作業療法でも、伝統的なアクティビティとして扱われる革細工。
目的をしっかりと持って提供すれば、様々な治療効果が期待できる作業になります。
でも、いざ革細工を行うとなると…
- 学校でちょっとやっただけで方法がわからない…
- どんな工程があるのか見当もつかない
- なんだか難しそう
…となりがちなようです。
たしかに馴染みがない方法ですから、敬遠してしまいがちかもしれませんね。
でもその方法や手順をしっかり把握しておくことも作業療法士には必要かもしれません。
そこで今回は、革細工を作業療法で行う際のおすすめの方法について解説します。
革細工の段階と工程
作業療法で革細工を行うためには、大きく分けて4つの段階が必要です。
- 準備
- 裁断
- 縫製
- 仕上げ
いろいろな方法はあるのでしょうけど…あくまで作業療法で行う場合、そして簡単に失敗が少ない方法を選んでいます。
さらにこの4つの段階はさらにこまかい工程に分かれていきます。
それぞれ解説しますね。
準備
まずは準備段階について。
ここでは…
- 何を作るかを決める
- 道具をそろえる
- 革を選ぶ
- 型紙を用意する
…の4つの工程を含みます。
これらの工程について深堀りしていきます。
何を作るかを決める
クライアントは何を作りたいのか?
…これを作業療法の時間に確認する必要があります。
- かっこよさそう
- かわいい
- ネットでみた
- 使ってみたかった
もちろん動機はなんでもいいと思います。
重要なのは、現段階のレベルに合わせることになります。
作業療法での革細工の目的には成功体験を得ることも含まれます。
本人の希望だからといって、いきなり難しいものにチャレンジする…ってことは避けておくべきかもしれませんね。
道具をそろえる
革細工に必要な道具をそろえる必要もあります。
基本的には…
- ハンマー
- ゴム板
- ヒシ目打ち
- 革包丁
- カッター用下敷き
- 床面処理剤
- コバ磨き
- 接着剤
- ロウ引き糸
- 針
- スリッカー
…などがあげられます。
これらの道具は、作業療法室にはある程度揃っていると思いますが…
- 制作途中で道具が壊れてしまった
- 足りない道具があって中途半端になってしまった
- なんだか使いにくい
…なんてことがないように、事前に準備しておく必要があります。
革を選ぶ
材料である革も選ぶ必要がありますが、この革には様々な種類があります。
一般的で作業療法での革細工に使われるものとしては…
- 牛革(カウレザー)
- 豚革(ピッグスキン)
…になります。
ただ、革細工に使用する革にはもっと多くの種類があります。
それこそ蛇やサメ…カエルなどもあるようです。
型紙を用意する
作るものが決まり材料もそろったら、その作品の型紙も必要になります。
この型紙を手に入れる方法ですが…
- 専門店から購入する
- インターネットで探す
- 完全に自作する
…などの方法があります。
ここまでが作業療法での革細工の第1段階である「準備」になります。
裁断
次の段階として、ついに革を裁断していきます。
ただし裁断といっても、ただ革を切るだけでは足りないんです。
この裁断にもいくつかの工程があります。
- 革に印をつける(けがき)
- 革を切る(裁断)
- 裏面を整える
- ヘリを落とす
- 断面(コバ)を整える
…があります。
これらについてもそれぞれ深堀りしていきます。
革に印をつける(けがき)
まずは革を切るために型紙の外枠を革に写し取ります。
この作業を「けがき」というようです。
型紙に沿って丸ギリや銀ペンという道具で線を引くようにします。
革を切る
革に印をつける「けがき」を行ったらついに革を切っていきます。
その際の注意点は、印にそって切るのではなく、少し多めに切ることです。
これを「粗裁ち」というようです。
この粗裁ちによって、革を下処理する際に傷めたり汚したりするリスクを軽減できるようです。
裏面を整える
革を粗裁ちした後は、革の裏面(床:とこ)を磨いていきます。
そうすることで手触りがツルツルになり、革も丈夫になる効果があります。
「何で磨くのか?」ですが、コバ磨き剤をガラス板で磨くことになります。
