記憶障害の評価のプロセスについて

“記憶障害”の評価といっても、臨床では神経心理学検査を行えばいいわけではありません。
本記事では記憶障害の評価のプロセスについて解説します。

記憶障害の評価のプロセス

記憶障害に対する評価のプロセスですが、一例として…

  • 初期評価と病歴収集
  • 面談
  • 行動観察
  • 神経心理学的検査
  • 脳画像検査
  • 記憶障害以外の障害状況の把握

…のステップで解説します。

初期評価と病歴収集

「初期評価と病歴収集」は、記憶障害の患者を評価するプロセスの最初のステップになります。
患者の状態や症状について包括的な情報を収集する重要な段階です。
まずはその患者の医学的な情報だけでなく、生活背景といった関連情報を含めた情報収集を行う必要があります。

面談

そしてセラピストは、患者と面談を行なうことでの評価も必要です。
この面談では、患者や患者の家族から症状や病歴に関する詳細な情報を収集します。
以下は面談で収集される情報の例です。

症状の詳細

患者がどのような記憶の問題を経験しているか、具体的な症状は何か(例:物忘れ、日常的な予定の忘れ、人や場所の認識の難しさなど)を説明してもらいます。

発症のタイミング

記憶障害の症状がいつから始まったか、また症状の進行速度について尋ねます。
急性または徐々に進行することがあります。

日常生活への影響

記憶障害が患者の日常生活や社会的な機能にどのような影響を与えているかを評価します。
例えば、仕事や家事、社会的な活動に対する影響を尋ねます。

既往症と家族歴

患者の既往の健康状態や他の疾患の歴史、家族歴を収集します。
遺伝的要因や他の健康問題が関与している可能性があるため、この情報は重要です。

薬物・アルコールの使用

薬物やアルコールの使用歴、特に記憶障害に影響を与える可能性のある薬物の使用について尋ねます。

ストレスや心理社会的要因

患者のストレスレベルや心理社会的要因(例:うつ病、不安障害、トラウマ)についても尋ねます。
これらの要因が記憶障害に影響を与えることがあります。

行動観察

「行動観察」は、記憶障害の患者を評価する際に重要な要素の一つです。
この評価は、患者の日常的な行動や振る舞いを注意深く観察し、記憶障害の症状やその影響を理解するために行われます。
以下に、行動観察の詳細について解説します。

日常生活の様子の観察

セラピストは、患者の日常生活での行動や振る舞いを観察します。
これには次のような要素が含まれます

日常的なタスクへのアプローチ
患者が日常的なタスクをどのように取り組んでいるかを観察します。
例えば、家事、料理、着替え、買い物などの日常生活の活動に対するアプローチや能力がどうかを評価します。

人や場所の認識
患者が家族や友人、日常的な場所(家、仕事、近所など)を認識できるかどうかを観察します。
記憶障害が進行すると、これらの要素に対する混乱や認識の難しさが現れることがあります。

時間の感覚
患者が時間に対して適切に把握しているかどうかを観察します。
予定の守り方や待ち時間に対する対応が異常である場合、記憶障害の兆候として考えられることがあります。

物忘れの状況
患者が物事を忘れたり、同じ質問を繰り返したりする場面を観察します。
これは記憶障害の主要な症状の一つです。

コミュニケーションの評価

患者とのコミュニケーションを通じて、語彙の使用、言語能力、文章の構築などを評価します。
記憶障害が言語機能に影響を与えることがあるため、コミュニケーションの変化に注意を払います。

不安や混乱の観察

患者が記憶障害に関連して不安、混乱、焦燥感、抑うつなどの情緒的な症状を示すかどうかを観察します。
これらの症状は記憶障害に伴うことがあります。

症状の日々の変化

患者の症状が日々変化するかどうかを観察します。
記憶障害は進行性の場合もあるため、時間の経過とともに症状が悪化するかどうかを把握します。

神経心理学的検査

面談や行動観察だけでは定量的な評価に欠ける場合があります。
そこで神経心理学的検査が必要になります。

記憶障害の神経心理学的検査には、以下のようなものがあります。

ウェクスラー記憶検査(WMS-R)
国際的に利用される記憶検査で、言語問題と図形問題から成り、13個の検査項目があります。

リバーミード行動記憶検査(RBMT)
記憶力を調べるための検査で、図形を覚えて描き出すことが求められます。

三宅式記銘力検査
記銘力を調べるための検査で、数字や単語を覚えていくつかの問題に答えます。

Rey複雑図形検査
図形を覚えて再現することが求められる検査です。

これらの神経心理学的検査は、記憶障害の有無や程度を調べるために行われます。

脳画像検査

また、脳画像検査は、記憶障害の患者を評価する際に非常に重要なツールの一つです。
この検査は、患者の脳の構造や機能に関する情報を提供し、記憶障害の原因や進行度を評価するのに役立ちます。

