“音楽療法”となると、音楽を聴いたり演奏したり…が一般的なイメージでしょうけど、実は“作曲”という作業活動自体が精神疾患の治療につながるという事例があります。
“作曲”をアクティビティと捉えると…、これ立派な作業療法じゃないかなと思います。
そこで今回は、メルボルン大学で行われた作曲が精神疾患の治療として用いた研究について紹介してみます。
メルボルン大学による研究
この研究はメルボルン大学の准教授であるDenise Grocke氏と、教授のSidney Bloch氏、David Castle氏によって行われました。
結論から言えば、音楽療法によって重度の精神疾患に苦しむ人々の生活の質が向上したことがわかったそうです。
プログラムの内容
今回の研究で行われたグループセッションによる音楽療法のプログラムは、すべて同じ登録音楽療法士によって行われ、各1時間のセッションで構成されていました。
プログラムの内容としては、
- 馴染みの好みの歌を歌う
- グループのメンバーがオリジナルの曲や歌詞、メロディやリズムなどを提案し曲を作っていく
- 楽器のセッション演奏
…の3つで構成されています。
また、実際にプロのミュージシャンも使用するスタジオでレコーディング作業も行ったようです。
結果
これらの音楽療法のプログラムを行っていき、18ヵ月後に集計したアンケートによると、
- QOL(生活の質)についてのアンケートで6項目に優位な結果を示した
- 生活の質自体が向上した
- 友人からのサポートを受けるようになった
- 身体的な痛みが改善した
- 社会参加の機会が増えた
- 『他者とアイコンタクトがとれる』という“社会不安障害診断テスト”の項目の改善がみられた
…といった結果が見られたようです!
参加者からの意見や感想
この音楽療法のプログラムに参加していた人の意見や感想をみると、
- この研究に関わっているということがうれしかったし、楽しかった
- リラックスしてできた
- 自分が意欲的に作曲などの活動をグループでできた、ということが驚いた
- 自分たちの曲を作ることで“グループ内にいる(認められている)”と感じられた
- たとえ音楽の才能がなくても、1曲くらいは作ることができるんだとわかった
- 家族や友人たちが聴けるようにCDをつくったことで達成感を感じた
…といったものがあげられたようです。
曲を構成しているテーマ
この音楽療法プログラム内での作曲で、各グループが作った曲のテーマをみると、
- 世界の平和などについて
- 精神疾患との生活は大変だということ
- 精神疾患に対処することは強さが必要だということ
- 宗教と精神性への支持について
- 今の生活への癒しについて
- チームでの作業は楽しいということ
これらの6つがテーマとして含んでいたようです。
曲をつくるということ=自己表現
“作曲”という作業活動は“自己表現”の一つでもあり、非常にポジティブな経験の一つとして捉えられます。
さらにチームで曲をつくるというクリエイティブな行為は、“私たちの曲”という認識を生むので自分がそのチーム内でしっかりと活動している、という感覚を与えることになります。
社会的な相互作用、関わりが精神疾患を抱えながら地域で生活する人にとっては大きな課題の一つでもあるため、この結果は非常に心強いものとなったようです。
また、プロのレコーディングスタジオでCDを制作した!という経験はグループメンバーにとって非常に有益なものであり、家族や友人にCDを渡すということを誇りに持っていたようです!
まとめ
今回は、メルボルン大学で行われた作曲が精神疾患の治療として用いた研究について解説しました。
精神疾患を抱えながら生活するということは様々な問題や課題がありますが、「人間の精神」というものは「人との関係」によって構成されるということがこの研究からも示されるかと思います。
なによりこの研究でわかったように、“作曲”という活動によって自己表現をすることができ、その自己表現を介することで自分を改めて知り、他者と関わり、自分らしい生活につなげていくことができるのだと思うんです!
精神的、社会的な問題が多い現代社会では、こういった音楽療法、作業療法のアプローチはさらに必要となってくるんじゃないでしょうか?