一般的には「トコフラッシュ」や「トコノール」と呼ばれるものが使われるようです。
ヘリを落とす
床面の下処理をしたけど、このままでは粗裁ちで裁断したままなので外枠に余分な革が残っています。
ここで初めてけがき線に沿って革を裁断していきます。
失敗してしまうと取り返しのつかないことになりますので、慎重にする必要があります。
集中力を要する部分ですし、プレッシャーがかかる工程でもあります。
クライアントの能力に合わせて様子をみながら補助をするとよいかもしれませんね。
断面(コバ)を整える
無事にけがき線に沿って革を裁断できたら、革を切った時の断面を整えます。
この断面を「コバ」と呼ぶようです。
このコバ処理をしないと、革が切りっぱなしの状態になってしまい、出来上がりの見栄えが悪くなってしまいます。
ヘリ落としという道具を使用しコバの角ばっている部分を切るようになだらかにします。
さらにコバの部分をやすりなどを使用して削って整えると、より出来栄えがきれいになります。
ここまでが作業療法での革細工の第2段階「裁断」になります。
縫製
次に、材料である革を合わせて縫って作品の形にしていきます。
ある意味一番、革細工らしいことをしている段階とも言えます(笑)
ここでは…
- 接着する
- 縫い穴を開ける
- 縫う
…という工程に分けて解説します。
接着する
材料を裁断して、塗った床面処理剤がしっかりと乾燥した。
そうしたら、縫うための準備の工程に移ります。
縫い目と裁ち目のあいだの部分である「縫い代」に、ゴムのりを薄く塗って材料の革同士を貼り付けます。
ずれないように慎重にする必要があります。
ちなみに、この革同士を縫う前に接着する…という工程を挟まない場合もあるようです。
ただ、あくまでここではクライアントとの作業療法場面を想定しています。
できる限り失敗するリスクを減らす方法を取っています。
縫い穴を開ける
革細工の革は厚みがあります。
布のようにそのまま針と糸で縫う…ということができないんです。
そこで縫うための穴を事前に「菱目打ち」と「ハンマー」で開けておく必要があります。
ここでも穴がずれないように。
もちろんハンマーで指や手を打ってケガをしないように注意が必要です。
縫う
菱目打ちで穴を開けたら、針と糸で縫っていきます。
革細工では、1本の糸に対して2本の針を使う縫い方が一般的なようです。
布の縫い方とは違うので注意が必要ですね。
作品によっては非常に細かい作業の工程になります。
作業療法では、クライアントの指先のつかれや負担などを考えながら行う必要があります。
仕上げ
最後の段階は仕上げになります。
目的としては、縫い合わせた2枚の革のコバを平らにすることです。
工程としては…
- コバを揃える
- コバに床面処理剤を塗る
- コバを磨く
…になります。
それぞれ深堀りしていきます。
コバを揃える
縫い合わせた後はどうしてもコバがずれたりしてきれいに揃っていないことがあります。
そこでコバを同じ高さに揃える必要があります。
道具としては…
- カッターナイフ
- 革包丁
- 豆カンナ
…などを使用するようです。
縫った糸まで切断しないように慎重に行う必要があります。
コバに床面処理剤を塗る
揃ったコバに床面処理剤を塗ります。
できるだけ丁寧になじむように塗るのがポイントのようです。
コバを磨く
コバに床面処理剤を塗ったら、スリッカーと呼ばれる道具で磨いていきます。
このコバ処理が作品のクオリティにもつながる部分のようなので、丁寧に磨いていきます。
ここまでで完成となります。
以下の基本的な制作工程がある“ペンケース”制作についての解説動作をみるとさらにイメージができるかなと思います。
まとめ
本記事では、革細工を作業療法で行う際の基本的な方法について解説しました。
もちろん革細工の方法は様々です。
ここで紹介したものは、あくまで臨床の現場で行うことを想定しています。
また、クライアントを中心とした作業…ということで、基本的な方法や工程についてです。
できる範囲で、上手にできあがること。
そして成功体験をつくること…を念頭に手順をこなしていく必要があります。