呼吸不全の評価はどのように行うのでしょうか?
本記事では、呼吸不全に対しての検査や評価について解説します。
呼吸不全に対しての評価
一般的に呼吸不全に対しての評価としては…
- 息切れの評価
- 動脈血液ガス検査
- 酸素飽和度(SPO2)の測定
- 胸部X線所見
- 肺機能検査
- ROM テスト (胸郭拡張差)
- 呼吸筋力・耐久力
- ADL 評価
…があげられます。
以下にそれぞれ解説します。
息切れの評価
呼吸不全による自覚症状の中で、最も一般的なものは息切れです。
切れの程度を客観的に評価するためには…
- Fletcher-Hugh-Jonesの息切れ分類
- MRC(Medical Research Council)息切れスケール
- Borgスケール
- VAS(Visual Analog Scale)
…などによって、数値化する必要があります。
動脈血液ガス検査
また、動脈血液ガス検査の結果を解釈することによって、血液の酸素化能や換気の状態、代謝機能などを評価することも必要です。
正常値は以下の通りになります。
ph | 7.35~7.45 | |
---|---|---|
動脈血炭酸ガス分圧 | Paco2 | 45±5torr |
動脈血酸素分圧 | PaO2 | 80~100torr |
重炭酸イオン | HCO3- | 24±2mEq/l |
動脈血酸素飽和度 | SaO2 | 97% |
動脈血液ガス検査結果からの評価の手順
動脈血液ガス検査の結果をどのように評価し解釈するか?についての手順は次の通りになります。
1.ph.を確認し判別する
動脈血液ガス検査の結果から、まずpHを確認します。
正常なのか、それともアシドーシス(7.4以下)、もしくはアルカローシス(7.4以上)のいずれかであることを判断します。
2.換気の状態をPaCO2から判別する
次に、換気の状態をPaCO2によって評価します。
PaCO2の状態によって、その呼吸不全が呼吸性か代謝性のどちらに起因しているのかを判定することができます。
ちなみに、PaCO2による影響を呼吸性とし、重炭酸イオン(HCO3-)による影響を代謝性と呼びます。
PaCO2の値に基づく分類は以下のようになります。
45〜50 torr: 軽度の低換気
50〜60 torr: 中等度の低換気
60〜70 torr: 重度の換気不全
30 torr以下: 過換気
また、酸素化能力の程度は以下のように分類されます。
80〜100 torr: 正常
60〜80 torr: 軽度の低酸素症
40〜60 torr: 中等度の低酸素症
40 torr以下: 重度の低酸素症
PaO2が50torr以下、またはPaCO2が55torr以上となると、ADLはかなり制限されます。
PaO2が55torr以上、PaCO2が55torr以下では、平地や階段の歩行は可能ですが、PaO2が68torr以下では仕事をすることが困難になります。
酸素飽和度(SPO2)の測定
パルスオキシメーターは非侵襲的なSPO2(酸素飽和度)の測定装置として使用されます。
特にリハビリテーションにおいて、その価値が高く評価されています。
連続的にSPO2をモニタリングすることにより、運動や動作時の低酸素血症の程度などを定量的に評価することが可能です。
また、SPO2の値から、酸素解離曲線を用いておおよそのPaO2(動脈血酸素分圧)の値を推定することもできます。
胸部X線所見
胸部X線所見はリハビリテーションにおいても、特に体位排痰法の施行時には重要な所見であり、非常に有用な情報が提供されます。
また、肺や気管の状態を正確に把握するためには、胸部X線写真が最も信頼性の高い検査方法になりあmす。。
一般的な読影順序は以下の通りです。
1.骨性胸郭:肋骨や鎖骨の位置、左右の対称性の確認
2.横隔膜:高さ、心横隔膜角、肋骨横隔膜角の評価
3.中央陰影(縦隔):心胸比などの評価
4.両肺野:異常な陰影、透過度の増加、silhouette signなどの観察
これらの順序で読影することによって、胸部X線写真から肺や気管の異常を正確に判断することができます。
肺機能検査
