な影響を与え、適切な角度での配置は検査の精度を向上させます。
教示の言葉と実演の併用
MFTの実施において、教示は極めて重要です。
この検査では、被験者がテストの各段階を完全に理解していることが不可欠です。
そのため、言葉による説明だけでなく、実際の動作を示す実演も併用することが推奨されます。
実演による説明は、特に視覚的な情報を必要とする被験者にとって有効で、テストの手順や求められる動作をより明確に理解するのに役立ちます。
また、被験者がテストの目的や手順をしっかりと把握することは、テストの信頼性を高め、より正確な結果を得るために重要です。
検査者は、被験者がすべての指示を理解し、必要に応じて疑問を解消できるように、十分な時間と注意を払うべきです。
テストの難易度順に従った進行
MFTを実施する際、検査用紙に掲載されているテスト順序の遵守も重要です。
検査は、一般的に難易度が低いものから高いものへと順番に配置されています。
この順序に従うことで、被験者は徐々により複雑なタスクに適応し、テストの各段階でのパフォーマンスを最大化することができます。
難易度が徐々に増すことで、被験者は過度のストレスや不安を感じることなく、自身の能力を最大限に発揮できる環境が提供されます。
また、検査の標準化された進行は、異なる被験者間での比較を可能にし、テスト結果の一貫性と信頼性を保証します。
検査者は、検査用紙に従った正確な順序でテストを行うことで、検査の有効性を保持する必要があります。


脳卒中上肢機能検査(MFT)の点数、採点方法について
MFTでは各サブテストそれぞれ”0 or 1″で判定し、結果は32点満点を100として上肢機能スコア(manual function score:MFS)を算出します。
MFTのカットオフ値について
MFTにおけるカットオフ値というのは、実用手になるか?もしくは非実用手のままか?ということと言えます。
MFTの各テスト結果をMFSプロフィールに記載することで脳卒中患者120名のデータと比較検討できるので、その被験者が上肢機能でも主にどの運動を苦手としているか?が明確になります。
つまり、その低い点数の運動項目の機能を回復するような作業療法プログラムを設定していく必要があります。
曽根の2015年の研究発表によると、実用手を評価するMFTのカットオフ値は22/21点という報告があります。1)
MFTと他の検査の相関性について
MFTとSTEFは優位な相関性があり、またMFTと上田の上肢、手指のグレードと相関しているとの報告があります。
MFTは麻痺側のみ?両側も?
基本的にMFTは両側の上肢それぞれ検査することが推奨されています。
その際、非麻痺側から検査を行います。
感覚障害が重度の場合はどうすればよいか?
麻痺側の随意性が低い場合、もしくは重度の感覚障害がある場合は、検者が被験者の手をとって運動方向をきちんと教示した後に検査を行います。
検査途中で被験者の痙性が高まってしまった場合は?
MFTの途中で被験者の上肢の痙性が高まってしまった場合は、検者が他動的に痙性が更新してしまった筋の伸長を行った後にテストを継続することが推奨されています。

