アナログレコードでの音楽鑑賞【Spotifyではできないセラピーライクな活動なんです】

アクティビティ

“音楽鑑賞”という作業活動は、非常にリハビリテーションとしての効果が高いものと感じます。
その中でも、さらに有用な方法としては、実際に聴くまでの工程が長くて面倒な“アナログレコード”での鑑賞ではないでしょうか?

あくまで仮説の段階ですが、今回はこのアナログレコードでの音楽鑑賞の作業療法としての有用性を考えてみますね。

アナログレコードについて

平成生まれの現代っ子は、おそらくアナログレコードを知っていても実際に見たことも触れたことも使ったこともないかと思います。
ここでは少しアナログレコードについての基礎知識について触れてみます。

レコードとは?

レコード(redcord)とは元々は“音声記録”を意味する言葉ですが、ここでのレコードは音楽や音声といった音響情報が記録されたメディアである“(アナログ)レコード”を指します。
素材は樹脂でできていることから、“vinyl record”とも呼ばれています。

アナログレコード発明の歴史

アナログレコードの先祖とも言える紙に記録した“フォノグラフ”と呼ばれるメディアは1857年にフランスのレオン・スコットにより発明されました。
その後、エジソンによって1877年に真鍮の円筒製である“フォノグラフ”が開発され、その10年後である1887年にエミール・ベルリナーによる“グラモフォン”が発明されています。

この“グラモフォン”の最大の特徴は、水平なターンテーブルに載せて再生する円盤式という点から、アナログレコードやCD、DVD、BDといった円盤型メディアの最初とされています。

アナログレコードの普及

アナログレコードが実用化されたのが、1947年と言われており、実際にコロムビア社から発売されたのが1948年6月21日になります。
この年から多少の改良はあったものの、コンパクトディスク(CD)が普及する1980年代までの30年強は一般的に普及していた音楽、音声メディアとみることができます。

つまり、おおよそ1950年以降に生まれたクライアントにとってはアナログレコードは非常に馴染のあるメディアだったと推測することができます。

感覚入力の重要性について

では、今度はヒトにとって感覚入力がいかに重要なものかについて解説します。
動物やヒトの“五感”とは…

  • 触覚
  • 視覚
  • 聴覚
  • 嗅覚
  • 味覚

…の5つを指します。

実際にはもっと多くの感覚があり、細かく分類すると20にも分けられるとも言われています。

ヒトも動物も成長していくにはこれらの“感覚”の入力が必須です。
感覚入力を与えられることで、脳は適切な成長を行います。
いわば、周囲の環境に適応させていくための“情報”という捉え方ができます。

電子書籍関連の研究データからみえること

少し回り道をしますが、電子書籍についての研究データで気になるものをみつけました。

トッパンフォームズはこのほど、ダイレクトマーケティングのニューロ・テクニカとともにダイレクトメール(DM)に関する脳科学実験を実施し、「ディスプレイ」よりも「紙媒体」の方が情報を理解させるのに優れていることを科学的に確認した。同じ情報であっても反射光として脳にインプットされる「紙媒体」と透過光の「ディスプレイ」では脳は全く違う反応を示し、特に脳内の情報を理解しようとする前頭前皮質の反応は紙媒体の方が強く、ディスプレイよりも紙媒体の方が情報を理解させるのに優れている。

一部引用::「紙媒体の方がディスプレーより理解できる」ダイレクトメールに関する脳科学実験で確認

この研究はあくまで“視覚”優位である本で電子書籍についてですが、拡大解釈してみればこの“視覚”は“聴覚”に置き換えても同じことが言えるのではないでしょうか?

必要なのは前頭前野への刺激?