臨床検査技師による肺機能検査ですが、ここでは簡単に解説します。
肺機能検査での測定項目
肺機能検査では、肺活量(VC)、%肺活量(%VC)、予備吸気量、予備呼気量、一回換気量といった肺容量パラメータが測定されます。
ちなみに%肺活量(%VC)が80%以下の場合は肺容量の異常が疑われます。
フロー・ボリュームループについて
フロー・ボリュームループとは、肺機能検査の一つになります。
最大吸気から努力呼出を行い、各時点での気流速度を測定することで、末梢の気道抵抗と肺の弾性状態を評価できます。
呼吸の流れと肺容量の関係をグラフ化し呼吸器疾患の診断に役立ちます。
ROM テスト (胸郭拡張差)
胸郭の可動性は直接的に換気運動に影響を与えるため、評価することが重要です。
評価方法としては、患者に最大吸気と最大呼気を行ってもらい、その胸郭の拡張差を腋窩部、剣状突起部、第10肋骨部の3箇所でテープメジャーを用いて測定します。
正常値は健常者で3〜7cmであり、呼吸不全の患者では2〜5cm程度が平均的です。
呼吸筋力・耐久力
呼吸筋力や耐久力の検査も呼吸不全に対して行われます。
呼吸筋力
呼吸筋力の測定には口腔内圧計が使用され、最大吸気圧(PImax)と最大呼気圧(PEmax)が測定されます。
正常値はそれぞれ75〜100cmH2O、150cmH2Oですが、性別や年齢によって差があります。
呼吸不全の患者では換気障害のため、これらの値が低下していることが多いです。
耐久力
また、呼吸筋の耐久力は、肺機能検査における最大換気量(MVV)やその予測値に対するパーセンテージを指標として評価します。
これに加えて、呼吸筋力計(Vitalopower KH-101など)を使用することもできます。
呼吸筋力計は、呼気または吸気時に呼吸筋の収縮力を測定し、呼吸筋の力量を定量的に評価するのに役立ちます。
6分間歩行テスト (6MWT)
6MWTは、短時間で実施できる歩行テストであり、患者が6分間でできる最大の歩行距離を評価します。
このテストで得られる最大歩行距離は、運動耐容能の指標である最大酸素摂取量(VO2max)や様々な呼吸生理機能と相関することが証明されています。
したがって、呼吸循環機能を含む全身の持久力を評価することができます。
さらに、6MWT中にパルスオキシメーターを使用してSpO2(動脈血酸素飽和度)や脈拍数を連続的にモニタリングし、歩行距離と呼吸困難(Borgスケール)を同時に記録することができます。
これにより、低酸素血症や心機能を評価することができます。
また、酸素療法の適応や酸素流量の決定にも役立ちます。
6MWTとHugh-Jonesの息切れ分類との関係では、Hugh-Jones Ⅰ度では約670m、Ⅱ度では約469.7±56.6m、Ⅲ度では約329.0±29.0m、Ⅳ度では約212.0±81.3mの歩行距離となっています。
自転車エルゴメーター負荷試験 (多段階運動負荷試験)
この検査法は、エルゴメーターを使用して負荷量を2〜3分ごとに増加させながら、患者に限界まで運動を行わせます。
患者がもう続けることができないと判断するまで行われ、患者の運動耐容能を定量的に評価します。
万歩計による歩行数の評価
患者に万歩計をつけて、1週間の平均的な1日の歩数を計算します。
この指標は、運動処方に役立つだけでなく、患者のモチベーションを高めるのにも有用です。
shuttle walking test
このテストは、一定の間隔で鳴る音に合わせて、1分ごとに運動負荷を増加させるものです。
最近では、この漸増負荷テストが慢性呼吸器疾患患者の運動能力を示す有用な方法として認識されています。
ADL 評価
患者の日常生活動作(ADL)において、息切れがどのような問題を引き起こしているのか、また患者のニーズや残存能力などを把握することが重要です。
これは、実際の生活に即した評価であり、不可欠な要素です。
ADLの評価方法としては、問診による方法や、実際に患者に動作を行わせてみて息切れの状態や動作の速度などを観察する方法があります。
これにより、患者の日常生活での制約や困難さを理解し、適切なサポートや介入を行うことができます。