自動車運転評価における神経心理学的検査について
作業療法士がクライアントの自動車運転能力について評価をする際、主に使用する神経心理学的検査は以下のとおりになります。
- MMSE
- HDS-R
- コース立方体組み合わせテスト
- WAIS-Ⅲ
- Trail Making Test
- かなひろい検査
- BIT行動性無視検査
- BADS
- FAB
- Rey複雑図形検査
それでは各検査をもう少し詳細に説明します。
MMSE
MMSE(Mini-Mental State Examination・ミニメンタルステート検査)とは、1975年にアメリカで開発された認知症の診断用に開発された検査です。
自動車運転の適正評価としてのMMSEは、クライアントの基本的な認知機能検査として行われます。
また高齢者の免許更新の際の医師による診断書作成時に必要な検査でもあり、公安委員会の参考情報にもなるので重要な検査といえます。
自動車運転の適正評価としてのMMSEのカットオフ値は26/27となっています。
HDS-R
HDS-Rは精神科医である“長谷川和夫”氏が開発した簡易知能検査です。
HDS-RもMMSE同様、基本的な認知機能検査として行われることが多いようです。
75歳以上の運転免許更新の際には、教習所での認知機能検査を受けることが義務付けられています。
自動車運転の適正評価としてのHDS-Rのカットオフ値は20/21とされています。
コース立方体組み合わせテスト
コース立方体組み合わせテストとは、赤,白,青,黄の4色に塗り分けられた立方体のブロックを用いた知能検査です。
その検査方法から非言語性の能力を測ることができるので、聴覚に障害がある人やにも適する検査方法になっています。
自動車運転の適性評価としてのコース立方体組み合わせテストのカットオフ値はIQ80−90以上とされています。
WAIS-Ⅲ
WAIS-Ⅲ(ウェクスラー成人知能検査)は16歳以上の成人を対象とした知能(IQ)を測るための一般的な検査です。
前述したコース立方体検査とは異なり、WAIS-Ⅲは言語性IQ(VIQ)、動作性IQ(PIQ)、全検査IQ(FIQ)の3つのIQに加え、「言語理解(VC)」、「知覚統合(PO)」「作動記憶(WM)」「処理速度(PS)」の4つの群指数も測定できることから多面的、多層的な知能を測定することができます。
自動車運転の適性評価としてのWAIS-Ⅲのカットオフ値は、符号検査、記号ともにそれぞれ11点以上とされています。
Trail Making Test
Trail Making Test(トレイルメイキングテスト)とは“TMT-A”と“TMT-B”の2つのテストを使用し、主に注意機能や遂行機能を検査する方法です。
TMTは多くの神経心理学的検査の中で運転適性と関連性の高い検査の1つに位置づけられています。
自動車運転の適性評価としてのTrail Making Testのカットオフ値はTMT-A:47秒、TMT-B:133秒以内とされています。
かなひろいテスト
かなひろいテストとは「浜松式高次脳機能スケール」のサブテストの一つですが単独でも使用されている早期認知症診断のために使用される検査方法です。
この検査によって注意障害でも特に持続的注意機能、選択的注意機能、分割的(分配)注意機能を評価することができます。
自動車運転の適性評価としてのかなひろいテストのカットオフ値は、85%以上とされています。
BIT 行動性無視検査
BITはイギリスのWilsonらによって開発された半側空間無視検査です。
高次脳機能障害の一つでもある半側空間無視は、視覚情報に非常に依存する自動車運転を行う上では致命的な症状になります。
自動車運転の適性評価としてのBITのカットオフ値についてですが、BITによる半側空間無視のカットオフ値である以下の表が参考になります。
◆通常検査のカットオフ値と最高点
課題 | カットオフ値 | 最高点 |
---|---|---|
線分末梢試験 | 34 | 36 |
文字末梢試験 | 34 | 40 |
星印末梢試験 | 51 | 54 |
模写試験 | 3 | 4 |
線分二等分試験 | 7 | 9 |
描画試験 | 2 | 3 |
合計点 | 131 | 146 |
◆行動検査のカットオフ値と最高点
課題 | カットオフ値 | 最高点 |
---|---|---|
写真課題 | 6 | 9 |
電話課題 | 7 | 9 |
メニュー課題 | 8 | 9 |
音読課題 | 8 | 9 |
時計課題 | 7 | 9 |
硬貨課題 | 8 | 9 |
書写課題 | 8 | 9 |
地図課題 | 8 | 9 |
トランプ課題 | 8 | 9 |
合計点 | 81 | 68 |
BADS
BADS(Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrom)とは、1996年に“Wilson”らにより考案された遂行機能症候群の行動評価法です。
物事の計画を立てて実行するという機能である遂行機能は、様々な動作工程を複雑な順番に行うことが多い自動車運転において非常に必要性が高い能力と言えます。
自動車運転の適性評価としてのBADSのカットオフ値は、99点以上で、特にBADSの動物園地図検査では2.3点以上とされています。
FAB
FAB(Frontal Assessment Battery at bedside)は前頭前野の機能を測定する検査方法です。
自動車運転を行う際、非常に前頭葉の働きを必要としていることが先行研究でもあきらかになっているため、しっかりと検査する必要があります。
自動車運転の適性評価というよりは、FABにおけるカットオフ値は11/12点とされていますのでこの点数を一つの基準にするといいのかもしれません。
Rey複雑図形検査
Rey複雑図形検査(Rey-Osterrieth ComplexFigure Test :ROCF)は,脳損傷患者の視覚構成能力や視空間記憶を評価するために標準化された検査です。
自動車運転の適性評価としてのRey複雑図形検査のカットオフ値についてですが、明確な数値はまだはっきり提示されていないため、各項目の平均値が参照になるかと思います。
平均 | 標準偏差 | 範囲 | |
---|---|---|---|
模写 | 5.7 | (0.6) | 34~36 |
遅延再生 | 18.8 | (5.7) | 10~31 |
まとめ
今回は自動車運転の適性評価に必要な神経心理学的検査について解説しました。
自動車運転は非常に複合的な知覚、運動によって成り立っているため、どの機能一つでも低下している場合は運転適性外とされてしまいます。
運転適性をはっきりとさせるためにも、今回あげたような神経心理学的検査を行う必要があるのでしょうね!