ここで少し前頭前野について注目してみます。

前頭前野はヒトをヒトたらしめ,思考や創造性を担う脳の最高中枢であると考えられている。前頭前野は系統発生的にヒトで最もよく発達した脳部位であるとともに,個体発生的には最も遅く成熟する脳部位である。一方老化に伴って最も早く機能低下が起こる部位の一つでもある。この脳部位はワーキングメモリー、反応抑制、行動の切り替え、プラニング、推論などの認知・実行機能を担っている。また、高次な情動・動機づけ機能とそれに基づく意思決定過程も担っている。さらに社会的行動、葛藤の解決や報酬に基づく選択など、多様な機能に関係している。
引用:脳科学辞典

簡単にまとめると、前頭前野って部分は“人間らしさ”をつかさどる領域です。

この領域が発達していなかったり、血流不全などできちんと働いていないと社会的に不適応な人格形成につながってしまいます。
(ある研究によると、凶悪犯罪を犯す犯罪者は高確率でこの前頭前野に障害がある人が多いようです)

前述した電子書籍に関しての研究についてですが、iPadやKindleといった電子書籍リーダーによっていくら活字を読んでいても、あくまでそれは“視覚”のみの感覚入力かもしれません。
対して紙の本で活字を読むということは次のような感覚入力が期待できます。

  • 紙の本をめくるという“動作”
  • 本を読み進めるごとに変化するページの厚みを指先で感じる“触覚”
  • 手に持つ重みを手全体で感じる“深部感覚”
  • (限定的ですが)古い本などから漂うカビっぽい“匂い”

…同じ“活字を読む”という作業活動でもこれだけの感覚入力の種類の違いがあると言えます。
この点が脳にとっては大きな違いなんだと考えられます。

音楽鑑賞で考えてみる

さて、本題に戻ります。

これらの電子書籍での研究データや考察は、“音楽鑑賞”という作業活動にも当てはめることができると思います。
テーマにもあげたアナログレコードでの音楽鑑賞を工程分析的視点で考えてみます。

アナログレコード鑑賞の工程分析

アナログレコードをプレイヤーで聴くためには、次のような工程が必要になります。

  1. 聴くレコードを選ぶ
  2. レコードをジャケットから取り出す
  3. レコードをプレーヤーにセットする
  4. プレーヤーの電源を入れる
  5. レコードのサイズと回転数をセットする
  6. 再生ボタンを押す
  7. レコード針をレコードの上に置く
  8. 音楽鑑賞をする

一般的にはこのような工程を踏むことでレコードを聴くことができます。

ここにさらに、

  • A面が終わり、B面を聴く場合は針を戻し、レコードをB面に裏返しにし再度セッティングする
  • 頭出しの際は盤面の黒い筋(曲間の無音の部分)に合わせて針を落とす

といった、少し手間のかかる工程が必要になります。

多くの工程を踏んで得られる音楽=報酬という構図について

『アナログレコードで好きな音楽を聴く』という課題を分析的に考えてみると、

  1. レコードをセッティングする工程=作業課題
  2. 好きな音楽が流れ、聴くことができる=報酬

…と考えれば、レコードをセッティングするという作業課題の難易度や工程の調整をすることで、トークンエコノミー(広義ですが)としての構図が成り立つのかな…なんて思ってます。

工程が多い作業活動なほど、脳には効果的なのでは?

大まかにですが、『アナログレコードによる音楽鑑賞』を作業療法として用いた場合の期待できる感覚入力について考えてみました。
同じ理屈で言えば、『カセットテープでの音楽鑑賞』でも当てはまります。
もしかしたら『コンサート会場でのライブ鑑賞』だって当てはまるかもしれません。

逆に、Apple MusicやSpotifyといった『デジタルによる音楽鑑賞』は、“音楽を聴く”までの工程が非常に少なく簡単な方法は、あまり脳への感覚入力や刺激としては小さいものなのかもしれません。
もちろん状況によって違いはあるでしょうけども、同じ音楽鑑賞の方法でも“アナログな方法”と“デジタルな方法”との違いは明らかに“手間”の違いでもあります。

この手間や工程を“感覚入力が得られる機会”と捉えると、工程が多く、操作が大変で面倒なようなものでもその分多くの“感覚入力”をする機会があるともいえます。
言い換えればそれだけ脳には刺激的ってことになるのかなと!

まとめ

今回は仮説の段階ですが、アナログレコードでの音楽鑑賞の作業療法としての有用性を考えてみました。

これって音楽鑑賞に限らずいろんな作業に当てはまる気がします。
クライアントに提供する一つの作業活動、作業課題の中でも、多くの感覚入力の機会を織り込むか?って発想は、数あるアクティビティを治療として使うことができる作業療法士ならではの発想なのかなとも思うんです。

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