作業療法で用いる活動の一つに“タイルモザイク”があります。
最近の臨床ではあまり使用されていない古典的なアクティビティなのかもしれませんが、改めて調べてみると非常に様々な治療的効果が期待できる作業活動と言えます。
今回はこのモザイクにおける作業療法の治療効果などについて解説します。
モザイクとは?
モザイク(mosaic)とは、様々な素材を小片にし、図案に従って寄せ合わせ基板に並べて貼り付けることで絵(図像)や模様を表す装飾美術の手法になります。
このモザイクは古くから世界的にみられる装飾方法で、宗教画や幾何学模様といったものが描かれているのが特徴です。
どのような素材が用いられる?
モザイクに使用される素材としては主に次のようなものがあげられます。
- タイル(陶磁器)
- ガラス
- 大理石
- 木
- 貝殻
モザイクの起源について
参考画像:wikipedia
モザイクの起源についてですが、最古のモザイク作品は古代メソポタミアのシュメール人が作った箱型の“ウルのスタンダード”であると言われています。
これは紀元前2600年から紀元前2400年前のもので、箱の木材の各面に“貝殻”や“赤い石灰岩”、“青いラピスラズリ”の小片を埋め込んだモザイク装飾されており、主に軍隊の行進や饗宴の場面が描かれているものです。
タイルモザイクの2つのタイプについて
タイルモザイクは主に次の2つのタイプに分けることができます。
- 自由タイプ
- 規則タイプ
自由タイプ
カラータイルを割ったり、カットして、大小さまざまなタイルを自由に図案に貼っていくタイプです。
作業療法の場面でよく用いられるものはこちらになります。
規則タイプ
同じ形のカラータイルを規則的に並べ、貼り付けたものになります。
建物の床や壁などにみられるものが代表的と言えます。
作業療法×タイルモザイクについて
では、ここでは作業療法の場面においてタイルモザイクを行う場合に必要なことについて解説します。
材料・用具
用途毎に必要な材料、用具については次の通りになります。
割る・カットする
- モザイクニッパー
- タイルニッパー
- オイルカッター
- カッティングオイル
- スポイト
- 金槌
- 平らな石
- タオル
目地材を練る
- 練る容器
- 水を入れる容器
- ゴムベラ
- ゴム手袋
目地材をふき取る
- ティッシュペーパー
- ウェットティッシュ
- 拭く布(ぼろきれなど)
その他
- チャコペーパー(カーボン紙)
- はさみ、カッター
- ピンセット
- 刷毛
- マスキングテープ
- 両面テープ
- セロハンテープ
- 白紙、鉛筆、色鉛筆、クレヨン
- ビニール袋、木べら
- 軍手、スポンジ
材料
- 作品に応じた板
- 接着剤
- 目地材
- 石膏
- ホイップ粘土
- ニス
タイルモザイクの工程について
タイルモザイクを行う場合の工程については次の通りになります。
- 図案の決定と描画
- 図案への着色
- 板への図案の転写
- タイルの小片加工
- 小片の貼り付け
- 乾燥
- 目地材を目地に入れる
- 仕上げ
以下にそれぞれ解説します。
1.図案の決定と描画
クライアントとどのような模様にするか、どのくらいの大きさにするかを相談しながら決定し実際に描画していきます。
最初は単純な図案にするようがその後の作業がやりやすくなり、結果として仕上がりがきれいになる場合が多いようです。
2.図案への着色
描画した図案に実際の色を塗ってイメージしていきます。
事前に描画した図案を複数枚コピーしておくと、複数の色のパターンを検討できるのでおすすめです。
また、色の選択は材料のタイルにない色を設定しないようにする必要があります。
3.板への図案の転写
チャコペーパー、もしくはカーボン紙などを使用し、板に図案を転写します。
4.タイルの小片加工
タイルモザイクの場合は、金槌でタイルを砕いたり、ニッパーでタイルをカットしていきます。
また、オイルカッターでタイルに筋をいれカットする方法もあります。
どちらも注意点としては、破片が目に入らないようにすること、カッターなどで怪我をしないようにすることがあげられます。
