木工を作業療法のアクティビティとして考えると、非常に治療的な効果を含んでいることがわかります(もちろん提供する作業療法士側の手腕にもよりますが)。
そこで今回は、木工を作業療法で行う目的と治療効果について解説します。
木工とは?
そもそも、“木工”とは、
木材に加工を施す作業または製作技能、あるいはその職人であり、家具製作(キャビネットおよび家具)、木彫、指物、大工、木工挽物が含まれるもの
引用:wikipdia
…と定義されます。
木工と作業療法
木工を治療的に活用した事例を歴史からみるとギリシャのGalen(AD130-210)から始まるようです。
作業療法の歴史からみても、木工という作業活動は健康な生活を回復する手段として、また職業的な訓練や身体機能改善などの目的で行われてきました。
「作業療法学専攻 基礎作業学 木工の木取り作業です.
チェックポイントは
1.木目と長辺をあわせて,ノコ引き線を入れる事.
2.材料に無駄がでないようにする事.
3.節穴にノコ引き線がかからないようにする事.みなさん!できましたか?」 pic.twitter.com/uPEXr1b9gR— 東京医療学院大学 (@u_ths) 2017年11月13日
木工を身体障害領域に応用するには?
木工作業の特徴や道具による段階づけが可能という性質から、様々な身体機能障害の改善を目的とした作業活動としても利用されてきています。
その際必要なこととしては、クライアントの
- 筋力
- 関節可動域
- 耐久性
- 協調性
…といった能力を評価、訓練対象としています。
また、この場合何か作品を作り上げる…という全ての工程を行う木工作業よりは、サンディングといった同じ動作を繰り返し行う要素的作業のほうが最適といえます。
木工を精神障害領域で応用するには?
一方、精神疾患を持つクライアントを対象とした作業療法プログラムに木工を取り入れる場合、
- 建設的なエネルギーの消費
- 攻撃性の発散
- 創造性
- 計画性
- 問題解決能力
- 集中力と持続性
…といった能力を評価、訓練対象としています。
もちろん木工作業を通して他者との交流、コミュニケーション能力も対象です。
木工作業の工程分析と目的、効果
どのような作品を制作するかによって変わってきますが、木工作業基本は以下のような工程に分析されます。
- 計画(プランニング)
- 製図
- 計測・線引き
- 切断
- 切削
- 組立
- 塗装
今回は少し趣向を変えて、この工程別から木工作業の目的や期待できる効果を検証します。
木工作業の治療的な目的について
では、木工という作業活動におけるそれぞれの治療的な目的についてですが…
計画(プランニング)
まずクライアントは資料などを使い、何を制作するかを決める必要があります。
またその制作物に必要な道具や材料に何が必要なのかも列挙できるようにしておきます。
そうすることで、創造性や、企画力といった能力の評価につながります。
製図
制作物が決まれば、その形や大きさを決め“製図”という作業に移行します。
ここでは製図のための構成能力、大きさを出すための簡単な計算能力の評価につながります。
計測・線引き
制作に無垢の板を使用するには、製図を基に部材の配置を決めるための計測、線引きの作業に移行します。
ここでは木目の方向によっても完成時の見栄えが変わってくるので注意する必要があります。
この工程での目的としては、判断力や線引きという動作能力評価があげられます。
切断
ここでは線引きした通りに木材を鋸といった道具で切断する作業工程に移行します。
この工程から比較的繰り返す作業が増えてくるため、評価だけでなく訓練としての要素も含んでくるのが特徴です。
その目的としては、鋸を把持しておくための握力、鋸引きのために必要な可動域と筋力、姿勢の保持や安定性などが対象となります。
また正しく切断できているか把握しながら進めていくため注意力、判断力も必要になってきます。
加えて鋸引きの際の上肢への感覚(深部覚)入力と運動方向の統合といったものも治療的な目的といえます。
切削
木材の鉋がけは木工作業中の代表的な作業といえます。
ここでは鉋を握るための握力、削り加減をコントロールするための手や上肢への感覚フィードバックとそれに合わせた運動の方向性の統合が目的になります。
また削ったあとの仕上がりを確認する際の触覚も評価としてみることができます。
組立
準備した材料を実際組み立てていく工程になりますが、まず仮組みをして材料がきちんと組むことができるのか確認しておきます。
組立の工程には、立体を構成する能力や視覚機能、目と手の協調などがあげられます。
またきりによる穴あけ作業は手指の伸展の促通になる場合もあります。
塗装
塗装の前段階で研磨を挟む場合がありますが、その際はサンドペーパーを使用します。
その後ペンキなどで塗装を行います。
研磨作業には筋力や可動域、耐久性を姿勢の安定性、そして触覚や識別覚といったものの促通されます。
塗装作業においては、目と手の協調、上肢のコントロール能力が必要になってきます。
木工作業に必要な道具
木工作業に必要な道具を工程毎に分けると…
工程 | 道具 |
---|---|
計画(プランニング) | 本などの資料 |
製図 | 製図版・T定規・三角定規・定規・鉛筆・消しゴム・ディバイダー・コンパス |
計測・線引き | サシガネ(曲尺)・スコヤ(直角定規)・斜め定規・すじけびき・しらがき |
切断 | 作業台・両刃鋸・同付き鋸・あぜ挽き鋸・回し挽き鋸・糸鋸(手持ち、脚踏み、電動)・電動鋸(ジグソー、帯鋸盤、丸鋸etc) |
切削 | 平鉋(荒仕上げ、中仕上げ、仕上げ用)・台直し鉋・たたきのみ・突きのみ・小刀、電動工具 |
組立 | 端金・F型クランプ・きり・金槌・釘締め・釘抜き・釘切り・ペンチ・ねじ回し・ドリル・木槌 |
塗装 | 刷毛・容器・雑布・ポリ手袋 |
…などがあげられます。
まとめ
今回は作業療法による木工作業の目的や機体できる治療的効果について解説しました。
作業療法でも木工作業を治療の手段として用いることは、筋力向上を含め様々な効果が期待できます。
木工は伝統的な作業療法の作業活動の一つですが、改めて見直してみると非常に汎用性が高い作業かもしれませんね!