以下に、脳画像検査の詳細について解説します。

MRI(磁気共鳴画像法)

MRIは、脳の高解像度画像を生成するために使用される非侵襲的な画像診断法です。
脳の構造的な異常や腫瘍、血管障害、炎症、虫垂体の異常などを観察するのに適しています。

記憶障害患者の場合、MRIは特に神経変性疾患(アルツハイマー病、前頭側頭型認知症など)や脳萎縮の兆候を捉えるために使用されます。
これらの疾患は脳の構造に変化をもたらすことがあり、MRIによってそれらの変化を観察できます。

CT(コンピュータ断層撮影)スキャン

CTスキャンは、脳のX線像を断層切片として生成し、脳の異常を検出するのに役立ちます。
MRIとは異なり、CTスキャンは骨の詳細な画像を生成するのにも適しています。

CTスキャンは、頭部外傷や出血、脳腫瘍、血管異常などの異常を検出するのに使用されます。
記憶障害の原因がこれらの異常に関連している場合、CTスキャンは異常を観察しやすくなります。

PET(陽電子放射線断層法)スキャン

PETスキャンは、脳の代謝活動や血流を観察するために使用されます。
特定の放射性物質を体内に注入し、それを検出することで、異常な脳活動を捉えることができます。

記憶障害の患者の場合、アルツハイマー病などの神経変性疾患に関連した脳の異常なタンパク質沈着をPETスキャンで検出することがあります。
これにより、早期診断や疾患進行のモニタリングが可能になります。

SPECT(単一光子放射線断層法)スキャン

SPECTスキャンは、脳の血流を評価するために使用される放射線画像診断法です。
脳の特定の領域への血流の変化を検出するのに役立ちます。

記憶障害患者の場合、SPECTスキャンは特定の脳領域への血流の減少を示すことがあり、これは神経変性疾患の可能性を示す兆候となります。

記憶障害以外の障害状況の把握

記憶障害の患者を評価する際、「記憶障害以外の障害状況の把握」は非常に重要です。
なぜなら、記憶障害は他の身体的、認知的、精神的な問題と相互に関連していることがあるため、患者全体の状態を総合的に理解する必要があるからです。

以下に、記憶障害以外の障害状況を把握するための詳細を解説します。

身体的健康状態

記憶障害は、身体的な問題によって引き起こされることがあります。
例えば、甲状腺機能低下、ビタミン欠乏症、糖尿病、高血圧、脳血管障害、薬物副作用などが考えられます。
そのため、身体的な健康状態を評価し、記憶障害の原因となる身体的な疾患を特定することが重要です。

精神的健康状態

記憶障害はうつ病、不安症状、認知症などの精神的な問題と関連していることがあります。
患者の精神的な健康状態を評価し、必要な場合は心理的な支援や治療を提供することが必要です。

薬物や薬物の使用

一部の薬物や薬物乱用は、記憶障害を引き起こす可能性があります。
患者がどのような薬物を使用しているか、または過去に使用していたかを評価し、記憶障害に寄与しているかどうかを確認します。

社会的状況と生活環境

患者の社会的な状況や生活環境も評価に含まれます。
孤独、ストレス、財政的な問題、生活の変化などが記憶障害に影響を与えることがあります。
これらの要因を理解し、患者の生活に適切なサポートを提供することが大切です。

日常生活への影響

記憶障害が患者の日常生活や日常活動にどのように影響を与えているかを評価します。
仕事、家事、社会的な活動への参加、身の回りの安全性などが評価対象です。

記憶障害の評価は様々な情報を統合していくしかないんだろうね!
記憶って主観的な部分が多いからこそ、観察のみならずリバーミードのような定量的な検査も必要になるのでしょうね!

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