5.小片の貼り付け
はじめのうちは基板に接着剤を塗っておき、その上に小片を乗せるように置いていく方法がおすすめです。
目地間を調整して位置が決まったらタイルを押しつけて固定していきます。
また、外周のへりを直線的に配置することで、後々修正のためのカットをする必要がなくなりますのでなるべく簡単にかつきれいに仕上がるような方法やコツを把握しておくことも、作業療法士側には求められます。
6.乾燥
接着剤を乾燥させます。
7.目地材を目地に入れる
石膏を水で溶いて目地に入れます。
既成のホイップ粘土を使用する方法もあります。
8.仕上げ
最終仕上げとして、ぼろきれなどを使用して目地に沿って丁寧に拭いていきます。
注意点としては力任せに何度も拭いていくと、目地材が取れていってしまいますのでクライアントが行う場合はその力加減にも注意しておく必要があります。
また、最後にニスを塗ることでつやもでて完成度が高くなることと、汚れの防止にもなりますのでおすすめです。
モザイク活動の特徴
作業療法においてモザイク活動は次のような特徴があります。
- 比較的単純な工程
- 構成的な作業で容易に学習できる
- バリエーションが豊富で応用的
- 年齢、性別、疾患に限定されない作業活動
- 楽しみや趣味の創出、集団場面での応用が可能
- 仕上がりがきれい
- 材料を入手しやすい
以下に詳しく解説します。
比較的単純な工程
モザイクはその作業工程が比較的単純なため導入しやすいというメリットがあります。
構成的な作業で容易に学習できる
また、モザイクは構成的な作業であることから、学習しやすく、特別な技術や高い知的能力は比較的求められないで可能です。
バリエーションが豊富で応用的
材料のタイルに限らず、様々な種類の素材を利用することができ、色彩や形、大きさを自由に変えることができるため、クライアントの好みに合わせて非常にバリエーション豊かな作品をつくることができます。
年齢、性別、疾患に限定されない作業活動
あらゆる年齢層、男女、精神や身体に障害を有するクライアントに対して可能なため、対象を選ばないというメリットがあります。
楽しみや趣味の創出、集団場面での応用が可能
作業療法への導入として可能なことだけでなく、楽しみや趣味の創出、集団での共同作業に応用することでの対人関係の学習など用途は様々です。
仕上がりがきれい
材料自体が豊富な色で光沢があることからも仕上がりがきれいな点がモザイクの特徴とも言えます。
このことから非常にクライアントの自尊心の回復につなげやすい作業活動であることがいえます。
材料を入手しやすい
モザイクは他の作業に比べると必要とされる用具が少なく、材料も通販などで手にはいりやすいことから、継続して行えやすい点があげられます。
モザイクの治療的効果について
では、実際に作業療法でタイルモザイクを導入すると、クライアントにとってどのような治療的効果が期待できるのでしょうか?
身体機能面、精神機能面の双方から考えてみます。
身体機能面
モザイクによる作業活動において、身体機能面への期待できる治療的効果は次の通りになります。
- タイルニッパーによるカット:手指のピンチ力、上肢筋力の向上
- タイル小片の配置作業:手指の巧緻性の改善、目と手の協調性の改善、関節可動域の維持と改善
精神機能面
モザイクによる作業活動における、精神機能面への期待できる治療的効果は次の通りになります。
- タイルのカットや砕く作業:攻撃性や衝動性の発散
- タイル小片の配置作業:集中力や耐久性の向上
- 達成感の獲得
- 共同での制作による対人交流や協調性の改善
まとめ
今回は、モザイクにおける作業療法の治療効果などについて解説しました。
作業療法においてモザイクは比較的オーソドックスで古典的な作業活動に当てはめられると思います。
作業療法ガイドライン2018で作業療法で用いる活動の具体例の一つで紹介されているものの、最近はあまり行われていないような気もします。
でもモザイク自体が持つ治療的特徴、導入のしやすさから、今一度見直してみるのもよいかもしれませんね!