作業療法士の「作業」の意味とは? 【“occupational”の意味や語源から考えてみます】

作業療法士の“作業”の意味を考えたとき、どんなのが思いつきますか?
支援対象がクライアントの“生活”ですから、その“作業”といっても多種多様、千差万別だと思います。
だからこそ、介入するときの手段を漫然と「作業」として扱ってしまいがちな気もします。

本記事ではこの作業療法士にとっての“作業”の意味について、英語や語源から分析的に考えてみました。

そもそも作業療法士の定義とは?

まずは作業療法(OT)の定義について考えてみます。

世界作業療法士連盟(WFOT)によると…

  • 作業療法とは,作業を通して健康と幸福な生活の推進にかかわる職業である。作業療法の主目標は,人々が日々の生活の営みに参加できるようにすることである。作業療法士は,こうした成果を達成するために,人々が自らの参加能力の向上をもたらすような事柄に取り組めるようにしたり,参加をよりよく支援するための環境整備を行ったりする。
  • 作業療法士は,広範囲におよぶ教育を受けることにより,健康状態に由来する身体の機能もしくは構造的な障害があり,かつ社会参加への障壁を体験している人々と,個人あるいは集団レベルで協業していくための知識と技術を身につけている。
  • 作業療法士は,物理的な環境,社会の態度や制度的な環境によって,人々の参加が支えられることもあれば,制約されることもあることを確信している。それゆえ作業療法の実践が,人々の参加を促進するために,環境面の変革に向けられることもある。
  • 作業療法は,病院,保健センター,家庭,職場,学校,矯正施設,高齢者住宅などを含む多岐にわたる場で実践される。クライエントは作業療法過程に積極的に関与し,作業療法の成果は多様かつクライエント主導であり,参加の観点,あるいは参加がもたらす満足という観点から判断される。

引用:日本作業療法士協会

作業療法士の“作業”の定義とは?

では、作業療法士が扱う“作業”とはどのようなものになるのでしょうか?
そもそも“作業”という言葉についてですが…

作業 (さぎょう、英語: occupation) とは、日々の生活で行われ、名付けられている一群の活動と課題であり、個人と文化によって価値と意味があたえられたものである。
引用:wikipedia

また、作業療法における“作業”は次のように定義されています。

  • 作業とは、日々の生活で行われ、名付けられている一群の活動と課題であり、個人と文化によって価値と意味があたえられたものである。(カナダ作業療法士協会(1997年))
  • 作業とは、身のまわりのことを自分で行うセルフケア、生活を楽しむレジャー、社会的経済的活動に貢献する生産活動など、人々が行うすべての営みである。(アメリカ作業療法士協会(2002年))
  • 作業とは、文化的個人的に意味を持つ活動の一群であり、文化の語彙のなかで名付けられ、人間が行うことである。(作業科学(1991年))
  • 引用:wikipedia

    “occupation”の意味と語源について

    作業療法士は英語でOccupational Therapy(OT)です。
    この英単語は知っていても、“occupational”の意味についてきちんと理解している方は少ないように感じます。

    occupational(形容詞)の意味は“作業”ではない?

    実は“occupational”という形容詞は、日本語では「職業の~」と訳されます。
    名詞にすると“Occupation”ですが、これも「(生計を立てるために従事する)職業」という意味になります。

    occupy(動詞)から考える

    “occupation”という名詞ですが、これは“occupy”という動詞から来ています。
    実はこの“occupy”、日本語訳では“占める・占領する・乗っ取る”という意味になります。
    このoccupy(占める)→ occupation(職業)の意味の変化についてですが…

    人が生活をしていく、生きていくために多くの時間が占領されているもの

    …ということで“職業”という意味に発展した、と解釈できます。

    OTは職業療法?

    もう一度“Occupational Therapy”という言葉に戻ってみます。
    上記の解釈を念頭に考えると、“Occupational Therapy”は“職業療法”という訳にもなります。
    たしかに、作業療法の起源を振り返ると、「職業療法」や「仕事療法」という呼び方や枠組みで扱われていた時代もあったようです。

    OT=職業療法では勘違いされてしまう?

