数値評価スケール(NRS:numerical rating scale)

痛みの評価を口頭で行う方法に数値評価スケール(NRS:numerical rating scale)があります。
本記事では…

  • NRSの定義
  • NRSの方法とカットオフ
  • NRSの利点と注意点
  • VASとの違い

…などについて解説します。

数値評価スケール(NRS)とは?

数値評価スケール(NRS:Numerical Rating Scale)は…
被験者の痛みの程度を“0~10”の11段階に区別し、痛みが全くない状態を0、最もひどい痛みの状態を10としてそのレベルを点数化し把握する痛みの検査方法
…になります。

このスケールは、痛みの程度を点数化し把握する痛みの検査方法であり、臨床現場で使用されることが多いです

数値評価スケール(NRS)の使い方と評価方法

NRSには次の2通りの実施方法があります。

  • スコア10を初診時or治療前の最大の痛みと設定した上で、現在はどのスコアになったか?という“Pain Relief Score”を用いる方法。
  • もう一つは、被験者が今までに経験した最も強い痛みをスコア10と設定したうえで、現在はいくつのスコアになるかを質問する方法。

どちらも口頭で答えてもらう点に特徴があります。

数値評価スケール(NRS)のカットオフ

NRSのカットオフについては、様々な評価基準があり、統一された見解は得られていません。
National. Comprehensive. Cancer. Network.(NCCN)のガイドラインにおける点数によると以下のようになっています。

  • 0は痛みなし
  • 1~3は軽い痛み
  • 4~6は中等度の痛み
  • 7 ~10は強い痛み

また、Serinらは1~4を軽度、5~6を中等度、7~10を高度としています。
さらにGivenらは1を軽度、2~4を中等度、5~10を高度としています。

数値評価スケール(NRS)のメリット、デメリット

では、NRSを臨床で使用することでのメリット、デメリットとはなにがあげられるでしょうか?

メリット

まず、NRSのメリットとして…

  • 痛みの程度を客観的に評価できる
  • 患者の主観的な痛みを把握できる
  • いつでも、どこでも、誰でも実施できる

…があげられます。

痛みの程度を客観的に評価できる
NRSは痛みの程度を客観的に評価するための優れたツールです。
数値スケールを使用することで、医療従事者は痛みの程度を客観的な尺度で測定することができます。
これにより、主観的な表現に左右されることなく、異なる患者間や時間的な変化を比較することが可能になります。
痛みの客観的な評価は、診断や治療の効果のモニタリング、痛みの管理のための意思決定において重要な情報を提供します。

患者の主観的な痛みを把握できる
NRSは患者さんが自己申告する主観的な評価に基づいています。
患者さんは自身の痛みの程度を数値で表現することが求められます。
これにより、医療従事者は患者さんの主観的な痛みを把握し、その痛みの特性や重症度を理解することができます。
患者さんの自己申告に基づく評価は、痛みの治療計画の個別化や、患者さんの経験を尊重したケアの提供に役立ちます。

いつでも、どこでも、誰でも実施できる
NRSの実施方法は非常に簡単であり、特別な準備物や装置は必要ありません。
患者さんに対して数値スケールを提示し、痛みの程度に対応する数値を選んでもらうだけです。
このシンプルな手法は、臨床現場での利用を容易にし、いつでも、どこでも、誰でも実施することができます。
また、時間や負担を最小限に抑えることができるため、大規模な評価や日常的な痛みのモニタリングにも適しています。

デメリット

では、逆にNRSを臨床で使用することで生じるデメリットとは何があげられるでしょうか?
ここでは…

  • 痛みの質によってNRSのスコアの信頼性が低くなることがある
  • 痛みを表現する言葉が固定化してしまうことがある
  • 子どもや認知症がある患者さんには使用することができない

…について解説します。

痛みの質によってNRSのスコアの信頼性が低くなることがある
NRSは痛みの程度を数値で表現するため、痛みの質や特性によってはスコアの信頼性が低下することがあります。
痛みは個人の経験によって異なり、その質や感じ方は多様です。
一部の患者さんにとっては痛みの強さと数値の関連性が明確である一方、他の患者さんにとっては痛みの質が変動しやすく、数値スケールで一貫して評価することが難しい場合があります

いくつかの報告では、痛みが鋭利痛の場合は細分化しにくい傾向があり、その結果NRSの11段階のスコアにすることができなくなるようです。
加えて、VASの時同様、心理面が作用しスコア5やスコア7をつける傾向があることも考慮しないといけません。

このため、痛みの質によってNRSのスコアの解釈に注意が必要です。

痛みを表現する言葉が固定化してしまうことがある
NRSは数値で評価するため、患者はある程度の言葉を用いて痛みを表現する必要があります。
しかし、痛みを表現する言葉は個人によって異なり、文化的な背景や経験によっても影響を受けます。
数値スケールは特定の言葉に固定化される傾向があり、患者が自身の痛みを正確に表現できない場合があります。
このような場合、痛みの評価が適切に行われない可能性があります。

うまく表現できない子どもや認知症がある患者さんには使用することができない
NRSは患者の自己申告に基づく評価手法ですが、うまく表現できない子どもや認知症がある患者には使用することができません。
子どもや認知症のある患者は、痛みを適切に数値で評価することが難しい場合があります。
このような場合、他の評価方法や観察による評価手法が必要になります。
個別の患者の特性や状況に合わせて、適切な評価手法を選択する必要があります。

数値評価スケール(NRS)の信頼性と妥当性

数値評価スケール(NRS)の信頼性と妥当性については、NRSが信頼性,妥当性を有することはすでに検証されています。
また、VASと有意に相関し、回帰直線の傾きは1.1であることが報告されています。

数値評価スケール(NRS)の注意点と課題

NRSの注意点ですが、上記のデメリットでも触れたように…

  • 口頭での質問形式による痛みの検査のため、言語理解能力に乏しい重度の失語症や小児の被験者、意識レベルが極端に低い被験者などを対象とすることはできにくいこと
  • NRSは患者申告に基づく評価であり、患者本人が痛みをうまく表現できない場合があること
  • NRSは数字で評価するため、数字の好みによって評価が変わることがあること

…があげられます。

NRSだけに頼らずいくつかの検査を複合的に行い、その他の症状や日常生活の様子といったものから総合的に評価する方法が必要とも言えます。

NRSとVASの違い

痛みの評価方法として、線分を使用する視覚的アナログスケール(VAS)があります。
VASとNRSの違いについてですが、どちらも痛みの程度を被験者の主観ではありますがスコア化する点は共通している部分といえます。
異なる点については、VASが100mmの線分上に印をつけるという作業が必要なことに対し、NRSでは特に準備物もなく口頭で実施される点になります。
VASよりも簡潔に実施できる点からも臨床ではNRSが多く使用されている…という意見もあります。

ちなみにNRSとVASは優位に相関しているという報告もありますが、理学療法診療ガイドラインによると、
慢性痛の被験者が正確に回答できない、という割合は、

  • VAS:11%
  • NRS:2%

…と統計がでていることから明らかにNRSの方が正確性が高いと言えます。

参考

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/31/4/31_4_560/_pdf
https://ciru.dept.showa.gunma-u.ac.jp/guidance/storage-sample/pdf/2021-045.pdf

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