音楽自体“音楽療法”としてのツールだけでなく、脳卒中のリハビリテーションに対しても非常に効果があるといわれています。
今回は脳卒中のリハビリテーションに音楽鑑賞が効果的…ということについて解説します。
毎日音楽を聴くことによって脳に構造的変化がもたらされる?
この研究は2008年2月にヘルシンキ大学の研究チームにより発表されたものです。
音楽は前頭葉、頭頂葉、小脳、および、聴覚、認知、感情に関与する大脳皮質下の領域に非常に刺激を与えることができます。
また定期的な音楽活動によって、効率的に多くの脳領域の構造および機能を増強することが示されています。
そこでどのように構造的な変化が起こるのかを調査したようです。
方法
急性期の脳卒中患者49人(左脳損傷24人、右脳損傷25人)を
- 好きな音楽(ポップ、ジャズ、クラシックなど)
- 自分で選んだオーディオブック
- なにも薦めない
…の3グループに分けて、それぞれ毎日1時間以上聴くように薦め、日記をつけさせて聴いた頻度を確認する…という内容の調査です。
もちろんすべてのグループに通常のリハビリテーションは行いました。
結果
その結果として…
- 6ヶ月間ですべてのグループで灰白質体積の著しい増加箇所が認められた
- 体積増加箇所は側頭葉、前頭葉、辺縁系、小脳に局在していた
- 特に、音楽グループの健常側で体積増加が著しかった
- 他の2グループに比べ灰白質の体積が著しく増加した箇所を抽出したところ、左脳損傷患者の音楽刺激グループでのみ前頭葉に3箇所、辺縁系で2箇所見つかった
- 右脳損傷患者では音楽グループの左の島皮質にのみ灰白質増加箇所が見られた
- 体積増加箇所と行動検査結果との関連を解析したところ、左脳損傷患者の前頭葉の体積増加箇所は記憶、言語、スキル、注意力の改善に関連し、辺縁系のそれは鬱、緊張、疲労、イライラ感の減少と関連があった
- 一方右脳損傷患者の島皮質の体積増加箇所は言語スキルの改善と関連があった
- 白質体積の明らかな変化はなかった。
考察
灰白質とは、中枢神経系の神経組織のうち、神経細胞の細胞体が存在している部位です。
簡単に言うと『神経細胞の集まり』になりますね。
灰白質が減った状態とは情報を出す神経細胞が減っているといことになるので、様々な情報を処理する能力は落ちていきます。
これはもちろん運動機能だけでなく、認知機能、精神面にも影響を与えるといえます。
うつ病と灰白質
うつ病の方はこの脳の灰白質が委縮していることもわかっています。
考え方が凝り固まっていたり、融通が利かなかったり、気持ちの切り替えができなかったりする状態って、脳の処理スピードが落ちている状態とも考えられます。
そういった意味でも、好きな音楽を聴くこと=脳の活性化につながるといえるかもしれません。
まとめ
今回は脳卒中のリハビリテーションに音楽鑑賞が効果的…ということについて解説しました。
この研究の著者は…
「ほとんどの脳卒中患者は1日の7割以上の時間を、治療を受けるわけでもなく、室内で刺激のない状態で過ごしています。
脳の可塑性の観点から見ると、この時間はもったいない。
この空いた時間に、特に脳卒中の早期に音楽を聴かせることは、他のリハビリの邪魔にもならず、費用の面からも簡単に実行することができて、認知機能の改善や感情の落ち込みを防ぐことができるのですから、是非やってみる価値があると思います。」
…とも述べています。
たしかに大きなリスクがあるわけでもないので作業療法の臨床や現場でも導入しやすい方法といえます。
すぐにでも実行してみる価値はあるかもしれませんね!
参考記事
・患者に毎日好きな音楽を聴かせたところ、脳に構造改革が起きた模様
・音楽療法と脳卒中リハビリ
・Structural changes induced by daily music listening in the recovering brain after middle cerebral artery stroke: a voxel-based morphometry study.