    ただし、この「職業療法」という呼称ではOTの対象が非常に狭くなってしまう印象を受けます。

    • 「小児の領域で職業??」
    • 「高齢者で職業??」
    • 「そもそも働いていないクライアントで職業?」

    こんな疑問符がついてしまうことは避けられません。

    occupationの拡大解釈

    occupyの「占める」という意味を念頭にいれた上でOccupational Therapyを考えてみると…

    「占める×療法」

    …です。

    “占める・占領する”をもう少し拡大解釈をすると…

    「長い時間をかけている物事×療法」

    …となります。

    つまり…

    その人の人生で長時間費やしている(もしくは費やす必要がある、費やしたい)ことを扱う療法

    …という解釈ができます。

    作業療法士が扱う作業について

    このように“作業療法”という言葉を英訳、語源からみた上で考えてみると…

    クライアントの人生や生活において“長時間費やしていること”を治療介入手段として扱う療法

    …とまとめられます。

    でもこの文言だと少し長ったるい気がします。
    そこで便宜上、

    人生や生活において長時間費やしていること=その人にとって価値が高いこと

    という解釈にすると…

    クライアントの人生や生活において“価値が高いこと”を治療介入手段として扱う療法

    …とまとめられます。

    Occupationという意味は直接的には“職業”ですが、その中には“その人にとって価値が高いこと”という意味が含まれていると解釈できます。

    リハビリテーションにおける作業療法とは

    リハビリテーション(rehabilitation)の語源から「本来あるべき状態への回復」の意味を含んでいるということは周知の事実です。
    ではこのリハビリテーションにおける作業療法を考えると…

    クライアントの人生や生活において喪失してしまった“価値が高いこと”を再び取り戻すこと

    …と捉えられます。
    そういった意味でも、改めて作業療法の目的はクライアントの価値観によって左右されることがわかります。

    作業療法士は適切な作業を提供できているか?

    作業療法が「クライアントの人生や生活において価値が高いことを扱った療法」という意味になるなら、その介入方法について振り返ると多くの気づきがあります。
    ただ、漫然と無目的に…

    • 上肢機能訓練するために…輪入れ訓練
    • 巧緻性向上するために…ペグボード

    これらが本当に作業療法士の扱う“作業”なのかどうか、少し疑問がでてきてしまいます。

    輪入れやペグは作業じゃない?

    こうして作業療法の作業の意味について、記事執筆していくと「輪入れやペグボードを使っての介入を否定しているのかっ!」と怒号のご意見をいただきそうですね。
    なにもその介入方法をディスっているわけではありません(苦笑)

    • OT→上肢訓練→輪入れ
    • 片麻痺→巧緻訓練→ペグボード

    …と短絡的な発想で介入手段を選択していることはあまりにも“思考停止の状態”だと伝えたいのです。

    介入内容に“Occupation”を付帯すること

    私自身気を付けていることとしては…

    クライアントの価値感に合わせ、理解、納得してもらいながらの介入をすること

    …だと考えています。

    前述の作業療法を…
    「クライアントの人生や生活において価値が高いことを治療介入手段として扱う療法」
    という解釈なら、その人にとって価値が高いこと=Occupationを介入内容に付帯することが必要になってきます。
    クライアントが…
    「なんで俺、こんなことやらされているんだろ?」
    …という感情のまま介入していても、大きな変化や結果にはつながりにくいですし、なにより続きません。

    これは脳科学や心理学の観点からみてもあまりいい方法とは言えません。

    これからの作業療法士に必要なこととは?

    何度も言うように作業療法における作業は「その人にとって価値が高いこと」という意味を含んでいます。
    その上で次世代の作業療法士にとって必要なことですが、そのクライアントの価値観を尊重する…ということに他なりません。

    作業療法士を含めリハビリテーション界隈では昔から使われてきた“ありがち”な文言でしょうけども、この文言に至るまでのプロセスを“作業療法”という言葉、Occupational Therapyという言葉や語源から顧みることでまた違ったとらえ方ができるようになります。

    まとめ

    本記事では作業療法士の「作業」の意味について深堀りして解説しました。

    なんでもそうなんですが、ふと当たり前すぎてわからなくなったとき、それを形作っている言葉を深堀りするようにしています。
    そうすると、言語化できなかったものがなんとなくでも言葉にできて、見え方が少し広がってきますからね!

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